ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、左京大夫です。

皆さんお久しぶりです。諸事情によりしばらく活動を休止していましたが、顔を出させてもらいました。

今回は諸事情で祝えなかった絵里ちゃんの誕生日記念の短編です!凛ちゃんの分も年内には書きますので・・・!


しばらく見ないうちに8000UA突破しました!!皆さん休止中も見てくださって本当にありがとうございます…!!


それではどうぞお楽しみください!!


番外編 不器用者たちの残映

木の葉が赤や黄に染まる秋の夕方、志郎は図書室に来ていた。

 

「さて、次は何を読もうか。」

 

志郎はそう呟いて図書館の中をふらついていると、金髪のポニーテールの少女が読み終わったと思われる本を本棚に戻しているのを見つけた。

 

「よお。珍しいな、こんなとこにいるとは。」

 

「あら、志郎じゃない。あなたこそ図書室にいるなんて珍しいわね。」

 

志郎の軽口を軽口で返した少女の名は絢瀬絵里。この音ノ木坂学院の『元』生徒会長である。元、というのは既に生徒会長の座を穂乃果に譲り渡して引退してるからである。

 

「ほら、私今まで生徒会長としての仕事ばかりしてたからあまりこうしてゆっくり学校の中を回ることなんてなかったから。」

 

「なるほど、それで図書室で本を読んでいたというわけか。」

 

「それで志郎は何をしに来たのかしら?」

 

「俺は新しく本を借りに来ただけさ。とはいえ図書室の本は割とたくさん読んだから目ぼしいものは特に無いんだけどな。」

 

志郎は頭を掻きながらそう言った。

 

「でも意外ね。志郎ってあまり本とか読まないタイプだと思ってたわ。」

 

「それ他の連中にも散々言われてきたが、俺は何も脳筋ってわけじゃないんだ。『昔』だって父上に倣って書物を読み耽る事だってあったんだからな。」

 

「志郎はどんなものを読むの?」

 

「歴史の本や小説なんかを読むが、やはり今も昔も気に入ってるのは『孫氏』だな。」

 

志郎がカバンの中から取り出したのは文庫本サイズの、孫子の兵法を分かりやすくまとめたものだった。

 

「へえ、昔も読んでたの?」

 

「ああ、なにせ孫子は父上…信玄公が愛読していたものだからな。かつて父を超えんとした俺は穴が開くほど読んだものさ。たかが古い時代の兵法と侮るなよ?意外と現代でも通用することばかりだからな。」

 

志郎は誇らしげな顔をしながら絵里に孫子のすごさを語る。

 

「志郎は信玄さんの事を心から尊敬してたのね。」

 

「ああ、だからこそその背に憧れ、越えようと足掻いたのさ。さて、話をするなら外でしよう。あまり人はいないが怒られてしまいそうだ。」

 

「そうね、そうしましょうか。」

 

そう言って志郎と絵里は図書室から出た。

 

 

 

二人は廊下を歩いていたが、突然絵里が足を止めた。

 

「どうしたんだ、忘れ物か?」

 

志郎がたずねると絵里は首を横に振った。

 

「そうじゃないわ。覚えてない?この教室で私は志郎に一歩を踏み出す勇気をもらったのよ。」

 

絵里はその時のことを思い出しながら語る。

 

「ああ、あの時か。あれしか最善策が無かったとはいえ、今思い出してみるとめちゃくちゃ恥ずかしいな。」

 

志郎もその時の事を思い出して赤面する。

 

「そんな事ないわ。私は志郎のあの言葉と、穂乃果が差し伸べてくれた手に救われたんだもの。」

 

「穂乃果はともかく、俺はお前の背中を少しだけ押しただけだ。そこまで褒められるような事はしてない。」

 

「もう、志郎も割と素直じゃないわよね。そういうのは素直に受け取っておくものなんだからね。」

 

「そういうものなのか?」

 

「そういうものなのよ。」

 

そう言うと二人はそのやりとりが可笑しかったのか、互いに笑いはじめた。

 

そしてひとしきり笑ったあと、絵里がまた話を切り出した。

 

「私ね、あの時からずっと志郎の事が気になってたのよね。」

 

「気になっていた・・・というのはどう意味でだ?」

 

志郎が首を傾げて絵里にたずねると、絵里は顔を真っ赤にしながら首を横に振り、

 

