またまた期間が開いてしまいましたが最新話更新です!!
それではどうぞお楽しみください!!
志郎と穂乃果が仲直りした日の翌日、遂にことりが留学に旅立つ日がやって来た。
「みんなにさよなら言わなくていいの?」
「うん、会うと私きっとまた泣いちゃうから。」
「・・・そう。」
その日の朝、空港に向かうための都内某駅では理事長が娘であることりを見送りにやって来ていた。
「お母さんもここで大丈夫だよ。着いたらすぐ連絡するね。」
ことりがそう言って乗り換えの改札に向かおうとした時、
「ことり!」
理事長がことりを呼び止めた。
「身体に気をつけてね。」
「・・・うん!」
ことりは母の自分を案ずる言葉に、母を心配させないように笑顔で頷くも目頭が熱くなり、それを振り払うように速足で歩いて行った。
そしてそれと時を同じくして、学院では―――
「海未。」
「志郎?」
講堂の扉の前で志郎と海未の2人が鉢合わせしていた。
「もしかして、あなたも呼ばれていたのですか?」
「あなたも・・・って事は海未も穂乃果に呼ばれたのだな。」
海未の問いに志郎が答える。どうやら2人は穂乃果に講堂に来るように呼び出されていたらしい。
「昨日の夜にいきなり『明日の朝、講堂に来て!』と電話で言われた時は一体何ごとなのかと思いました。」
海未は呆れ半分、嬉しさ半分といったような表情でそう言うと、
「俺もさ。きっと俺たちに・・・いや、お前に伝えたい事があるのだろうよ。」
志郎もその時の海未と穂乃果の様子を想像しながら微笑する。
「では行こうか。」
「はい。」
そして2人は講堂の扉を開いた。講堂に足を踏み入れた2人がステージの方に目を向けると、ステージの上には穂乃果の姿があった。
「ごめんね、急に呼び出したりして。」
「いえ。」
「別にいいさ。」
「ことりちゃんは?」
志郎と海未の返事を聞いた後、穂乃果は2人にことりの事をたずねた。
「今日、日本を発つそうです。」
「そうなんだ・・・。」
ことりが今日日本を発つ、それを聞いた穂乃果の表情は寂しげであった。
「穂乃果・・・。」
「私ね、ここでファーストライブやってことりちゃんと海未ちゃんと歌った時に思った。もっと歌いたいって、もっとスクールアイドルやっていたいって!」
穂乃果はかつて徹底的な敗北からスタートしたファーストライブで歌った時に抱いた想いを語り始めた。
「辞めるって言ったけど、気持ちは変わらなかった。学校の為とか、ラブライブの為とかじゃなく、私好きなの!歌うのが!!」
そして自分がこれまでの活動を通して抱き続けていたスクールアイドルへの想いを海未と志郎へ吐露する。
「それだけは譲れない。だから・・・、ごめんなさい!!」
穂乃果はステージの上で海未と志郎に向けて頭を下げた。
「これからもきっと迷惑かける、夢中になって誰かが悩んでるのに気づかなかったり、入れ込みすぎて空回りすると思う!だって私不器用だもん!でも、追いかけていたいの!!わがままなの分かってるけど、私・・・!」
そして穂乃果は自分が不器用で誰かに迷惑をかけ続けるかもしれないが、それでも夢を追いかけていきたいという自分の偽りのない気持ちを2人にぶつけた。
「―――ぷっ、ふふふ・・・!」
「ふっ、ははは・・・!」
すると突然海未が噴き出して笑い出し、志郎もまたそれにつられる様に笑い始めた。
「え?海未ちゃん!志郎くん!なんで笑うの!?私真剣なのに!」
2人のそんな様子に穂乃果は納得いかないと言わんばかりに抗議する。
「ごめんなさい、でもね・・・。」
海未はそう言って笑いを止め、
「はっきり言いますが・・・。」
と穂乃果に話を切り出そうとすると、穂乃果は海未からどんな手厳しい言葉を受けるのだろうと身構えて真剣な面持ちになるも、
「穂乃果には昔からずっと迷惑をかけられっぱなしですよ。」
という真剣な表情から一転して満面の笑みで言い放たれた海未の言葉に、
「えっ!?」
と拍子抜けした様子で声を漏らした。海未はそんな様子の穂乃果もお構いなしと言わんばかりに階段を下りながら話を続ける。
「ことりとよく話していました。穂乃果と一緒にいるといつも大変なことになると。」
「確かに、幼馴染みなだけあってずっと振り回されてきたんだろうな。お前たちとの付き合いが短い俺でさえも難儀なもんだと思うくらいだしな。」
志郎もまた海未に続いて階段を下りながら話に混ざった。
「志郎の言う通りです。どんなに止めても夢中になったら何にも聞こえてなくって・・・。だいたいスクールアイドルだってそうです。私は本気で嫌だったんですよ?」
「海未ちゃん・・・。」
「どうにかして辞めようと思いました。穂乃果を恨んだりもしましたよ。全然気付いてなかったでしょうけど。」
