大統領 彼の地にて 斯く戦えり   作:騎士猫

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若干モチベが下がって書く気力が失われてました……orz
これからも亀投稿になるかとは思いますが、どうぞ末永く見て頂ければ幸いです。

あとがきにていろいろ設定やらを一部記載していますので、ご覧ください。

誤字脱字などあればご指摘いただければ修正いたしますので見つけたら連絡くださるとありがたいです。



第二十八話 恐喝

     ―――パァァァァァアアアン!!――――

 

 

床にチャリンと言う音とともに薬莢が落ちる。

 

「……ふっ………」

 

どうやら僅かながら理性って奴が働いたらしい。

 

「……がっ!?あぁぁァアアア!!?」

 

撃った弾はゾルザルの鼻先を掠め、奴の鼻先はピエロのように赤く染まった。

俺は一呼吸おいて気持ちを整えると一気にゾルザルに近づいた。

「ふんっ!!」

必死に鼻を押さえているゾルザルを右手の銃底で殴り倒すと左手の銃で二人に繋がれている鎖を撃ち切る。

武器を構え今にも掛かってきそうなゾルザルの手下達に銃を構え牽制していると後ろから栗林が駆けつけ、ノリコとエリーカ、二人の手錠をナイフで強引に取りながら話しかけた。

 

 

■□■□■□■

 

 

「大丈夫!?貴方達日本人とドイツ人ね!?私たちはロンディバルト軍よ、助けてあげる」

「帰れる……の?」

「ええ、絶対に連れて帰る…ロンディバルトに」

 

「こんな所に日本人とドイツ人がいるとは……どういうk「これは一体どういう事ですか!!?」か、閣下!?」

ノリコとエリーカに菅原は自分のスーツジャケットとペルシャールが渡してきたジャケットを羽織らせるとモルトに詰め寄ろうとした。しかし彼を追い越し、ペルシャールがモルトとピニャに詰め寄った。

「もう一度聞きます。……これは一体どういう事だ?モルト皇帝、ピニャ皇女」

普段の様なお気楽さを感じさせない冷たい声視線はモルトとピニャを鋭く貫いていた。

その姿を見て菅原はペルシャールが大統領に就任したころを思い出した。

 

ペルシャールが大統領に就任したての頃、当時彼は25歳でロンディバルト史上最年少の大統領という事も有って年長者の各有権者や議員達は彼を小僧などと呼んで大統領の座から引きずり落とすために様々な策略を巡らした。

しかしペルシャールは当時未だ一地方警察の所長を務めていたラインハルト・ハイドリヒを長官とし、今の武装親衛隊の前身たる国内安全保障局を設立させた。ペルシャールは彼に”全て卿の裁量に任せる”と言いその言葉通りハイドリヒは自身の力を如何なく発揮して半年後には反大統領派の大半を拘束することに成功した。

それと同時にハイドリヒはその有権者や議員の不正行為を調べ上げ、ペルシャールはそのすべてを国民に開示、彼らの非行を断罪すると民意調査の元彼らのほぼ全員を処刑したのである。

本来こんな行為は民主国家であれば許されることではない。しかしペルシャールはただの冷酷な独裁者と言う訳ではなかった。国民に圧制を強いることはなかったし、必要以上に権力や武力を行使することもなかった。更に大統領テレフォンなる物を設置し、学校のいじめや社内トラブル、将又恋愛相談までありとあらゆる物事に対処し、その多くで国内安全保障局が駆り出された。一部の野党からはこれは先の”大粛清”への批判を和らげるための偽善行為という批判も受けたが、このテレフォン設置後に各種軽犯罪やトラブルなどの発生率が低下したことを受け、その口を閉じるしかなかったという。

 

彼をよく知る者はペルシャールを”仮面をうまく使い分けている”と言う。

 

菅原は身震いした。ペルシャールはこうなるとだれにも止められなくなる。最悪ここにいるゾルザルやモルト、ピニャも含めて全員処刑なんてこともありうる。菅原の額に冷や汗が流れた。

 

 

「ま、待ってくれミースト殿!?これは何かの手違いだ!!ここは妾に免じて……」

「手違い……?するとなんですか。我が国民が奴隷としてこんな扱いを受けていたのはただの手違いだったと?」

「あ、あぁそうだ何かの手違いだ……だから…「ふざけるのもいい加減にしていただきたい!!」なっ!?」

 

「……これだから嫌なんですよ。帝国とか独裁者とか貴族とか。……貴方方はまだ自分たちが上だとでも?」

 

ペルシャールが淡々とピニャに言葉を投げかけていると後ろから声がした。

 

「ピニャよ、もう良い。……どうやってここに入り込んだかはあえて聞くまい。だが、命運は決したようだな。おれに手を出した罪も重さ、思い知るがいい」

 

