ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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 どうも、截流です。

 また調子が出て来たのでちゃちゃっと書いて投稿しました!この調子が持続すれば一番なんですがね・・・w



 それではどうぞお楽しみください!!


57話 さらなる布石と出撃の黄昏

海未がことりの家に行き、その後に幸雄と対峙していた一方でその頃穂乃果たちは―――

 

 

 

「やった!」

 

「あぁ、油断した~!」

 

 穂乃果たちは秋葉原の街を歩き回った後ゲームセンターにやって来ていた。今もヒデコとフミコがダンスゲームをプレイしているところを観戦しているところだった。

 

「じゃあ次、穂乃果ね!」

 

「えっ?」

 

「負けないよ~!私これ得意だから!」

 

「よ~し!」

 

 ヒデコに次のプレイヤーとして指名された穂乃果は一瞬戸惑いを見せるも、意気揚々と筐体の上に乗った。

 

「いっくよ~!」

 

 ゲームが始まり、曲が流れ出すと同時に対戦相手であるミカが踊り始める一方で穂乃果はただただ茫然と画面を見つめて立ち尽くしていた。

 

 

―――1、2、3、4、5、6、7、8!1、2、3、4・・・

 

 

 穂乃果の脳裏に練習中にリズムを取る志郎の声が流れてきたその時、

 

「穂乃果、始まってるよ!」

 

「わわっ・・・。ほっほっほっほっほ・・・。」

 

 ヒデコの声で我に返った穂乃果は慌ててスキップを踏み始めた。

 

「いい感じ!」

 

「上手いよ!」

 

 ヒデコとフミコの声援を受けつつスキップを刻む穂乃果の脳裏にある情景が流れ始めた。

 

 それは、スクールアイドルを始めた時からずっと続けて来た練習の日々であった。スポーツやダンスの経験もなく、何かに全力で打ち込んだことのなかった穂乃果にとって、今までのトレーニングの日々は厳しくて、失敗も多く、挫けそうになることもあった、だがそれでも穂乃果にとってそれらの日々はスクールアイドルを辞めた今でも思い出すだけで笑顔になれる・・・そんな輝かしい日々であった。

 

 

「―――ほっ!っと・・・。は~、スッキリしたぁ!」

 

 ゲームの曲が終わると同時にポーズを決めた穂乃果は清々しい汗を拭った。

 

「すご~い・・・。」

 

「練習してたの?」

 

「いやぁ、全然・・・。」

 

 ヒデコとミカにたずねられた穂乃果は苦笑いしながらそう答えた。

 

「スタートでミスしてなかったらすごいスコアだったんじゃない?」

 

「やっぱずっとダンスしてきただけあるね~!」

 

 穂乃果が画面に目を向けると、画面には『You are dance master!!』という称号と『AAA』というランクが映っていた。かつてセンター争いの時にプレイしていた時は、超人的な身体能力を持つ志郎を除くメンバーでは凛しか取れなかったランクであった。

 

「・・・。」

 

 穂乃果はその画面を見て、ラブライブの予選ランク圏外から999位に入った時を思い出していた。

 

 

 

 

 

「じゃあね!」

 

「うん、今日はありがとう!ばいばーい!」

 

 それからまた少し遊んだ穂乃果たちは、ゲームセンターから出た後、解散することにした。

 

『ばいばーい!』

 

 ヒデコ達を見送った穂乃果は少し寂しげな表情で彼女たちの背中を見送った後、とある場所に向けて歩き出していった。

 

 

「ふぅ・・・。これでよかったの?幸雄くん。」

 

 穂乃果の姿が見えなくなるくらい離れた後、ヒデコがそう言うと、

 

「ああ、そりゃもうオッケーさ。こっちの方も滞りなく俺の思惑通りに事が運んだと言えるな。」

 

 彼女の言葉に応えながら彼女たちの後ろから幸雄がふらりと現れた。

 

「幸雄くんってばいつからいたの?」

 

「いつからか・・・。海未に用事があってそこからこっちに合流したのは穂乃果がダンスゲーで踊り始めた時くらいかね。」

 

 フミコの問いに幸雄はわざとらしい仕草で顎を撫でながら答えた。

 

「結構ずっと見てたんだね・・・。」

 

「いやいや、いくらお前らにあのゲーセン(・・・・・・)あのゲーム(・・・・・)をプレイするように指示していたとはいえ、アキバの街でうろついていたであろうお前らを探し回るのは結構骨だったんだぜ?」

