ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、左京大夫です。


遂にこの時が来ました!!花陽ちゃんの誕生日です!作者が一番推してる花陽ちゃんの誕生日ですやったあああああああ!!!(そこ、もう誕生日終わり間近じゃんとか言わない)

とにかく今回は花陽ちゃんの誕生日記念の短編です!



それではどうぞお楽しみください!!


番外編 次代に開く花の蕾へ

「うう、今日も寒い・・・。こんな日はやはりこたつに入ってみかんに舌鼓を打つのが冬の娯楽の醍醐味だよな~。」

 

1月も少しづつ終わりが迫り、さらに寒さが強くなっていく今日この頃、今日はμ'sの練習が休みなのか志郎は自宅でこたつに入ってみかんを食すという一般的な冬の日本人スタイルで休日を謳歌していた。

 

ヴー!ヴー!

 

「ったくこんな日に誰から電話だ?」

 

志郎は傍らに置いていた自分のスマホが鳴るのを見て、それをめんどくさそうに手に取った。

 

「花陽からか。」

 

画面には『小泉花陽』と電話をかけてきた人物の名前が映し出されていた。

 

「もしもし、どうしたんだ花陽?」

 

『あ、もしもし志郎さん?あの・・・、今お時間はありますか?』

 

「ん?時間か?もちろん大丈夫だ。今もおこたでみかんを食すという平々凡々な冬の娯楽に打ち込んでいたところだ。何か俺に用事があるのか?」

 

『えっと・・・。志郎さんにちょっと相談したいことがあるんです。』

 

「俺に相談?」

 

『はい。あ、直接志郎さんと会ってお話ししたいんですがよかったら志郎さんの家に行きましょうか?』

 

「いや、こんな寒い日にわざわざ足を運んでもらうのは申し訳ないから俺がそっちに行こう。」

 

『え!?でもなんか申し訳ないです!』

 

「なあに、歩けば体も温まるから平気さ。それにこの寒空のなかで女子を歩かせるのもどうかと思うしな。じゃあまた後でな。」

 

志郎はそう言って電話を切り、食べかけのみかんを口に放り込みながらこたつを出て、外に出る準備をする。

 

(花陽が相談したいことか。だとすると十中八九あれのことかな・・・。)

 

志郎は上着を羽織り、マフラーを巻きながら花陽が相談したいと言っていた事について、感慨にふけるような顔をして思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

「歩けば体が暖まるとは言ったはいいが、少しばかり距離が足りなかったか・・・?」

 

志郎はそんなことを言いながら花陽の家の前で体を震わせた。

 

「遠回りして走ってくれば体も暖まるのだろうが、流石に花陽を待たせるわけにもいかんからな・・・。」

 

志郎は脳筋的思考でぼやきながら花陽の家のインターホンを押した。

 

『はーい!あ、志郎さん。入っていいですよ!』

 

そうインターホン越しに言われた志郎はそのまま花陽の家に入った。

 

「お邪魔します。」

 

「あ、志郎さん!寒かったですよね、私の部屋はこっちですよ。」

 

家に入ると志郎は花陽に部屋に案内してもらった。その道中で花陽の母に、

 

「あら?花陽が男の子を連れてくるなんて・・・、もしかして彼氏さん?」

 

と物凄くニヤニヤしながら言われて、

 

「そ、そんなんじゃないよお母さん!がっこうの先輩だよぉ!」

 

と顔を真っ赤にして抗議している花陽を見て、

 

(こんな花陽もなかなか新鮮だな。)

 

と想いながら志郎はほっこりしていた。

 

「お母さんが変な事言ってすいません・・・。」

 

花陽は志郎を部屋に案内した後にお茶を持ってきて、志郎に渡しながら謝った。

 

「いやいや、別に気にしちゃいないさ。まあ、花陽のお母さんのあのテンションの上がり方を見て少しびっくりはしたが・・・。」

 

志郎は苦笑いをしながら花陽から受け取ったお茶を飲んだ。そして湯飲みから口を離すと志郎の表情は真剣なものに変わった。

 

「それで、相談したいことってなんだ?俺にできることなら何でも聞くぞ。」

 

