今回は遂に志郎とにこが互いの意地をかけてぶつかり合う―――!
2人の意地を懸けた戦いの結末はどうなるのか、施肥その目に刻んでください!!
それではどうぞお楽しみください!!
μ's復活の為の作戦ににこ、凛、花陽の3人を引き入れるために彼女たちと勝負することになった志郎。既に凛と花陽との勝負は終わり、いよいよ最後に控えるにことの勝負に志郎は臨んでいた。
「にこ、勝負が始まる前に一つ聞いてもいいか?」
「何よいきなり?」
勝負を始める直前にいきなり何かをたずねてきた志郎に、にこは訝しげな様子で応じる。
「これは幸雄の入れ知恵か?」
『!?』
志郎の口から発せられた言葉に、にこたち3人は戸惑った。
「あんたさっきあいつの事を信じてるとか言っておきながらさらっと凄い事言いだすわね。」
にこが呆れた口調で言い返すと、
「いやいや、あいつを疑ってるわけじゃあない。これは『あいつならこうするだろうという予測』を立てれば行きつく結論の1つだ。あいつにとっちゃ二股膏薬は基本中の基本、対立する2つの陣営があればその両方に顔を出し、両方に知恵を授け、そして勝ち目のある方に付く・・・。これはあいつなりの身の振り方だからそれを責めるつもりは全くない。」
と、首を横に振って言った。
「あいつがコウモリみたいな男だってわかった上で信用してその在り方を認めるなんてどんだけお人好しなのよ?」
「それはともかくとして、ホントのところを言うと今回の勝負におけるにこの戦術戦略があまりにも用意周到過ぎたせいで幸雄が裏にいるんじゃないかって思っただけなんだがな。」
志郎が苦笑いしながらそう言うと、
「いくらあたしが補修組だったからって舐めすぎじゃない・・・?あたしだって伊達に部長やってんじゃないのよ。それくらい1人で考えつくわよ。」
と不機嫌そうに顔を背けながら言った。どうやらこの勝負におけるにこの立ち回りは全て彼女の知恵によるものだったようだ。
「なるほど、戦略戦術面でにこは俺の上を行っていたわけだ。俺はこういう駆け引きはあまり得意じゃないからな。」
「煽てても手加減はしないわよ。」
「そうしてもらえるとありがたい。」
2人はそのやり取りを最後に口をつぐみ、真剣な表情で画面に目を向ける。そして―――
『START!』
開始を告げる文字が画面に出て、志郎とにこの一騎討ちが幕を開ける。
曲が始まると同時にノーツが雨あられのように凄まじい速さで降り注いでくるが、2人は素早い足さばきでそれに対応していた。
「志郎くんも凄いけどにこちゃんもすごいにゃ~・・・。」
にこのプレイを初めて見る凛は、彼女の足さばきに見惚れていた。
「そっか、凛ちゃんは見るの初めてだもんね。」
花陽は凛に向かってそう言うと語り始めた。
「にこちゃんこのゲーム結構上手でね、あのセンター決めの後も何回かにこちゃんと遊んでたんだけど結構熱中しちゃって夏休みにこのお店で大会が開かれた時に2人で出たら私が5位でにこちゃんが2位になったんだ。」
「かよちん、にこちゃんとこれやってたんだ~。でも、2位って事はにこちゃんより上手い人がいたって事だよね?どんな人だったのか気になるにゃ。」
「にこちゃんを破ったのは『レオン』って名乗るプレイヤーさんなんだ。ダンスとかの経験はほとんどないらしいんだけどすごく上手だったなぁ・・・。」
花陽はどこか遠くを見るような目で、このゲームの大会でにこを破ったという人物について凛に語った。
(にこの足さばき・・・、尋常ではないな。μ'sに入ってから海未や絵里の厳しい練習のおかげで身体能力が上がったのもあるが、流石はこのゲームのプレイヤーというだけあって対処の仕方を把握しきっている・・・。凛や花陽とはまた違ったタイプの強敵になるが、こちらもμ's復活の為の作戦の成否がこれに懸かっているのだ。負けることはできん・・・!)
(ほんっとこいつの身体能力どうなってんのよ・・・。少しでもまともに渡り合えるように凛と花陽を相手に連戦させて体力を消耗させたはずだってのに、なんでまだそんな余裕綽々な表情で踊れるのよ・・・!あんた一体何者なのよ!?)
志郎とにこは踊りに神経を集中させながらチラリと互いを横目に見て相手の奮戦ぶり舌を巻きつつ闘志を燃やしていた。
(実のところ、にこがこの勝負で俺の体力を削るために3連戦という形で勝負を挑んできたが、それに関してはかなり効いている・・・。あの日から昨日までのまともに飯も食わず、眠れもしない生活のせいでただでさえ体力が落ちてきてるというのにこの勝負・・・。いくら体力と身体能力が優れている俺でも、そんな状態でこのような激しすぎる運動をすればどうなるか分からん。だが、何としてでもこの勝負に負けるわけにはいかんのだ。μ'sのため、そして俺の夢のために!!)