「べ、別にそういう意味で言ったわけじゃないのよ!?」

 

と、否定してみせた。

 

「志郎があの時私の心を開いてくれた時、自分が私とそっくりだって言ったでしょ?そうやって自分の事を話す時の志郎の目がすごく寂しそうな感じで、私が志郎の胸で泣いた時もお父さんの胸に抱かれたような感じがしたの。なんていうか、その時は高校生とは思えないぐらい大人びて見えた気がしたのよ。」

 

「・・・。」

 

「志郎はあの時私が『あなたは何者なのか』ってたずねた時にはぐらかしてたけど、私はずっと志郎はひょっとしたら普通の人じゃないかもって思ってたの、もちろんいい意味でね。そしてこの前、志郎と幸雄が正体を私たちに打ち明けてくれた時にあなたが一度人生を経験した人だって知ったらなんか不思議と納得できちゃった。」

 

「そうだったのか。あの時は上手く誤魔化せたと思ったんだが、意外と長く尾を引いていたようだな。」

 

「そりゃそうよ。あんな誤魔化し方されたら余計気になっちゃうじゃない!でもそれを見て『これはあまり聞かない方がいいかな』って思ったから全く聞かなかったのよ。」

 

「ははは、それは感謝せねばならんな。」

 

わざとらしく頬を膨らませてみせる絵里に対して志郎は笑いながら答えた。

 

「それでね、私あなたの正体を知った時からずっと昔の志郎、武田勝頼さんについて調べてたの。」

 

そう言って絵里は鞄から一冊の本を取り出した。それは勝頼に関することが書かれたものだった。もちろん志郎もその本には目を通していた。

 

「ほう、しかしよくまあ見つけたもんだな。神保町にでも行って来たのか?」

 

「ええ、結構探すのには苦労したわね。図書室においてあるかなーって思ったら置いてないんだもの!」

 

「伝統校とはいえ俺みたいなマイナー武将個人の本なんぞそうそう置いてないだろ。」

 

「そうかしら?志郎は教科書に名前載ってるからマイナーじゃないと思うわ。」

 

絵里は志郎の言葉に首をかしげる。

 

「教科書に載ってるっつっても信長のやられ役じゃねえか。しかも書き方的に時代遅れ呼ばわりされてる気がするし・・・。それにそんな教科書の1ページだけに載ってる奴のこと憶えてるなんてよっぽどの物好きだろ。」

 

志郎は自嘲するように言った。

 

「そんなことより、見つけたはいいけど読むのにも苦労したわね。知らない言葉ばっかりでもう一冊戦国時代の基礎的な知識が分かりやすく書かれてる物まで買っちゃったわ。」

 

「そりゃあ、こいつは全くの初心者が手を出す部類の本じゃないからな。でもその様子だと最後まで読破できたんだろ?頑張った方じゃないか。」

 

「ええ、ほんとすごい大変だったんだからね!でも、そのおかげで昔の志郎のいろんな一面を見れたような気がするわ。」

 

そう答える絵里の顔は晴れやかなものだった。

 

「ほう、それでは現代に生きる者から見た俺の・・・勝頼の姿とは如何なるものか聞こうじゃないか。」

 

「私から見た武田勝頼、ねえ・・・。まず印象的だったのは肖像画かしら。奥さんとお子さんと一緒に写ってるやつ。」

 

「あれか、確か高野山に預けた物だったか・・・。懐かしいものだ。」

 

「家族三人で写ってる物って凄く珍しいって書いてあったんだけどどうして志郎はこんな風に描かせたの?」

 

「前にも話したが俺は母上を幼いころに失い、父上からは武田家の者としては扱われなかった・・・。俺を家族として扱ってくれたのは義信兄上と弟と妹達だけだったのだ。そして信勝を産んだ最初の妻も信勝を産んですぐに亡くなってしまった。乳母はいたものの、母の温もりを知らずに育った信勝が不憫でな・・・。」

 

「確かにお母さんの温もりを知らないのは少し可哀そうよね。」

 

「そう思ってたところに北条との縁談の話が転がり込んできてな、これを機に信勝にも母の温もりを!って思っておったのだが、氏政の妹が信勝と3歳しか年が違わなかったのが少しばかり誤算だったな。まさか俺も自分の娘のような嫁を娶るとは思わなかったし、信勝も姉のような継母が出来るなど夢にも思わなかったな。」