「ごめん・・・。」
穂乃果は海未が穂乃果に半ば無理やり誘われる形でスクールアイドルになった時の恨み言を言われ、謝った。
「ですが、穂乃果は連れてってくれるんです。私やことりでは勇気が無くて行けないような素晴らしいところに・・・!」
「海未ちゃん・・・。」
ステージの上にいる穂乃果を見上げながら、笑顔で語る海未の言葉に心の底から温かい何かが湧き上がってくるのを感じた。
「私が怒ったのは穂乃果がことりの気持ちに気付かなかったからじゃなく、穂乃果が自分の気持ちに嘘をついているのが分かったからです。」
「その通り。俺だって、あの時お前が自分の気持ちに嘘をつき、μ'sのみんなやお前自身が抱いた夢を捨てようとしていたから本気で怒ったんだぞ?」
海未と志郎はそれぞれ穂乃果に向けて抱いた怒りの真意を彼女に教えた。
「穂乃果に振り回されるのはもう慣れっこなんです!だからその代わりに連れてってください!私たちの知らない世界に!」
「俺もまたこの時代に生まれてお前たちと出会い、武田勝頼として生きた37年の人生と、この学校に来るまで歩んできた17年、合わせて54年にわたって知る事の無かった世界を知った!」
海未が穂乃果に想いを伝えた後、志郎もまた穂乃果への想いを語り始めた。
「どうか、俺や幸雄にもその世界を見せて欲しい!願わくばお前たちが歩む夢の道を共に歩み、その果てに映る景色を共に眺めさせて欲しい!!」
それは渇望であった。かつての自分では歩むどころかスタートラインに立つことすらできなかった夢への道、その道を歩みたいという志郎の心からの願いであった。
「それが穂乃果の凄いところなんです!私やことりやμ'sのみんなだけでなく、私たちよりもはるか昔の時代を生きて来た志郎や幸雄でさえそう思っている、あなただけが持っている最高のとりえなんですから!!」
海未は穂乃果にそう言うと、ステージの上に上がり穂乃果の横に並び立った。
「だって可能性感じたんだ そうだ・・・ススメ」
海未が歌いだすとそれに続くように、
「後悔したくない 目の前に」
と穂乃果も歌いだし、
「僕らの道がある」
時を同じくして空港の入り口に立つことりもまた奇しくも同じ歌を口ずさんでいた。
「さぁ、ことりが待ってます!迎えに行ってきてください!!」
「えぇ!?でもことりちゃんは・・・!」
予想もしなかった海未の言葉に穂乃果は戸惑うが、
「私と一緒ですよ。ことりも引っ張って行って欲しいんです!わがまま言ってもらいたいんです!」
そんなのお構いなしと言わんばかりに海未は昨日ことりと話して気づいた彼女が隠していた気持ちを穂乃果に代弁した。
「わがままぁ!?」
「その通り。海外でも名の通ったデザイナーに見込まれたのにそれを突っぱねて残れなどと、そんなわがままを言えるのはお前しかおらんよ!」
いつの間にかステージの上に上がり穂乃果の横に立っていた志郎が穂乃果の肩を叩いた。
「志郎くんまで・・・。」
穂乃果はいつもなら自分が言うはずの無茶を言ってくる海未と志郎に苦笑いするも、覚悟を決めたのか自分の頬を両手でぴしゃりと叩き、
「分かった!じゃあ行ってくるよ、ことりちゃんの所に!!」
と言ってステージから飛び降り、そのまま一目散に階段を駆け上がって講堂から出て行った。
そして校門を飛び出して駆けてゆく彼女の表情には一抹の曇りも無かった。
「まったく忙しないものだ。」
「まるで風のようでしたね。」
穂乃果を見送った志郎と海未はステージの上に立ったまま語らっていた。
「さて、では俺たちはライブの準備でもするか。」
そう言ってステージの裏方へ行こうとする志郎だったが、
「ライブの準備で思い出したのですが、そう言えば幸雄はどうしたんですか?」
と言う海未の言葉に足をピタリと止めた。
「いつもなら俺と幸雄はだいたい行動を共にしているが、今日ばかりはあいつにはこの計画の別動隊として動いてもらっている・・・いや、今回に限っては寧ろ穂乃果に呼ばれ、海未と共にあいつを動かした俺が別動隊で、幸雄自身が本隊だというべきかな。」
「どういう事ですか?」
志郎の意味深な物言いに海未は怪訝な表情で志郎に問いを投げかける。
「幸雄は昨日までに俺たちに様々な策を授け、動かしてきただろう?言ってしまえば全てが今日この時のための布石だったのだ。そして幸雄は今日、それら全てを利用しこの『μ's復活計画』の王手を掛けるために自ら動き出した。」
「まさかとは思いますが、幸雄が今いるのは・・・!」
「ああ。幸雄は空港にいるだろうな。そして今この時、間違いなくことりと接触しているだろう。」
志郎の言葉を聞いた海未が走り出そうとするが、志郎が左腕で彼女を遮り制止した。
「なぜ止めるのですか?」