「実は・・・。私、にこちゃんに次のアイドル研究部の部長になって欲しいって言われたんだ。」

 

「次期部長に・・・か。」

 

「うん。私は無理だよって言ったんだけどにこちゃんは『花陽だからこそ跡を任せたいのよ』って言ってて・・・。あ、でも本当にいやだったら断ってもいいって言ってたんだけど・・・。」

 

志郎は花陽の相談内容を聞いて心のうちで少し唸っていた。

 

(う~ん。やはりと言うかなんというべきか、俺の予想が的中したな・・・。確かにこの手の話は早くに済ませてしまうに越したことは無いがまだ花陽の心の準備が出来ていないというのに話すのが早すぎではないか?まあもっとも、花陽に次期部長を任せるという話は俺と幸雄も一枚かんでるんだがな。)

 

どうやら、志郎が出掛ける前に考えていたことは花陽がにこにアイドル研究部の次期部長を任されたという事であったようだ。

 

「花陽、お前自身はどう考えてるんだ?」

 

「私は・・・。私には無理だって思ってます・・・。」

 

「それは何ゆえか?」

 

「それは・・・。私じゃあ荷が重すぎるというか・・・、私が本当にこのアイドル研究部を背負えるのかなって思っちゃうんです。」

 

「ふむ・・・。」

 

「このアイドル研究部はにこちゃんが独りぼっちで守ってきて、私たちμ’sが入って来て、そのリーダーの穂乃果ちゃんがここまで盛り立てて来て・・・。そんな素敵な部活を私なんかが背負えるのかなって・・・、ひょっとしたら私たちの代で潰しちゃうんじゃないかって、不安になるんです・・・。」

 

花陽は不安に思う理由を志郎に話した。途中から声は少しずつ震え、語り終わる頃には涙声になっていた。

 

「・・・なるほど。花陽がどう思っているのか、そしてどれだけこのアイドル研究部を想っているのか、それはよく分かった。だがそれでも俺たちは花陽に次の部長をやって欲しいと思っているんだ。」

 

志郎は諭すように花陽に自分の考えを伝えた。

 

「俺たち・・・ですか?」

 

花陽は志郎の出した『俺たち』という言葉に首を傾げた。

 

「ああ。言うのを忘れてたんだが、実は次期部長を誰に任せるべきかは現部長であるにこと、サポーターである俺と幸雄が話し合って決めたんだ。ちなみに俺と幸雄も、にこと同じく花陽を推薦した。」

 

志郎は次期部長の選定に自分も関わっていたことを花陽に打ち明けた。

 

「そ、そうだったんですか!?ご、ごめんなさい!まさか志郎さんも関わってたなんて知らなくって・・・。」

 

「別に謝ることじゃないさ。」

 

志郎は慌てて謝る花陽に優しく笑いながら謝る必要はないと諭す。

 

「でも、どうして私を選んだんですか・・・?穂乃果ちゃん達がいない間の代理リーダーをやった凛ちゃんだっているし、真姫ちゃんだって私なんかよりも色んなことを卒なくこなせるし・・・。」

 

「なぜお前を選んだか・・・か。次期部長を決めるにあたって俺たち3人はまず今の2年生に託すか1年生に託すかを話し合ったんだ。」

 

「2年生か1年生か、ですか?」

 

「ああ、でもこれに関してはあっさり結論が出たよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「ああ、なぜなら穂乃果は生徒会長を務めてるから部活の部長にはなれない。なら海未とことりがいるじゃないかと思いがちだが、何せあいつらには穂乃果の補佐という重要な役目がある。穂乃果は絵里とは違ってあまりというか、正直なところほとんど事務的な仕事の適性が無いと言っても過言ではないからな・・・。」

 

志郎は2年生に白羽の矢を立てなかった理由を話すが、最後の方ではため息交じりとなっていた。

 

「あはは・・・。志郎さんと幸雄さんはダメなんですか?」

 

花陽が志郎の様子に苦笑いしながら尋ねると、

 

「そりゃ論外さ。俺たちはあくまでもサポートに徹すると決めているからな。なにせ特例で在校を認められているとはいえ表舞台に立つのは控えておきたいんだ。」

 

と志郎は答えた。

 