 

 呆れたような表情で笑うミカに対して幸雄は秋葉原の街を走り回った事を思い出しながら自分がただ高みの見物に徹していただけではないことをアピールする。

 

「でもさぁ、そこまでするなら幸雄くんはどうして私たちにやらせたの?幸雄くんが直接穂乃果を誘えばわざわざ直接私たちの様子を見に来る必要なんて無かったと思うんだけど。」

 

 ヒデコは真面目な表情で幸雄に問いかける。海未ほど強いものではないが、彼女の顔にも幸雄に対する不信感がにじみ出ていた。

 

「いやいやいや、お前らに任せたのには理由があるんだぜ?冷静に考えてみろよ。やめたとはいえ穂乃果はスクールアイドルだ。それが男と二人っきりで遊んでるのなんて見られたら炎上もんだろうが。ただでさえ女子高である音ノ木坂に男がいる時点でかなりアウトゾーンに足ツッコんでるようなもんだしな。」

 

 幸雄は自分ではなくヒデコ達に穂乃果を遊びに誘わせた理由を説明した。

 

「確かに、よくよく考えたら志郎くんも幸雄くんもかなりヤバい存在だよね・・・。ここら辺の地域の人たちは知ってても他の地域の人はうちの学校の事情なんて知らないしね。」

 

「でもそれなら幸雄くんが来る理由なんて無いんじゃない?」

 

 幸雄の言葉に一理ある事を感じたフミコが合点がいったように頷く一方で、ミカは首を傾げながら幸雄がここまで出張ってきた理由をたずねた。

 

「それは俺は自分の策が実を結んだかこの目で直接確かめたい性分でね。だからわざわざ今日は策を託しておいた海未とお前らの様子を確認しに来たのさ。」

 

 幸雄は自分の目を指差しながらもう一つの理由を語った。

 

「それで、幸雄くん的には策はどうだったわけ?」

 

「ふふふ、あの穂乃果の表情を見るに100%成功だと言っても過言じゃねえだろうな。そもそも俺はあいつの心の奥底に残ってるスクールアイドル時代に抱いた情熱の残りカスに火を付けるのが目的だったから、あれは十分な成果だと言ってもいい。」

 

 ヒデコの問いに答える幸雄はどこか楽しげであった。

 

「私たちにはいつもの穂乃果にしか見えなかったけど・・・。」

 

「俺は人の表情や仕草からその感情や考えのパターンを見透かす事ができる。あの時の穂乃果は間違いなく心が揺れていた。本当にこれでよかったのだろうかと、わずかに思い始めているのを俺は見透かした!そう、まさに策が完璧に成ったと言えるな!」

 

「穂乃果の心を揺さぶるのが幸雄くんの狙いだったってわけね。」

 

「そういう事だ。俺は策を仕掛ける前に標的の心を揺さぶる事で俺の術中にハメやすくするようにしてるのさ。だから俺はことりの想いを知っていた海未にことりの心を、そして海未やことりとは違う形で友人としてのポジションに立っているお前たちには穂乃果の心を揺さぶる策を託したってわけよ。」

 

 幸雄はヒデコ達を前に自分が今日仕掛けた策の全容を種明かしした。真田昌幸が人の心を揺さぶる事を得意とした、という事を明確に示す逸話は無いが、第一次、第二次上田合戦では徳川軍を挑発することで手玉に取ってみせ、天正壬午の乱ではかつて同輩であった春日信達を海津城主への復帰を餌に北条軍へ寝返らせようと試み、さらには沼田城を北条家に引き渡す際にも城下の民を丸ごと真田領に移住させるという嫌がらせじみた行為で北条家に惣無事令違反をさせるように挑発してみせた等といった行為から、彼が間違いなく人を煽り、揺さぶる術に長けていた事が伺える。

 

「なんて言うか、そこまで行くともう褒めるしかないよね。」

 

「本当なら幸雄くん自身がやればいいのにって言いたいところだけど言う気が失せちゃうよ。」

 

 ヒデコが呆れたようにため息をつき、フミコは苦笑交じりにそう言った。

 

「まあそう言ってくれるなよ。μ'sは志郎含めてみんなお人好しなんだ、俺みたいに狡猾でずる賢くて、進んで憎まれ役を買って泥をかぶる人材が1人くらいいたってバチは当たらねえだろ。」

