ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、左京大夫です。

いよいよ今年もあと5日を切りましたね。凛ちゃんの誕生日から2か月が過ぎようとしてるこの時期に今さら凛ちゃんの誕生日記念の番外編です!

なんで書いたのかって?いくら病気で活動できなかったからって凛ちゃんの誕生日を祝えないのは嫌じゃないですか!

というわけで、大遅刻ではありますが温かい目で読んでいただけると幸いです。



それではどうぞお楽しみください!!


番外編 秋の空の一等星

『いっただきまーす!』

 

神田のとあるラーメン屋で2人の男女が手を合わせてからラーメンを啜り始めた。

 

「うお!これはなかなか…!麺は程よくコシが入ってるし、このスープも出汁が効いてて最高に美味いな!!」

 

一通り麺とスープを味わってから若干オーバーリアクション気味に食べてるラーメンを褒めているのはμ'sのサポートをしている音ノ木坂学院に2人しかいない男子の片割れであり、信濃の戦国武将真田昌幸の生まれ変わりである武藤幸雄だ。

 

「ここのラーメンは凄く美味しいから凛の行きつけのラーメン屋の中でもかよちんと真姫ちゃんにしか教えてないお気に入りスポットなんだにゃ〜!」

 

そしてもう1人は音ノ木坂学院のスクールアイドルであるμ'sのメンバーの1人であり、幸雄の後輩である星空凛だ。

 

「ほー、最近は三人でラーメン屋行ってんのか。」

 

「うん、そうだよ!練習終わりに三人で食べるラーメンは最高にゃ!」

 

「ははは、だがほどほどにしておかないとダイエットする羽目になっちまうぜ?」

 

「凛は食べてもあまり太らない体質だから大丈夫にゃ!」

 

「…それ、花陽の前では言ってやるなよ?あいつ絶対泣くぞ。」

 

幸雄が顔を引きつらせながらそう言うと、

 

「それなら中学生の頃に言ってちょっと喧嘩になったことあるよ。あ、でもすぐに仲直りしたよ!」

 

凛はそうあっさりと返した。

 

「なんか心配した俺が馬鹿だった気がするぜ…。」

 

幸雄はそう言うとまたラーメンを啜った。

 

 

 

 

『ごちそうさまでした!』

 

ラーメンを食べ終わった2人が店から出てきた。

 

「これからどうするよ?俺暇だけど。」

 

「うーん、凛もほんとは今日かよちんと遊ぶつもりだったんだけど、かよちんなんだか今日は急用ができちゃったみたいで遊べなくなっちゃったんだぁ。」

 

凛はため息をつきながら言った。

 

「そうなのか。それで1人でフラフラしとったんか。」

 

「そうなんだよねぇ。あ、そうだ!だったら今日はかよちんと遊べない分幸雄くんと一緒に遊ぶにゃ~!」

 

そんな凛の提案に幸雄は、

 

「そう言えば基本的にサシで遊ぶのは志郎だけだから他の奴2人で遊ぶのは新鮮だな。なかなかいい名案だぞ凛よ、褒美に砥石城をくれてやろうw」

 

と、冗談めかして笑いながら答えた。

 

「幸雄くんお殿様みたいにゃ~!」

 

「まあ実際俺は信州上田の大名だったしな。ほんで、どこに遊びに行くよ?」

 

「う~ん、そうだ!ゲーセンに行こ!!」

 

「おお、ゲーセンか!そんじゃあいっちょ派手に遊ぶか!」

 

「にゃ~!!」

 

そう言うなり二人はゲームセンターへと走っていった。

 

 

 

 

「また凛の勝ちにゃ~!!」

 

「ぜえ・・・、ぜえ・・・。ほんとお前さんの運動神経も大概だなあオイ・・・!」

 

「幸雄くんってば志郎くんに比べて体力無さすぎ!もう少し鍛えたほうがいいにゃ。」

 

「だーからあんな力と技の二刀流の遣い手とかいう武勇チートのクセにさらに有り余るスタミナでゴリ押ししてくるあいつと一緒にするんじゃねえよ!俺は頭と口を使う方が得意なんだよ!!」

