「あんた、誰?」
目を開けると青空が広がっていたから、マイン・クラフトは首を傾げた。
自分はエンダーアイを揃えて遂にエンドポータルを起動したはずである。そしてそれに跳び込んだ。向かうはエンダードラゴンの巣たる暗黒世界、ジ・エンドでなければならない。
「ちょっと! 何無視してんのよ!」
ところが、どうだ。
見渡した限り、草原である。何とも開拓欲の湧く豊かな風景だ。牧畜をしてよし、畑作をしてよし……何にせよまずは仮拠点の設営からか。目的が目的だったからベッドをアイテムスロットに入れてきていない。ポータルの外に置き捨てにしてしまった。辺りに羊はいるだろうか。
「こっちを向きなさい!」
先程から村人がうるさい。日の高い内から何を興奮しているのか。取引の要請でもなしに。
いや、そもそも目の前のこれは村人なのだろうか。
ピンク色の頭部に黒い奇妙な服装……どうして棒を握り締めている?
「おい、ゼロのルイズがまたやったぞ! 平民だ! 平民なんて呼び出した!」
「さすが! 見ろよ、あの貧相な身なりを! 傑作だぜ!」
ここは大きな村か何かだろうか。同種らしき者たちがたくさんいて、やはり興奮した様子である。
「ミスタ・コルベール! やり直しを! もう一回召喚させてください!」
「それは駄目だ、ミス・ヴァリエール。使い魔の変更はできない。それは神聖なる儀式を愚弄する行為であるし、自らの運命を否定するにも等しいからだ」
「でも! 平民を使い魔にするなん……きゃあ、き、気持ち悪い!」
マインは首をグリグリと動かして村人もどきたちを観察している。よくよく見ると個々に差があると気がついたからだ。頭部だ。ピンクの他にも色々といる。
染めたのか、天然か。どちらにせよ、マインは再びに羊への思いを喚起させられていた。
……この村人もどきは羊毛的な素材になるだろうか?
「とにかく儀式を続けなさい。契約をしてはじめて君の使い魔となる」
空を見る。もう日は傾いている。途端にソワソワとしてくる。
エンダードラゴンに挑もうというマインだ。今更にゾンビやらクモやらに苦戦などしない。どうしてか外れていた武器防具もアイテムスロットの中に入っていたことであるし。
それでも、夜は、拠点の中で過ごしたい。これはもう冒険の日々で身についた習性だ。
「あんた、感謝しなさいよね……貴族にこんなことしてもらえるんだから」
ピンク頭が近づいてくる。この色のウールではどんな内装作れるだろうかと、これもまた習性として考えていたマインだが、次の瞬間には激発していた。
「じっとしてなさい!」
こいつ、棒を振っただと?
ムニャムニャと何事か鳴いているから油断していたが、いつの間にか敵対していたのだろうか。
「ああもう! 逃げるんじゃない!」
顔を突き出してくる、だと?
何ということだ……マインは戦慄と共に身を震わせた。
繁殖する気だ、このピンク頭!!
まさかの事態だった。マインはマインであって村人ではない。犬や豚や牛やウサギや鶏や村人のようにツガイを作って子供を生み出さない。家畜を増やし、解体し、素材や食料を得る側の存在である。
いよいよもって新種だ、この村人もどきは。
絶対の敵か。それとも骨や肉で懐柔できる類か。まずは様子を見なければなるまい。殺すことは容易いが、ハサミも持っていなかった昔でなし、出会った側から羊を屠りまくるような初心者じみた行いはしたくない。
「ミス・ヴァリエール、早く契約なさい! どれだけ時間をかければいいのですか!」
「だ、だってこいつが……逃げるな! この!」
ピンク頭が棒を振った。十ブロック分は離れた距離で、である。あまり頭はよくないようだ。
矢を射かけてみるか。遠距離長期戦を見越した武装を持参していることだし……そう思った次の瞬間だった。
爆発だ。爆発が起きた。マインの足元で。
吹き飛ばされ、宙を舞いながらも、マインはピンク頭をしかと見た。よくわからないが、驚いていない。あれはむしろしてやったりという態度だ。何となくではあるが、TNTを上手く発動させた時の自分と似ている。さりとてそれらしき設置物はなかった。
何にせよ、この爆発のダメージはあの緑色を思い出させる。
クリーパー的な何かだ、このピンク頭!
薄れゆく意識の中で、マインは物惜しみをしていた。
アイテムを失ってしまう……エンダードラゴン討伐のためのガチ装備を失ってしまう。スペアを用意していないものもあったというのに。
しかし、まあ、それも冒険だ。楽しもう。
マインは暗闇に包まれた。ポータルの脇で目覚めると確信したまま。
そして、想像だにしなかった冒険の日々に翻弄されたり、想像を絶する『常識』を行使してハルケギニアを翻弄したりしていくのであった。