ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、截流です。

今回のお話はこの物語のターニングポイントの一つになると思っています。


それではどうぞお楽しみください!!


54話 いばらの道

保健室での話し合いが終わった後、幸雄は絵里に話したい事があると言って2人は学校の屋上に登って来た。

 

「それで、話って言うのは何かしら?」

 

屋上に着くなり絵里は幸雄に話の内容をたずねる。

 

「私、これから亜里沙を迎えに行かなきゃいけないのよ。だからできるだけ手短に済ませて欲しいわ。」

 

絵里は風に吹かれて乱れた髪を片手で少し整えながら幸雄にそう言う。

 

「そうだな、呼び出した俺が言うのもなんだが面倒な話はすぐに終わらせたほうがいいわな。」

 

幸雄は絵里の言葉に対して口元をニヤリと綻ばせながら答える。だが、その目は微塵も笑っていなかった。絵里はそんな幸雄の目を見て何を言われるのか身構えていた。

 

「じゃあ早速本題と行こうか。絵里、お前・・・。」

 

「・・・。」

 

絵里は息を呑む。

 

 

 

「お前、志郎のこと好きだろ?」

 

 

 

「へ?」

 

絵里は幸雄の問いかけが自分の予想の斜め上を行く内容だったせいか、気の抜けた声を出してしまった。

 

「いやだからお前志郎のこと好きだろって言ってんの。」

 

「べっ!?べべべべべべべべ別にそんなことあるわけ無いじゃない!?」

 

絵里は顔を真っ赤にしつつも誤魔化そうとするも、目は泳いでる上に声も震えて挙動もおかしかったので言葉に説得力が微塵も感じられない。

 

「いやいや誤魔化せてねえし。とにかく茶番は無しで行こうぜ、話さっさと終わらせたいんだろ?」

 

幸雄はそんな絵里に呆れながらも話を続ける。

 

「で、結局志郎の事が好きなのか嫌いなのかはっきり言ってくれ。」

 

「そ、それは・・・。その・・・。」

 

「ん~~~~?」

 

「分かったわよ!ええ、そうよ。私は志郎の事が好きよ。」

 

「それは友達や仲間としてかな?それとも・・・。」

 

「もう、ここまで言わせといてそんな事を聞くのは失礼よ。私は志郎の事を1人の異性として(・・・・・・・・)好きだと思ってるわよ。」

 

幸雄がにやけ顔でたずねるのをたしなめながら絵里は観念したように自分の想いを明かした。

 

「・・・。」

 

「なによ、ここまで言わせといてなんでそんな渋い顔してんのよ。」

 

絵里は渋い表情をしている幸雄に対して納得いかないような様子でたずねた。

 

 

「・・・お前さんもしかして枯れ専って奴なのか?」

 

「はぁ!?」

 

「よく考えてみろよ俺たちゃ確かに今は17歳の高校生だが(なかみ)は50歳を余裕で超えてるおっさんだぞ?そんな奴を好きになるなんてどう考えても枯れ専としか―――」

 

「それ以上言うとぶつわよ。」

 

「ハイ嘘ですすいませんでした。」

 

絵里が拳を握った瞬間幸雄は体を90度折り曲げてお辞儀をした。

 

「まあ冗談はともかくとして、本気なのか?確かに俺たちの感性は17歳のそれにほとんど近づいてるが本質はおっさんだぞ?それでもいいのか?お前さんなら他にもきっといい相手がいるはずだろ。」

 

幸雄は彼女を心配するように言ったが、

 

「私はあなた達転生者の事とか関係なしで、諏訪部志郎って言う一人の男の子を好きになったの。その想いに迷いも後悔もしていないわ。そりゃああなた達が戦国武将の生まれ変わりだって知った時は驚いたけどね。」

 

と絵里は笑顔でそう言い返した。

 

「その口ぶりから察するに、志郎を好きになったのは1学期くらいってとこかね。」

 

「ええ。あの時・・・、私がμ'sに入る前にあの子たちの想いの強さに触れて、自分のやりたい事とやらなくちゃいけない事の板挟みになって、どうしたらいいのか分からなくて泣いてた時、私を慰めてくれたのが彼だったの。その時志郎は私に『もう独りで抱え込まなくて大丈夫』って言ってくれて、私を抱きしめてくれたの・・・。」

 