 

「頭はともかく口って・・・。いつも屁理屈ばっかりにゃ。」

 

「屁理屈も使いようなんだよ!それに俺だってあいつやお前クラスからすりゃ見劣りするだけでそれなりに鍛えておるわい!」

 

2人はダンスゲームで遊んでいたようだ。何回かプレイするうちにμ'sの中でも1、2を争うほどの運動神経を持つ凛はともかく、平均よりも少し運動神経がある程度の幸雄は体力が尽きて脱落していた。

 

「次は何するにゃ?」

 

「そうさのぉ、流石にクレーンゲームはやめといた方が良さげだな。」

 

「なんで?」

 

「ほら、俺ら負けず嫌いだから一度どツボにはまったら大量に小遣いが持ってかれるから。」

 

「確かに・・・。」

 

2人はゲームセンターの中を歩きながら次に遊ぶゲームを探していた。

 

「あ、そうだ!凛ね、気になってたゲームがあったんだ!」

 

「気になるゲーム?何だそりゃ。」

 

「こっちこっち!」

 

「お、おい!急に引っ張るなって!!」

 

凛は幸雄の手を引いて『気になってたゲーム』の場所へ走っていった。

 

「ここは・・・アーケードゲームのコーナーじゃねえか。」

 

凛が幸雄の手を引いてやってきたのはアーケードゲームのコーナーだった。

 

「えーっと・・・。あ、あった!これだにゃ!!」

 

「ん?こりゃあ・・・、『戦国大戦』か!」

 

凛が指さしたのは『戦国大戦』というゲームの筐体だった。

 

「絵里ちゃんと希ちゃんがいなかった頃のセンターを決める時に志郎くんと幸雄くんがものすごく熱中してたから気になってたんだ!」

 

「ああ、あの時か・・・。」

 

幸雄は凛の言葉で当時のことを思い出した。

 

「ねえねえ、これってどうやって遊ぶの?」

 

凛が目を輝かせながら幸雄にたずねる。

 

「ああ、これをやるには『Aime(アイミー)』っちゅうICカードが必要なんだ。要は会員証みたいなもんだな。」

 

「それがないと遊べないの?」

 

「ああ。まあ300円ありゃ買えるが今回は特別に俺のサブカを貸してやろう。」

 

「いいの!?ってサブカって何?」

 

「ああ、サブカってのは簡単に言うと複数アカウント持ってるようなもんで練習用なんかに使ったりする奴がいるのよ。あ、俺がサブカを持ってるってのは志郎には内緒にしといてくれよ。」

 

「なんで内緒なの?」

 

「サブカってのは初心者をいたぶる初心者狩りに使う奴が多いから嫌われてんだよ。」

 

「まさか幸雄くんもその初心者狩りっていうのをやってるわけじゃないよね?」

 

凛がジト目で幸雄に詰め寄ると、

 

「失敬な!俺は表裏比興のものと呼ばれてはいたがこれに関しちゃ誠実だ!大体二枚持ってるのは前にAimeを失くしたことがあって番号を控えてなかったから仕方なく別のカードを作ってプレイしてたら失くした方の奴が見つかっただけだからな!!」

 

と、弁明した。

 

「じゃあそれなら安心にゃ!それでどうやって遊ぶの?」

 

「ああ、まずはここにAimeを置いてだな・・・。」

 

こうして幸雄の凛への戦国大戦講座が始まった。

 

 

 

 

 

「よし、だいぶ上手くなってきたな。」

 

「幸雄くんが教えてくれたおかげにゃ!」

 

幸雄による綿密な指導のおかげで凛は戦国大戦の大まかなルールや簡単なテクニックを大方マスターした。

 

「じゃあそういうわけで幸雄くんと勝負にゃ!!」

 

凛が幸雄を指さして宣戦布告するが、

 

「お前デッキ無いじゃん。」

 

とあっさり返された。

 

