いよいよ今回から志郎が、μ's復活の為に動き始めます!まず最初に向かったのは・・・!
それではどうぞお楽しみください!!
「―――頼む!この通りだ!!」
「お断りよ!!」
「にゃー・・・。」
「あわわ・・・。」
志郎と幸雄がμ's復活の為の作戦会議を開いた日の放課後、神田明神には険しい顔で仁王立ちするにこと、そんなにこの目の前で土下座をしている志郎、そして凛と花陽がそんな2人を困惑しながら見守っているという何とも言えない光景が広がっていた。
「何度も言ってるでしょ!μ'sが活動中止になった以上、私たちは私たちだけで活動を続けるって!それに明後日のライブを使わせてくれってどういう了見よ!!」
「そこを曲げて頼む!!確かにお前が怒る気持ちも分かる・・・。だが、ここでみんなが結束しないとμ'sが復活するのはおろか、喧嘩別れも同然に終わってしまうかもしれないんだ!!」
にこは怒鳴って志郎の提案を拒否する姿勢を貫くが、それでも志郎は引くことなく頭を地に着けたまま必死ににこの説得を試みる。
「だいたいさっきからμ'sを復活させるなんて言ってるけどできるアテでもあるの?」
「そうだよ、ことりちゃんは明後日には留学に行っちゃうんでしょ?」
「うん。志郎さんの言う通りにできたらすごいと思うけど、すごく難しいと思う・・・。」
にこは志郎の提案した計画に成功する可能性があるのか志郎にたずねる。にこよりは志郎の提案に対して好意的な態度を見せている凛と花陽も、それを実現させることが難しい事を分かっているので俯きがちな様子であった。
「確かに難しいのは事実だ。ましてや留学することりを引き入れることなどほぼ不可能と言っても過言ではない・・・。だが、幸雄という切り札がいる。」
顔を上げてそう語る志郎は、にこの目を真っ直ぐ見据えていた。
「幸雄が切り札ですって?」
「そうだ、あいつは俺なんぞ足元にも及ばない策略家だ。あいつの策があれば必ずことりさえも引き入れる事ができる。」
「・・・1つ確認するけど、あいつが何をするのかあんた知ってるの?」
「知らん。」
志郎はにこの質問に対して一切の迷いもなく
「何をするのかも知らないのにずいぶんあいつのことを信じてるのね?」
「あいつは俺の友だ。友であるが故に互いの力は知り尽くしているし、それを信じることは当然の事だ。」
志郎はにこに対して、きっぱりと言い放った。にこはそんな志郎の顔をしばらく見つめていたが、
「はあ、しょうがないわねぇ・・・。」
と軽くため息をついた。
「乗ってくれるのか!?」
「馬鹿ね、誰もまだ協力してやるなんて一言も言ってないわよ。ただ、
にこは期待に目を輝かせる志郎を制止し、その場にいた3人にそう言って階段を下りて行った。
「にこちゃん、ここって・・・。」
「ゲームセンター?」
にこに言われるがままに付いて来た3人は秋葉原のとあるゲームセンターに辿り着いた。
「ここで何をするんだ?」
「いいからついてきなさい。」
ゲームセンターで何をするのか・・・そうたずねる志郎を尻目に、ゲームセンターへと入っていった。
そしてにこの後を追うように志郎たちがゲームセンターの中を歩き回っていると、とある区画に辿り着いた。
「ここは・・・、音ゲーのエリアか。音ゲーのエリアに来たのはセンター争いの時以来だな。」
志郎は、にこがμ'sに入ってしばらく経った時に行なったセンター争いの事を思い出しながら周りを見回していた。もちろん、その時に使われた音ゲーの筐体は今でも健在であった。
「これからあんたには私たちとこれで勝負をしてもらうわ!」
にこはセンター争いの時に絵里と希を除くμ'sのメンバーみんなで使ったゲームの筐体に手を掛けながら志郎に宣戦布告した。
「いいだろう。その勝負、受けて立つ。」
志郎はにこの挑戦を迷うことなく受け筐体に足をかけようとしたが、
「ちょっと待ちなさい。まだルールの説明をしてないわ。」
とにこに制止されたので筐体に乗せかけていた足を下ろした。
「そうだな、勇み足が過ぎた。ルールを聞こうか。」
「ルールはいたって単純よ。あんたとあたしたちで1対3の勝負をするの。で、どうやって勝負するのかって言うと―――」
にこが淡々とルールを説明し始めると、
「1対3!?」
