ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、截流です。

数ヶ月ぶりの更新で話を忘れてる方もいらっしゃると思いますが温かく見守ってくださると幸いです!


それではどうぞお楽しみください!!


56話 比興者は粛々と動き出す

「結局、あの夢の最後で私は何を見たんだろう・・・。」

 

 その日の穂乃果はどこか上の空な様子だったという。穂乃果は朝から学校が終わるまでずっとどんな夢を見ていたのかを思い出すためだけにその思考を費やしていた。だが、それでも夢の最後で穂乃果自身が抱いた確信がどのようなものであったかまでは思い出す事ができずにいた。

 

「・・・帰ろ。」

 

 穂乃果は考えることを辞め、一つため息をつくと鞄を持って教室から出て行った。

 

「穂乃果~!たまには一緒に帰らない?」

 

 穂乃果が校門を出ようとした時、そう声を掛けたのはヒデコだった。

 

「え?いいよ。」

 

「もう放課後空いてるんでしょ?」

 

「わわっ、ちょっと!」

 

 穂乃果に対するヒデコの言葉をミカがたしなめると、

 

「いいじゃない。だって穂乃果は学校を守るために頑張ったんだよ?学校を守るためにアイドルを始めて、その目的を達成したからやめた・・・。何も気にする必要ないじゃない!ね?」

 

 とヒデコはミカ達にそう言った。

 

「・・・そうだね。」

 

 穂乃果はその言葉に少し申し訳なさそうに応えた。

 

「学校のみんな、感謝してるんだよ。」

 

「うんうん!」

 

「μ'sを見てうちの学校知ったって人もたくさんいたみたいだし!」

 

「・・・ありがとう。」

 

穂乃果は励ましとねぎらいの言葉をかけてくれる友人たちに礼を言った。

 

「じゃあ行こ!」

 

「うん!」

 

そうして、ミカに手を引かれて穂乃果はヒデコ達と4人で秋葉原の町に繰り出すべく走っていった。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・これでいいのか?もうことりが日本を発つまで時間があまり残されてないというのに。」

 

 屋上から穂乃果たちのやり取りを見守っていた志郎は、傍らに立つ幸雄に対して訝し気にたずねる。その言葉尻には焦りが見え隠れしていた。

 

「ふふふ、案ずるには及ばんよ。全部俺の計画通り、全てが順調に進んでるぜ。」

 

 幸雄はそんな志郎とは対照的に余裕綽々な様子であった。

 

「それに、志郎もそんな様子じゃあ話したい事も上手く話せねえし、ちゃんと謝れねえぞ?」

 

「・・・。」

 

 普段のへらへらとした表情から一転して真剣な表情で紡ぎ出された幸雄の言葉に志郎は全く反論できなかった。

 

「まあ、今日は天気もいい事だし座禅でも組みながら待ってな。来るべき時が来たら俺が連絡してやるからよ。」

 

 幸雄はそう言うとひらひらと手を振って屋上から去って行った。

 

「幸雄の言う通りだな・・・。たまには足を止めることも大事かもしれんな。静かなること林の如し、動かざること山の如し・・・。動かずに待つのも一興か。」

 

志郎はそう独り言ちるとゆっくりと床に腰を下ろして足を組んで座禅を始めた。

 

 

 

 

 

 

「海未ちゃん、いらっしゃい。遅かったね、練習?」

 

「はい・・・。」

 

 穂乃果がヒデコたちと秋葉原で遊んでいて、志郎が学校の屋上で精神統一をしていたその頃、留学に向けた準備をしていることりの家に海未がやって来た。

 

 ことりの部屋に入る海未の表情は浮かないものだった。

 

「・・・海未ちゃんも断ったの?」

 

 ことりが切り出したのはμ'sが活動停止になった後もスクールアイドルを続けているにこの話だった。にこは花陽と凛以外のメンバーにも誘いをかけており、海未もまた例外ではなかった。

 

「はい。続けようとするにこの気持ちも分かりますし、できる事なら・・・。」

 