「そうだったにゃー!!」

 

「まあ今回の練習で何枚かカードは手に入ったが、勢力はバラバラだしデッキは作れないな。」

 

「カードがあればいいってわけじゃないの!?」

 

「そりゃそうだろ!さっきも言ったがデッキを組むには勢力とかコストとか色々気にせにゃならんのだよ。」

 

「うう、せっかく練習したのに・・・。」

 

そう言って凛が項垂れると、

 

「仕方ねえな。俺のデッキを一つ貸してやるよ。」

 

と幸雄は4枚のカードを差し出した。

 

「いいの!?」

 

「ああ、俺とか志郎はそれなりのベテランプレイヤーだから何個もデッキを組めるくらいカードは持ってんのよ。まあ、今あるのはこの小さなデッキケースに入ってる分だけだがね。」

 

幸雄は手の平より少し大きめのサイズのデッキケースをバッグの中から出しながら笑った。

 

「じゃあこの幸雄くんから借りたデッキで勝負にゃ!」

 

「おう、望むところだ!!」

 

 

 

 

「ふふふ、初心者にしてはなかなかやるじゃねえか凛。」

 

「幸雄くんの指導のおかげにゃ!」

 

凛が使うデッキは柴田勝家、織田信秀、森可成、羽柴秀長の4枚デッキで、勝家の『掛かれ柴田』という勝家を中心に陣形を展開しその中に入った味方と自分の武力を上げるが強制的に敵城の方に前進してしまう計略で制圧前進して攻めるデッキだ。

 

一方の幸雄は真田昌幸、真田幸村、真田信幸、山手殿の四枚による真田ファミリーデッキだった。

 

幸雄は臨機応変の策で凛を攻めるが、凛も初心者とは思えないテクニック(あと勝家や信秀の高い武力と強力な計略)で守り、戦況が膠着した状態で制限時間が半分過ぎた。戦場には凛の方の陣には4枚の武将が全員そろっていたが、幸雄の方は信幸が撤退させられて幸雄側の城内におり、数では不利な状態だった。凛はこれを見逃さなかった。

 

「よーし!これで勝負を決めるにゃ!!」

 

凛は勝家の『掛かれ柴田』を発動して幸雄の城に迫った。

 

「やってくれるぜ・・・。よし!幸村と昌幸で防戦、そして山手殿を二人の後ろに置いて砲撃で援護だ!!」

 

幸雄は昌幸と幸村を凛が操る勝家、可成、秀長にぶつけた。

 

「守る時間も与えないよ!」

 

「なに!?」

 

凛は家宝を使った。家宝とは試合で一回だけ使える強力な必殺技のようなもので武将に持たせるとその武将を強化したり、家宝を使う『奥義』では持ち主や味方、或いは敵に様々な効果を与える。効果は種類によって違うが凛が使ったのは、味方の武力(攻撃力と防御力)を4上げる刀、『童子切安綱』だった。

 

「くそ!ただでさえ『掛かれ柴田』で6も武力上がってるの更に4上げて+10かよ!容赦ねえな凛!!」

 

この時の戦場にいる武将の武力は勝家が19、信秀が18、可成が17、秀長が14の合計68、昌幸の7、幸村の10、山手殿の3の合計20と下手にぶつかれば幸雄の武将たちが蒸発しそうな勢いだった。

 

「よーし、このまま押し切るにゃー!!」

 

凛はそのまま昌幸たちを押しつぶすために勝家たちをさらに前に出す。幸雄は絶体絶命の状況だったが、

 

「・・・かかったな凛!」

 

そう言ってニヤリと笑うと幸雄は昌幸の計略、『宵闇の強襲』を使った。

 

『宵闇の強襲』とは、戦場にいる味方を一瞬で城内に入れ、その代わりに城内にいる味方を戦場の自陣中央付近に出現させて味方全員の武力と速度を上げる、まさに変幻自在の計略だ。

 

「にゃ!?武将が3人消えて信幸さんが出てきたにゃ!?しかも後ろから!!」

 

