マイクラな使い魔   作:あるなし

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スポーンとリスポーンとデスポーン

「マイン! こんな無茶して!」

 

 ピンク色の頭部に顔を打撃され、細くも強力な腕に体を拘束され、小柄ながら恐るべき爆発力を秘めるルイズに密着されたマイン・クラフトはもはや為す術もなく身を強張らせていた。伝わってくる震動に全てを悟り、瞑目する。

 もう駄目だ。どうかエンダードラゴンもどきたちがデスポーンしませんように。

 

「忘れないで! わたしはあんたの主人なんだからねっ! あんたが危ない目に遭うなら、その時はわたしも一緒なの! わたしだけ安全なところなんてヤなの! わたしは……わたしは……!」

 

 マインはふと思った。

 もう間もなく爆発が起こるが、自分はベッドで目覚めるとして、ルイズはどうなるのだろうか。

 マイン以外の諸々は死ねば消滅するのが世界の法則である。それでも世界にはそれら諸々は存在し続ける。生き物もモンスターもスポーンするからだ。村人だけはやや注意が必要だが、世界は広く、二体見つければ増やすことは可能である。

 今まではそれでよかった。何の疑問もなかった。モンスタースポナーの発見と確保に血眼になったのも素材収集が目的であって、クリーパーのスポナーがないことへの憤懣も火薬需要を原因としていたに過ぎなかった。

 しかし、今、マインは世界を問い質したい気持ちに駆られた。

 

 ルイズは? ルイズはリスポーンするのか?

 

 リスポーンするのであれば別にいい。どこで目覚めようともマインはルイズを見つけ出すだろう。根拠もなしにそんな確信があった。どこか誇らしい確信だ。

 もしもリスポーンしないなら……クリーパーなどと同じくただのスポーンであったなら、はたしてそれは『ルイズ』だろうか。ピンク色の頭をしていれば同じものであると認められるだろうか。

 眩いばかりの生を見せつけるルイズは……この素晴らしい個体は……特別な、唯一無二の存在なのではあるまいか。

 あるいは、リスポーンもスポーンもしないとしたら。

 マインの生きる世界からルイズが永遠に失われてしまうのだとしたら。

 

「え? マイン……?」

 

 使い慣れた右手と、ぎこちない左手とで、マインはルイズを挟んだ。膨張させまいとしたのだ。そうすることで爆発を止めたかった。抑え込みたかった。

 その成果だろうか、ルイズの震えは止まった。

 しかし……マインが震えていた。牛乳を飲もうとすら思いつかずに。

 

「相棒、取り込み中のとこ悪いが……まだ戦争中だぜ? そら、兵隊が来る」

 

 落とした不思議剣が鳴いた。左手を伸ばし、拾う。右手にはダイヤ剣だ。ルイズを背に庇う。

 マインは震え続けている。しかしその意味が変わった。

 ギロリと見据える先には村人もどきゾンビが十数体いて、剣と鎧で武装し、駆けてくる。巨大船から漏れ出てきた有象無象の内の一部だ。やはりか巨大船はその内部に村の一つや二つを蔵していたようで、しかもそれはかなりの割合でゾンビ化の被害を受けていたらしい。空の清浄さについて考えさせられる。

 

 まあ、何にせよ、一体とて逃しはしない。

 

 マインが駆け出そうとしたその時、横合いから赤色の一団が突如として現れ、ゾンビたちへと襲いかかった。レッドストーンとも見紛う金属で武装した戦士たちだ。防具の造形が素晴らしい。特に兜だ。顔を完全に覆っていて尚視界の悪さを感じさせないとはどういう仕掛けか。

 そんな戦士が七体、両手それぞれに剣を持つというマインと同じスタイルでゾンビを切り崩していく。強い。防御を無視した猛攻もまたマインに似ている。

 マインは首を傾げた。防具といい剣といい、どこかで見覚えがある……思い出した。

 レア・スポーンだ。あれらは大村落のレア・スポーンに酷似している。手に持つ剣、あれは鉄ブロックを叩いては折れ、突いては砕けていたものだ。最近はそこそこに鉄ブロックを傷つけもする、金色頭部の剣だ。

