大統領 彼の地にて 斯く戦えり   作:騎士猫

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投稿がまた大きく開いてしまいました。



第二十九話 報復、そして

拉致被害者救出の報を受けたアルヌスでは最高司令官命令として帝国への報復攻撃の準備が進められていた。

既に陸軍空軍共に出動準備は完了しており、後は目標の選定と動員兵力の決定だけであった。

 

「ここは一挙に帝国の重要拠点を抑えるべきでしょう!!もはや講和などできる状況ではありません!!」

第六機甲師団のヴェネジクト少将は会議が始まるや否や強硬論を主張した。

「いや、ここは人的損害を出さずに敵の政治的重要使節や軍関係の施設などを攻撃したほうが良いだろう。第一まだ講和自体が破綻した訳ではない。下手に主戦派を勢いづかせる行動は慎むべきだ。」

逆に慎重論を唱えたのは第一航空騎兵団の健軍少将であった。

また貴様かとヴェネジクトは健軍を睨みつけたが、他の指揮官たちも現在進めている講和交渉を壊すわけにはいかないと健軍の案に賛同の声を上げたため、ヴェネジクトはまたも活躍の機会を逃すこととなった。

 

「軍関係の施設は物資の集積所にするとして、政治的な重要施設となると……」

「皇宮には皇帝が住んでますから除くとして、どこが最適でしょうか?」

「元老院はどうだ?あそこなら常に人が居るわけではないし、帝国に対する良いメッセージになるのではないか?」

「なるほど」

「確かにそこが最適だろうな」

 

議論が纏まり、攻撃目標が定まると次に決めるべきは参加する部隊である。しかしこれは直ぐに空軍から声が挙がった。

「となると、陸軍による攻撃は帝国を無駄に刺激しかねませんな。ここは我が第807航空隊にお任せ願いたい」

そう声を挙げたのは第807航空隊指揮官のファルム・ルーデット中佐であった。

 

「”死神ルーデット”か」

一人の指揮官の言葉に他の指揮官は驚きの表情で彼を見た。

 

 

……死神ルーデット

第二次露雅戦争で勇名を馳せた空軍のエースパイロットである。

戦時には出撃回数が1か月で最大70回を越えたこともあるとされており、合計での出撃回数は800回を超え、ロンディバルト空軍史上最高記録とされている。元はドイツ連邦国共和国のパイロットであったが、独露合併後はロンディバルト空軍に配属。急降下対地攻撃機による地上攻撃を得意とし、認められた記録で戦車238両、装甲車及びトラック428両、火砲116門、航空機3機、ミサイル駆逐艦1隻の戦果を挙げており、加えて自身の戦果を部下に分け与えていたため実際はこれより多かったと言われている。

 

 

「あの死神ルーデットが……」

「特地人が哀れに思えてくるな」

ヒソヒソと指揮官たちが言葉を交わす中、ハイドリヒは直ちに出撃準備を整えるように命じた。

「特地派遣軍副司令官として命じる。第807航空隊は04:30に出撃し帝都元老院及び物資集積所を爆撃、此れを破壊せよ」

「ハッ!!……久しぶりの出撃だっ!!」

悔しそうに歯噛みする陸軍指揮官たちを後目に意気揚々とルーデットは会議室を後にした。

 

 

■□■□■□■

 

 

日の出を背に8機の近接航空支援機A-17とそれを護衛する4機FOX-12汎用戦闘機がアルヌスから飛び立った。

目標は帝都の元老院及び帝都周辺に点在する物資集積所である。

 

「戦争も終わり、もう実践の機会はないと思っていたが……どうやらまだツキが残っていたらしいな」

ルーデットは操縦桿を撫でつつ呟いた。

<全くですね!それに、此処には邪魔な飛行制限もない!!下を気にせず自由に飛べる!!最高の気分ですよ!!>

<09、あんまりはしゃぐな!また操縦ミスで墜落なんてヘマしたらまた整備長にどやされるぞ>

隊内無線を笑い声が埋め尽くし、09は必死に言い訳をするが誰も相手にしなかった。

ひと段落して笑い声が収まるとそれまで口を出さなかったルーデットが再び口を開いた。

「09これは古い知人の国の言葉なんだが、”二度あることは三度ある”だがその反対に”三度目の正直”なんてのもあるらしい。おれとしては是非後者になってほしいもんだ」

<なっ!?隊長!!?>

<隊長、そろそろ目標に到達しますよ>

「ああ、分かってる。02は俺と共にターゲット1を、03から08は分隊ごとにターゲット2から4を攻撃。くれぐれも民間人に当てるなよ?」

<了解!!>

 

一度高度を落とし、それぞれの目標を目視で確認すると各機は再び上昇し、現地に潜入中の都市型戦闘特殊任務大隊によるレーザー誘導の元、再度急降下していく。

 

「01ターゲットロック!!爆弾投下!!」

 

