マイクラな使い魔   作:あるなし

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ステータス効果と水バケツと大爆発

 マイン・クラフトは考える。クリーパーはまだ許せると。

 あの緑色をして音もなく這い寄る者どもは、過去何度となく、マインの建築した建物やそれに付随する景観を破壊してきた。爆発音とは修繕の合図であり、穿たれた大穴の底から見上げる空はいつだって悔し涙に滲んでいた。

 しかし、そこに怒りや憎しみはなかった。むしろある種の敬意があった。

 なぜならば、クリーパーは爆発と共にその体を四散させる。勝利の栄光と共にさっぱりと消え去るのだ。どうあっても報復できない以上は、その捨身の仕事ぶりを讃えるより他に何ができるだろう。

 ひるがえって、今、マインは破壊者と対峙している。

 見れば見るほどに巨大なゴーレムだ。何様のつもりだろうか、マインの建築を破壊して悪びれるところもなく、何なら地下まで掘り下げるぞと言わんばかりに腕力をひけらかせている。

 

「マイン!」

 

 ルイズの鳴き声が空から聞こえた。エンダードラゴンもどきに騎乗したようだ。マインは思わず頬の緩んだ自分を不思議に思った。

 羨ましいのか。それとも空飛ぶルイズというガストの上位存在に笑うしかなかったのか。

 首を捻る。捻りつつも巨大ゴーレムの拳を避ける。それは地面にめり込んだ。損害を推し量る。恐らくは大丈夫だ。仮拠点地下部分は十ブロック以上の深さにある上、そこら辺りは壁も天井も丸石ブロックである。

 何にせよ、この巨大ゴーレムは敵である。滅ぼす。マインは地を蹴った。

 

「おお! さすがは俺の『ガンダールヴ』! アレを相手に真正面からか!」

 

 巨大ゴーレムの腕に着地し、マインは得心した。このところ武器を持つことで生じていたステータス効果には、『力』と『俊敏』だけでなく『跳躍』も含まれる。あるいは他にも確認できていない何かがあるのかもしれない。それが悪性の効果である可能性もある。要研究だ。

 ウムウムと頷き、マインは腕の上をダッシュした。

 

「凄いわー。ルイズ、あんたの使い魔って何者なの? 魔法も使わないであんなことして」

「……マインは、マインよ」

「え、名前だけ?」

「一番大事なものでしょ!」

 

 マインは走る。速く、迷うことなしに。

 高所にて細道を行くが如き心地はネザー要塞へ侵入する際にも味わったものだ。落ちれば溶岩の海という死地でウィザースケルトンとガストに襲撃されたあの時、マインは己の限界を超える経験をした。アイテムロストを惜しんでの奮闘である。

 それに比べれば今この時などピースフルだ。そら、巨大ゴーレムの肩に到着である。

 

「くっ! 何てやつだい! 叩き落してやる!」

 

 反対側の肩で黒い村人もどきが切羽詰まったように鳴いている。やはり降りられなくなっていたようだ。大体にして村人という生き物は愚かだが、この個体も記憶に残る水準の愚かしさだ。いっそ可愛らしい。

 

「な、何て気持ちの悪い動き! 何で当たらない!? 何で落ちない!?」

 

 巨大ゴーレムの手に捕まらないようヌルヌルスルスルと並行移動しつつ、マインは黒い村人もどきをどうするか考えた……おっと危ない、スニーク姿勢で落下阻止……さてどうしたものか。

 このままTNTを設置すれば間違いなくこの個体を殺すことになる。ドロップは期待できず有名度が下がる……おおっとスニーク落ちない落ちない……結果としてあの長テーブルの大部屋でご馳走が食べられなくなるかもしれない。それは困る。

 

「おでれーた。まるで遊んでるみてーじゃねえか。だがな、相棒。あんまり余裕をかましてると……」

 

 避けたはずの指が肩口をかすめたから、マインは中腰になってもなお落下しかけた。

 

「普段以上の動きをすればするほど『ガンダールヴ』をやれる時間は減るぜ? もとよりお前さんは攻撃用の使い魔じゃねえんだ。防御用さ。主人の呪文詠唱を守るためのな」

 

 急速に身体が重くなっていく。まるでステータス効果が逆転していくかのようだ。『弱化』と『鈍化』、あるいは『疲労』もあるかもしれない。

 

「さすがに力が続かないようね! さあ、諦めて死になさ……って、え? え!? ちょっと待って、あんたその武器と防具は、まさか全部が……! いやでもそんな馬鹿な事が……!?」

 

 もういいや、とマインは小さく吐息した。黒い村人もどきがどう飛び散ろうが知ったことではないという判断だ。どうせ腐りそうなほど大量にいることだし、一人の殺害であれば二人を丸石ブロックで殴りつけるのと同等の有名度減少でしかない。きっと大丈夫だ。

 だから、掘る。

 巨大ゴーレムのうなじ辺りから胴体中央部へ向けて、マインは掘削を開始した。土部分は避けて石らしき箇所を掘り下げる。ダイヤツルハシの威力をもってすれば奥深くにまで至るのも容易い。やはり少々『疲労』の影響が出ているが手数で押し切る。

 そして、三個のTNTを設置した。

 すぐにもジャンプと土ブロック設置を繰り返す。早急に離脱しなければならない。高所ではあるが、水バケツはアイテムスロットの常備品である。水流に乗れば安全な降下が可能だ。間に合うか。厳しいところだ。『鈍化』の影響が大きい。

 それでも何とか穴から脱し、水バケツを手に持って……そこへ大きな影が迫った。

 

「きゃあっ!?」

 

 今のはルイズの鳴き声だな、とマインは思った。空中で、である。巨大ゴーレムの手により弾き飛ばされたのだ。ノックバックなどというやわな勢いではない。叩きつけられれば大ダメージは必至だ。目覚める先は仮拠点地下部分になるだろう。

 

「よくもマインを!!」

 

 ルイズが棒を振ったのが見えた。そして爆発、爆発、大爆発である。

 凄い速度で飛来した土ブロックや石ブロックを何とはなしに回収しながら、マインは思う。今のは四発分の爆発力であると。内部からはTNT三個が、外部からはルイズのクリーパー的力が、それぞれに働いたのだ。

 巨大ゴーレムは土ブロックの山へと化した。

 それを見やりながら、ゆっくりと地面へ降り立って、マインは大いに首を傾げた。どうして自分は無事なのか。

 

「よく『レビテーション』を間に合わせたわね、タバサ」

「飛び降りようとしてたから」

 

 空からエンダードラゴンもどきが降りてくるなり、ピンク色の頭部が勢いよくマインの胸に飛び込んできた。悪性ステータス効果さえなければ避けられたのだが。


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