マイクラな使い魔   作:あるなし

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鶏猫牛とダメージと金くず

 凄い! 素晴らしい! この鶏猫牛がいれば太陽からだって素材を採れそう!

 不思議生物にまたがっての上昇と滑空とを繰り返して、マイン・クラフトははしゃいでいた。青空へ斧やツルハシを振るったり、ベイクドポテトと焼き豚を交互に少しずつかじってどちらも消費しなかったり、感極まって首を乱舞させたりする。

 

「滅茶苦茶な乗り方だ……あれではペースも何もあったものじゃない」

「ごめんね、ワルド。無理を言ってグリフォンを貸してもらっちゃって」

「いいなあ……ぼくもいつか乗ってみたいなあ、グリフォン」

 

 見下ろせばルイズ、金色頭部、ウィッチもどきがそれぞれ馬に乗って駆けている。

 マインは頬が緩んで仕方がない。馬を遅いと感じる。純粋な速度の差もあるが、何より地上と空中の障害物の差が大きい。空は自由だ。心の赴くままに矢の如く突進できる。それが堪らない。ダイヤピッケルで立ち塞がる全てを砕いていく爽快感とはまた別の心地よさだ。

 

「マイン、凄く嬉しそう。タバサのウィンドドラゴンにも乗りたがってたんだけど、結局乗れなかったのよね。主人はともかく使い魔の方が逃げ隠れしちゃって」

「そりゃあ、あの勢いで追いかけまわしてたらね……それに、あの不思議な魔法。収穫祭でもなしにあんな量の小麦を見たのは初めてだったよ。あと大量の骨もね。何ていうか、生と死について考えさせられたよ」

「それは、さっきの大量の肉とも関連する話なのかな? あれでグリフォンが手懐けられてしまった……軍用の調教を受けているから早々餌付けなどされないはずなのに」

「ああ、大丈夫よ。別に『錬金』みたいに魔法で作ったお肉じゃないわ。マインは自分の養豚場を持っているの。他にも養鶏場、養兎場、小麦畑、ジャガイモ畑、ニンジン畑を営んでるわ」

「あと採掘もやっているね。どうもヴェルダンデが地下で一緒に遊んでいるらしくて、ぼくのところへ持ってきてくれる貴金属がたまに精錬済みだったりするんだ」

「それに伐採もやってるわね。白樺と樫が好きみたい。苗木をたくさん持ってたから植林もしてると思う」

「ぼくが保障しよう。やってるよ。森で見かけたことがあるんだ。それに……これはちょっとまだ確証は持っていないんだけど……城下町に頻繁に出没するっていう『建築妖精』、その人相風体がどうにも君の使い魔を連想させてならないんだ」

「……すまない。二人の話、まるで意味がわからないんだが」

「え、マインの話よ?」

「何か変だったかな?」

「く……とてつもない武具を所有しているという話だったが……」

 

 ルイズには何か明確な目的地があるようだ。マインはそれと察したから少し先行してみることにした。どうした遅いじゃないかと待ち受けてみたくなったからである。

 

「あ、おい! 待て! どこまで行く気だ! 僕のグリフォンだぞ!」

「大丈夫よ。迷子になるようなことはないから。わたしの使い魔だもの」

「帰巣本能、なのかなあ」

「いや、そういう話ではなく……くそ!」

 

 ルイズたちの楽しげなハアンが聞こえたから、マインは追ってこいとばかりに挑発的なターンを決めた。

 もとよりマインは追うことが苦手である。ヤマネコを捕獲するべくジャングルを駆けた日々が疲労感と共に思い出される。逆に、モンスターにしろ家畜にしろ追われながら誘導するのは得意だ。

 飛翔することしばし。

 気づけばとうに日は暮れていて、前方には山が見えている。二つ月の下、見晴らしのいいところで鶏猫牛と一緒に肉を食べたらきっと素敵に違いない。

 どこに降りようかと見渡していると、突然、崖の上に松明が灯った。しかもそれは思わせぶりに振られたではないか。火炎尻尾の類がスポーンしたのかもしれない。なるほど、この辺りの地形なら餌となる石炭も採れるだろうし。

 

「おい、グリフォンに乗ってるあんた、少し話が違くねえか? 何か変更か?」

「おうおう、そうだぜ。奇襲するにゃこの谷がうめえところなんだ。馬に乗った奴を狙えって話なのに、あんただけ空から来てどうすんだ」

「……なあ、何かおかしくね? 確かグリフォンに乗ってるのは貴族だって話じゃあ……」

 

 マインはガッカリした。ただの村人もどきだったからだ。こんな夜に家にも籠らずハアンハアンとやかましい。ルイズの関わらないハアンについては以前よりも鬱陶しさが増した気がして、マインは居心地の悪さに身じろぎした。月を見る。世界は変われど夜闇に煌々と浮かぶ、美しいそれ。

 トントトトンと衝撃が来て、マインは鶏猫牛から落ちた。

 

「へ! ちょろいもんだ」

「おい見たかよ、俺のは喉を貫いたぜ!」

「誰だ、グリフォンの羽に掠めさせた野郎は」

 

 マインは己が身に幾本もの矢が突き立っていることを発見した。それらはひどく懐かしい感触だった。防具なしに矢を受けたことなどいつぶりのことだろうか。

 思えば元の世界では防具を外すことなど滅多になかった。アイテムスロットを四つ使ってまで着脱するようになったのは、周囲に危険を感じられなかったということもあるが、そうした方がルイズが喜ぶ気がしたからだ。あのピンク頭が満足げに縦に振られると、マインは胸が温かくなる。

 

「グリフォンは戦利品ってことでいいのかな?」

「もちろんだろ。白仮面の旦那に受け渡すにしても金を貰わにゃなるめえよ」

「違えねえ、違えねえ」

 

 だから、マインは一つのことに熟練した。ダイヤ製防具の高速装備である。これをするとルイズが驚くのも楽しい。

 

「相棒、おめえ……おでれーた……やれるってのか」

 

 ルイズが結ってくれた不思議剣が鳴いたから、それを左手に持った。右手にはダイヤ剣である。エンチャントの内容は最大パワーのシャープネスとアンブレイキングだ。手数で攻める戦闘スタイルである。

 よいやっと飛び出した。サクサクと剣を振った。

 ドロップは『金くず』とでもいうべき小さな小さな金の欠片だった。九つ集めても金塊にならないし、そもそもきちんと純金に精錬されていない。所詮は村人もどきだ。ドロップしただけでもよしとすべきかもしれない。

 

「おでれーた……なんてーこった……おでれーた」

 

 場所を変え、大きな岩の上に陣取って、マインは焼き豚を食べた。満腹してすぐに小腹が減った。また食べる。美味い。やはり月見肉はいい。オオカミになった気分である。

 ばっさばっさと羽音が聞こえてきた。

 

「あれー? のんびりしてるだけじゃない。おひげの方、あんなに怖い声出してたのに」

「無傷。何より」

 

 エンダードラゴンもどきだ! マインは立ち上がって肉を構えた。既に鶏猫牛を手懐けた実績がある。ピョンピョンとジャンプを繰り返す。肉の効果か逃げ出すそぶりはない。やはり肉だ。いけるかもしれない。

 峡谷の方からはルイズの声も聞こえてきていた。

 エンダードラゴンもどきが手に入ったら、そっちの方が大きくてカッコいいから、鶏猫牛はルイズに譲ろうとマインは思った。


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