 

 幸雄はそう言うと彼女たちに背を向けて去って行った。

 

「じゃあな。明日の準備もよろしく頼むぜ。」

 

「任せといて!」

 

「幸雄くんもがんばれ!」

 

「これが終わったらクレープ奢ってね!!」

 

 その場から立ち去る幸雄をヒデコ達は思い思いの言葉をかけて見送り、

 

「ああ、μ's復活が成った暁にゃあクレープでもパフェでも奢ってやるよ。」

 

 幸雄はミカの言葉に苦笑しながら振り向くことなく手をひらひらと振り、そう言ってそのまま街の喧騒の中に消えていった。

 

 

 

 

 一方その頃、穂乃果はUTXに来ていた。UTXの正面玄関の大画面にはUTXのスクールアイドルであり、ラブライブの優勝者でもあるA-RISEが映っていた。

 

「・・・きっと、すごいアイドルになるんだろうな。」

 

 大画面を見上げる穂乃果は、ふとそう呟くと、UTXに背を向けて歩き出した。

 

 

 

―――こんどは、誰も悲しませないことをやりたいな。自分勝手にならずに済んで、でも楽しくて、たくさんの人を笑顔にするために頑張る事ができて・・・。

 

 

 

 穂乃果は歩きながら次にやりたい事を考えていた。誰も傷つけず、身勝手になる事もなく、そして人々を笑顔にできる、そんな事を考えていたが、

 

「そんなもの、あるのかな・・・。」

 

 穂乃果にはそんな完璧なものを思い浮かべることはできなかった。

 

 

 

 

 

「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・。」

 

「かよちん遅いにゃ~。」

 

「ご、ごめん!久しぶりだときついね。」

 

「あっ、穂乃果ちゃん!」

 

 神田明神の男坂で凛と花陽が階段ダッシュの練習をしていると、そこに穂乃果が登って来た。

 

「凛ちゃん、花陽ちゃん。練習続けてるんだね。」

 

 と、穂乃果が2人に話しかけると、

 

「当たり前でしょ、スクールアイドル続けるんだから。悪い?」

 

 と3人の所に歩いて来たにこが穂乃果に語り掛けた。

 

「いや・・・。」

 

「μ'sが休止したからってスクールアイドルをやっちゃいけないって決まりはないでしょ?」

 

「でもなんで?」

 

「好きだからよ。」

 

「・・・!」

 

 にこは穂乃果の問いかけに微塵もためらうことなく答えた。 穂乃果は一瞬、そんなにこの堂々とした姿に気圧されたような感じがした。

 

「にこはアイドルが大好きなの。みんなの前で歌って、ダンスして、みんなと一緒に盛り上がって・・・。また明日から頑張ろうって、そういう気持ちにさせる事ができるアイドルが私は大好きなの!」

 

 にこは穂乃果に、自分のスクールアイドルへの思いの丈を語った。かつてスクールアイドルを志し、その理想の高さと想いの強さに仲間が付いて来れず、スクールアイドルとしての活動が破綻し、一度その夢は破れた。

 

 だが、μ'sが生まれ、にこが加入を決意するまでの2年間にわたる雌伏の時を経てもなおアイドルへの夢を捨てずにいられたのは、今穂乃果へぶつけたスクールアイドルへの思いを胸に、「また明日から頑張ろう」と、毎日思う事ができたからだと言っても過言はないだろう。

 

「穂乃果みたいにいい加減な『好き』とは違うの!」

 

「違う!私だって・・・!」

 

「どこが違うの?」

 

「っ・・・!」

 

「自分から辞めるって言ったのよ?やっててもしょうがないって。」

 

「それは・・・。」

 

 にこの厳しい物言いに穂乃果は反論しようとするが、あの時の屋上での物言いを思い出した穂乃果は、にこの問いに言い返すことはできなかった。

 

「ちょっと言いすぎだよ・・・。」

 

 凛がにこを止めるが、

 

「ううん、にこちゃんの言う通りだよ。邪魔しちゃってごめんね。」

 

「穂乃果ちゃん!」

 

 穂乃果はにこの言葉が正しいと認めて帰ろうとした時、花陽が穂乃果を呼び止めた。

 

「こんど、私たちだけでライブをやろうと思ってて・・・。」

 

「穂乃果ちゃんが来てくれたら盛り上がるにゃ!」

 