菅原達が振り返るとそこにはゾルザルとその私兵たちが隊列を組んでいた。

「…こいつらには学習能力ってものがないのか……?」

ペルシャールはゾルザルの言葉に半ば呆れつつ、ピニャとモルトに向けていた銃を下げシェーンコップと目配せした。

「富田、栗林、自由発砲を許可する。富田は援護、栗林は俺とシェーンコップに続け」

ペルシャールは返事をする二人の声を後ろにシェーンコップと共にゾルザルの私兵が組む隊列に突撃した。

 

「シェーンコップは右、俺は中央」

「左は?」

「栗林がやってくれる」

「了解」

短い会話を交わしシェーンコップは右から向かってくる手下にトマホークを振りかざす。手下は剣で防ごうとするが大量生産品で劣悪な質の剣で防げるはずもなく、剣は真っ二つに折れ、その持ち主の胴体も真っ二つに切り裂かれた。

それを横目に見つつペルシャールは中央に堂々と切り込み、44マグナム弾を立ち塞がる兵士達に叩き込んでいく。その間に横からも兵士が槍を突きだしてくるが、それをブレードで防ぎつつ足を撃ちぬき、重心が崩れたところで槍を無理やり奪い取り逆にその兵士に突き刺した。

 

「ガハァ!!?」

「手強いぞ!?」

「隊列を構えて隙を作るな!!」

 

数人の兵が一瞬で倒されたのを見て後ろにいた兵士達は盾で互いを守りつつじりじりと半包囲の体制で迫っていく。が、薄い鉄と木で出来た盾で銃弾を防げるはずもなく、44マグナム弾によって簡単に貫通されその持ち主の体の一部も吹き飛ばした。

盾が意味をなさないことに驚き、恐怖した他の兵士達はペルシャールから徐々に離れていき、彼の傍には盾を貫通され左手を吹き飛ばされた兵が痛みにもがきながらも助けを乞うてきた。

「こ、降参する!!だから助け……」

「………」

ペルシャールは無言でその兵士の額に銃口を突き付け、引き金を引いた。

 

「「「………」」」

 

その光景を見た兵士達はもはや降伏などできないことを悟り、ペルシャールを一斉に切り込みにかかった。

 

「敵は一人ではないぞ?」

 

ペルシャールがそう言った瞬間彼の後方から銃弾が浴びせられ、兵士達は一瞬怯んだ。

その一瞬の隙を突いて左右の敵を片付けたシェーンコップと栗林が彼らに逆に切り込んだ。

「たぁァアア!!」

「でぃやぁアアア!!」

 

突然の横からの攻撃に既に突撃大勢だった兵士達はなすすべもなく切り倒されていく。

そんな中、ペルシャールは扉の近くで怯え、座り込んでいるゾルザルへと近づいた。

 

「さて……皇子。貴方は先ほどこの二人を生き残りと言った。それはつまり、他にも攫ってきた者がいる、という解釈でよろしいのかな?」

無表情でゾルザルに銃口を突き付けるペルシャール。ゾルザルは未だ残ったプライドを以て何とか立ち上がり言い捨てた。

「答える義務がどこにあるというのだ」

 

「そうか……」

 

ペルシャールはその言葉を聞くや否やすぐさま予備で持っていたFA190をホルスターから取り出すと、そのままゾルザルへ銃口を向けて何の躊躇いもなく撃った。

 

「なっ……?グッ、ガァアア!!?」

銃弾はゾルザルの右太腿を貫いた。これが44マグナム弾であれば右足は丸ごと吹っ飛んでいただろう。ゾルザルは太腿を抑えながら倒れこみ、あまりの痛みに絶叫した。

しかしペルシャールは撃つのをやめなかった。2発目は左肩、3発目は左足首、4発目は近づいて左耳を撃ち抜いた。

 

「ァ……ぐっがあぁああアアアアア!!!?」

今まで経験したことのない痛みがゾルザルを襲う。このまま死んでもらっても困ると思ったのだろう。それを察したシェーンコップがゾルザルに近づいて簡単な止血を施した。ゾルザルは何とか意識を保ってはいたが、もうひと殴りもすれば吹き飛んでしまうほどであった。

 

「もう一度だけ聞く、他の者は何処へやった?」

ペルシャールが改めてゾルザルに問う。ゾルザルがしばらく無言を貫いていると突如ペルシャールの前に誰かが立ち塞がった。

 

「テュ、テューレ………」

「殿下を殺さないで」

ゾルザルの前に現れたのは彼の奴隷の一人であるヴォーリアバニーのテューレであった。手を横に広げゾルザルの盾にならんとする彼女の行動にペルシャールは一瞬呆気に取られた。

 