 

「こ、怖いけど名誉だ! 友を護り、敵の無粋を懲らしめるなんて! 奇跡の逆転劇というのも素敵だ! ぼくの初陣はやっぱりこっちにしよう! 薔薇色の戦乙女を操りし『紅銅』のギーシュ、参る参る!」

 

 やはりか金色頭部がやって来た。バラを手に素っ頓狂な動きをしているから、マインは自らが前へ出ることでゾンビから離してやった。この個体はいい声で鳴く。目の前でゾンビ化されてはつまらない。

 

「ギーシュ! あんたの役割は船の護衛でしょ!」

「おおルイズ! それを言うなら君の役割は船で待つことだろ? でもいいさ! 主従の絆に乾杯だ! 君も戦乙女たちの戦いぶりを観戦してくれたまえ!」

「一体やられたわよ!!」

「ハアン!?」

 

 いつもながら和む鳴き声である。

 マインはゾンビを倒しつつレア・スポーンを観察もした。赤く、硬く、そこそこ強い。あのレア・スポーンの上位種かもしれない。村人もどきを庇ってゾンビと戦うあたり、やはり守護者としての性質を有している様子だ。

 

「やっぱり相棒は凄腕だねえ。文字通りの千人斬りでもやってのけそうだ。で、そんな相棒にお知らせだ。今さっき、伝説、魔法の攻撃を吸収したよ。風系統の魔法だったよ。絶対に気づいていないだろうけど……」

 

 衝撃音が届いた。見る。少し先で新型TNTのような爆風が発生した。土やゾンビが渦に巻かれるようにして吹き飛んでいく。

 

「あれは殿下の魔法!? 『ストーム』か『エア・ストーム』か……どちらであっても孤立した時に使う魔法だわ! マイン、ギーシュ、行くわよ!」

 

 ルイズが走り出した。その行く手に爆発が生じて道が開けた。さすがはと慄きつつも頷き、マインは先行した。ルイズの進路を確保するためだ。ルイズのそばにゾンビがいることをマインは好まない。

 切って倒し、射て燃やし、進む。敵性村人もどきの姿はなくゾンビばかりである。夜らしい光景だ。ここではスケルトンを見かけず、弓矢もゾンビが射てくる。しかし狙いが甘い。マインの速さを捉えられないし、ルイズたちについては上位レア・スポーンが守護者としての本領を発揮している。

 

「おお! 相棒! 火の魔法が来る!」

 

 進む先から火の玉が飛来した。ゾンビが吹いたのだろうか。新種にもほどがあるが、とりあえずマインはそれを剣で弾き返した。火の玉テニスはマインの特技の一つである。ネザーにおけるガストとの死闘で否応なく身につけた技術だ。ゾンビは燃え上がった。その周囲のゾンビも火矢で燃やす。ゾンビの数も底が見えてきた。

 

「殿下!」

 

 マインは見た。

 金色頭部もどきが殺到するゾンビを捌きかね、攻撃を食らおうとする様を。

 そこへウィッチもどきが五体駆けつけ、金色頭部もどきと合力して逆にゾンビを圧倒する様を。

 そして金色頭部もどきの青白く光る棒が、いかにも村人といった鉤鼻をした緑服個体を、一撃のもとに打ち倒すその勇猛な姿を。

 

「賊軍『レコン・キスタ』首魁オリヴァー・クロムウェル! アルビオン王国皇太子ウェールズ・テューダーが討ち取ったり!!」

 

 力強いハアンに誘われてか、周囲からも衝撃を感じるほどのハアンが巻き起こった。しかも止まない。見渡せば百体を超えるだろう村人もどきたちがハアンハアンと鳴き喚きながらジャンプ攻撃をゾンビへ見舞っている。強い。そしてうるさい。もう、どうしようもないほどに。

 ルイズが側にいた。

 だからマインは、右手に持った新型TNTを焼き豚に持ち替えて、それをかじった。


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