絵里は愛おし気な表情で、オープンキャンパス1週間前の、彼女がμ'sに入る前の出来事を語った。

 

「その時の志郎の胸が温かくて、志郎の優しい言葉が嬉しくて・・・。最初はそれだけだったのにみんなと一緒に彼と過ごすうちにいつの間にか・・・。」

 

「なーるほど、何があったかは知らんがとりあえずあの時に志郎に堕とされてたわけか・・・。」

 

頬を赤く染めながら志郎に惚れた理由を語る絵里を見て、幸雄は苦笑いしながら呟いていたが、

 

「なら猶更解せねえな。そんならあの時志郎の協力を断ろうとする必要が無かったと思うんだが?」

 

とさらにたずねた。

 

「その人の事を愛してるからと言って全てを肯定するというのは違うと思うわ。私は志郎の事が好きだからこそあの時志郎を諫めたの。志郎が使命感だけで動いてたら私は本当にあそこで志郎に協力しないつもりでいたわ。」

 

絵里は一転して真面目な表情で幸雄に先ほどの一連での自分の本心を語る。

 

「・・・お前さんの目を見る限り狂言とか一芝居打ってたってわけじゃないのはマジだったみたいだな。」

 

「そういう愛の形もあるって私は考えてるの。それにしても流石は幸雄ってところかしらね。炯眼だったかしら?ほんとあなたの人を見る目は凄いわね。心とか読めるんじゃないの?」

 

「まさか、俺は相手がどういう振る舞いに出るかとか、こうしたら相手はどういう感情を見せるかとかを仕草や表情で先読みしてるだけだからそう言う超能力染みたことはできんよ。ありていに言えばただ観察力に優れてるってだけの話だからな。」

 

幸雄は自分の目を指差しながらそう語った。

 

「へえ、そうだったのね。」

 

「話を戻すが、本当にいいのか?」

 

「だから私は志郎が転生者だって事は気にしてなんか―――」

 

「馬鹿野郎そうじゃねえよ。分かってんだろ?お前さんの恋は報われない可能性の方が大きいって事くらい。」

 

絵里はその話はもういいでしょと言いたげな様子だったが、幸雄の言葉にハッとしたように目を見開き口をつぐんだ。

 

「・・・その感じだと分かってはいるみたいだな。志郎の目があいつに、高坂穂乃果の方に釘付けだって事はよ。」

 

幸雄は悲しげな表情で驚愕の事実を語る。その表情には絵里への憐憫と同情が見え隠れしていた。

 

「分かってはいたわ。志郎にとっては穂乃果の方が付き合いも少しだけ長いし、何よりファーストライブの後に彼にどうして穂乃果たちに力を貸すのかを聞いた時に志郎はすごくいい表情であの子たちを評価してたし、何よりここ最近ずっと志郎は穂乃果のことをいつも気に掛けてたもの。分からないわけがないじゃない。」

 

絵里は自嘲するように笑いながら語った。

 

「ま、当の本人は自覚がないご様子だがね。」

 

「それは志郎が穂乃果にそう言う感情を抱いてないってこと?」

 

「さあどうだか?今はそうかもしれんがしばらく経って恋に目覚める可能性だってあるし、今のまんま終わる可能性もあるんだ。流石の俺にもどうなるか全く予想が付かん。」

 

幸雄はそう言って首を軽く横に振った。

 

「そう・・・。」

 

「まあそれにあいつの事だから穂乃果に恋愛意識持ってなかったとしても『スクールアイドルがアマチュアとはいえアイドルなんだから恋愛はまずいと思う』なーんて言われる可能性も高いと俺は思うね。」

 

「そうかしら・・・。」

 

「うん、そうだって。あいつ勝頼さまだった頃は女心が分かんなくって妻である桂林院さまを怒らせたりして俺や側近の釣閑斎どのや勝資どのとかに愚痴ってたりしてたぐらいだし。」

 

「そ、そうなのね。」

 

「だからそういう意味でも志郎攻略は難易度高いと思うぞ。」

 

「・・・。」

 

幸雄による志郎の恋愛適性の低さ講座を受けて絵里は黙りこくってしまった。

 

「諦めんのか?」

 

「・・・え?」

 

「お前は、志郎が穂乃果に気があるかもしれないとか乙女心も分からないニブちん野郎で攻略できない可能性の方が高いからってお前は志郎への恋心を諦めてしまうのか?」

 