「じゃあ、どうして?」

 

 にこの想いを汲みながらも誘いを断った海未に、ことりは何故そうしたのかを問いかける。それはまるで「どうして海未ちゃんまでやめちゃったの?」と問いかけているようだった。

 

「私がスクールアイドルを始めたのはことりと穂乃果が誘ってくれたからです。」

 

「ごめんなさい・・・。」

 

 海未の答えにことりは俯きながら彼女に謝った。

 

「いえ、人のせいにしたいわけじゃないんです。穂乃果にはあんな事を言いましたけど、やめると言わせてしまったのは私の責任でもあります。」

 

「そんなことない!!あれは、私がちゃんと言わなかったから・・・!」

 

 海未の言葉に対し、ことりは責任は自分にあると反論した。

 

「穂乃果とは?」

 

「・・・。」

 

 海未はことりに穂乃果と留学する前に話をしたのかをたずねたがことりは無言だった。喧嘩別れしてから今の今まで一度も穂乃果と言葉を交わしていないのだからそれも無理もない事だった。

 

「明日には日本を発つんですよね?」

 

「・・・うん。」

 

ことりは俯きながら海未の問いに返事をする。

 

「ことり、本当(・・)に留学するのですか?」

 

「え・・・?」

 

 予想だにしなかった海未の言葉にことりは一瞬面食らったような表情を見せた。

 

「私は・・・。」

 

「海未ちゃん・・・。」

 

「いえ、何でもありません!」

 

 海未は口から出かかった言葉を自分に言い聞かせるように否定し、飲み込んだ。

 

「無理だよ、今からなんてそんなこと・・・。」

 

「分かっています・・・。」

 

 海未はことりに背を向けたまま彼女の言葉に答え、ことりの部屋から出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉ海未。」

 

 海未がことりの家から出ると、ことりの家の塀に幸雄が寄り掛かっていた。

 

「幸雄・・・。いつからそこにいたのですか?」

 

「待ってたわけじゃないぜ。お前さんがことりの家から出てくる頃合いは大体予想が付いてるさ、なんせそう仕向けたのは俺なんだからな(・・・・・・・・・・・・・・・)。」

 

「・・・。」

 

 海未は幸雄の言葉に眉をしかめる。

 

「そんな顔しなさんなよ。少しそこの公園で話でもしようや。」

 

 幸雄は自分を睨む海未を宥め、公園へと誘った。

 

 

 

 

「で、どうだったよ。ことりとの話は。」

 

 幸雄は自販機で買った缶ジュースを飲み干すと海未に話を切り出した。

 

「ええ、幸雄に言うように言われた言葉(・・・・・・・・・・・・・・)はちゃんと言ってきました。ことりも幸雄の言ってたように少し動揺してたと思います。」

 

 幸雄の問いに海未は淡々と答えた。

 

「よし、これで明日の策に向けての布石は打ち終わったな。」

 

 幸雄は海未の言葉を聞くと頬を綻ばせ、上機嫌にそう言うとジュースの缶をゴミ箱に向けて投げ捨てた。

 

「さ、あとは明日の決行を待つだけ―――」

 

「本当に、これでよかったのですか?」

 

「・・・。」

 

 まるで詰問するかのような海未の言葉に幸雄は言葉を止め、いつもとは打って変わって真剣な表情になっていた。

 

「ああ、これでいいのさ。お前さんはことりに『本当に留学するのか』とたずねた。んでそれを聞いたことりが少しでも動揺したって事は俺がお前さんに託した策は実ったと言ってもいい。これでよかったと言わずしてなんて言うよ?」

 

 幸雄はまたいつものようなにやけ顔を浮かべて海未に語った。

 

 今日海未がことりの家にやって来たのは幸雄の差し金だったのだ。そして幸雄はその策を海未に提案した時、もう1つだけ海未に策を託した。それは、

 

 

「『本当に留学をするのか?』」

 

 

と言ってきて欲しいというものであった。

 

 