「あんたが始めたんでしょ。絶対来なさいよ。」

 

 花陽たちがライブをやるから来て欲しいと穂乃果を誘った。

 

「みんな・・・。うん、絶対観に行くよ。」

 

 穂乃果はそう言って男坂を下りていった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・!」

 

 

 穂乃果が神田明神を去って家路についたのとほぼ時を同じくして、音ノ木坂学院の屋上で迷走していた志郎が目を見開き、ゆっくりと腰を上げた。

 

「風が変わった、動くべきは今か・・・。」

 

 志郎は武田勝頼だった頃の感覚を思い出しながら研ぎ澄まされた精神をさらに集中させ、穂乃果の元へ向かうべき時が来たことを直感した。

 

 そしてそれと同時にポケットの中のスマホが鳴りだし、志郎はそれを手に取った。

 

『よぉ志郎。準備はできたか?』

 

 電話をかけてきたのは幸雄であった。

 

「ああ、いつでも行ける。というかそろそろ動き出そうと思ったところだ。」

 

『そりゃ奇遇だ、俺も今穂乃果が家路についたのを報せようと思ったところでな。』

 

 志郎の言葉に意外な様子で幸雄は志郎に用件を伝える。

 

「報せようと思ったって・・・。お前あいつをストーカーしてたのか?」

 

『ずっとしてたわけじゃねえよ!策を託した海未の様子を見に行ったり、ヒデコ達の戦果を確認したり、今も神田明神でにこに『あたし達までダシにしてんじゃないわよ!!』って怒鳴られてきたところさ。」

 

 呆れ気味な志郎に幸雄は自分が放課後になってからどれだけ町を駆けずり回ったのかを憮然とした様子で語った。

 

「海未については知ってはいたが、まさかヒフミトリオやにこまで布石に使っていたとは・・・。流石お前というべきだな。」

 

 あらかじめ幸雄の策を聞いていた志郎は、自分の知らぬ間に幸雄が更に手を広げていたことに驚くと同時に感心した。かつて真田昌幸に上野の攻略を命じ、期待以上の戦果を携えて戻ってきたことを志郎はふと思い出した。

 

「褒めても何も出ねえって。そんな事より後はお前さん次第だぞ。」

 

 幸雄は志郎の言葉に照れ臭そうにしていたが、まるでカードの表が入れ替わるかのように冷徹な口調で志郎に念押しした。

 

「・・・ああ。」

 

 志郎は電話越しに伝わってくる幸雄の真剣な気配に息を呑みながら頷く。

 

「ま、気張りすぎるなよ。今のお前さんがやるべき事は説得じゃあねえ、穂乃果に謝る事だ。あの時みたいに想いを先走らせて空回りしないようにな。」

 

「ああ、行ってくる。()ってくるぞ幸雄。」

 

 幸雄のアドバイスに志郎は『いってくる』という言葉だけで応えた。これが今の志郎にできる幸雄への返礼だった。

 

「ああ行って来い志郎、我らが大将。μ'sの進む道を照らす篝火になって来い。」

 

 その言葉を最後に幸雄からの電話が切れた。

 

 

―――懐かしいな、この緊張感。あの時代で戦いに赴く前のあの緊張感だ。

 

 

 

 幸雄との通話を終えた志郎は緊張に震える自分の手を眺める。だがその表情はとても穏やかなものであった。

 

 

 

―――この穂乃果との対面で俺たち11人のこれからの運命が懸かっているのにかつてのような重苦しさを微塵も感じないどころか心が躍って来る。ああ、そうか・・・。

 

 

「これが、『本当にやりたい事をやる』というものなのか。」

 

 志郎はかつて絵里に語った感情を本当の意味で心から感じている事に気が付いた。そんな清々しい想いで西に沈む陽を眺めながら志郎は気合を入れるために自分の頬を叩くと、

 

「よし、征こう!御旗楯無も御照覧あれ!!」

 

 と、天に拳を突き上げながら誓いの言葉を唱え悠々と歩き出した。




 いかがでしたでしょうか?


 いよいよ1期13話も中盤に差し掛かり、穂乃果との対面、ことりの出立等々1期編のクライマックスが近づいてきました!!できれば今年中には1期編を終わらせられるように頑張ります!!なのでぜひ見守ってくれたり感想なんかを書いてくださると幸いです!!



 それでは次回もまたお楽しみください!!

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