疾風のように草原を駆け抜ける。胸躍る地下から一転、マイン・クラフトは心爽やかに晴天下の乗馬を楽しんでいた。
「マイン、あんたの馬術って乱暴すぎない!? 速いし危ない! 何ですぐに高い所へ行くの! え、ええ!? 何で木に跳び移らせるの……っていうか何で木の上を走れるの!?」
眼下、草原の方でルイズが何やら鳴いている。あれはつくづく凄まじい存在だとマインは思う。遠距離から何度でも爆発を引き起こすクリーパーというだけでも恐ろしいのに、あろうことか馬に乗り高速移動している。騎馬クリーパー……敵対していないことを心から嬉しく思う。
まあ、それにしても、本当に面白い世界へ来たものだなあ。
低木を利用して鮮やかに草地へ、クフクフと含み笑いをした。このところは発見続きでワクワクの治まる暇もないマインである。
先だって地下深くにて発見した白い謎鉱石を、マインは『パワーストーン』と名付けた。
精錬したものを粉状にするとレッドストーン同様に信号を伝達する性能を発揮し、しかもレッドストーンよりも強い出力を生み出す。
実験のために敷設したパワードレールではトロッコが矢のような速さで走った。面白がって精錬済みパワーストーンを詰め込んだかまど付きトロッコで同様の実験をしたところ、凄まじい速度で空の彼方へと消えた。実に不思議な現象であった。
ちなみにそれらの実験は仮拠点で行わなかった。TNTの実験と同様の措置だ。チェスト群を危険に晒すわけにはいかない。
ここならお誂え向きだと実験場にしたのは、ピンクのクリーパー・ルイズがその爆発力を見せつけてきた谷である。元は谷ではなかった。しかし今は、である。既にして見る者を慄然とさせる地形破壊の現場だ。更に何が起ころうとも精々趣きが増すだけである。
『パワーストーン』……岩盤を目指すこともやめて掻き集めたそれは、まだまだ腐るほどに埋蔵されている。いくらでも実験ができる。どんな活用法があるか、あれやこれやとアイデアが湧いて湧いて仕方がない。愉快で愉快で堪らない。
「そ、そんなに嬉しいんだ……でも、そうね、わたしも同じよ。馬に乗るのは大好き。凄く気持ちがいいわ。これでも馬術には自信があるんだから!」
おっと何やらルイズが加速した。中々に巧みな馬使いである。マインはその後に続いた。どうにもこのピンク色には不思議な効力があって、見ていると危険回避の本能からドキドキとするのだが、見当たらないと妙に物足りない気分になる。豚とは似て非なる色である。
そして、マインは驚くべき光景を目の当たりにすることとなった。
村である。いや、大村落である。いやいや、これはもう村などという言葉では収まらない!
数えきれないほどの家が建ち並び、それらの合間を道路が縦横無尽に張り巡らされ、村人もどきたちが鳴き声も賑やかに交流だの取引だのに勤しんでいる。
町だ。これはいわゆる一つの町というものに違いない!
マインは感動のあまり空を仰いだ。日が高いから仮拠点から離れていてもまだ大丈夫だと速断する。仮に戻れなくともアイテムスロットにベッドを一つ入れてあるから問題はないが……いや違う。そうじゃない。今は大いに感動しているところだったとマインは首をグルングルン動かした。
「ちょ、マイン、その動きやめて! 前から思ってたけど、本当に気持ち悪い!」
尊敬だった。この町を建築した誰かに……村人にそれができるとも思えずいつも首を捻りはするのだが……とにかくも強い尊敬の念を抱いた。
何もかもが凄いが、何よりも凄いのは、この規模の町を最後まで造り上げたことである。
実はマインも一度挑戦した。村人の繁殖に合わせて村の拡張を試みたのだ。整地し、家を建て、畑を拡張して……町になるはずだった。そのつもりで作業したのだが。
ゴーレムを見上げる村人子供を微笑ましく眺めたり、ハアンハアンとやかましい村人を丸石ブロックで殴りつけたり、いつの間にか爆破されていた家を修復したり、何で緑色かと思えばゾンビ化していた村人にダイヤ剣をお見舞いしたりしている中で……ある朝、急に、飽きた。村などどうでもよくなってしまった。
それでも惰性で作業した結果、あることに気づいた。こいつら家なんてどうでもいいのだと。とりあえず扉さえついていればそれで満足してしまうのだと。馬鹿馬鹿しくなって石壁に扉を並べて設置した。村人は嬉しそうにハアンと鳴いた。マインは村を捨てた。
「あんた、何でそんなに辛そうな顔して……あ……もしかして……」
苦い記憶である。
あの日あの時、マインは村人などお構いなしに最後まで家を建て続けるべきであった。それが自身の美学に則った行動であったと後日後悔したものの、戻ってみればゾンビパニックだった。子供ゾンビが鶏に乗って襲って来た。返り討ちにした後に食べた焼き豚は、まあ、いつも通りに焼き豚の味だった。美味かった。
「……悪いと、思ってる。マインにだって、きっと、家族がいるのよね?」
さても惜しむらくは、とマインは首を横に振った。
「え? なら、何で……え? どこへ行くの?」
やはりか適当に造っている場所がある。目に付いたそこへとマインは歩いていった。狭い道路の先へだ。そこでは道路は土ブロック製である。恐らくは建材が尽きたという理由もあるのだろうが、これではいかにも統一感を欠く。意味のない水溜まりや葉ブロックも減点ポイントだ。
「あんた、まさか……」
改修させてもらおう。マインはそう思い立った。尊敬すべきこの大仕事をより完璧なものとするために、不肖ながらも自分が建材を持ち込もう。とりあえずは丸石ブロックを二十七スタック……いや、三十スタック持ってこよう。いやいや、規模からして近場に採石場を開くべきか。
ふと目に付いた看板があった。金属製の看板だ。形が剣に似ている。
マインはそんなものを初めて見た。作ろうと考えたこともなかった。それもまた新しい発見だった。