幸雄の陣に深入りした凛の武将たちは背後を突かれる形となった。

 

「でも信秀さんで倒しちゃうもんね!」

 

凛はそう言って信秀を信幸に差し向けようとするも、

 

「ほい奥義。」

 

幸雄が奥義を使った。幸雄が使ったのは兵法書『海国兵談』という、相手の統率(押し合いや計略の強さ)を4下げてさらに速度も下げる家宝だった。

 

「これで騎馬は役立たず、さらにいい感じに固まってくれてるじゃあないの・・・。」

 

幸雄はニヤリと笑う。

 

「悪いが全員まとめて焼かせてもらうぜ!!」

 

幸雄は信幸の計略『厳酷火烈』を使った。これは使った武将の目の前にいる武将にダメージを与えるもので、ダメージは使った武将と喰らった武将との統率力の差で決まってくるが、『厳酷火烈』は城内の見方が多いほどさらに威力が上がるものだった。

 

「にゃーーー!!!勝家さんたちが全員焼かれたにゃー!!」

 

勝家、信秀、秀長の統率力は4、可成は0に下げられ、信幸の統率力は9、そして城内には味方が3人いるので一撃必殺ともいえる威力になっていた。

 

「勝負あったな凛!」

 

幸雄は昌幸や幸村、山手殿を出撃させ、4人で総攻撃をかけて凛の城を落とし、見事対戦に勝利した。

 

「やっぱ幸雄くんは策士だにゃ~・・・。」

 

「まあ、俺もお前の総攻撃には本気でビビったがな。」

 

2人は互いに健闘を称えた。

 

 

 

 

 

「う~ん、今日は楽しかったにゃ~!!」

 

「楽しんでくれて何よりだな。」

 

「今度はかよちんと真姫ちゃんに志郎くんも誘ってみんなでやりたいにゃ!」

 

「ははは、それはそれで面白そうだな。」

 

ゲームセンターから出た2人は街を歩いていた。

 

「楽しそうだな、凛。」

 

幸雄は感慨深げに凛に話しかける。

 

「うん!だってこの前の凛の誕生日会も、ファッションショーもすごく楽しかったし最近楽しいことばっかりだもん!」

 

凛は満面の笑みでそれに応える。

 

「楽しめてるようで何よりだねえ。俺より人生を満喫してる感すらあるわ。」

 

「そうかな、幸雄くんもいつも楽しそうにゃ。」

 

「そうかね?まあ凛がそう言うならそうなんだろうな。」

 

「えへへ・・・。」

 

「あと、お前さんはあの日からさらにのびのびとしてるようにも見える。」

 

「え?凛はいっつものびのびとしてると思うにゃ。それにあの日って?」

 

「ファッションショーさ。あの日からお前さん、練習着や私服も随分女の子らしくなったよな。」

 

「そ、そんな事ないにゃ!これがいつも通りだよ!!」

 

凛は幸雄の言葉を否定してみせると、

 

「ふふ、そうやっていつも通りだと言うことが出来るくらい女の子らしい服を当たり前のように着ることが出来るようになったのは最高の成長だな。俺がもし真田昌幸の生まれ変わりではなくただの何の変哲もない少年だったら一目惚れするかもしれんくらいにな。」

 

幸雄は笑いながら答えた。

 

「えー、それってどういう意味にゃ!?」

 

「おいおい、俺と志郎はお前らの倍以上生きてるんだぜ?俺たちからしたらお前らはまだまだ子供にしか見えんわい。」

 

「えーひどいにゃ~!!」

 

お互いに軽口を言い合いながら歩いていると、

 

「あ。ご、ごめんなさい!」

 

凛がすれ違った通りすがりの男子とぶつかってしまった。

 

「いえ、こちらこそすいません・・・ってあれ?お前星空じゃね?」

 

「え・・・?」

 

凛とぶつかった男子は凛の顔を見るなり、馴れ馴れしそうに話しかけてきた。

 

「凛、こいつと知り合いか?」

 

「う、うん・・・。」

 

