マイクラな使い魔   作:あるなし

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新型TNTと村人もどきと村人もどきゾンビ

「相棒はガンダールヴとしちゃ働き者に過ぎるねえ。主人の意を汲んでのことにしたって」

 

 鶏猫牛にまたがり空飛ぶ月下、マイン・クラフトはやれやれとばかりに首を振った。

 村を見つけてしまったのだ。いや、これはもう規模としては町である。質素ながらも数えきれないほどのテントが建ち並んでいる。窓辺からは丘の陰となって隠れていたらしい。これでは新型TNTの爆発力を試す実験などできようはずもない。マインは無益な殺生や無意味な破壊を厭う。

 

「おうおう、こりゃ凄え規模の陣地だ。五万って数に偽りはなさそうだけど……相棒、本当に単騎で突っ込む気か? たぶん死ぬぜ? いくら相棒が普通じゃねえったって、その心に恐怖を知る以上は不死身ってわけでもないんだろ? 相手にゃあの化け物じみた巨大船もある。ガンダールヴの千人殺しにしたって尾ひれつきの伝説だしなあ」

 

 今夜は背中の不思議剣がよく鳴く。益体なくも物珍しい現象だ。

 これまでの分析で、不思議剣には少なくとも三種類以上のエンチャントがかけられていると判明した。不規則自鳴、耐久回復、そして正体不明のもう一種である。あるいは四種類目もあるのかもしれない。驚異的なエンチャント技術である。

 

「まあなんだ、今のお前さん、傍目にかっこいいことは確かだな。単に常軌を逸してるだけかもしれねえけど、かっこいいもんはかっこいい。大事なこった」

 

 それにしても、とマインは首を傾げた。

 奇妙な村だ。大村落以上にウジャウジャと村人もどきがいるようなのに、畑がただの一つも見当たらない。その代わりでもあるまいに方々に旗を立てている。ガスト用とでも言うべき巨大な弓や、葉を落とした樹木を横倒しにしているのは何の意味があってのことだろうか。

 そしてやはりかアイアンゴーレムもいない。湧き潰しが徹底されていないのに不用心なことだ。

 この世界ではそれでも夜を越えられるから……マインが納得しようとした、その時である。

 いた。

 松明の明かりに照らされて、それはいた。

 ゾンビだ。あれはゾンビで間違いない。鉄製防具を身に着けていても一目でわかる。何を装備しようともゾンビはゾンビなのだ。数多のゾンビと戦ってきたマインの感覚を騙しおおせるものではない。

 

「ん? どうした相棒。大丈夫か? とりあえず武器握っておけば?」 

 

 いる。

 いる。

 よく見ればたくさんいるではないか。

 そこかしこにウロウロとしているし、テントの中からもゾロゾロと現れる。防具を身につけている個体は多く、剣や弓を持った個体もいる。棒を持った個体も多い。ハアンハアンと鳴き声が重なっていく。数えるのも馬鹿馬鹿しいほどの個体数……マインは通常の村人もどきとゾンビとの比率を概算し、結論した。

 もう駄目だ、この村は。

 今はマインが注目を集めているからいいものの、飛び去ったなら襲撃が再開される。朝を待たず全ての村人もどきがゾンビ化するだろう。それみたことかという心境である。その一方では、やはりこの世界においてもかという納得がマインの心を冷やす。

 

「相棒、とにかく混乱させろ。闇に乗じるしかねえ。火を使うのもいい。声を上げて指示出してる奴を炙り出して狙いまくれ。まさか単騎とも思わないだろうし、朝までなら戦い抜けるかもよ……おっと矢が来るぞ!」

 

 剣が鳴き、複数本の矢が飛来した。上昇して回避する。

 まるでスケルトンのようなゾンビだと感心しかけたマインは、射手が通常の村人もどきであることに気づき困惑した。武装しているからあるいはと予測してはいた。しかし実際に目にすると違和感しか覚えない。

 