「確かに、私もことりが本当に留学したいようには見えませんでしたし、本当にことりが留学を望んでいるのかたずねたかったのも事実です・・・。ですが、何故あなたは自分の口でことりに言わず、私に言わせたのですか!?」

 

 海未は初めのうちは言葉を絞り出すように言っていたが、次第に幸雄への苛立ちか怒りか、次第に語気を荒げていった。

 

「幸雄・・・、あなたはずるい人です。私たちをまるで盤上から見下ろすかのように訳知り顔で全てを俯瞰して、人を・・・いいえ、自分さえも駒のように動かして何かを為すあなたはずるい人です。」

 

 海未は幸雄の目を真っ直ぐ見据えながら彼にそう言ってのけた。相手は自分よりも遥か昔に生きた戦国武将で、自分よりも実力が上手であろうことは彼女自身もはっきり分かっていたが、それでも彼女は怯むことなく幸雄に言葉をぶつけた。

 

「・・・。」

 

 幸雄はそんな彼女の言葉に何か反論するわけでもなく、ただ黙って耳を傾けていた。そして彼女の言葉が終わると、

 

「確かに海未の言う通り、俺はずるい男さ。お前を含めたμ'sの9人を駒にして、志郎を駒にして、そして俺自身さえも、本懐を遂げるための駒にする・・・。そう、全ては『μ'sを支える』という本懐のためさ。本懐のために手段を選ばないのは俺たち的には何ら不自然な事じゃあないのさ。」

 

 幸雄は自らの持論を語り始めた。開き直ってる気配はなく、寧ろそのスタンスに対して誇らしさを抱いてるようにすら感じられる。

 

「本懐・・・というのは何ですか?」

 

 そんな幸雄に対して海未は1つの質問を問いかける。数秒あまりの沈黙が過ぎた後、幸雄は口を開いた。

 

「俺の本懐か・・・。俺は志郎が様々なしがらみや呪縛から解放され、この時代に享けた新たな生の中で、新しく手に入れた夢を成し遂げられればそれでいいと思ってる。だから俺はそれを(たす)けるために知恵を凝らし、策を巡らせるのさ。」

 

「あなた自身の夢はないのですか?」

 

 海未はさらに問いかけを投げかける。

 

「俺の夢か?真田の存続、それがかつての夢だったが叶っちまったからなぁ・・・。転生者ってのは大体志半ばで倒れたような連中が多いが中には俺みたいなのもいるんだよ。」

 

「ですがあなたは関ヶ原の戦いの後に九度山に押し込まれてそこで・・・。」

 

「ああ、死んだ。そりゃ武士としちゃひどい死に方だろうが、俺には源次郎とその子たちがいた。あいつが俺の代わりに『家康に一泡吹かせたい』という願いを果たしてくれた。もう2つも夢が叶っちまったから志郎や穂乃果みたいに生き急ぐかのように夢を追い求める必要なんかないのさ。」

 

 幸雄ははるか遠くの空を眺めながら海未に自分の抱いた夢に関する価値観を語った。その表情はどこか満足げであった。

 

「だから俺は本来なら志郎がいなけりゃμ'sを支えるつもりなんて無かったし、μ'sが瓦解した時にはもうお前らを見捨てる気満々だったわけだからな。」

 

 再び薄ら笑いを浮かべながらそう語る幸雄の顔を見て背筋に悪寒を感じた海未だったが、それでも彼から目を逸らさず質問を続ける。

 

「では、あなたが志郎と共にμ'sを支える原動力とは何ですか?」

 

「原動力ね・・・。随分と核心を突くような質問をするね、海未さんよぉ。」

 

「ええ。私はあなたの真意が知りたいのです。真姫さえも触れる事ができなかったあなたの真意を。」

 

「・・・真姫から話を聞いたか。」

 

 幸雄の表情が再び薄ら笑いを浮かべたものから冷徹さを感じるような真顔に変わった。

 