幸雄の問いに答える凛の声色はさっきよりも暗くなっており、表情も心なしか強張っていた。目ざとい幸雄はそれを見逃さなかったが、どうしてなのかまではわからなかった。

 

「久しぶりだな~。中学校卒業して以来じゃね?全然変わらないもんだな!」

 

「うん・・・。」

 

凛の表情が星空を雲が隠すようにみるみる曇っていく。

 

「にしても随分女子っぽい格好してるんだな~、まるで女装みたいじゃね!?あはは。」

 

冗談を言うように笑う男子に幸雄は、

 

「おいあんた!いい加減に・・・。」

 

と抗議しようとするが、

 

「・・・!」

 

「あ、凛!!」

 

男子の言葉に耐えられなかった凛はその場から走り去ってしまった。

 

「あれ?冗談のつもりだったんだけど怒らせちまったかな?あはは、小学生とか中学生の頃は普通に笑ってたんだけどな~。」

 

走り去っていく凛の背中を見て何事もなかったかのようにそう言って笑っていた。幸雄はそんな男子の様子に凛を追いかけることも忘れて思わず拳を握りしめた。

 

「あれ、あんた星空と一緒にいた人だよね?友達?それとも彼氏?まあ彼氏なんてありえないだろうけど、追っかけなくていいの?」

 

「・・・れ。」

 

「え?」

 

 

 

「黙れ小童ぁ!!!」

 

 

 

幸雄は叫んだ。普段なら滅多に声を荒げるような事はしない幸雄だったが、この時ばかりは我慢の限界だった。頭の回る幸雄は先程の男子と凛のやり取りを見て全てを察した。全てを察したからこそ怒りに任せてかつての、真田昌幸だった頃の幼馴染にしてライバルでもあった、とある男の口癖を無意識に借りて怒りをぶつけた。

 

「な、え…!?」

 

男子は面食らった。幸雄は垂れ目でいつも戯けた表情を浮かべてるため、こういう怒った時の姿が想像できないとよく周りの人物に言われており、この男子も例に漏れずそんな印象を幸雄に持っていただけあってその驚きは計り知れない。

 

そして幸雄は大声で自分たちの方に人々の視線が向いたことに構いもせずに男子のもとへずかずかと歩み寄り、その胸ぐらを乱暴に掴んだ。

 

「てめえな、さっきから黙って聞いてりゃあふざけたことばかりぬかしやがって・・・!『冗談のつもりだった』だ!?寝言は寝てからほざきやがれくそったれ!!」

 

「ふ、ふざけてたのはその通りだけどなんなんだよ一体!俺はただ昔のノリで星空に話しかけただけで・・・。」

 

いきなり幸雄に胸ぐらをつかまれた男子は振りほどこうとしながら反論するが、

 

「やかましい!俺はお前の言葉を聞いていた凛の顔と、てめえのあいつを小馬鹿にした物言いで、今の今まで知らなかった事が全て分かったぜ・・・。」

 

「だから何の話・・・!」

 

「あいつが・・・、凛が『あの日』まで女の子らしい格好をすることを拒んでたのは・・・!てめえらが『冗談のつもり』で凛に浴びせた『言霊』が元凶だったんだ!!!」

 

「言霊・・・?」

 

「ふん、言霊も知らねえのか。言霊ってのは日本に古来から言葉に宿ると信じられてきた『霊力』のことさ。もっとも霊力なんてものがホントにあるのかは知らねえが、言葉に『力』が宿ってることだけは確かな事だ。言葉は、相手に善意を持って使えば相手を元気づけることが出来るがその反対、つまり悪意を持って・・・いや、悪意なんてなくても何となく喋った言葉で人の心を傷つけることが出来ちまうんだ!!」

 

「・・・。」

 

「あいつは友達想いで真っ直ぐな心を持ってる純真な奴なんだ!だからこそてめえらが『冗談のつもり』で言った言葉を真に受けちまって、それが呪いとなってあいつの心に傷を与え、心を鎖で縛っちまったんだよ!!」

