マイン・クラフトはやきもきする気持ちを機動でグルングルンと表現し、物足りず、落ちる先も見ずに新型TNTを数個放った。その内の一つが空中で爆発したらしく、衝撃を伴う爆音が夜空へと轟き渡った。
火の玉にぶつかったのだ。
エンダードラゴンもどきに接近しようとすると、その背に乗っている村人もどきがガストのように火の玉を放ってくる。棒を振っているだけでそういうことが起こる。そら、光る矢も飛来する。そらそら、見えない剣としかいいようもない攻撃も来る。いったい何の冗談だろうか。
近づけない。これでは近づけないではないか。
目の前に何匹ものエンダードラゴンもどきが群れをなしているというのに、豚肉の一枚も与えることができず、ただそれを握り締めている。
焦れた。
焦れてマインは弓矢を構えた。
「相棒、あれは火竜の編隊だ。近づき過ぎると火のブレスを貰うぜ。かといって離れ過ぎると化け物船の砲撃が来る。苦しいかもしれねえがこの距離で仕留めな」
火の玉を放ってきた村人もどきに火矢を当てる。ハアンと炎上した。エンダードラゴンもどきの背や羽にダメージがいかないか見極める……大丈夫だ。乗り手を失ってフラフラと離れていく。
もう一矢、今度はゾンビへ当てた。そんなものにまたがられていたエンダードラゴンもどきを不憫に思うと同時に、マインはある種の不満をも感じた。
この世界では空が容易いにも程がある。
ゾンビなどという存在へまで空中に在ることを許すとは無思慮無分別であろう。高度制限を設けるべきだ。日月が旅し白雲の彷徨う空間とは清浄であるべきだ。マインはそう考える。
「危ねえ! 風の魔法が来るぞ!」
鶏猫牛が悲痛な鳴き声を上げた。ダメージを負ったようだ。次いでマインの肩にも衝撃が来た。そういえば防具を装備していなかったと気づく。しかし今は駄目だ。ブレストプレートの角張りがルイズの結んだ紐を解いてしまう。不思議剣を落としてしまう。
「『ファイア・ボール』と『マジックアロー』は避けられても『エア・カッター』は厳しいか……相棒、どうしてもって時は俺で防ぎな。全部吸い込んでやるよ。これでも伝説だ。『ガンダールヴ』が神の左手なら、デルフリンガーさまは『ガンダールヴ』の左腕ってなもんだぜ!」
首を素早くして見渡す。
村人もどきの騎乗したエンダードラゴンもどきは、あと十八匹いる。どれもこれも目移りするほどに乗りがいがありそうだ。牙の並ぶ口へ肉を放り込みたくて仕方がない。既にサドルが着いているなど誘っているとしか思えない。
でも、まあ、全滅させてもいいか。
マインはそう妥結した。既に二匹は当てができたことであるし、他にももう一匹、大村落に青い個体がいる。マインの印象としては最初に出会ったあの青いエンダードラゴンもどきが最良の一匹である。あれは速い。あれを確保し、あれを中心として繁殖させる。そう決めている。
さても今は……急降下だ。
後ろを確認する。エンダードラゴンもどきの群れが追ってきている。その背後には月を遮るように浮く巨大船だ。あれには複数のキャノンが設置されているはずだ。後で見学に行き、その中途半端な破壊力について検証するつもりである。弾丸の飛距離も気になるところだ。
「あのな、相棒。何となくお前さんの狙いがわかったけど……俺を使ってもいいのよ? 伝説、実は使われるの待ってるよ?」
迫る地面にルイズの色が見える。先ほど適当に放った新型TNTだ。二つある。
ギリリと引き絞り、ヒョウと射た。間髪入れずもう一射。どちらも命中。点滅を確認。
鶏猫牛を操って軌道を修正、地面に蹴爪の跡を残すまでして離れる。遠くへ。遠くへ。
爆発。爆発。
破壊音に高度を感じ取り、マインは振り返った。はたして爆発の効果は天を衝くようだ。メガタイガの巨大松をも消し飛ばして余りあるかもしれない。エンダードラゴンもどきたちは……細かな色々へと散らかって……飛行しているのは三匹だけだ。
「おでれーた。まるで噴火だ。で、思い出したんだけど、お前さん実は『虚無』ってことないよね? ルーン刻まれた使い魔なんだし、そんなことあるわけない……って、どうした? 動物好きらしいお前さんにゃ、心苦しい結果だったか?」
マインは気分が悪かった。
急降下、つまりは落下から数秒しての爆発……砂漠の寺院における死亡経験が連想されたからである。当時のマインはまったく未熟だった。宝箱に目が眩み、梯子も水バケツも使わず飛び降りて、チェストに手が触れたタイミングで爆死した。愚かな失敗の記憶だ。
意気消沈したままに矢を放つ。どうにも上手く当たらない。
七射してようやくと三匹のエンダードラゴンもどきを自由にしたが、内一匹は誤射でダメージを与えてしまったようだ。火に強く炎上しなかったことは不幸中の幸いである。
「心震えずにその命中率たあ、てーしたもんだ。でも、伝説、出番のなさが少し寂しい」
そしていそいそと取り出したるは信頼と実績の豚肉である。
さあさあと振って五匹を導く。釣れることは既に青色の個体でわかっている。しかし誘因できる時間には制限があるから、速やかに五匹を閉じ込めなければならない。
敬意を表して木材でもって仮設厩舎を建てたいところだが、エンダードラゴンもどきは大きい。取り急ぎ土ブロックで作ろう。ああ、その前に鶏猫牛のダメージを回復しなければ……マインが地へ降り立った、その時であった。
遠く爆発音がして……エンダードラゴンもどきが一匹、着地を目前にして爆ぜた。
何か、硬い物体が飛んできて、爆発した?
いや、爆発ではなかった。地面に穴が開いたが周囲を広く削り取ったような形跡もない。
これは何だ。これがあれか。そういうキャノンか。どういう破壊だ。どうしてこうなる。
しかし、どうであれ、これ以上はやらせない。
「化け物船の大砲だ! 相棒、この距離じゃ狙い撃ちになる! 逃げ……ないの?」
空に爆発音が連続した。周囲で土が弾けた。ガンガンと耳障りな衝突音が幾度か響いた。
マインはやるべきことをしていた。
まずは鶏猫牛、次いでエンダードラゴンもどき四匹に、存分に豚肉を与えたのだ。
先んじて建設した、黒曜石による耐爆シェルターの内側で、である。
「おでれーた……この黒いのは、伝説だ……『虚無』でもこれを壊せないかも」
マインはルイズに感謝していた。いつ爆発に巻き込まれるともしれない日常が、ダイヤピッケルを一本犠牲にする覚悟での黒曜石大量準備を決意させたからである。
そして、何だかとても美味しそうに思えて、豚肉を一枚食べた。焼き豚の方が美味かった。