「幸雄・・・?」

 

絵里は幸雄がどう考えても言いそうにないストレートな激励のようなセリフを言い出したことに戸惑いを感じた。

 

「お前らは廃校からこの学校を救うという奇跡を成し遂げたんだろ?だったら好きになった男をものにすることだって出来るはずだ。」

 

そう言って幸雄は絵里の手を取り、その目を真っ直ぐ見据えた。

 

「1ついい事を教えてやろう。『望みを捨てぬ者にだけ道は開かれる』・・・。わしの、真田昌幸だった頃の母上がよう言っておった。」

 

幸雄は絵里に昌幸だった頃の口調で何度も聞き、口にしてきた言葉を教えた。

「父の一徳斎は若い頃から苦難に満ちた人生を歩んでおってな、だが父上も母上も望みだけは捨てなかった。望みを捨てなかったからこそ信玄公に拾われ、父祖伝来の地である真田の里を取り戻すことができた。わしも勝頼さまが信長に追い詰められていく時に同じことを言った事もある。結果はお察しだったがな。」

 

「望みを・・・。」

 

「そうだ。穂乃果は、μ'sがなぜ奇跡を起こせたか・・・。それはお前たちが望みを捨てなかったからだ。お前はその奇跡の体現者の1人だ。どんな事があっても望みだけは捨ててはならん。たとえそれがいばらの道を歩むような恋路であってもだ。」

 

幸雄はかつて新府城で、迫りくる織田軍への対抗策が浮かばず、そして次々と一族や家臣たちが離反していく現状を嘆く勝頼を励ました時のように絵里を激励した。

 

普段はちゃらんぽらんとしてて、何をするにしてもどっちつかずで、高みの見物を決め込むような態度をとり、口を開けば皮肉や軽口が多く、『人を煽ることはできても本当の意味で人の心を動かせない』と自分を評していた幸雄であったが、この時は彼の言葉が確かに絵里の心を強く励ましていた。

 

「望みを捨てぬ者だけに・・・か。分かった、私頑張るわ。いつか志郎を振り向かせてみせる!」

 

絵里は清々しい笑顔を浮かべて幸雄に宣言した。

 

「もう一度聞くが、いつか志郎が本気で穂乃果に惚れる可能性もあるし、その時は穂乃果とは恋敵になるかもしれんがそれでも・・・。それでもその道を進むのか?」

 

幸雄はそんな絵里に対し、励ます前に投げかけた質問を繰り返す。

 

「ええ、それでも私は進むわ。それに私は穂乃果を敵だと思わない、むしろ同じ相手を好きになった同志にして好敵手としてあの子と向き合おうと思ってるからね。」

 

絵里は不敵に笑いながら右目をウインクさせてそう言った。

 

「ふふ、その意気よ。」

 

幸雄も絵里の答えを聞いて満足げな笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅ・・・。」

 

話が終わった後、絵里は亜里沙を迎えに行くために足早に屋上から去っていったが、幸雄はそのまま屋上に残っていた。

 

「しっかし、改めて思うが絵里は本当に勝頼さま・・・志郎にそっくりだねえ・・・。」

 

校門に向かって走っていく絵里を屋上から見下ろしながら幸雄は感慨深げに呟いた。

 

 

―――絵里は志郎にそっくりだ。冷静に見えて実は誰よりも意地っ張りで熱くなりやすく、基本的なスペックが高いからひけらかす事は無いがプライドもそれなりに高い。だけどその分壁にぶつかったり劣勢になるとドツボにはまりやすい・・・。

 

 

幸雄は今までの絵里と志郎の言動を振り返り、かつて志郎に伝えた『志郎は絵里と似ている』という言葉について分析していた。

 

「そして何より、一番そっくりなのは報われることのねえ道だと分かっててもほんのわずかな可能性を信じてずんずんと前に進むその度し難さなんだよなぁ・・・。」

 

幸雄が2人に見出した最大の共通点は、そのひたむきさであり、それが報われないことが多い不運なところであった。実際に志郎は武田勝頼の生涯と末路はまさにそれを表してると言えたし、絵里の方はμ'sに入るまでは生徒会長として廃校を阻止するために奮闘していたがあらゆる行動が自分の想いの裏目に出るという有様であったから彼の分析はあながち間違ってはいないと言える。

 

「とか言う割には絵里ちにはそっちに進むように煽ってたみたいやん?」

 

