マイクラな使い魔   作:あるなし

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砂石と噴水と柵と石クワ

 石造りの街並み、石造りの内装、石造りのテーブルときて、どうして木製の椅子なのか。その背中が痒くなるような「惜しさ」を自前の砂岩階段ブロック製の椅子で補い、マイン・クラフトは食事を楽しんでいた。

 

「残念だが、アルビオン行きの船は明後日の『スヴェル』の月夜に出るきりだそうだ。ラ・ロシェールまでは意図しない強行軍を強いられたが……まるで意味を失った形だな」

「ミスタ・ワルド。その、事情が事情ですし、特別に船を出させられたりとかは……」

「ミスタ・グラモン。逆だよ。事情が事情であるがゆえに無理がきかない。目立てば潜む者に気取られよう。注意したまえ。敵とは行く先に待ち受けているばかりではないのだ」

「急いでいるのに……!」

「急いても杖との契約ならじ、だよ。小さなルイズ」

「あはは、ヴァリエール。甘えさせてくれる婚約者でよかったわね?」

「馬鹿な事言わないで、ツェルプストー。詳しくは教えられないけど、これはわたしもギーシュも家の名に懸けてやっていることなの。遊びじゃないのよ」

 

 美味い。美味いが大村落のそれに比べると幾分といわず味が落ちるか。

 マインはそんなことを考える自分が面白かった。ゾンビの腐肉やクモの目でなし、良性の食料を口にして四の五のと品評するなど贅沢になったものだ。

 欲望とは際限がない。それゆえに楽しい。

 初めてダイヤツルハシを作った時のことをマインは思い出した。希少素材を用いた最上の品を手にする感動……首も動かぬほどに打ち震えたものだが、エンチャントに精通してからは『未エンチャ』の品などおしなべて未完成品の扱いとなった。むしろフォーチュンなしのダイヤツルハシはある種の危険物ですらあった。無心になっていると急に止まれず損をする。

 

「さて、部屋割りについてだが、僕と……」

「そうね、はっきり言っておくわ。キュルケ。タバサ。物見遊山はここラ・ロシェールまでよ」

 

 いつか焼き豚を味気なく感じる日が来るのだろうか……トロリと味の濃い焼き鳥を咀嚼しながら、マインは人生の奥深さにしばし思いを馳せた。世界がマインの手で変わっていくように、マインもまた世界から変えられていくのかもしれない。

 

「二人が追いかけてきたことについて今更に咎めだてするつもりはないけど、出航までには学院へ戻って。わたしとギーシュの欠席理由についても、行く先も含めて秘密にすることを約束して。これはラ・ヴァリエール公爵家の人間としての要請よ」

 

 建築物を見る目もそれは当てはまる、とマインは石造りの大部屋を見渡した。

 多くのテーブルと椅子、壁掛けの装飾、暖炉……以前のマインであればそこそこの評価を与えていたに違いない造形だ。たとえ気に食わなくとも、遺跡に出くわした際にシルクタッチを心掛けるように、建築者を尊んで見物するだけに留めたはずだ。

 

「……そう。魔法衛士隊の部隊長と一緒に内戦中のアルビオンへ向かうだなんて、それが婚約者との旅だとしても、とてもじゃないけど情熱的ってだけじゃ済まない話だものね」

「えーと、ぼくもいるよ?」

「了解。約束」

「ええ、あたしも約束するわ。ツェルプストーの家名に懸けて」

「ありがとう、二人とも。そのお礼ってわけじゃないけど、ここの滞在費はわたしが持つわ」

 

 しかし、もういけない。

 町の「粗さ」を補修するばかりか、己の技術の見せ所を見つけては存分に建築三昧してしまったマインには、もう自分を止めることができない。止められなかった結果として、町の近くには採石場だけでなく伐採場を設け、幾つかの池から粘土と砂を全て採取して丸石ブロックで代替した。レンガ、植木鉢、ガラス……他にも幾らでも材料が要る。

 

「ルイズ、それは僕が……」

「いいのよ、ワルド。学院の外では公爵家の人間として振舞うべきだと思うもの。目立ちたくないっていう事情を踏まえての贅沢なら、全部面倒みるわ」

「あらー、それってすっごく大貴族的な差配ね、ヴァリエール。見違えるようだわ……と言ってあげたいんだけどね、ルイズ。もう手遅れよね? それとも、火を隠すなら火災の中っていう作戦を実行しているのかしら?」

「……や、やっぱり、もう目立ってる?」

「ここでは、あなたとあなたの使い魔が座ってるその椅子が。これを表の騒ぎと結びつける切れ者が現れたら……もういっそグリフォンで飛んでっちゃえば?」

 

 この石造りの町についても、マインは「粗さ」が目に付いて仕方がなかった。

 眺望の素晴らしい展望広場や味わい深い岩壁の残し方はいい。実に素晴らしい。しかし見た目にばかり気を回して肝心な要素を失念していることは明白だった。中級者にありがちな失敗、とマインはそれを断じる。

 照明だ。町でも感じたことだが、ここでは暗闇の打ち払い方が粗雑に過ぎる。

 それに水場が不足している。鶏猫牛にまたがり確認したところ小規模の井戸が三つ四つとあるばかりで、いささか岩山風というコンセプトを徹底し過ぎている感が否めない。理由を同じくしてか畑も足りない。決定的に。

 

「で、でもマインは凄く嬉しそうで……」

「そうねー。物凄くいい笑顔で噴水広場を作ったわね。柱の先に消えずの松明が着いたあれは街灯かしら? 表通りがとっても明るくなったわー。布の窓にはガラスが入ったし、足場が崩れていたところは補修した上に柵がついていたし? 町の人たち、喜んでたわねー」

「『建築妖精』の正体がわかったね。うん。ぼくの予想通りだった」

「うう……」

「きちんと管理して」

「タ、タバサ……あの、その……お、怒ってるの? マインも悪気は……」

「肉は、いい。もう仕方ない。でも鞍は着けさせない。絶対に駄目。許さない」

「そ、そうだ。ルイズ。僕のグリフォンについてなんだが……」

「家名に懸けて約束して」

「わ、わかったわ。ラ・ヴァリエール公爵家の三女として、私ルイズは使い魔マインにタバサの使い魔シルフィードへの過度な接触と鞍の装着をさせないよう管理することを……」

 

 それにしても、とマインは頷いた。ルイズたちのハアンはいつも楽しげでいい。聞いていると食事がより美味しく感じられて、満腹でもベイクドポテト二つくらいは余計に食べられる気がする。

 やってみよう。やってみた。食べられた。美味い。杞憂だったか。

 食事を終えれば後は寝るのみだ。鶏猫牛の側にでもベッドを置こうそうしよう。

 翌日の朝、マインが斜面に段々畑を作るべく意気揚々と歩いていると、金色頭部とウィッチもどきが寄ってきて何事かハアンハアンと鳴いた。見ればどちらも剣を持っていた。

 なるほどと察したマインは、いつもの鉄ブロックを置いてやった。

 遠く聞こえてくる金属音とハアンを愉快に思いつつ、マインは日がな石クワを振るって楽しんだ。


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