 

「そ、そんなの冗談を真に受けるあいつが悪くね・・・?」

 

男子がうっかり口を滑らせて呟いた言葉が、さらに幸雄の怒りを駆り立てた。

 

「貴様ァ・・・!!貴様はまだ自分たちがやったことの罪深さを感じないのか!!さっきも言ったがあいつは小学生の頃からつい最近、花陽と真姫達が背中を押してくれるまで貴様らの言葉が頭によぎって女の子らしい格好をしたくても出来なかったんだのだ!よく考えてみろ、あいつが花陽や真姫、μ'sのみんなに出会ってなかったらあいつは・・・、あいつは一生女の子らしい格好をしたくてもできない『呪い』を死ぬまで背負う羽目になってた可能性だってあったんだぞ!!」

 

そう叫ぶ幸雄の目にはうっすらと涙が浮かび、口調も真田昌幸だった頃のものに少しづつ戻っていた。

 

「貴様らが『冗談のつもり』で言ったことは人の人生そのものを狂わせかねんということを覚えておけ!」

 

幸雄はそう言って胸倉を掴んでいた手を離した。

 

「ふ、ふぅ・・・。」

 

解放された男子は安堵のため息をついた。すると幸雄はまた胸ぐらを掴んで目の前まで引き寄せ、

 

「それともう一つ言っておくぞ。俺は人を見る観察眼に長けていてな、貴様の顔は寸分違わず覚えさせてもらったぞ。いいか?もしまたあいつに会うことがあったとして同じことをもう一度ほざいてみろ・・・。貴様にこの世に生まれたことを後悔するような苦しみを死ぬまで味わわせてやるからな・・・!」

 

と、鷹のように鋭くなった『炯眼』で男子の目を真っ直ぐじっくりと睨み付けながら言い放ち、手を離した。すると男子は腰が抜けたのか地面にへたり込んで、

 

「ご、ごめんなさい・・・。二度としません・・・!」

 

と半泣きになって幸雄に謝った。

 

「ふん。言う相手が違うだろうが、クズめ。」

 

幸雄は軽蔑するような目で男子を一瞥し、凛を探すために彼女が走っていった方向へ走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・ぐすっ。」

 

幸雄が凛を探しに街を奔走してる時、その凛はとある公園のベンチに座っていた。走ってる時泣いていたのか目元が赤くなっていた。

 

(かよちんと真姫ちゃんはあの時「かわいいよ」って励ましてくれたけど、結局凛は何も変われてなかったのかな・・・。)

 

凛の頭の中で、花陽と真姫の笑顔とさっき浴びせられた言葉がせめぎ合っていた。

 

(やっぱり凛に女の子らしさなんて・・・!)

 

凛はそう思いながら髪につけてたヘアピンを無理やり外して地面に投げ捨てようとした瞬間、何者かが凛の腕を掴んだ。

 

「女たるもの、自分を着飾るアクセサリーを粗末に扱うもんじゃないぞ。ましてや友達に選んでもらったものなら猶更よ。」

 

幸雄だった。幸雄は静かに笑いながら優しく凛を諭す。

 

「幸雄くん・・・!だって、凛にはこんな格好似合わないって・・・。」

 

「おいおい、あの時俺が言った事を忘れたか?『そんな戯言を言う奴がいたら笑い飛ばしてやれ』って言ったのをよ。」

 

「忘れてなんかないにゃ・・・。でもあの時はかよちんと真姫ちゃんだけじゃなくって幸雄くんの励ましがあったから凛はあのドレスを着ることが出来たのを今でも覚えてるもん!ただ・・・。」

 

「ただ?」

 

「ただね、凛はまだ不安なんだ。凛はまだあの日みたいにかわいい姿でいてもいいのかなって、あれはほんの少しだけの夢だったんじゃないか・・・って。凛、あの日からずっと不安だったんだ。」

 

凛は先ほどよりは穏やかな表情ではあったが、幸雄に日々抱いていた不安を打ち明けた。

 