「うーん、確かにこの件に関しては絵里の背中を押しはしたんだが・・・え?」

 

幸雄が恐る恐る後ろを向くとそこには希が立っていた。

 

「えーっと・・・。いつからそこに?」

 

「ん~?実はあの後教室に忘れ物取りに行ったんやけど、教室から出た後廊下の窓からゆっきーくんと絵里ちが屋上に行くのを見かけて後をつけてたんよ。」

 

希はいつものようにいたずらっぽい笑顔で幸雄の質問に答えた。

 

「・・・じゃああれか、聞くまでも無いが話は―――」

 

「最初っから聞いてたよ。」

 

幸雄が念を押すようにたずねると希はいつものエセ関西弁ではなく普通の言葉遣いで返した。

 

「やっぱりか・・・。」

 

「ねえ、ゆっきーくんに1つ聞いてもいいかな?」

 

「なんだ?まあ隠しても無駄だろうから質問なら何でも答えるぜ。」

 

幸雄は半ば諦めたかのように投げやりな態度で言った。

 

「いつものゆっきーくんなら絵里ちを止めたはずなのに、なんで今回は絵里ちの背中を押したの?それが報われないことだってゆっきーくんは分かってたんでしょ?」

 

希は真剣な表情で幸雄にたずねた。その声には僅かばかりか怒りがこもってるような雰囲気を幸雄は感じていた。

 

「質問に質問で返すようで悪いが希的には止めてもらいたかったのか?」

 

「そうじゃないけど、うちは絵里ちが悲しむところは見たくないから・・・。」

 

「俺が言うのもなんだがそれは傲慢なんじゃないかね。」

 

「え?」

 

「だってさ、絵里が志郎の事を好きなのはあいつがやらなきゃいけないと感じてるわけでも誰かから強要されてるわけでもない、他でもないあいつ自身の心から生まれた感情だろう?あいつの幸せの為と言ってそいつを抑えるのはどうなのよ。」

 

「それは・・・。」

 

幸雄が正論を持ち出して反論したため、希は何も言い返せなかった。

 

「まぁそりゃ俺も止めることは考えはしたさ。このままいけばあいつはその想いで身を焦がすことになると思ったしな。でも絵里はそうなると分かってても志郎への想いを諦めなかった。だからこそ俺はあいつの背中を押したのさ。」

 

幸雄は夕日に染まる空を見上げながら希に絵里の後押しをした真意を語った。

 

「ま、ホントの所はあいつに対するけじめでもあるんだがね。」

 

「けじめ?」

 

「ほら、俺が生徒会に仮所属してた時にあいつとぶつかったり、色々キツイ事言っちまったもんだからさ。その埋め合わせにはなるかと思ってな。」

 

幸雄はそう言って照れ臭そうに笑った。

 

「ゆっきーくん・・・。」

 

 

―――ま、あとはこうした方が色々と面白いもんが見れそうだって考えもあったわけだが今はそれ言える雰囲気じゃねえわな。

 

 

幸雄は希に真意を語る一方で、内心では申し訳なさそうに笑っていた。

 

「とにかく、俺はこの件に関しては絵里を応援する方向で行くからまあその辺はよろしくな。」

 

幸雄はそう言うとひらひらと手を振って屋上から去っていった。

 

「あ、あとこの件は内密に頼むぜ。」

 

「う、うん。」

 

希はそんな幸雄をただ茫然と見送るだけだった。

 

「ゆっきーくんがどんな風に動くかは分かんないけど、絵里ちの想いが叶うといいなぁ・・・。」

 

 

希は誰に聞かせるわけでもなく呟いた。すると、まるでその言葉に応えるかのように一陣の風が暗くなり始めてる空に向かって吹いて行った。

 

絵里の恋路がどのような道になり、どのような結末を辿るのかはまだ誰も知らない。




いかがでしたでしょうか?


まさか、まさかの絵里ちゃんが志郎にほの字(死語)という衝撃的な展開となりました。かつてアンケートで恋愛は書かないと言いましたが(活動報告参照)、ストーリーを考えるうえでさらに波が欲しくなり、こうすることになりました!

果たして絵里ちゃんの想いは叶うのか、それとも志郎が・・・。それに関しては物語が進むごとに明らかにしていくので、どうか温かい目で見守っていただけたら嬉しいです。



それでは次回もまたお楽しみください!!

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