「はい。それにあなたは志郎が自分の想いを明かした時、何も自分の意思を話すことをしなかった。だからこそあなたの本心を知りたくなるのは不自然な話ではないと思います。」

 

「一理あるねぇ。」

 

 幸雄は顎に手を当てながら彼女の言葉に頷く。

 

「状況によってはμ'sを見捨てることさえも視野に置く事ができるにもかかわらずμ'sに拘り、そのためならどんな手段を取る事さえも辞さないあなたの原動力は一体何なのですか?志郎が私たちを支えているからですか?彼の夢を叶えさせるためですか?」

 

 海未は幸雄に詰め寄る。海未は幸雄の目を真っ直ぐ見据え、幸雄もまたそんな彼女から目を逸らすことなく、2人は対峙した。2人とも引く気配は見せず、合戦の前に2つの軍勢が前進する機を窺うために睨み合うような静寂と殺気が入り混じったような異質な空気が流れていた。

 

「確かに志郎の存在や、あいつの夢、そしてこの前交わしたあいつとの約束・・・、どれもこれもこんな俺が(・・・・・)μ'sに尽くすには十分な理由だが、お前さんもまだまだ俺の事を分かってないねえ。」

 

 しばらくすると幸雄はそう言って首を横に振った。その言動と仕草から海未の推測がすべて外れていることがうかがえる。

 

「え?」

 

「え?ってお前さぁ・・・。俺が志郎のことしか考えてないような視野の狭い男だと思われてたのは流石に心外だぜ。大体俺がこの時代で志郎に出会ってからまだ半年しか経って無いんだぜ?そんな短期間で自分の価値観が塗り潰されてたまるかっての!」

 

 意外な答えに目を丸くする海未に対して幸雄は呆れ果てたように深いため息をつきながら語った。

 

「では・・・、何が幸雄を突き動かしているのですか?」

 

 海未が恐る恐るたずねると、幸雄は意味深な笑みを浮かべた。

 

「ここまで俺の核心を突くために食い下がって来たお前に特別に教えてやる。俺がμ'sにここまで尽くす理由は、この音ノ木坂学院・・・いや、この東京にやって来る以前にあるのさ。」

 

「ここにやって来る以前・・・。いったい何があったのですか?」

 

「おっと、そればかりは言えねえな。今はな(・・・)。」

 

「今は・・・ですか?」

 

「まあ語るべき時が来たら教えてやるからよ。」

 

 幸雄はそう言うと、海未に背を向けて歩き出した。

 

「待ってください!どこへ行くのですか?」

 

「どこって、もう1つ打っておいた布石がちゃ~んと機能してるか確認しに行くのさ。」

 

 幸雄は振り向きもせずにそう言いながら歩を進めるが、突然立ち止まった。

 

「流石に何も教えてやらないのは流石に意地悪が過ぎるから1つだけ教えてやる。俺はこっちに引っ越してくる何か月か前に、ある人物(・・・・)と、とある約束(・・・・・)を交わしていたのさ。」

 

「とある約束・・・。」

 

 海未は噛みしめるように幸雄が出した言葉をもう一度唱えた。

 

「それが俺の原動力さ。その出会いと、あいつ(・・・)と交わした約束がなかったら今頃俺はここにいなかっただろうよ。今俺が教えてやれるのはこれだけ、じゃあまた明日会おうぜ。」

 

 幸雄はそう言うと再び歩き出す。

 

「今頃ここにはいなかった・・・、幸雄にそこまで言わしめる約束とは一体何でしょう?」

 

 公園に1人佇む海未は空を仰ぎながら静かにひとりごちるように呟いた。




いかがでしたでしょうか?


最近、というかここ数ヶ月は社会人生活で忙しいのとモチベーションが維持できなかったとで執筆が滞っていましたが、何とか少しずつ書き進めて更新に至ることができました!


今回はこの一件で暗躍する幸雄と、そんな彼の本心を知ろうとする海未ちゃんに視点を置きました!2人のやりとりを楽しんでいただけたら何よりです。


それでは次回もまたお楽しみください!!

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