「それとあの3人はこれから受験勉強でも忙しくなるだろうから練習に出る頻度も少なくなるだろうから、部長が滅多に来なくなってしまうのは如何なものかと思って1年生に任せることにしたのさ。」

 

「そうなんですか・・・。そこまで考えていませんでした・・・。」

 

「次に1年生の中での選定だな。まず凛なんだが、確かに修学旅行の間に代理リーダーを務めたという実績はあるが、それはあくまでもユニットリーダーとしてであって、部長としてではないから外した。それにあいつはどっちかって言うと役職に縛られるのはあまり好きではなさそうだろうなって3人とも言ってたよ。」

 

「じゃあ、真姫ちゃんは・・・?真姫ちゃんは花陽よりも何でもできるのに・・・。」

 

「う~ん。確かに真姫は何事も卒なくこなせそうだと思うんだが・・・。あいつは作曲担当っていう重要なポジションに就いてるのにさらに部長の仕事という負担をかけるわけにもいかないんだよな・・・。それにあいつ、人付き合いがあまり得意とは言えないだろう?」

 

花陽に尋ねられて、真姫を選定から外した理由を挙げると、

 

「真姫ちゃんは初めの時に比べたら人当たりも良くなってますよ!」

 

と、花陽は反論した。

 

「ああ、それは俺もよく分かってるさ。でもそれはあくまでも彼女のことを知ってる俺たちや他の生徒だけがそのことを知ってるのであって、真姫の変化を知らない後輩たちからすればあいつの言動は多少厳しく聞こえるだろう、と幸雄は言っていた。観察眼に長けている幸雄の『炯眼』だからこその核心を突いた意見だと俺は思っている。」

 

「それで最後に残ったのが・・・私ですか?」

 

花陽が沈んだ表情で言うと、

 

「ああ、そうなるな。」

 

と志郎は頷いた。

 

 

 

 

「だが、何も消去法だけで決めたわけじゃあない。最初にも言ったが俺と幸雄とにこはお前に次期部長の座を託したいと思ってたんだぞ?」

 

と、頷いた後に志郎は付け加えた。

 

「え・・・?」

 

花陽がその言葉に俯いていた顔を上げた。

 

「まずはにこの理由からだな。あいつは同じアイドル好きの同志として、お前のアイドルに対する情熱をメンバーの中でも一番買っていた。そんな同志だからこそあいつは心置きなく任せられると思ったんだろう・・・。一応無理に薦める気は無いとも言っていたけどな。」

 

「にこちゃん・・・。」

 

「次に幸雄だな。あいつも・・・というより俺もだがにこと同じくアイドルに対する強い情熱を評価している。そしてあいつが出した理由は、かつて息子だった源三郎・・・いや、信之に似ているという事らしい。」

 

「私が幸雄さんの前世での息子さんに・・・ですか?」

 

「ああ。あいつが言うには花陽と凛の姿を見ていると信之と信繁の2人の姿が重なる時があるらしくてな。凛の明朗快活なところや時々見せる突っ走りがちなところ、そしてその表情の裏に何処か不安げな様子を隠してる様子が信繁とそっくりで、信之と花陽は普段は穏やかで大人しいのにここぞという所では思いっきり前に踏み出せる、そんなところがそっくりだと言っていた。」

 

「そうだったんですか・・・。」

 

志郎と幸雄の正体を聞いた時に名前が出てきた歴史上の英雄の一人にそっくりだったと聞かされた花陽は少しポカンとしていた。

 

「俺はまだ信之が源三郎と名乗っていた頃にしか交流は無かったが、それでもあいつがいずれ父にも劣らぬ将となることはなんとなく予想できた。もっとも源三郎が真田家の危機を救い、その血と名を後世にまで残すことになるとまでは分からなかったがな!それにな、お前も知ってるだろうがあいつは人間観察の名手なんだ。そんな人を見る目に長けた幸雄のお眼鏡に適ったことは誇るべきことだと思うぞ。」

 

志郎はそう言って笑いながら花陽の頭を撫でてみせた。

 

「さて、最後は俺の理由だな。」

 

「・・・。」

 