ルーデットの機体から投下された爆弾は目標である元老院に引き込まれるように落ちていき、元老院の屋根部分を吹き飛ばした。

続いて02が止めの一撃として同じく爆弾を投下。元老院はその原形を完全に失い廃墟と化した。

 

「チェルノボグ01からシビオーン!!再突入の有無を求む!!」

<こちらシビオーン。目標は破壊された。繰り返す目標は破壊された。再突入の要無し>

<こちらチェルノボグ09、上空からも目標の破壊を確認した!!それと隊長!!敵の迎撃が出てきました!!現在応戦中!!>

「こちらチェルノボグ01。シビオーン了解、誘導感謝する」

 

「01から各機へ。任務完了し次第即撤収だ。ノロマなトカゲ共に構うな」

<へ!?で、でも隊長!!せっかく出撃したんでs「即撤収だ」…はい……>

 

「よし、チェルノボグ01よりHQへ任務完了。これより帰投する」

<こちらHQ了解>

 

ルーデット率いる第807航空隊は元老院及び帝都の3か所ある物資集積所を全て破壊し、迎撃に出てきた竜騎兵を適当に蹴散らしつつアルヌスへと帰投していった。

 

 

■□■□■□■

 

 

拉致被害者二人を保護したペルシャールは直ぐにアルヌスへの帰還の途についていた。そんな中彼の元へ通信が入る。それはアルヌスのハイドリヒからの物で、作戦の成功を伝える内容であった。

「そうか、作戦は成功したか。この上は帝国の奴らが此方のメッセージを正しく理解してくれるのを願うばかりだ」

『前線から遠く離れ帝都で悠々生活している主戦派の議員達も、これで少しは考えを改めるでしょう』

「そうだな。だが講和交渉が決裂する可能性も未だ十分にあり得る。各部隊にはいつでも出撃できるよう重ねて通達しておけ」

『分かりました。それと諜報部からの報告で些か気になることが』

「ほう?諸王国が離反でもしたか?」

ペルシャールの推測は事実一部の国で起こりつつあることであったが、ハイドリヒの言う内容はまた別の物で、更にロンディバルトへ直接的な影響の強いものであった。

 

「何!?本当か?」

『はい。どうやら帝国国内で皇帝モルト、皇太子ゾルザル、そして第三皇女ピニャの間で派閥争いが出てきているようです。現在は皇帝が7、皇太子が2、第三皇女が1と言う割合ですがこのまま講和交渉が進めば主戦派が一気に皇太子に着く可能性が高いかと』

「……ふむ、そして主戦派の後押しの元ゾルザルが帝国の支配権を握ろうと皇帝を排除するのでは、と?」

『ええ、その可能性は十分にあります。万が一ゾルザルが帝国の支配権を握れば、表面上はともかく実質的な講和交渉は出来なくなるでしょう』

「分かった、この件は卿に任せる。もっと調べさせろ」

『……御意』

 

ペルシャールは通信を終えると拉致被害者二人の様子を見に後部収容庫に向かった。

 

 

 

一方アルヌスでは。

 

ペルシャールとの通信を終えたハイドリヒに部下の柳田が話しかけていた。

「では私は課に戻り部下と共に詳しく調査し、対策を立てます」

直ぐに情報課に戻ろうとした柳田をハイドリヒが止めた。

「……いや、待て。諜報部による調査だけでいい。介入はするな」

「は?しかし、ミースト閣下は……」

「閣下は詳しく調べるようにと言ったのだ。それ以上する必要はない。そしてこの件に関しては私に一任されている。卿はそれを聞いていなかった訳ではないだろう?」

鋭い眼光を放ちつつそう返すハイドリヒに柳田は怯みつつも言い返す。

「た、確かにそうですが。このまま放置しておけば講和交渉に支障をきたすかもしれません。早めに手を打っておくべきではありませんか?」

「まだ必ず起きると決まったわけではない。無用の苦労をする必要はあるまい」

何事にも完全を期すハイドリヒである。であるのに希望的観測を以て反論している事に柳田は困惑し、思慮深く考えた。

 

「まさか……?」

そして柳田は答えであろう結論を導き出す。

 

「まさか、わざと放置して帝国に内部不安を激化させ、内戦状態に入った所でそれを口実に武力を以て帝国を討ち果たそうと……そういう御積りですか?」

声を震わせつつ柳田は自身の出した結論を、間違いであってほしいという願いと共にハイドリヒに向けて言った。

 

「柳田中尉」

「は、はい」

「……急ぎ情報課に戻り情報を集めたまえ」

「りょ、了解しました」

 

結局答えを聞くことが出来なかった柳田であったが、それと同時に聞かなくてよかったという安心感も入り混じっていた。

 

 

 




この物語でハイドリヒのポジションは銀英伝でいうオーベルシュタイン的な感じです。
まぁ…原作には遠く及ばない程度ですが……。

最初の報復攻撃のシーンが中々手間取ってしまい時間あったにもかかわらず出来がいいとは言えないですねぇ……妥協の産物な感じです。(早く炎龍戦いきたいby本音)


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