マイクラな使い魔   作:あるなし

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ベッドと太陽と金色頭部もどき

 扉を開けてドカドカと入ってきた村人もどきたちが血気盛んに鳴き合うから、マイン・クラフトは何体の村人子供が生まれるものか観察しようと思い立った。

 

「おい、話が違うじゃねえか! どこに硫黄があるってんだ!」

「こっちが聞きたいくらいだ! 大枚はたいた硫黄が消えた!」

「隠し立てすると死ぬことになるぞ! 俺らは王党派の密命を帯びてるんだ!」

「だから何だ! 元々その方々に買っていただくために硫黄を仕入れたんだ!」

「あの貴族たちはなんだ!」

「知らん! 徴発された!」

「それで通るか!」

「それが事実だ!」

 

 増えない。

 思えばマインは村人もどきが増えたところを見たことがない。あるいはこれ以上増えないのかもしれないと思い至った。世界とは安定を好む。一度牛を増やしすぎた厩舎の時空が歪み、そこだけは時間の流れがおかしくなるといった怪現象に見舞われたことがある。

 

「……で? そいつがドラゴン以上に危険な使い魔だってのか?」

「わたしに聞かれても困る。あの髭の貴族に聞けばいいだろうに」

「知らんのか? メイジと使い魔ってな離しておいた方が無難なんだよ」

「知るか、そんな事情……空賊に捕まるわ積荷は消えるわ、散々だ……」

 

 そういえばルイズが見当たらない。一度そう思ってしまうと途端にソワソワとしてくるから困る。マインはピンク頭を探すべく廊下へ出た。船としては大きいが建物としてはさしたる広さでもない。すぐに見つかるだろう。

 

「あ、おい、待て!」

 

 村人もどきが一体、早足に近寄ってきた。マインは避けた。基本的に触れられることが嫌いであるし、それが発情した個体であれば尚更である。また体当たりしてきた。避ける。次に接近してきたら倒そうと思う。

 その一方、廊下の先にも村人もどきが立ち塞がっていた。左目に何かを張り付けた珍しい個体だ。その側にピンク色の頭を見つけたから、マインはやれやれと頷いた。

 

「なるほど、ふてぶてしい態度じゃねえか。よし。グリフォンと同じ扱いをしてやろう」

 

 左目隠しが棒を振った。何を馬鹿なとマインは首を振った。ルイズでもあるまいに、という心境である。いくらこの世界に不思議な生き物が多かろうと、さすがに遠距離から飛来物なしの爆発を起こしてくる個体は特別な存在であろう。

 やはりか爆発など起きない。どうしてか急にベッドが恋しくなったが、マインは牛乳を飲んで就寝欲求をやり過ごした。このところ不調となれば即牛乳が癖となっている。良性ステータス効果と悪性ステータス効果を順に受ける「落差」に辟易してのことだ。

 

「マイン! あんたたち、いい加減にしておきなさいよ……ワルドの警告を聞いたでしょ? マインがその気になったら、こんな船、粉々になっちゃうんだから」

「ほぅ……面白いことを言う。確かにおれの魔法は効かなかった。それは大したもんだ。だが見たところ武器は背負った剣一本きり。『メイジ殺し』とうそぶくならわかるが、船を壊すたあ……口から火でも噴くってか? さもなきゃ伝説の韻竜の変化とでも吹かすか?」

「一瞬よ。嘘じゃないわ。一瞬で木っ端微塵になる。生き残ったとしても空へ投げ出されるわ。助かるのはメイジだけ……それでもいいの?」

「益々面白い。杖を取り上げられた身でそんな脅し文句を口にするたあ、命知らずなのか馬鹿なのか……どちらにせよ気の強いことだぜ。子供のくせにな」

「選びなさい、下郎。後悔しないように」

 

 ルイズを見て安心したから、マインは焼き豚をかじりはじめた。実のところ飢餓直前であった。我を忘れて作業していたためである。

 生きている限り様々な要因でダメージを負うものだが、空腹によるそれは特に危険だ。何しろ放っておいても回復しない。目の前に敵がいても走って逃げることすら叶わない。助かるためには食べるより他なく、飢餓状態から満腹に至るまでは時間がかかる。隙だらけなのだ。

 

「この主にしてこの使い魔あり、か……王党派に用があると言ったな?」

「ええ、そうよ。貴族派などと名乗りながら忠誠を捧げるべき王室へ杖を向ける恥ずべき集団……真実貴族として在る者は、そんな反逆者を相手になんてしない!」 

「王党派なぞ明日にも滅び去るぞ。味方したところで巻き込まれるだけとは思わないかね?」

「鼠賊の理屈よ、それは。話にもならない」

 

 満腹した。そしてマインは思う。やはりルイズを視界に入れながらの食事はいいものだと。

 初めは不思議な頭部の村人だと思い、すぐにクリーパー的何かだと思い知らされた不思議な個体……その後も何かにつけ関わり続けた理由をよくよく考えてみると、それがある種の眩しさであることにマインは気づいた。

 恐怖の対象であると同時に、恐怖を打ち払う存在である。

 不安な相手であると同時に、不安を取り去る拠所である。

 見れば見られて、追われたり追ったりもして、鮮やかなる摩訶不思議。

 ピンク頭のルイズは、まるで夜闇の空へと昇る日輪のようだ。見ていたくもなる。

 

「ククク……クハッ、ハハハ……アッハッハッハ!」

「な……?」

「いやあ、凄いな! トリステイン貴族といえば伝統に胡坐する気位の高さばかりと侮っていたが、どうしてどうして、目が覚めるばかりに誇り高く力強い! こんなものを着けていては恥ずかしいくらいだ!」

 

 はて、とマインは首を傾げた。

 左目隠しが左目を露にし、赤や黒の何がしかを外して頭が金色となり、終いには髭もなくなった。もはや別個体といっていいものへと変貌したのである。金色頭部ととてもよく似ている。こちらはバラがなくやや大きいだろうか。違いは微細で判別が難しい。金色だけに金のリンゴを見分けるかのような気分である。

 

「是非ともきみの名が知りたくなった。名乗ってもらうためにこそ名乗ろう。私の軍階級はアルビオン王立空軍大将、役職は本国艦隊司令長官だ。爵位はないが、代わりに王位継承権の第一位を有している」

「……は? え? それって……?」

「私の名はウェールズ・テューダー。アルビオン王国皇太子だ。未だ空中ながら我が国へようこそ、勇敢にして真に貴族たるきみよ。さあ、名乗ってくれたまえ。さすれば出来る限りの便宜を図ろう。亡国の瀬戸際とはいえ、これでも父に次いで王党派に顔が利くのさ」

 

 金色頭部もどきが、実に金色頭部らしい恰好でお辞儀をした。

 やはりこれはあの金色頭部かもしれない。

 マインはとりあえず鉄ブロックを設置してみた。喜々として破壊を試みればあれだろう、という判断であった。


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