遂に志郎が自分を次期部長として推す理由を話す時が来た。そう思った花陽は息を呑み、姿勢を正した。

 

「と、その前に一つ与太話に付き合ってくれ。」

 

志郎は先ほどとは違って感慨深げに口を開いた。

 

「与太話・・・ですか?いいですよ。」

 

「そうか、じゃあ話すか。さっき俺は幸雄が自分の息子とお前の姿を重ねていた、と言ったな。実は俺もまた花陽と姿が重なって見えた者がいたんだ。」

 

「それって誰なんですか?」

 

「俺の息子の信勝さ。」

 

「志郎さんが勝頼さんだった頃の息子さん、ですか。」

 

「ああ、あいつは自分で言うのもなんだが豪胆な性格だった俺に似ず、繊細で大人しい子だった。だが信勝はいつも『父上のような強くて優しい武田の当主になれるように頑張るんだ!』と言って一生懸命に鍛錬や読み書き、算術に取り組んでいた。そして元服する頃には立派な若武者に育っていった・・・。だが、そんな信勝も俺と共に天目山で16歳という若さで最期を迎えた・・・。」

 

「・・・。」

 

「そして俺は自害してこの時代に生まれ変わり、そして17年間この時代に生き続けて信勝の姿が重なる人物と出会った。」

 

「それが私だったんですね。」

 

「ああ、花陽の何事にも一生懸命に臨もうとする姿が重なって見えたんだ。」

 

「・・・。」

 

花陽は志郎の話を真剣な面持ちで聞いていた。

 

「さて、いよいよここからが本題だな。」

 

「・・・!」

 

花陽は再び息を呑みこむ。

 

「さて、花陽は最初ににこが守ってきて、穂乃果が先頭に立って共に盛り立ててきたアイドル研究部を背負えるかどうかが不安だと言っていたな。」

 

「はい、志郎さんの言う通りです。私にはにこちゃんみたいな辛抱強さも無いし、穂乃果ちゃんみたいに色んな人を引っ張っていける力も持って無いから、もし私が部長になってみんなが今まで一生懸命積み上げてきたものを私のせいで全部だめにしちゃうかもしれない、ひょっとしたらライブに来てくれる人もいなくなっちゃうかもしれないって思っちゃう時があるんです。」

 

「根拠のない根性論は好かないが、それはやってみないと分からないと思うぞ。」

 

「ううん、分かっちゃうんです。私はいろんな人に助けられっぱなしでなんにもない落ちこぼれだから・・・、そうなっちゃう風景が見えちゃうんです・・・。」

 

そう言って花陽は顔を俯けてしまう。

 

 

 

 

「俺はそんな事ないと思うぞ?」

 

「・・・え?」

 

「俺はな、花陽にはにこにも穂乃果にも、そして俺さえも持ちえなかった『リーダーの素質』を持ってると思ってるんだ。」

 

「リーダーの素質、ですか?」

 

「ああ、それは『徳』さ。」

 

「徳?」

 

志郎が出した言葉の意味が分からず、花陽は思わず首を傾げた。

 

「ああ。人徳とかそう言う意味で使われる『徳』のことさ。俺は花陽にはそれが十二分に備わってると考えている。花陽は自分の力じゃどうすることも出来ないことに直面したら誰かに助けを求めるだろう?」

 

「はい。でもそれが徳とどんな関係があるんですか?」

 

「あるとも、大有りさ。人間っていうものは見返りの無いことをやりたがらないものだが、『この人のためなら』って思ったことは時と場合によりけりだが何でもやりたくなる傾向があるんだ。簡単に言うと『徳』って言うのは『この人のためなら』と思わせる才のことさ。」

 

「『この人のためなら』・・・ですか。」

 

「ほら、凛や真姫が何か手伝ってくれた時もお前が何かお礼をしようとすると、『かよちん(花陽)のためにやった事だからお礼なんていいよ。』って言われたこと、一度はあるんじゃないか?」

 

志郎がそう言うと花陽は過去のことに思いを馳せ、

 

「確かにそう言われたこと・・・何回かあります!」

 

と言った。

 

「そうだろう!それが徳なのさ。俺はそんなお前に似ている武将を知っている。」

 

「私に似た武将ですか?」

 

