マイクラな使い魔   作:あるなし

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黒曜石とボタンと村人もどき

「フーケ……それともミス・ロングビル? どちらにせよ何のつもりで現れたのかしら」

「今はフーケで脱獄犯よ。ちょっと捨て置けないヤツがいるからね? 身ぐるみ剥いで詳しく調べてあげようと思って……こうしてやってきたんじゃないの!」

 

 予備動作も大げさに巨大な拳が迫り来たから、マイン・クラフトは手すりの向こう側に黒曜石ブロックを設置した。ガツンと大きな音がして、ハアンと三つの鳴き声が上がった。

 

「どうしてそんなので止められるのよ! 手すり一つ壊せないで……こ、拳にヒビまで入ってるだって!? 何なのよそれは!! 何だってのよ!!」

「く……その質量感と不動の有り様……まさかあの鉄以上だとでもいうのか!」

「マイン、やるの? ここでやっつけるつもりなのね? わかった!」

 

 マインはダイヤ装備を身にまとい、左手に不思議剣を、右手にダイヤツルハシを持った。さすればたちまちに良性のステータス効果が発生する。今日のそれはほどほどといったところだ。

 

「よう、相棒。今何でちょっと牛乳持ったんだ? そもそもツルハシは武器なのかねえ?」

 

 そして、跳んだ。

 樫の木製テントを潰された夜と同じように、大直径の腕の上を肩口まで駆け上がっていく。

 

「なるほど尋常な武具ではないようだ。対するこちらは得物がこの有り様。しかし……!」

 

 金属製の棒きれを持った村人もどきが何やら危なっかしく動いている。

 マインは憐れに思った。どうして村人もどきは降りられないところへ登りたがるのだろうか。大村落でも思い掛けない高所に佇む姿を何度も見かけ、その愚かしさに首を振ったものだ。建物のデザインにも、どこか落下の危険に対して鈍感なところがあるのだから始末に負えない。

 まあ、村人の事故死などよくある話である。そう優先して対処すべき事柄ではない。

 

「我が風の刃で……何ぃ!?」

 

 マインは掘る。ツルハシを猛烈に振るって、腕を構成する何がしかの岩石を一気に砕いていく。

 建築物を守らなければならない。照明に難ありとはいえ見事なものは見事なのだ。岩山の風景に素晴らしく融合しているからといって、岩山のごとき巨大ゴーレムになら壊されてもいいなどという道理はない。

 

「まさか、隙を晒してでもゴーレムの腕を切断するつもりか? 主人思いと褒めるところか、虚仮にされたと憤るところか……いずれにせよ、その武具には挑ませてもら……う? は? はぁ!? いない! いないだと!? どこへ隠れたというんだ!!」

 

 マインはツルハシを振る。肩から入って、もう巨大ゴーレムの中枢部である。前回同様、ぐるりと空間を作ってTNTを仕掛けていく。持参した五個全てを設置だ。しかしここからが違う。

 いそいそとマインが取りだしたのは、粉状のパワーストーンである。在庫なきレッドストーンの代替物として研究中の代物だ。

 前回は穴へ火矢を打ち込んで点火しようと目論み、失敗して、ルイズのクリーパー能力によって誘爆させることになった。結果としては素晴らしかったが、やはり自分の力で爆発させてこそとマインは思う。今回は導火線とスイッチの方式を採用する。慣れ親しんだ点火方法だ。

 

「何やってんのさ! 前もそうやって潜り込まれたと言ったろ! 入ったところから出てくるよ! そこをやりな!」

「あれは『エア・ニードル』? マイン! 気をつけて! 狙われてる!」

「黙りな、小娘が! 先に潰されたいのかい? 学院でぬくぬくとしていればいいものを、こんなところにまで出しゃばってくるなんて馬鹿げた話さね!」

「何よ、そっちこそ幾つも名前を使い分けるなんて馬鹿なことをして!」

「ハッハ! 何だい、その理屈は! 物を知らず、狭い世界で成績なんかに一喜一憂しているだけのことはあるわね! これだから貴族なんてものは……」

「広い世界で生きてるというなら、何で堂々と名乗らないの! 何でマインみたく雄大に構えてないの! 偽って、惑わせて、謀って……そんな生き方のどこに誇りがあるっていうのよ!」

「お、お前に……大貴族の娘として何不自由なく生きるお前などに、あたしの何がわかる!!」

「捻くれた大人の無様がわかる! 不自由なんてどこにだってあるのよ! 失敗も、絶望も、珍しくなんかない! あんたは、自分の生き方に誇りを持てないから、そんないじけたようなことを言ってるだけだわ!」

「い、い、言わせておけばあああっ!!」

 

 導火線を引きつつ脚の付け根から外へ出てみると、何やらルイズたちが高らかに鳴き合っていた。マインはしばし悩んだ。どうしたものか。ルイズは村人もどきを助けたいのかもしれない。

 助かったら……いいなあ。

 そう結論して、マインは腿から脛を経由して地表にまで降りた。パワーストーン粉はレッドストーンの三倍以上の遠距離へと信号を伝えることができる。まだ離れられるが、少し余裕を見た地点でボタンを作成した。

 

「待て! 落ち着けフーケ!」

「離せ! あの小娘だけは!」

「駄目だ! ラ・ヴァリエールの娘は……む?」

「ぎったぎたに……あ?」

「え、マイン? え? え?」

 

 マインはボタンを押した。

 閃くように光が地を走り、巻き起こるは大爆発である。五発同時点火の大爆発である。

 バラバラと落ちてくる土砂を避け、マインはジャンプと土ブロック設置とを繰り返した。足場を伸ばしてルイズのいるベランダへと戻った頃には立ち込める煙も晴れた。

 ウム、とマインは頷いた。

 巨大ゴーレムは、膝下や肘先を僅かに残し、消し飛んでいる。爆発の中心がやや上部であったため周囲への被害もほとんどない。水流を用いずにも爆破範囲を見定めてこそTNTの習熟者といえよう。

 

「今の爆発は……火薬なのか? まさかそんな手段を取ろうとは……!」

 

 マインは首を傾げた。目の錯覚だろうか。ボロ棒の村人もどきが別な村人もどきを抱えて空中にいる。足場はない。何もないところに立って……いや、浮いているのだ。しかも飛び去った。呆然とそれを見送る。村人もどきの多様性は想像を絶する。

 

「ルイズ! あなた、またあの爆発をやったのね! 凄いじゃない!」

「あ……キュルケ……戦いにきてくれたの?」

「下でも戦ってたのよ。気づかなかったの? 傭兵の団体さんがいらしてたのに」

「いやあ、このギーシュ・ド・グラモン、思わぬ初陣となったよ。それともメイジが相手じゃないと真の初陣とは見なされないかな?」

「そこそこ見事」

「あらー、タバサもそう思った? ルイズといいギーシュといい、トリステインの貴族も馬鹿にはできないわね。これでどうして戦に弱いんだか……あらごめんなさい、ここには正規の軍人さんもいたわね?」

「構わん。その言葉には僕も同意する。まさかあの規模の襲撃を退け得るとは……」

「ワルド。提案なんだけど、やっぱり無理にでも船を出せないかしら。もうコソコソと動く意味がないわ。むしろ時が経てば経つほどに状況が悪くなると思う」

「……その通りだ。すぐにも船を徴発しよう」

 

 ルイズたちの相も変わらず賑やかな鳴き声を背に聞きながら、マインは思った。

 村人もどきには乗れるだろうか、と。大きさとしては豚以上だし、サドルを着ける背中もあるのだから。


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