「それってちょっとずるくないかにゃ?」
と、1対3という言葉に花陽と凛が突っかかって来た。
「確かに言葉だけ聞くとずるく聞こえるかもしれないけど冷静に考えなさい。あんた達はこいつの化け物じみた身体能力を知らないわけじゃないでしょ?そんな奴相手に一騎討ちだなんて、負けを志願してるようなものよ!だから対等に戦うにはこうするしかないのよ。」
「自分で言うのもなんだが、にこの言う通りだと俺も思う。いくらμ'sに入ってから身体能力が上がってるとはいえお前たちが個人で俺に敵うことはできないだろう。故に数の利に頼るのは正しい判断だと思うぞ。」
そんな2人に対してにこはあくまでも冷静に志郎という男の脅威とそれに対抗するために必要不可欠な戦術であることを説明し、志郎もまたにこの語った戦術が理に適っていると言って、彼女の決めたルールに従う姿勢を見せた。
「なんかあんたにそうあっさり納得されると釈然としないわね・・・。」
「それはすまない。だが俺はそれ以上にお前の勝つためには如何なる戦術を取る事も厭わないその気概が好印象だったものでな。」
志郎が微笑んでそう言うと、
「何よそれ・・・、話を戻すわ。あとどうやって戦うかというと、スコアの合計値を競う形にするわ。」
にこはむっとした表情をしてから第2のルールを志郎たちに説明した。
「スコアの合計値?」
「あの・・・。こういうのって私たち3人が踊ったスコアの平均値と志郎さんが踊ったスコアで争うのが普通なんじゃないかなって思うんだけど・・・。」
花陽は、にこが提示したルールが普通でないことを指摘した。
「確かにそうね。そこを突いて来るのは流石花陽ってところね。確かに平均値を競わせた方が楽に決着を付けられるけど、今回はそんなあっさりと決着を付けていいような勝負じゃいけないの。それに平均だとさっきも言ったように身体能力が圧倒的な志郎が勝つ確率が高くなるから無しよ。」
「なんかにこちゃんがいつものにこちゃんじゃないみたいにゃ・・・!」
あまりにもルールの筋が通っている事に対して、凛は驚きを隠せなかった。確かににこは凛や穂乃果と一緒に三バカトリオと言われてるだけに彼女が驚くのも無理はなかった。
「して、どんな曲で勝負するつもりなんだ?まさかセンター争いの時と同じ曲ではあるまい。」
志郎がにこにそうたずねると、
「ええ、その通りよ。実はこのゲーム、夏休み前に大型のアップデートが行われて新しい難易度が実装されたのよ。」
とにこは得意げな表情で語り始めた。
『新しい難易度?』
それに対して志郎と凛が首を傾げる。
「そう!あの時の難易度はEXPARTが最高だったけど、新たに『MASTER』と『HIGH RANDOM』が実装されたのよ!!」
「『HIGH RANDOM』って言うのはRANDOMのマスター版なんですよ!要はRANDOMが難しくなったものだと思ってください!!」
花陽がにこの後に新難易度『HIGH RANDOM』について説明した。
「そして私たちがプレイするのはこの曲よ!!」
にこがそう言って曲の選択をすると、その曲が流れ始めると同時に、
「えええ!?ほんとにその曲やるのにこちゃん!!」
と花陽がかなり戸惑った様子でにこに話しかけた。
「なんで花陽はそんなに動揺してるんだ?」
そんな彼女の様子に志郎は若干呆気にとられながら理由を聞くと、
「この曲はアップデートと同時に実装されたんですけど、2つの新難易度でやると譜面がものすごく難しくなるんです!あまりにも難しすぎるものだからプレイヤーから公式に譜面を修正しろって意見が殺到し、いまだにフルコンボできた人は1人もいないって言うほどの曰くつきの曲なんです・・・!」
と花陽はアイドルオタクモードになって早口で志郎ににこが選んだ曲が如何に難しい曲であるかを教えた。
「にこたちはプレイしたことあるのか?」
「もちろんやったわよ?花陽も一緒にね。ま、花陽の言う通りフルコンは無理だけどこのゲーセンではベスト10に入れるくらいには上達してるわよ。ね、花陽?」
「う、うん・・・。それでもまだフルコンには程遠いんだけどね・・・。」
とにこは花陽の方を見ながら誇らしげな表情で語り、花陽は恥ずかしそうに彼女の言葉に頷いた。