「ああ、その名は毛利隆元と言う。」

 

「その人はどんな人なんですか?」

 

「隆元どのは広島県の小豪族であった毛利家を中国地方の覇者へと大成長させた毛利元就公の長男で、穏やかで心優しい人柄だったそうだ。だが彼には大きな悩みがあったのさ。」

 

「悩み…?」

 

「彼は穏やかな人柄ではあったが自分を卑下することの多い性格でもあったそうだ。なんせ彼の父、元就公は戦国時代でも最強と謳われるほどの謀略の名手で、次男の元春どのは合戦では負け知らず、三男の隆景どのは元就公の謀略の才を最も色濃く受け継いでいて、優秀な家族に囲まれ、劣等感に苛まれていたのさ。」

 

「私もその隆元さんの気持ち、よく分かる気がします…。凛ちゃんや真姫ちゃん、他のみんなも私なんかとは違って色々凄いものを持ってるから…。昔の人なのにすごく親近感が湧いちゃいますね。」

 

花陽は、自分と似たような境遇だった毛利隆元に対して親近感を覚えていた。

 

「でもな、そんな隆元どのは実は誰よりも毛利家のために貢献していた事を証明する話が残ってるんだ。」

 

「どんなお話なんですか?」

 

「隆元どのは41歳の若さで父である元就公より先に死んでしまうんだ。その時の毛利家は戦さの準備中で、徴兵やお金や兵糧の徴収、そしてといった隆元の仕事を元就公や弟たちで担当することになったんだ。もちろん三人とも『隆元(兄上)がやってたから俺たちがやっても大丈夫だろう。』と思ってたんだが、実際はどうなったと思う?」

 

志郎が花陽に質問すると、

 

「どうなったんでしょう…?」

 

花陽もそう言って首を傾げた。

 

「実は思うように集まらなかったらしいんだ。」

 

「集まらなかったってどういうことなんですか?」

 

「簡単に言えば傘下に入ってた豪族はみんな兵士やお金を出し渋り、商人たちもお金を貸したがらなくなってしまったんだ。そしてみんな口を揃えて『隆元さまが生きていらっしゃったらなんとかするのに。』と言ったそうだ。」

 

「隆元さんのために…。」

 

「そう、隆元どのは父や他の兄弟が持ち得なかった徳があったからこそ商人や百姓、他の豪族にも慕われて、彼のために尽くそうと思う人たちが集まって毛利家の繁栄に貢献する事が出来たんだ。それに彼はやる時はやる性格で、毛利家のターニングポイントである厳島合戦の時も、弱気だった父を励まして決戦に踏み切らせてるんだ。」

 

「隆元さんは凄い人だったんですね!」

 

「ああ。だがこれはあくまでも本などで仕入れた知識に過ぎないから実際のところはどうだったのかは分からないが、俺は彼の徳を受け継ぐ人物に出会ったんだ。」

 

「それはどなたなんですか?」

 

「俺や幸雄と同じ転生者の吉田輝久という男でその正体が他でもない隆元どのの息子の輝元どのでな、様々な媒体で聞いた話通り優柔不断で気の弱い男だった。正直武将としての才はこれっぽっちも感じられず、どうしてこんな男が毛利家を残すことが出来たのか、初めて会った時は真剣に疑問に思ったもんだ。」

 

志郎は夏休みに幸雄が開いたオフ会で出会った輝久のことを思い出しながら語った。

 

「だが答えは思った以上に単純だった。それは彼もまた父と同じように徳を持った人物だったからだ。」

 

「その人も徳を持ってる人だったんですか?」

 

「ああ、彼は世間からは暗愚とは言われてるし、実際に優柔不断で余計なことをしたり言ったりするような軽率なところもあって、だから祖父と父が築いた毛利の大領土を4分の1までに縮めてしまうという大ドジを踏んでしまい、自分や家臣の暮らしがままならない状態まで追い込まれることになった。」

 

「その輝元さん・・・じゃなくて輝久さんはどうやって切り抜けたんですか?」

 

