マイクラな使い魔   作:あるなし

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ディスペンサーとリピーターとレバー

 巨大船のキャノンを停止させることにしたマイン・クラフトだが、自分ならいざ知らず鶏猫牛やエンダードラゴンもどきが死んでしまっては困るので、どうしたものかと首を傾げていた。

 

「どーすんだ? いくらなんでもこの弾幕じゃ近寄れねえし、近寄ったとしてさっきの比じゃなく魔法が……あ。そうかこれだ。相棒、思いついた。ここは突撃してみない? 化け物船の甲板に立つための最後の一手、伝説が任されちゃう」

 

 不思議剣が呑気な鳴き声を上げている。最近はこれを聞きながら作業するのも好きである。

 それはそれとして、マインはアイテムスロットを確認した。材料はある。

 

 作るか。あれを。

 

 あれでもって巨大船を一撃してキャノンを機能不全に追い込むか。できないことはあるまいと思われた。キャノンとは大胆な発想と豪壮な外観を有するのが常であるが、その仕掛け自体は繊細を極める。

 しかしどうにも勿体ない気がして、マインは中腰でフラフラと歩き回った。

 折角あれほどに形の整った船だ。キャノンと同様、構造を見学するより前に形を損なってしまっていいものだろうか。あの巨大さからいって中には拠点としての要素が様々に備わっているのであろうし。

 また、パワーストーンの特性を把握しきれていない点もマインに決断を躊躇わせる。

 レッドストーンと通常のTNTであれば何の問題もなかった。しかし今手元にあるのはパワーストーンと新型TNTであり、現に後者は想定外の破壊特性をもってマインを驚かせたばかりである。まずもって複雑なタイプでは成功しないだろう。必然的に簡易型だ。また、新型TNTの性質を鑑みればディスペンサー式は必須であろう。

 

「右腕はさ、いいのよ。そっちは爆弾でもツルハシでも長槍でも、伝説、気にしない。けど相棒の左腕はデルフリンガーさまの収まる場所だ。これはもう真理さね……おや?」

 

 とりあえず二、三発やってみるか。これも実験ということで。

 マインは黒曜石によるシェルターを完成させ、その外へ出た。出入り口の扉は鉄製にした。開閉装置はボタンだ。先だって巨大ゴーレムを爆破した際に用いたものの再利用である。

 ダイヤ製防具を身にまとう。落とした不思議剣を左手で握る。右手には松明だ。置かねば暗い。

 

「優しいねえ。動物を道具として使い捨てる気はねえってか。その点、俺は剣だからね。大丈夫。どんな無茶苦茶な死地へだって一緒に行けるのさ!」

 

 マインは走り出した。

 速い。でこぼこの丘を脚力も軽快に踏破していく。複数の良性ステータス効果を事前準備なしに活用できる今日この頃、馬が要らない。

 ドカンドカンとキャノンの発射音が聞こえている。

 まだ遠い。弾着までの時間差でもそれがわかる。

 距離を測るべく巨大船を目視する。派手に発射の煙が上がっている。

 マインはやれやれと首を振った。無駄なことを、と呆れる。キャノンとは基本的に静止目標に対する兵器である。馬並みの速度で移動するマインを捉えられるわけもない。爆発しない砲弾であれば尚更だ。弓矢でもあるまいに直撃を狙ってどうするのか。

 

 見本を見せよう。即席とはいえ何とかしよう。何せ的は巨大でほぼ静止している。

 

 波打つような丘陵を駆け抜けて……マインは再び首を傾げることとなった。

 目の錯覚だろうか。いや、そうではない。

 船だ。新たな船が月夜の空へと現れた。しかもそれは見覚えのある形をしている。この空中大陸へやって来る際に乗っていた船だ。巨大船と比べると随分と小さい。

 それが城の方角から真っ直ぐに飛んでくる。どう見ても巨大船を目標としている。

 

「おお、こりゃまさかの展開だな。最後の晩餐がどうのと言ってたのに。けど英断だし正解だ。今なら接舷できる。白兵戦を仕掛ける千載一遇の好機ってやつだ。そしてそいつは相棒が招き寄せたもんだねえ」

 

 マインは迷惑に思った。

 あの船にはチェストを隠してある。持ち切れなかった火薬やら何やらをしまったチェストをだ。これから始める実験に巻き込んでしまっては痛恨のアイテムロストとなる。

 それに……と目を凝らす。ピョンピョンとジャンプすらする。見えない。それでも感じる。

 ルイズが乗っていやしないだろうか、あれには。

 とんでもないことだ。どうあってもあの船の接近を許すわけにはいかない。止める手段はないから、接近する前に実験を終えるしか手はない。急ぐ。猛然と奔って……巨大船の直下にて停止した。

 

 さあ、作るか。

 TNTキャノンの数あるバリエーションの内の一つ……対空砲を。

 

 爆発事故に備えて素材は黒曜石だ。ブロックを並べ、積み、その延長線上に巨大船を捉える。筒の底に水を流すことを忘れない。最効率化は目指さずディスペンサーは多めに設置する。

 リピーターに関しては勘に頼るしかない。パワーストーン粉の伝達距離はレッドストーンの三倍だから、伝達速度は単純に三倍として乱暴に計算している。しかしそのリピーターの素材もパワーストーンである以上、性能があやふやなのだ。勘というよりむしろ運頼みか。

 いや、そんなことはない。いける。これでいける気がしてならない。

 レバーに手をかけたマインは、どうしてかこの『兵器』の性能がはっきりと理解できた。

 

「相棒。この禍々しいのって、もしかして……」

 

 ガチャリとレバーを下ろした。

 光が黒曜石製対空砲の表面をなぞっていく。ディスペンサーが新型TNTを吐き出す音と、点火状態にある打ち上げ用のそれらの明滅と、やや時間差をつけて上部に現れたやはり点火済みの砲弾用新型TNT一個の姿と……全てが寸分の狂いもなく連動する様子を見守り、マインは顔を空へと向けた。成果を確信して。

 轟音。発射。

 弾速は目にも留まらぬ速度。

 爆発への時を刻む新型TNTは吸い込まれるようにして巨大船の船底へ。

 そして、高い高いそこで……閃光。

 

「おお、凄え。相棒の『槍』はどこまで長いんだ? 空まで届くたあね」

 

 マインは頷いた。やはり新型TNTの衝撃力はどんな状態であれ天頂方向に凄まじいようだ。

 凄みのある破壊が夜空に示されている。

 巨大船が腹部を深く抉られた無残を晒している。

 破壊の跡からは、何か重力に影響される色々が落ちてくる。

 

「またしても伝説の出る幕なし。でも許す。おめえさんは相棒だかんね。いつか来る出番を待つとも。おめえさんが俺を必要とする状況って、それはもう伝説的な死地なんだろうし」

 

 マインはとりあえずもう二発ほど対空砲を発射した。実験とはそういうものだからだ。

 巨大船は降りてくるようだ。僥倖である。マインはベイクドポテトを食べながらそれを待った。


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