綺麗な部屋で目を覚ましたから、マイン・クラフトは驚きながらも、まんざらではなかった。
ベッド、カーペット、窓、棚、照明……どれもこれも上等であり、デザインも全体としてまとまっている。己の寝床となっていた藁だけが失点だ。統一感を乱している。これは牧場近くに置いてこそ雰囲気が出るアイテムだ。
窓に寄り外を見て、マインは目を見張った。暮れなずむ空に月が浮いている……二つも。
ジ・エンドではないにしろ、ここはどこか別世界なのかもしれない。
そうならば新種の村人やピンク頭のクリーパーがいても納得できるというものだ。思えば初めてネザーを訪れた際にも突然の爆発に大ダメージを負ったものだ。ガスト……あの巨大なる空中クラゲを思う。
どこかしんみりとした気持ちで、マインは焼き豚を食べた。アイテムスロットに常備する食料は主にこれである。他の家畜とは違い肉としての利用価値しかない豚だから、増やすにしろ減らすにしろわかりやすくてよい。
さて……拠点でも作るかな?
満腹したマインはごく自然とそのように思考した。松明の残量を気にする駆け出しでなし、夜を目前にしてなお、村人の家を間借りするような過ごし方はしたくないからだ。
とりあえずは出ようと思ったものの、しかし扉が開かない。壊れているのか、どこかにスイッチがあるのか……遺跡に出くわした際にはよくあることだ。
慌てず隣の壁をダイヤツルハシで破壊した。脆いものだ。穴を潜ってから即座に取得素材でそれを埋め戻す。これはマインのこだわりである。自らの手によってではなく建築されたものは、なるべくあるがままの姿であってほしく思うのだ。当然ながらツルハシにはシルクタッチがエンチャントしてある。
部屋の外は廊下になっていた。ここもまたデザインの方向性が統一されていて気分がいい。
どうやら相当に大きな建築物であるらしい。幾つもの部屋があり、何とも探索欲を掻き立てる。もう一度ツルハシを取り出したくなる。
……またにしよう。今はとりあえず拠点だ。
マインは唾を飲み込み、朱に染まった空の下へと出た。だがそこは建物に囲まれた場所で、どうやら中庭になっているらしい。井戸もある。マインはその配置に高得点をつけた。この建築物の製作者は色々とわかっている。細部にこだわり用途に思いを巡らせてこそ、世界は美しくなるのだ。
「あの、どちら様ですか?」
声がしたので振り向くと、そこには黒い頭部の村人もどきが立っていた。ピンク頭たちとはまた別の服装をしている。
「もしかして……使い魔の方ですか? ミス・ヴァリエールにやっつけられたという……」
どうしたものかと、マインは首を捻った。とりあえず草叢の陰をでも直下掘りしようかと考えていたが、村人もどきに見られながらの作業では興が乗らない。上から落ちてこられでもしたら無用な殺生をすることにもなるし。
「あ、お怪我の方は大丈夫ですか? もう夕食時になりますし、よろしければ何か食べやすいものをご用意しますが」
よし、やはり最初に目が覚めたあの草原を探そう。アイテムスロットに入っている建築材としては木材が精々だが、地下で石材を収集しつつ利用していけばとりあえずは安全な拠点を作れる。
先程から好意的に見える新種村人もどきに腰を曲げてお辞儀をし、野外へ向かった。
この辺りのバイオームはよくある草原タイプだ。マインの好みである。シャベルを握ればすぐにも開拓欲がムクムクと湧いてくる。
ふと、視界の端に動くものがあった。豚だ。奇妙に気品がある。近づくとマインの顔を見上げて首を傾げることさえした。どこを見ているのかもわからない馴染みの豚とは大違いだ。
さりとて、豚は豚だ。食べ物である。
アイテムスロットからダイヤソードを取り出して……マインは驚くことになった。
軽い、身体が。力も漲ってくる。
まるで力のポーションや俊敏のポーションを飲んだ時のようだ。いや、やたらに頭も冴え渡っている。どう切ればより多くの豚肉を得られるかが詳細に把握できる。
まあ、いいか。豚は豚だし。
剣を一閃し、マインは多量の豚肉を得た。ルーティングをエンチャントした収獲用の剣でなかったにもかかわらずである。嬉しい誤算だった。幸先がいい。
何にせよ、これから楽しい拠点制作である。
とりあえず作業台を作って草地の上に据え置いた。周囲には松明を設置する。少し考えて、土ブロックによる壁で十ブロック四方を囲うことに変更した。一応のクリーパー対策である。
さあ、どんな拠点にしようかしらん。
建材の都合上、地上部分は簡素でいい。いっそ階段を組み合わせてテント風にしよう。本命は地下だ。明日には羊毛探しに出るとして、まずはラージチェストを複数個作ろう。素材の倉庫用にだ。現状の物資の少なさを思うと不安を感じるよりもむしろワクワクとしてくる。本拠地では素材など飽和状態で管理が面倒なほどであったが、ここでは、今からは、また一から収集と分類をやっていけるのだ!
ああ……素晴らしき開拓の日々よ。私は今、生きている。
二つの月に照らされて、マインは穴を掘り続けた。