 この世界の村人は攻撃的だなあ……そういえば金色頭部も剣を振っていた。剣呑、剣呑。

 

 そして思う。丁度いいからまとめて掃除しようと。

 金のリンゴが足らないし、使う気分でもない。そもそもここの村人もどきとは何の関わりもないので、有名度が低下したところで困らない。大村落や町があるのだから村人もどきが全滅することもないし、村人もどきの数が多過ぎると常々感じてもいた。

 それに……マインは自分を見上げる無数の顔を見下ろしながら思う……これらが丘を越えていくことは許し難い。城にはルイズがいるのだ。死なぬままにいるだけの有象無象が眩しく生きる存在に群がるなど、想像するだけで……憤ろしい。

 

「何て顔だ。相棒、まさかお前さん、五万の軍勢を……」

 

 マインは右手に新型TNTを持った。

 未知の爆発力を秘めたルイズ色のそれは、特徴の一つとして、常に重力の影響を受けるということがある。砂利ブロックや砂ブロックと同じだ。起爆前から落下するのだ。これはメリットとデメリットがそれぞれに大きい特徴だが、この状況においては有益である。

 マインは新型TNTを一つ、ポトリと落とした。

 鶏猫牛を飛翔させながら、ここで、そこで、あそこでと落としていく。とりあえずは一スタック六十四個を全て落とした。間隔は適当だ。起爆方法を思えばそれでも構わない。

 空いた手に握り構えたのは、フレイムをエンチャントした弓である。

 矢をつがえ、射た。

 ステータス効果もあってか火矢は過たず新型TNTの一つに命中した。

 明滅を数えること、一、二、三、四。

 閃光と爆発。衝撃と轟音。

 夜を引き裂いて、爆風による大嵐が吹き荒れた。

 

「お……おでれーた……こりゃあ、まるで……まるで……」

 

 驚きの結果だった。

 マインはひっきりなしに飛び来る何かの破片を避けつつ、今も誘爆を重ねていく地上の様子を眺めた。あらゆるものが吹き飛ぶ。高々と飛んでいく。土にしろ石にしろゾンビにしろ他のにしろ、揃って天高く旅立っていく。とてつもない上昇力であり衝撃力だ。

 そしてそれは指向性のあるものらしい。縦方向のそれに比べ、水平方向への吹き飛ばしや地面を削る力については通常のTNTとさして変わらない。見慣れた破壊だ。一発につきだいたい小規模家屋一軒分である。それが不発もなく六十四カ所だ。

 ウム、とマインは頷いた。

 かつての丘陵も、今では土が払われ石ブロックが露出し、いい具合に荒々しい景観となった。そこへドサリバサリと色々なものが降り注ぐ。荒地を物々しさで彩っていく。

 それでもゾンビは残っている。十数体と固まっている場合には新型TNTを、散り散りになっている場合には火矢を、それぞれ空からお見舞いしていく。ドロップ率はよくない。しかもドロップしたとして金くずだ。回収する価値もない。そろそろもう一スタック分の新型TNTを落としたものか、ゾンビを射抜き炎上させながら考える。

 

「相棒! 上だ! 船が来た!」

 

 剣が高く鳴いた。どこか緊迫感のある鳴き声だった。だからマインは空を見た。眼下には的が蠢くのみで脅威など見当たらなかったからである。

 巨大な船だ。大翼を広げて迫り来る。ガスト以上に距離感がつかみにくいが、その巨体の周囲を飛んでいるものを見ることで把握できた。俄に興奮する。

 エンダードラゴンもどきが、たくさんいるではないか。

 二匹だ。最低でも二匹は確保しよう。マインはそう決意した。繁殖させるのだ。やはり畜舎は屋根のある形状が望ましいだろう。広く立派なものを建てて、その日その時に気に入った一匹を選んで空を飛ぶなどしたら……素晴らし過ぎる!

 マインは鶏猫牛を飛翔させた。

 その手に豚肉を持ち、ブンブンと振り回しながらである。


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