 

志郎はそう言うとその時のことを思い出して笑い始めた。

 

「でも仲は良かったんじゃないの?」

 

「最初っからそうというわけではなかったさ。こっちもどう接していいか分からなくて幸雄・・・昌幸や釣閑斎、勝資に愚痴ったこともあったな。信勝の方も割と戸惑ってたしな。」

 

「意外ね・・・。どうやって仲良くなったのかしら?」

 

「三人で諏訪に行った。」

 

「諏訪?」

 

「そう、母上の故郷にして俺が幼いころから過ごしてきた場所だ。諏訪大社にお参りに行ったし、諏訪湖を三人で見たり、父上が見つけた温泉にも湯治に行ったものだ。」

 

「ハラショー!戦国武将でも家族旅行に行くのね。」

 

「だが最後の湯治の時には領民達が直訴に来てな、あまりゆっくりはできなかったがな。」

 

「本を読んだ時から思ってたけどどうして志郎は断らなかったの?」

 

「桂の兄である氏政の言葉を借りるならば国は民があってこそ、だからな。例え湯治中であろうとも民の求めに応じるのが主君というものなのさ。」

 

「へえ、この本を読んで思ったけどやっぱりこうして話を聞いてみると印象が変わって来るわね。」

 

「・・・だいたい予想はつくが今までの武田勝頼に対するお前の印象はどんな感じだったんだ?」

 

「そうねぇ・・・。あなたのことを調べるまでは志郎や幸雄から聞いた『強いけど猪突猛進で周りが見えなくなりがちな人』とか不器用な人ってイメージだったわ。」

 

「まあ、そんなものか・・・はは。」

 

絵里の言葉を聞いて志郎は自嘲気味に笑う。

 

「でもね、あなたのことを調べてみるとあの時志郎が私に言ってくれた言葉の1つ1つがすごく重みというか…、さらに深みを感じるようになったの。」

 

「深み、だと?」

 

「ええ。志郎のかつての生涯を辿ってみると私なんかとは比べ物にならないくらい重いものを背負っていて、でもそれに負けないように精一杯頑張る志郎の姿がすごく立派なものに見えたの。」

 

「立派か・・・。お世辞でもそう言ってもらえるなら嬉しいものだな。」

 

「お世辞じゃないわよ!心の底からの感想よ。」

 

「だが俺はお前とは違って、穂乃果のように手を差し伸べてくれる存在も、希のように寄り添って支えてくれる存在はいなかった・・・。強いて言うなら桂や信勝くらいか・・・。」

 

「あら、幸雄は違うの?」

 

「あいつとはそういう関係では無かったからな。どちらかというと戦友と言った方がしっくり来るな。」

 

「そうなんだ。でも志郎には他にもそばにいてくれた人がいるじゃない!長坂釣閑斎さんとか跡部勝資さんっていう人とか天目山に付いて来てくれた人達が!」

 

「・・・本当によく調べたもんだな。普通女子高生の口から釣閑斎や勝資の名前なんて出てこないぞ・・・。」

 

志郎は絵里の知識に舌を巻いた。

 

「そりゃ志郎の周りの人のことも調べたからね!そういえばこの2人は奸臣って言われてるけど実際はどうだったの?」

 

絵里は志郎に志郎の側近であった長坂釣閑斎と跡部勝資のことをたずねた。

 

「確かに俺はあの2人を重用することが多かったが、それは俺が諏訪にいた頃から付いて来てくれたのと俺の期待に応える働きぶりを見せてくれたからだ。それに本当に奸臣であったならば木曾義昌や穴山梅雪のように寝返ってるか新府城を捨てる前に何処ぞに姿を消していたさ。だけどあの2人は最後まで俺に付いてきてくれた。これを奸臣と呼ぶことなんぞできまい・・・。」

 

志郎は夕陽に染まる空を見上げながら2人の側近について語った。

 

「ふふふ。」

 

絵里はそんな志郎の様子を見て微笑む。

 

「どうしたんだよ絵里、何がおかしい?」

 

「ううん。おかしくなんかないわ。ただ、家族以外にも志郎の側にいてくれた大切な人たちがいたんだな・・・って思っただけ。」

 