海未は眉間にしわを寄せて志郎を睨み付けるも志郎はそれに気圧されることなく、平然とした様子で、
「今さら行ったところでどうにもならん。今は穂乃果と幸雄を信じ、3人が戻ってくるのを待つべきだ。」
と海未に待つように促した。
「志郎の前でこんな事を言うのは憚られますが、私は彼の事を信じる事ができません。いつも軽薄で、何があっても訳知り顔で高みの見物を決め込み、人の想いを逆撫でるかのように先を見据え、その想いすら利用する・・・。そんな彼を私は信用できません・・・!」
正直なところ、海未は最初から幸雄に対してあまり良い印象は抱いてなかった。だがそれはあくまでも彼の軽薄な性格から来るものであり、実際に志郎と共にμ'sの為に尽力していることを知っている以上、嫌悪感を抱くという所までに行くことはなかった。
だが、この一連の騒動で穂乃果がスクールアイドルを辞めると言い出した時には他人事のような様子だった上に、今日までの数日間においては穂乃果以外のメンバーの行動をすべて利用しているかのような動きや物言いを見せていた事で、彼女の幸雄への不信感は行きつく所まで高まっていた。
そんな幸雄がことりと接触しているという事を聞いて、彼が大事な幼馴染みであることりに何をしでかすかという不安と、そんな事は絶対にさせないという使命感を海未は抱いていたのだ。
「なるほど。確かにお前があいつを信用できないという気持ちは分からんでもないな。」
「え・・・?」
幸雄に全面的な信頼を置いているであろう志郎の口から出てきた言葉に海未は思わず困惑した。
「確かに俺とて時々あいつに不信感を抱くことはある。現に岩櫃城に俺を誘ったのだってひょっとすれば俺の首を北条に渡して生き残りを図ろうとした策なのかもしれないという思いがわずかによぎった事もあるくらいだからな。」
志郎はかつて武田家滅亡の折に新府城から真田昌幸と小山田信茂からそれぞれ自分の居城に来るように誘われた時の事を挙げて幸雄に対する想いを語り始めた。
「それなのに、なぜ志郎は幸雄を信じられるのですか?」
「あいつは確かに信用できない所もあるが、俺の期待に期待以上の結果で応えてきてくれたからさ。あいつに沼田城や
志郎は今まで幸雄が自分のためにしてきてくれたことを思い出しながら語り続け、海未はそれを黙って聞いていた。
「確かにあいつは打算に塗れ、とことん不実な男だが、自分のやるべき事に対しては誰よりも熱心で誠実な男だ。たとえ自分が泥を被るような事をしてでもμ'sを支える覚悟があいつにはある。俺にできるのはその覚悟を汲み、周りからの不信感を一手に受けるであろうあいつを信じることだけさ。」
「志郎・・・。あなたは凄いですね。」
海未は、幸雄の信用ならない側面もひっくるめて彼を信頼しているという志郎の器に圧倒されると同時に、自分の未熟さを実感させられた。
「それにあいつは俺のブレーキにもなってくれるからな。そりゃ信用もするさ。」
志郎は笑って海未の言葉に答えるが、一転して真剣な表情になり、
「一言断っておくが、あいつの策にゴーサインを出したのは他でもないこの俺自身だ。もしもの事があれば責任を負うつもりだし、恨むならあいつじゃなく、あいつを動かした俺を恨んでくれ。」
と、幸雄をことりに接触させた責任が自分にある事を示し、恨みをぶつけるなら自分にぶつけるように海未に頼んだ。
「はぁ・・・。あなたにそう言われたら仕方ありませんね。ここはひとまず幸雄を信じて待つことにしましょう。ただし、全部が終わったらたっぷりと話したい事があるので覚悟してくださいね?」
志郎の懇願を聞いた海未はため息を一つ吐くと、そう言ってステージの裏方に向かって歩き出した。
「ふぅ・・・。」
海未の背中を見送った志郎は何とか難を逃れたと言わんばかりに安どのため息を吐くと、
「俺たちやみんなのこれからは全てお前に懸かってるんだ。しくじってくれるなよ。」
と誰に言うでもなくそう呟いて海未の後を追うように歩き出した。
そして、穂乃果が海未と志郎に送り出されたのと時を同じくして空港では―――
「ど、どうして・・・?どうして幸雄くんがここに・・・?」
「よおことり。せっかくなんだ、ちったぁ話でもしようぜ?」
――――策の終止符を打つべく比興者がその貌に歪んだ笑みを浮かべ、遂に動き出す
いかがでしたでしょうか?
最近筆を執る手がなかなか進まない中、何とか最新話を更新できました!なんと執筆時間およそ4時間!!2か月半ぶりに筆を執ってみたら自分でも驚くくらい筆が進みました!!
次回は遂に自らの策を完成させるべく今まで暗躍ばかりしていた表裏比興の男、武藤幸雄が満を持して表舞台に立ち、ことりと真正面から対峙する!!果たして幸雄の策とは!?
次回もまたお楽しみください!!