「切り抜けたのは彼の力ではなくて彼の家臣たちの力さ。彼の家臣たちは自分たちの給料が今までの5分の1に削られてもなお輝元どのを見限ることなく、彼を支え続けたのさ。その中の益田元祥という男に至っては徳川家康から大名にならないかと誘われながらそれを断ったほどだ。」

 

「なんでその人は大名になれたかもしれないのに断ったんでしょう・・・。」

 

「どうもその誘われた時に『私は輝元さまに頼りにされてるので大名になるより輝元さまの家臣でいたいです。』と言って断ったらしい。恐らく輝元どのには『この人はほっとけない』と思わせる何かがあったんだろう。俺も輝元どの改め輝久さんと話してそんな印象を抱いたぐらいだ。」

 

「すごい人なんですね、輝久さんって。」

 

「すごい人かどうかは微妙だが、まあ吉川広家に毛利秀元、清水景治に益田元祥と言った知勇兼備の忠臣に恵まれたのは事実だから、これもまた人たらしなのかもしれんな。」

 

志郎は輝久の顔を思い浮かべながら笑って言った。

 

 

 

「さて。話が脱線しまくってしまったが、俺が言いたいのは花陽は今のままでもちゃんとやっていけるってことだ。」

 

「でも私、何も無いし徳と言われても自信なんて持てないですし・・・。」

 

「なあに、自信なんてものは少しずつ付けて行けばいいのさ。それに穂乃果の圧倒的なカリスマや、にこの執念深さやしぶとさというのが必要なのはあくまでも何かを立ち上げた時や低迷してる時、それを打破したい時に必要な物であって、これからのアイドル研究部のリーダーに必要なのはμ'sが積み上げたものを守りつつそれを後に続く後輩たちに教えて更にそのまた後輩へ託していくことなんだ。」

 

志郎は花陽の肩を優しくたたき、諭すように語る。

 

「積み上げたものを守って後輩に託す・・・。」

 

「そう、それをやるにはお前のその心優しく人を思いやることが出来る性格が必要不可欠なんだ。だからこそ俺たち3人は花陽を選んだんだ。」

 

そう語る志郎の顔は、まるで父親のような慈愛に満ちていた。

 

「でも、もしライブに誰も来てくれなくなっちゃったら・・・。」

 

「そんな事には俺が、いや俺たちがしないさ!もしそうなっても穂乃果たちの時みたいに俺たちが観客になってやる!いや、俺たちだけじゃないぞ。政康や高校生になった夢路なんかも招待してお前たちの門出となるライブを盛り上げてみせるぞ!!」

 

「どうして・・・。どうして志郎さんはこんな私のためにそこまで優しくしてくれるんですか・・・?」

 

花陽は声を振り絞って志郎に問いかけた。その顔は今にも泣きだしそうな表情をしていた。

 

「どうして・・・か。にこが言ってた『アイドルは人を笑顔にさせる仕事』って言葉があるだろ?あれを借りて言わせてもらえば、俺たちファンはアイドルに笑顔にしてもらうのではなく、アイドルを笑顔にさせる為にいるんだからな。お前たちがより輝けるようにサポートするのが俺たちの仕事なんだ。だから何か困ったことがあったら凛や真姫だけじゃなくて俺たちのことも頼ってくれていいんだぞ。お前が頼ってくれたら俺たちはその希望に全力で応える。だから何も心配せず、安心してやれ。」

 

志郎が泣き出しそうな花陽をそう言って優しく諭すと、

 

 

 

「う、うう・・・。うわああああん!あああああん!」

 

花陽は今まで心にため込んでいた不安が志郎の優しい激励のおかげで流れ出たのか、志郎の胸に飛び込み、まるで子供のように泣き出した。

 

「うお!?ちょっ、・・・。そうだよな、不安だったもんな。」

 

志郎は花陽が胸に飛び込んできたことに狼狽するも、彼女が抱えた不安が如何ほどの物であったのかを想い、そのまま花陽の頭を子供をあやすように撫でた。

 

 

 

 

 

小泉家の玄関にて・・・。

 

「うう・・・。さっきはすいませんでした・・・。」

 

「いやいや、別に気にしちゃいないさ。」

 

しばらく経ってから花陽は我に返り、顔を真っ赤にして志郎に謝っていた。もっとも志郎は絵里の時でこのような状況に慣れてるようなものなので、気にしてないと否定した。

 