「……皇子、もう一度だけ聞きます。他にも我が国の国民を攫ったのですね?」

「裕喜は!?裕喜はどうなったの!!?一緒に銀座を歩いてたの!!」

「兄さんは!?兄は無事なんですか!!?」

「……答えろ」

「男は……奴隷市場に流した………後は…知ら……」

そう言うとゾルザルは意識を失い倒れた。テューレは急いでゾルザルの様態を確認していた。

 

「さて……モルト皇帝。宴は拉致された我が国民が帰ってきてから考えましょう。そしてピニャ皇女、後ほど彼らの消息と返還について聞かせていただきたい。それまで講和はお預けです」

 

モルトとピニャにそう告げるとペルシャールは身を翻して玉座の間から出て行こうとする。しかしそれをモルトの一言が止めた。

 

 

「確かに貴国の兵は強い。だが……貴国には大いなる弱点がある」

 

「弱点……?」

 

 

「民を愛しすぎることよ……」

 

先程までの驚愕した表情ではなく、国の指導者として話すモルトの言葉にペルシャールは耳を傾けた。

 

「高度な文明をもちながらそれが原因で蛮族に滅ぼされた国を幾度も見てきた」

「我が国も同じ道を辿ると?」

「必ずしもそうとは限らん。だが十分に心するがいい」

 

「……モルト皇帝、我が国はその弱点を国是としています。我が国の軍隊は、侵略し民に圧制を強いるためではなく、その弱点を、国民を守るための盾として存在しているのです。何なら、もう一戦交えますか?」

 

ペルシャールの脅しとも取れる返答に身震いしつつ、モルトはやはり今の状況で対等な取引等通じないことを悟った。

 

「ふっ……そなた等に抗せる筈もなし、和平交渉を認めるとしよう」

「感謝致します。しかし我々も十分に弁えています。平和とは次の戦争の準備期間に過ぎないことを」

「我が国と我が世界は三度の世界規模の戦争とその中で生まれた40億を超える屍の上に成り立っていることをお忘れなきよう」

「40……億……」

フォルマート大陸の全人口の数百倍の屍の上に成り立っていると知ったモルトとピニャは愕然としつつ、改めてロンディバルトと帝国の差を思い知った。

 

「それでは、失礼させていただきます。総員撤収!!」

 

ペルシャールとその一行は拉致被害者二人を連れ、俯いたままの二人を背に玉座の間を後にした。

 

 

王宮から出るとペルシャールは直ぐにアルヌスのハイドリヒに一連の出来事を話すと共に帝国への報復攻撃を命令した。

 

 

そしてそれから4時間後、既に日が僅かに見え始めた頃にアルヌスの仮設空軍基地から

空飛ぶ剣が帝都をめざし飛び立った。

 

 

 

 

 




【第一回なぜなにロンディバルト】

「ロンディバルト民主共和国とは?」

第三次世界大戦後、分裂したロシアでサプフィール・ロンディバルトが指導者となり建国した国家。建国当初はその崩壊した世界情勢から民主国家ではなく一党独裁制の独裁国家として誕生した。
その後急速な併合や連邦化が進められ、ユーラシアの大半を支配する強大な国家となった。
初代総統のロンディバルトが亡くなると、彼の側近であったエーレント・マニラフスキー主導の元民主化が行われ、現在のロンディバルト民主共和国となった。
その後ファシスト化し、一党独裁制国家となった南北アメリカ帝国を主軸とするファシスト連合との2度の大戦の後に勝利。速やかな併合行われ人類史上初の惑星国家となった。ちなみにペルシャールは第8代目の大統領に当たる。


「本話について」

ペルシャールが言う3度の世界大戦は第一次二次大戦と核が大量使用された第三次大戦の事を指し、ロンディバルトとファシスト連合の戦いは含まれていない。
40億の屍は第三次の核投射による割合が大きい。


「ペルシャール・ミースト」
ロンディバルト民主共和国の第八代大統領であり、ロンディバルト史上最年少となる25歳にて就任を果たす。(ロンディバルトでは人口の低下を受け様々な年齢の制限が大きく下がり、その中で大統領の立候補も25歳にまで下がっていた)
本話にもあるように表と裏を上手く使い分け、更により国民に近づいた政策を取ることで民衆の心を掴んだ。(お悩み相談を受け付けてそれを政治に反映させたりしている)
書類仕事が大の苦手で何かと理由をつけてサボろうとしている。
しかし一度彼を怒らせればその報復は計り知れない。その実行を行うのがラインハルト・ハイドリヒであるためより凶悪である。


「ラインハルト・ハイドリヒ」
言わずと知れた旧ナチスドイツの武装親衛隊大将。金髪の野獣。
ロンディバルト民主共和国では大統領直属の武装親衛隊長官を務めている。
当時の記憶は残っているため、”そっち”関係のお仕事を主に行っているが、同時にペルシャールの参謀的な役割も果たしている。




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