「ああ、俺もこの時代に生まれて思い返してみれば俺の側にいてくれた者たちが家族以外にも結構いたもんだと思ったよ。四名臣に信豊、幸雄の兄たち、そして天目山まで共に付いて来てくれた忠臣たち・・・。俺にはもったいないくらいだ。」

 

「そんなことはないわよ。きっとその人たちも志郎の頑張る姿を知ってるからこそ一緒に戦ってくれたんだと思うわ。」

 

「・・・ありがとう。」

 

「どういたしまして♪」

 

志郎が絵里に礼を言うと、絵里はウインクをしながらそれに応えた。

 

「・・・。」

 

志郎はそんな無邪気に笑う絵里の姿を温かい目で見ていた。

 

「ん?どうしたのよ志郎、そんな顔しちゃって。私に何かついてる?」

 

「いや、本当に変わったなと思ってな。」

 

「なによ急に・・・。」

 

「俺がこの学校に入った時には昔の俺のように強迫観念に駆られ、前に前に進もうともがいていたあの絢瀬絵里がこんなにも無邪気に笑ってこんな与太話に興じるなどと誰も予想できなかっただろうな、って思っただけさ。」

 

「そうね・・・。確かにあの頃の私のままだったらこんなことは出来なかったかもね。そういう意味でもあなたと出会えて本当に良かったって思ってる・・・。ありがとう、『人生の先輩』さん!」

 

「ははは、年上に先輩って言われるのはなんかこそばゆいな。」

 

「あら、体は年下でも中身は年上じゃない。」

 

「それもそうだな。」

 

「ふふっ。」

 

「はははは・・・。」

 

2人は笑いながらまた歩き出した。

 

 

 

 

 

「お姉ちゃ~ん!」

 

しばらく歩いていると前の方から中学生の少女が絵里に向かって走って来た。

 

「あら亜里沙、亜里沙も帰り?」

 

「うん!あ、志郎さんこんにちわ!」

 

「ああ、こんにちわ。」

 

志郎も亜里沙に挨拶を返す。

 

「じゃあ俺はこの辺でお暇させてもらうよ。」

 

志郎が別方向に歩き出そうとすると、

 

「あら、志郎は一緒じゃないの?」

 

と絵里がたずねた。

 

「姉妹水入らずの時間を邪魔するほど野暮じゃないさ。」

 

そう言って志郎はそのまま振り返らずに手を振りながら歩き出す。

 

「じゃあ、また明日ね!」

 

「志郎さんさようならー!」

 

「ああ、また明日。」

 

そうして絢瀬姉妹と志郎はそれぞれ帰り路を歩いていった。

 

 

ヴー!ヴー!

 

 

「なんだ?」

 

志郎のポケットに入っていたスマホが鳴ったので見てみるとメールが一通来ていた。

 

「穂乃果から?なになに・・・。」

 

『さっき希ちゃんに教えてもらったんだけど、明日は絵里ちゃんの誕生日なんだって!お祝いしたいからみんなプレゼントを用意しといてね!あ、もちろん絵里ちゃんには内緒だよ!』

 

内容はこのようなものだった。

 

「やれやれ、またあいつの突拍子もない思いつきか。やるならもっと早くに言ってくれよ、もう夕方じゃねえか。」

 

志郎はため息をついてそう言うが、その顔はどこか嬉しそうだった。

 

「仕方ねえ、絵里のプレゼントでも買いに行くとするか!」

 

 

 

志郎は踵を返して家ではなく街へと向かっていった。先輩でありながら後輩でもあるという、志郎にとって不思議な関係を持つ絵里の誕生日プレゼントを買うために。




いかがでしたでしょうか?


久しぶりに書いたもんですからキャラが崩壊したりしてないでしょうか?

志郎と絵里は『先輩であり後輩でもある』という不思議な関係だよな、と思ったので今回のような話になった次第でございます。

希とにこは違うのかって?確かに彼女たちもそうと言えるんですが、やはりそう言い現わすのにふさわしいのは絵里ちゃんだろうなと、作者は思ってます。


さて、次回は大遅刻第2弾!凛ちゃんの誕生日記念の短編を『年内』に更新しようと思ってますので、気長に待っていただけると幸いです!



それでは次回もまたお楽しみください!!

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