マイクラな使い魔   作:あるなし

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村づくりと直下掘りと反省

 有り余る木材でもって全ての家屋を二階建てへと増築し、階段ブロックと木柵を組み合わせて内装を小粋に改装もしたマイン・クラフトは、余勢をかって畑を拡張してもなお無限水源の活用に余念がなかった。無論、湧き潰しは完璧である。あいや、日が暮れる前にもう一度確認すべきか。

 

「さっきは、子供たちがごめんなさい……あのその、あんまりお肉とか食べる機会がないから」

「いい。服をくれた」

「あ、ううん、わたしのお古でごめんなさい」

「とても助かった」

 

 青頭子供と牛的黄金が噴水のそばで交流している。

 マインは空を仰いだ。げに理解し難きは村人の呑気さである。いざとなれば扉へダッシュすればいい、という考えは建築物への妄信でしかない。畢竟、世界を侮っているとすら言えよう。

 残酷をもって道理とするこの世界に己の居場所を切り取る……至難の事業であるのに。

 マインは松明を片手に村の中を歩き回った。ここはよし、そこもよし、あそこはいかに。ガラスがないので木柵で代用した窓から各家の内部も確かめる。

 居間を広くとった家の中で青色頭部とたくさんの村人子供がくっつき合って寝ていた。日中にも関わらず器用なことだ。寄って集って焼き豚を一スタック平らげた結果だろうか。何にせよマインは驚かない。村人もどきの習性は既に色々と知り得ている。

 

「大人がいない」

「ここは孤児院なの。親を亡くした子供たちを引き取って、みんなで暮らしてるの」

「……お金は」

「送ってくださる人がいるの。それで、小さな畑しかなくても、行商人さんから色々と買って生活できていたんだけど……どうしよう……こんなに広い畑の世話、わたしたちの手に余るよう」

「大丈夫。普通の畑じゃない」

「ふ、普通じゃないと大丈夫なの?」

 

 マインは首を振った。広く村を見渡した結論だ。

 やはり防衛力に懸念がある。

 村の周りは二段重ねの木柵で囲んだし、その外側には流水の濠を巡らせた。一般的なモンスターであれば村に侵入できず、流され、採石を兼ねて掘り下げた深い穴へと落下していくだろう。這い上がってくることは不可能だ。

 しかし、この世界では飛行個体が珍しくない。

 思えば大村落も城塞のような高さの壁で囲われていたし、高層塔を六基も備えていた。あれは対空防衛の観点から設計されたものだったのかもしれない。窓の小ささ、細さ、少なさもそう考えれば頷ける。

 

「良い異常と……悪い異常がある」

「あの人は良い方の異常ってことなの?」

「……あれを『人』と。それも異常」

「え? だって……」

「エルフだから?」

「あ! その! ご、ごめんなさい! でもその……」

「いい。あの幻獣を知ったら、竜もエルフも怖くない」

「げ、幻獣!? あの人が!?」

「そう」

「そ、そうかなあ……ただの働き者さんに見えるけど……わたしが『混じりもの』だからかなあ」

 

 よし、塔を建てよう。

 そう決めるや否や、マインは村の中央に土ブロックで縄張りを始めた。小規模である。立地条件からして物見台としての高さよりもむしろ避難所としての深さが必要だろうという判断だ。

 まずは掘る。掘って掘って、地下空間を作ると共に建材を採石していく。地表が遠くなり過ぎない内に、丸石ブロックで壁、床、階段と整えていく。建材がなくなればまた掘り下げる。溜まればまた丸石ブロックを駆使する。それを繰り返してすぐにもそれなりの形をこしらえた。

 地上二階層、地下五階層からなる簡易防御塔だ。まだ容れ物だけであるが。

 

「わあ、凄い! 凄く働き者さん!」

「……異常」

「え、でも、メイジだったら……」

「土系統のトライアングルなら可能」

「なら、彼だって」

「『彼』と。やっぱり異常。それにあれは系統魔法と違う」

 

 溶岩はない。されど水はある。なればここは水流防壁だ。

 地上部分の側面を全て覆い、マインは大きく頷いた。これでモンスターが取りつくことはないし、TNTキャノンの直撃を受けたところで爆破の被害を被ることもない。おっといけない、入口も潰れた。そこにだけは水除け屋根を着ける。

 

「凄いなあ。あれが滝というもの?」

「尽きることのない水……いとも容易く……」

「噴水も滝もあるなんて、水汲みがとっても楽になる」

「……この水、風系統の魔法を無効化する……?」

 

 あとはアイアンゴーレムだ。パワーストーンを核としたものならばなおよい。

 鉄鉱石を求めて防御塔の地下から更に掘り下げていくか。それとも一度ルイズのいる城へ戻って物資を持ってくるか。マインはベイクドポテトを一つ二つと食べつつ思案した。

 この村を危険の中に放置するという考えは起きなかった。

 どうしてか、とマインは立ち止まらない。それならそれで、と突き進む。勢いを失った生に魅力を感じないからだ。

 惰性や消極も好かない。夢中でいたい。奔り続けたい。困難を乗り越え、失敗を踏み越え、まだ見ぬ先へと邁進するのだ。そうすることが本当である。それだけが本当である。マインはそうやって生きてきたし、生きていくのだ。

 

「夕暮れだね」

「ん」

「……滝の塔から、彼、出てこないね」

「……ん」

「きゅい、おねえさま、おはようなのね。お腹減ったのね。あの御方はどこなのね。またお肉貰うのね」

「気のせいならいいんだけど……彼の気配がしないような?」

「きゅい? 不思議なのね。強い風を感じるのね。地面からなのね」

「っ!?」

 

 生き方は色々だ。

 考えてから動くか。考えながら動くか。動いてから考えるか。考えず動くか。

 マインは思う。いや、思い知った。己がどれに分類される生き方をしてきたにせよ、これからはもう少し考えてから動くようにしなければならない。夢中になり過ぎるのも問題だ。足元が疎かになる。いや、より現状に即して言えば、足元がなくなった。

 

 マインは、今、空を落ちている。

 

 掘り抜いてしまったのだ。最速でパワーストーンを得るべく直下掘りなどしてしまったために、浮遊大陸の底へと達してしまった。気づけば空中である。溶岩が少ない土地であるという油断もあった。

 

 まいったなあ……地図がないや。

 

 轟々と音を立てて迫る大海原の広さに、マインはゆっくりと首を回した。


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