「それにしても話を聞いてくれて本当にありがとうございました!」

 

花陽はそう言って深々とお辞儀をした。

 

「なあに、こうやってメンバーの悩み事を聞くのも俺たちの仕事の一つさ。どうだ?あれからお前の意思はどうなった?」

 

「次期部長の件ですが・・・やろうと思います!」

 

花陽は屈託のない笑顔で志郎の問いに応えた。その笑顔は憑き物が落ちたようにさっぱりとしていて太陽のように眩しかった。

 

「そっか。それはよかった。」

 

志郎はそんな花陽の笑顔を見て嬉しそうに何度も頷く。

 

「それにしても花陽にはやっぱり笑顔が似合うな。」

 

「え!?急にどうしたんですか志郎さん!?」

 

いきなりの志郎の言葉に花陽は困惑する。

 

「いや、お前の名前をふと思い浮かべてな。」

 

「私の名前ですか?」

 

「ああ。『花』に太陽の『陽』だろ?だから花陽の笑顔は『花』のように可憐で、太『陽』のように優しく人を照らすいい笑顔だって思ったんだ。」

 

「もう・・・変な事言わないでくださいよ志郎さん!」

 

そう言って頬を膨らませる花陽だったが、その表情は満更でもないといった様子であった。

 

「ははは、じゃあまた明日な!それとにこには忘れないうちに伝えとけよ!」

 

「はい!志郎さんもまた明日!!」

 

志郎はそう言って走り去っていた。

 

 

 

 

 

「徳か・・・。俺が持つことの出来なかった物を先輩面して語ってしまったが、花陽をさらに一歩前に前進させられたからよしとするか。」

 

志郎は北風の吹く帰り道で独り言をつぶやいた。そして志郎はコートのポケットに手を突っ込むと手に何かが当たった。

 

「ああ、そういえば花陽の誕生日プレゼントに買ったのを部屋に置いてくのを忘れてたな。いっそさっき渡せばよかったか?」

 

そう言って目の前にかざしたのは椿のブローチであった。

 

(花陽らしい花を選んだから当たり前だが、よくよく考えてみるとやはり椿は花陽に似合う花だな。)

 

志郎はブローチを眺めながら微笑む。

 

椿の花は花首がぽろっと落ちるので武士の間では縁起の悪い花である(今ではデマだという説が有力)とされてきた。だが、それも解釈次第では争い事を好まない花陽にはピッタリだと志郎は考えた。だがそれは眺めている時に思い浮かんだもので、本当の理由は違う。

 

志郎がこのブローチを選んだ本当の理由はその花言葉である。椿の花言葉は『控えめな優しさ』で、赤いものにはそれに加えて『気取らない魅力』、『謙虚な美徳』などといった控えめさを強調したものがある。赤々と美しい花を咲かせながら謙虚な花言葉を持つ椿は実に花陽らしいという理由で志郎は選んだのだ。

 

「・・・やはり渡すのは誕生日になってからにするかって、その誕生日は明日か。」

 

志郎はブローチをポケットにしまい、スマホのカレンダーで花陽の誕生日を確認した。

 

「うう、寒っ!早く家に帰って温まりたい・・・!」

 

志郎はそう呟いて家に向かって再び走り出した。

 

 

 

 

次代に咲き誇る花はさぞかし美しいものになるであろう――――

 

家路を急ぐ志郎の心中には、かつての自分の息子と姿を重ねた心優しき徳を持つ少女がいずれ大輪の花を咲かせるであろう姿が鮮明に映っていた。




いかがでしたでしょうか?

今回はいよいよ花陽ちゃんの誕生日という事でいつも以上に熱心に執筆に力を入れていたらこんな時間になっちゃいました。やはり誕生日記念の短編は余裕を持って書くべきですね。(実行するとは言ってない)


それとこの作品のUA数が、なんと10000を突破しました!!評価に色が付いた件といい、10000UA突破の件といい、数多くの方にこの作品を読んでいただけることにただただ感謝の言葉しか出てきません!これからもこの作品をよろしくお願いいたします。



それでは次回もまたお楽しみください!!

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