(あたしだって、アイドルとしての意地があるのよ!あんたには悪いけどこの勝負、何が何でも勝たせてもらうわよ!!)
志郎は二連戦で体力を消耗していたが、それでもにことほぼ互角の勝負を繰り広げていた。
2人には口には出さないものの意地と覚悟をその胸に秘めており、まさに意地と意地のぶつかり合いと言える状態であった。
(よし、この難所を抜ければあとは・・・!)
志郎がそう気を引き締めた次の瞬間―――
「――――っ!?」
なんと、志郎の身体が右に大きく傾いた。
「志郎くん!!」
「志郎さん!!」
志郎が倒れるのを見て凛と花陽が悲鳴を上げるように志郎の名を叫んだ。
(ああ、何と言う事だ・・・。まさかこんな大事な時にこの俺ともあろう男が、こんな時に
志郎は倒れながら心の中で自嘲的に呟いた。そう、彼が転んだのは複雑な足さばきに身体が付いていけなくなり足がもつれたからだった。普段の志郎であれば、よっぽどの事が無い限りこのようなアクシデントに見舞われないが、今は話が別だった。
今の志郎の体調は100%万全とはいえないのだ。2週間近くにわたる睡眠不足と前日の徹夜、そして前日に大量の食事を取ったものの、それだけで2週間近くにわたる過剰な小食による栄養不足を補えるわけがなく、現在の志郎は体力的にも、精神及び頭脳的にもかなり不安定な状態であった。
そんな中でこのような激しい運動を行なえば、普通の人間であれば確実にその場で体調を崩すだろう。だが、志郎は生まれ持っていた優れた身体能力と強い信念から来る精神力で力を底上げしていたおかげで足がもつれる程度で済んだと言える。
(ここで倒れればもう挽回はできんな・・・。俺の、μ'sの夢はこんなに呆気なく終わってしまうのか・・・。)
志郎は倒れながら心の中で諦めの言葉を漏らす。
(終わりか・・・。)
志郎がそのまま諦めに身を委ねようとしたその一瞬、
―――私、やっぱりやるよ!やるったらやる!!
―――歌おう、全力で!!だって、その為に今日まで頑張って来たんだから!!
(穂乃果・・・?)
志郎の脳裏に穂乃果の声が走馬灯のように響いて来た。
(そういえば、穂乃果はいつもそうだった・・・。たとえどんな壁が目の前に立ちはだかろうと、辛い現実を目の当たりにしても、諦めることをしなかった・・・。)
―――このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない。応援なんて全然もらえないかもしれない。でも一生懸命頑張って、とにかく私たちが頑張って届けたい!今私たちがここにいる・・・、この思いを!!
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
志郎は虎のような咆哮を上げると同時に、右手を筐体につき、そのまま4本の手足の全てを用いて踊り始めた。
「志郎くん凄いにゃー!!」
「手足を使ったプレイングをする人がいるっていうのは聞いたことあるけど、実際に見てみると凄い迫力だよ凛ちゃん!!」
凛と花陽は志郎の起死回生を賭けた両手両足の全てを使ったプレイングに目を輝かせた。
実際に足で踏むタイプの音ゲーで両手と両足を使うブレイクダンスのようなプレイングは存在する。だがそれはあくまでもパフォーマンスという形でのプレイングで、しかも筐体を2つ使う事が前提である。だが、志郎のプレイングは何もかもが違っていた。
志郎のプレイングは一言で言ってしまえば『なりふり構わない』と言えるようなものであった。志郎はこの手のゲームは素人と言っていいほどであり、そこにはテクニックのテの字も存在しないほどに乱雑なものであったが―――
(なんなのよコイツ・・・!すっ転んだってのに、もうここからさっきの失敗を取り戻すなんて100%不可能なのにまだ食いついて来るなんて・・・!!)
にこはそんな志郎のなりふり構わない姿に焦りと共に、背筋が凍るような感覚を覚えていた。それはまるで、堅固な要塞から機銃掃射を浴びせられながらも止まる事のなく、徐々に要塞との距離を縮めてくる『死兵』を相手取ってるかのような感覚であった。
「志郎くん、まだ諦めてないにゃ・・・!」
「この難易度は一度でもミスをしたら取り返しがきかないのに、志郎さんは諦めることなくにこちゃんを追い続けてる・・・。凄い執念だよ・・・!」
凛と花陽も、志郎の猛追を息を呑みながら見守っていた。
その時だった。
「あれ?あそこで踊ってるのって、μ'sの矢澤にこちゃんじゃない!?」
「ほんとだ!」
「隣で踊ってるのは誰だ?」
「でもあのにこにー相手に喰らいついてるぜ!」
「それにしてもすごい踊り方だな・・・。」
「さっき足がもつれて倒れそうになってたよあの人。」
「だからあんな体勢なんだ・・・!すごい・・・!!」
いつの間にかにこたちが踊っている筐体の周りを囲むように人が集まっていた。
「いつの間にこんなに人が・・・!」
「すごいニャ~・・・!」
凛と花陽は今まで2人の戦いを熱心に見守っていたせいか、自分たちの周りに人だかりができつつあったことに気付いていなかった。そしてそれに気づいた時には驚きを隠せない様子だった。
「にこにー頑張れ~!!」
「誰だか知らないけど相手の男子も負けるなー!!」
観衆の声援は激戦を繰り広げる2人に平等に降り注ぐ。
(この様な苦し紛れの策でにこに追いつけるとは思ってはいない・・・。だが、だからと言ってあの場で負けを認めるのは俺の意地と誇りが許さなかった。そして何よりこの戦いに全霊を懸けて臨んでいるにこへの侮辱になる!だからこそ俺は俺の夢と誇りのため、そしてにこたちの意地のために最後まで戦い抜く!!)