「不安・・・か。前から思っていたが、お前は本当に源次郎にそっくりだなあ。」

 

そんな凛の頭を優しく撫でながら幸雄はふと、息子だった男の名前を出した。

 

「源次郎?それって幸雄くんが昔の時代にいた頃の人だっけ?」

 

「ああ、何せ源次郎・・・真田信繁は俺の息子の一人だからな。ああ、幸村って言った方が通りはいいか。」

 

「凛はその源次郎さんにそっくりなの?」

 

凛は首を傾げて幸雄にたずねる。

 

「おうとも、あいつは今では『戦国最後の英雄』だの、『日の本一の兵』だの持て囃されているが、俺の知る源次郎はお前さんのように活発でありながら、不安と戦いながら生きてきた男だからな。」

 

「凛と・・・一緒?」

 

「一緒だとも。今のお前さんの姿がぴったり重なるくらいにはな!」

 

「源次郎さんは、何を悩んでたの?」

 

「ああ、あいつは幼いころと俺が死ぬ前に2人きりになるとこぼしておったのだ。『俺はこの世に生きた証を残せたのかな…?』ってな。」

 

「この世に生きた証?」

 

「そうだ。あいつは活発にして利発であったが、俺の後継者として表舞台に立つことの多かった源三郎・・・信之とは違って表舞台に立つことはほとんどなかったのだ。」

 

「どうしてそれが不安だったの?」

 

「そりゃあ俺たち武士にとっては活躍して名を上げることこそが最高の名誉だからな。源次郎は人質だったり秀吉の馬廻だったりと日の当たらないところにいることが多かったからな。それが悔しかったのだろう。」

 

「幸雄くんは源次郎さんを励ましてあげたの?」

 

「ああ、今でも覚えてるとも。『わしは父から受け継いだ真田の『知略』を天下に知らしめ、源三郎は真田の『血』と『名』を守った。次は源次郎、お主の番よ。お主はこれより大坂で繰り広げられるであろう戦で真田の『武勇』と『生き様』を人々の心に刻み付けよ。』ってな。そしたらあいつめ、あの糞だぬきの家康めを自害させようとするまで追いつめおったというではないか!この世に生まれ変わってそれを知った時は我が息子のことながら鼻が高くなったもんよ!」

 

と幸雄は自慢げに話した。

 

「ねえ幸雄くん。凛も源次郎さんみたいに輝けるかな・・・。」

 

凛はおずおずと幸雄にたずねた。

 

「ああ、輝けるとも。お前はきっと誰よりもかわいい女の子として輝けるだろう。」

 

「ほんと!?凛、かよちんや真姫ちゃんにμ'sのみんなや志郎くんだけじゃなくて、幸雄くんのその言葉も信じていいの・・・?」

 

幸雄が凛の言葉に応えると、凛はさらに念を押す。

 

「ああ、もちろんだとも。仮に俺の言葉が信じられずとも、この俺の眼を信じればよい!」

 

幸雄は右手の指でピースを作ると、その指先で下から自分の両目を指し示した。

 

「幸雄くんの・・・眼?」

 

「おうとも、俺のこの眼はかの乱世の英雄が一人、武田信玄公から『我が両目のようだ』とお褒めに預かり、信玄公や勝頼さま亡き後も『信玄の炯眼』と恐れられた代物よ!そんな目の持ち主である俺がお前さんをここまで評価するんだからそれこそ間違いはあるまいて。」

 

と言って幸雄はにかっと笑った。

 

「うん!だから凛ね、もうくよくよするのはやめるにゃ!!」

 

凛もまた輝かしい笑顔でそう答えた。

 

「ふっ、ようやっといつもの凛に戻ったな!その底抜けに明るい笑顔こそお前がお前たりうる一番の証よ。」

 

「どういう意味にゃ?」

 

幸雄の言葉の真意が読めず、凛は首を傾げた。

 

「お前の名前だよ。お前がそうやって明るく笑ってるのを見てるとな、まるで『星空』に『凛』と輝く一等星のように思えてくるのさ。」

 

