マイクラな使い魔   作:あるなし

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羊毛と階段と青い不思議な宝石

 ルイズと黒々大声の交流は長くかかりそうだったから、マイン・クラフトは階段ブロックで椅子を二つ作成した。塔の一階は一時倉庫と簡易道具類が設置してあるだけで応接セットがない。

 

「はぁ……何とも頼もしい使い魔ね。まるでダイヤモンドのように輝く剣と鎧で主人を護り、杖を抜く手も見せない魔法で主人を遇し、しかも何を語ることもなく静かに主人に侍るだなんて。羨ましいわ、ルイズ」

「何をおっしゃいます。姫さまには目に見えないところでは藩屏たる貴族百家が、目に見えるところでは魔法衛士隊がおられるではありませんか」

「やめて! 規模も格式も、心が通じていなければ何の頼みがいもないわ!」

 

 よく動き高く鳴く村人もどきだ。マインは黒々大声をしげしげと観察した。先ほどから気にはなっていたのだ。この個体はその身に宝石を帯びている。しかも普通の品ではあるまい。そういう気配がする。

 

「姫さまは何をそれほどに憂いておいでなのですか?」

「ルイズ。あなたは街で流行っている小唄を知らないのね。わたくしを籠の鳥と嗤うそれを。なべて善政はマザリーニ枢機卿によるものであり、失政は等しくわたくしのいたらなさであるとするそれを!」

「……何かあったのですか?」

「何もかもがそのように解されるのよ。たとえば……」

 

 この雰囲気は精錬したパワーストーンのそれと似ている。そんな気がする。

 マインはぐるりと首を上下させつつダイヤ装備をしまい、代わりにパワーストーンを一つ手に持った。粉にしてよし、宝石でよし、ブロックもよしという用途多彩な新鉱石である。ふとした瞬間に新しい利用法を思いつくためアイテムスロットに常駐させている。

 

「他にも……そうね……最近の例を挙げれば、城下の裏通りに『不夜街』と呼ばれる区画が突如として出現したわ。消えずの松明によって闇を払われたそこでは、街路はお年寄りも歩きやすく工夫され、水路は飲用水に足る清流が滾々と流れ、白樺の木とベンチと噴水とが誰をも憩わせ、廃屋の一つとてなく整備された家屋や店舗が軒を連ねて……目抜き通りに匹敵するくらい賑わっているの」

「それが……どうして、姫さまを非難するようなことになるのですか?」

「行政の成果ではないからよ。勝手に改善された油断も、不潔なままに放置していた非情も、全ては王権を担う者の罪とみなされるわ。枢機卿へは、その区画への課税を緩め商業を推奨したとして称賛が集まったけれど」

「それは……何といいますか……」

「要は何でもいいのよ。揶揄する的はいつだってわたくし! 何をしてもしなくても、わたくしは政治的な能力について広く臣民に侮られているという、ただのそれだけ……!」

「しかし、学院では姫さまへの支持は大変に大きいものです」

「ああ、こんなことは言いたくないけれど……ここでは誰もが子供のままに、政治と無縁でいられるからよ。花の咲き誇る箱庭なのよ。草原に五角に切り取られて!」

 

 装備品にしているのかもしれないと、マインは当たりをつけた。

 武器はともかく、村人もどきの防具についてはゾンビやスケルトンに比べると判別が難しいところがある。金髪頭部と思いきや金色の兜を装備した肌色頭部だったという珍事が記憶に新しい。黒々大声もその類かもしれない。実は頭部が肌色なのかもしれない。

 パワーストーンを素材とした武器防具……硬さはそれなりだ。金のように耐久度がないでは話にならないが。

 

「……わたしに、何かできることはありますでしょうか?」

「おともだちにできることは、今のこれよ。わたくしの寂しさと悲しさに寄り添ってくれるだけで嬉しいわ」

「……ラ・ヴァリエール公爵家の三女としてならば、別な何かをできましょうか」

「王家とも近しい大貴族の人間としてなら……あるわ。大変な危険を伴って、しかも公にはされないという極秘の働きどころが。魔法と砲弾の飛び交う戦場へと身一つで赴くに等しい、わたくしのための英雄となる道が」

「危険と秘密……思えば幼少のみぎりに努めた姫さまの遊び相手も、危険で、秘密の仕事でした。戦場にも等しかったかもしれません」

「あら、もしかしてアミアンの包囲戦のことかしら? 懐かしいわ! あれはわたくしの勝ちだったわね! 侍従には内緒にしたけれど!」

「それも政治、これも政治なのだと思います。御身への忠誠を疑わず、どうか、このルイズに極秘の任務をお命じくださいませ。わたしはきっと姫さまのご期待に添うでしょう」

「ああ、忠誠! わたくしに身命を賭しての忠誠を示してくれるのね! ルイズ・フランソワーズ!」

 

 全部をパワーストーンで作ったものか。それともアイアンゴーレムにおける成功をふまえて鉄と混ぜるか。

 思い立ったら即試行、マインはパワーストーン製防具のレシピを工夫する。作業台は床に埋め込んでアクセントとしてある。格子柄が気に入っている。

 それにしても長い交流だ、とマインが目を向けたその時であった。

 

「内戦状態のアルビオンでは身の証を立てるものが入用でしょう。こちらをお持ちなさい」

 

 それだ。

 マインは食い入るようにそれを見た。黒々大声がルイズに手渡した青々と輝く宝石をだ。強力なエネルギーを秘めていることが一目でわかる。エンチャントもされているようだ。

 

「この任務はトリステインの命運を左右するもの。ルイズ……友情と忠誠とをわたくしに捧げた、貴族の鑑たるあなたと……あなたのダイヤモンドの騎士が、見事わたくしの未来を切り拓くことを期待するわ」

 

 急にルイズが屈んだ。さては落としたか。チャンスだ。拾えばそれはマインのものである。

 追うようにマインもまた屈んだが、丸石ブロック製の床のどこにも宝石は落ちていなかった。キョロキョロと首を動かし、見つからず、再び立ち上がると……そこにはルイズだけがいて、右手には宝石を握りしめていた。

 ハアン、とマインは鳴きたかった。


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