曲もラストスパートに差し掛かり、にこは最後の最後にミスを犯さないように改めて気を引き締めてステップを刻み、志郎はタイミングを見計らって腕の力で飛び上がり完全に体勢を整え、観衆に歓声をあげさせた。
―――この俺の誇りを、諏訪部志郎の意地を見よ!!
「はぁ、はぁ・・・!」
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・。」
曲が終わると同時に、にこは膝に手をつき志郎は筐体から崩れ落ちながら倒れ、2人とも荒い息をしていた。
『PLAYER1 WIN!!』
画面にはにこの勝利を告げる文字が映っていた。
「花陽、スコアを言いなさい・・・。」
「え?でも・・・。」
呼吸を整えながら花陽にスコアを発表するように告げたにこに対して、花陽は困惑した。3戦目が始まった時点で、志郎とにこ、凛、花陽の3人組のスコアの差は1000点いないであったため、よっぽどの事が無ければ買った方がこの戦いを制すると言っても過言ではなかったし、実際のところ花陽が持っているノートに書かれていた二組のスコアの合計値は確実ににこたちの方が志郎のスコアを上回っていた。
花陽は、勝負が分かり切っているのにそれを改めて志郎に告げるのは彼に追い討ちをかけてしまうのではないかと危惧していた。しかし、
「花陽・・・。言ってくれ、お前が言ってくれないと決着が付かないんだ。」
葛藤する花陽に対して、志郎が優しい声でスコアを発表するように頼んだ。
「志郎さん・・・。」
花陽は涙が出そうになるのを堪えてゆっくりと声を絞り出すように、自分の手の中にあるノートに書かれたスコアを発表する。
「志郎さんのスコアの合計は2509793点。私たちのスコアの合計は2648377点・・・。」
「・・・。」
「よって、この勝負・・・。にこちゃんの、勝ちです・・・!!」
この戦いの勝者を宣言する時、花陽の声は震え、彼女の顔は涙に濡れていた。彼女は志郎とにこの両者の目的や意志に対して好意的であり、こんな仲間同士で互いの想いを潰し合うような戦いはしたくないと思っていた。できる事なら話し合って互いの意見の折衷案を立てて落としどころを作りたいと考えていた。
だが志郎はμ's復活の為、そしてにこはスクールアイドルとしての彼女自身の意地の為、2人は互いに引くことはなく、この様な戦いに発展してしまった。
「・・・泣くな花陽。勝ったのはお前たちだ、喜んでもバチは当たらないだろうに。」
志郎は疲れからか体を起こすことはなかったが、花陽の方に顔を向け、彼女を優しい声で励ました。
「だって・・・、だって志郎さんが・・・!」
「かよちん・・・。」
「勝敗は時の定め、今回ばかりは俺に天運が向かなかっただけの話よ・・・。」
「うぅ・・・。」
「それにしても、世の中なかなか思うようには行かないものだな。
志郎は自嘲するようにそう呟くと共に右手で目を覆った。
「くそ・・・。また俺は無力でしかなかったのか・・・!」
志郎は歯を食いしばり静かに肩を震わせながら二度にわたって自分の道を塞いだ自分の無力さを呪った。しがらみを断ち切っても乗り越えることができないのか、と――――
「はぁ・・・さっきから何言ってんのよあんた。この勝負は、まぎれもなくあんたの勝ちよ」
『――え?』
「さっきからお通夜ムードなところ悪いけど・・・。花陽、あんたは1つ大きな間違いをしてるわよ?」
「え?でも、志郎くんのスコアの合計と私たちのスコアの合計は間違ってないよ・・・?」
花陽はにこの言葉の意図が読めずに困惑していた。実際、彼女が記したスコアの合計値は間違っていないのだから困惑するなという方が無茶な話である。
「一から説明するのはこっ恥ずかしいけどいいわ。それは―――」
「それについては私が教えよう。」
『え!?』
にこが志郎たちに結果を覆した理由を教えようとしたその時、人だかりから人をかき分け1人の少年が4人の前に現れた。
いかがでしたでしょうか!?
まさかの志郎敗北からの謎の人物の登場と、予想もしない展開が出てきました!果たして、にこが勝利を譲った理由とは?そして、志郎たちの前に現れた少年の正体とは!?
今年も残すところ20と数日を切りましたね・・・。今年中にはあと2、3話更新したいと思っています!
それでは次回もまたお楽しみください!!