「一等星ってなあに?」

 

「一等星っていうのは光る星の中でも最も明るく輝くものを指す言葉よ。きっとお前さんの母親は凛がそんな一等星のように輝いてほしいと願って名付けたんだろうよ。」

 

「そっか・・・。じゃあ凛は誰よりもかわいくて誰よりも輝く一等星になってみせるにゃ~~!!」

 

凛は公園の中心で宣言するように大きく叫んだ。

 

(いい顔をするなあ・・・。あの何もかも吹っ切った爽やかな笑顔も源次郎にそっくりだのぉ・・・。ただ一つ違いを挙げるとするならば、源次郎の顔には死相が浮かんでおったが凛にはそれがない。滅びゆく者の笑顔ではなく、輝かしい未来へと歩もうとする笑顔だ。それがここまで見てて気持ちいいものだとはな・・・。)

 

幸雄はそんなことを考えながら凛の楽しそうな笑顔を見ていた。

 

 

『ぐううう~~・・・。』

 

 

すると突然気の抜けた音が鳴り響いた。

 

「えへへ・・・。たくさん遊んで走って、今こうして叫んだらお腹がすいちゃった。」

 

「ははは、俺もよ。いつの間にか日も沈んどるしな。」

 

2人は腹の虫が鳴いたのを笑った。

 

「お腹すいたから晩御飯にラーメン食べに行くにゃ~!」

 

「おいおい、昼夜続けてラーメンは流石にきついぜ。それに親御さんが夕飯作って待ってるんじゃねえか?」

 

「それもそっか。じゃあ幸雄くんも凛の家で食べてく?」

 

「いいのか?いきなり邪魔しても。」

 

「凛のママならきっと幸雄くんも歓迎してくれるにゃ!ってことで凛のうちに急ぐにゃ~!!」

 

そう言って凛は幸雄の手を引いて走り出した。

 

「おいちょっ待てって!」

 

幸雄は制止しようとするも、

 

(いや、たまにはこういうのも悪くないかもしれんなあ・・・。そうだろ?源次郎・・・。)

 

そう思い直してそのまま凛に手を引かれながら走っていった。

 

 

 

陽が沈み、暗く染まる秋が深まる東京の夜空。いつもなら真夜中まで消えない街の明かりに隠れて見えない星の光だが、今日は先輩と後輩であり、味方を変えれば親子のようにも見える少年と少女を見守るように、一つの星が凛と輝いていた。




いかがでしたでしょうか?


今回は大遅刻という事で丁寧に丁寧に書いてたら10000字を超えちゃいましたw

作中で幸雄と凛が遊んでいた『戦国大戦』というゲームは来年の2月28日に稼働終了になってしまいますが、まだ残ってるゲーセンもあるので興味があったら是非触れてみてください。動画サイトにもたくさんの対戦動画が投稿されてますのでゲームが無くても見るだけですが楽しめます。ちなみに作者はまだまだ現役です!(弱いけど)

あと、今回は幸雄について多少掘り下げるためと、真田丸ロスを患ってたために真田丸要素をふんだんに盛り込んでしまいましたが、この作品に出てきた真田昌幸(幸雄)と源次郎(真田信繁)は、あくまでも作者の解釈や史実、そして数多の創作物を基に生まれたキャラで、真田丸のものとは関係を持たないものとここに明言します。


あと、私事ですが、UAが9000を突破し、前回の更新を行なった次の朝になったらなんと総合評価が100を超え、評価が色付きになってて驚きました。まだまだ他の人気作には遠く及びませんが、たくさんの読者さんに愛される作品になることが出来て本当にうれしいです!

今年の更新はこれで終了となりますが、来年もまたコツコツと更新を続けていきたいと思います!詳しくは活動報告を投稿しますのでそれを読んでください!

感想や意見があったらどしどしじゃんじゃん書いていってください!!皆さんの感想が作者のモチベーションに繋がりますので、勝手なお願いではありますがよろしくお願いします!!

それでは次回もまたお楽しみください!!

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