「なるほど、『人の和』だけでなく『地の利』も得てるわけか・・・!」
「そう言うこと。言っとくけどあたしは最初っからあんたに負けるつもりは微塵もないわよ!チャンスを与えたのはあんたの心意気に嘘が無いのを理解したからって言うのを忘れないでちょうだい!」
志郎が不敵に笑うと、にこもまた不敵に笑って志郎に言い返した。
「最後に対戦方法なんだけど、ゲームのモードは2人対戦で3回プレイで、あたしたち3人が順番に踊って志郎はあたしたちと一緒に3回踊ってもらうわよ。」
『え!?』
「ここまでくるともう露骨だな。俺の体力を削る気まんまんじゃないか。」
凛と花陽が驚くと同時に志郎がそう言うと、
「ええそうよ、笑いたければ笑いなさい!さっきも言ったけどあたしはあんたに負ける気は微塵もないわ。確かにあたし達にはアイドルとしての技量があるけどそれだけであんたの化け物じみた身体能力を超えられるとは微塵も思ってない。だからあたしはそんなあんたに勝つためなら、アイドルとしての矜持を踏みにじらない程度の事ならどんな手を使う事も厭わないわ!!」
にこは、自分よりもはるかに背の高い志郎の目を真っ直ぐ見上げながら言い放った。
「もちろん俺もそのつもりだ。それに、あの時一番怒っていたお前が素直に協力しないと言い出すのは想定の範囲内だったが、こんな展開になるのは嬉しい誤算だよ。何せ勝てば解決の糸口が見えるんだからな。」
志郎はそんなにこの言葉に対して、ニヤリと口角を上げて心から嬉しそうな表情でそう言った。
「じゃあ、私たちの順番についてなんだけど凛、花陽、あたしの順番で行くわよ。」
にこたちは筐体の前で軽く準備体操している志郎から少し離れた休憩用兼順番待ち用のベンチの前で作戦会議をしていた。
「凛が!?でも凛、センターを決める時にやった時から一度もやってないけど大丈夫かにゃ・・・。」
一番手を任された凛は困惑していたが、
「大丈夫だよ凛ちゃん!凛ちゃんはμ'sのみんなの中でも一番って言っていいくらい運動神経がいいから大丈夫だよ!」
「花陽の言う通りよ。それに今回やる難易度は『HIGH RONDOM』で、プレイするたびに譜面が不規則的に変わるからむしろ元の譜面を知らない凛には好都合!身軽さなら志郎とも互角に張り合える上にダンスの実力がある凛なら志郎に勝つことも夢じゃないわ!初戦であんたが志郎を突き放してくれれば次に行く花陽の気も少しは楽になるはずよ。」
と花陽とにこに励まされた凛は両手で自分の頬をぴしゃりと叩き、
「分かった!かよちんとにこちゃんがそう言ってくれるなら勝てる気がするにゃ!!じゃあ行ってくるね!」
と言って筐体のそばに駆け寄った。
「ほぉ、初戦は凛とか。」
筐体に乗った志郎は画面の操作をしながら隣の凛に語り掛ける。
「ふっふっふ、あの時は志郎くんの運動神経に尻込みしちゃったけど、みんなと鍛えた凛のダンスの力で志郎くんに勝ってみせるにゃ!」
凛が志郎に向かってピースサインをしてそう言った。
「俺も成長したお前と手合わせできる時を待っていたぞ。」
志郎が凛に対してそう返すと同時に、画面にゲームの始まりを告げるカウントダウンが表示され、2人はそれ以降言葉を発することなく、画面と自分の身体に意識を集中させた。
『START!』
開始を告げる合図が画面に表示されてイントロが流れ始めた瞬間、ノート(音ゲーでいう音符のようなもの)がまるでスコールのように降り注いできた。
(な、なんだこれは!?これじゃあまるで弾幕じゃないか!!それに最初から複雑すぎて足が付いてこない・・・!)
志郎はセンター争いで経験した時とは比べ物にならない難しさに驚きと焦りを覚えたが、
(だがいくら弾幕とは言え長篠の時のような鉛玉でなければ怖くなどないわ!!)
と、すぐに気持ちに余裕を取り戻して意識を研ぎ澄ませ、ステップを踏み始める。最初の方こそは上手くできなかったが、持ち前の身体能力でその速さと複雑さに対応できるようになっていた。
(さっすが志郎くんだにゃ・・・!凛も負けてられないにゃ!!)
凛も、ステップを踏みながら隣で奮闘している志郎を見て闘志を燃やす。
「凛ちゃんも志郎さんもすごいよにこちゃん・・・!」
「ええ、流石にとんでもない運動神経を持ってるだけあってハイレベルな戦いね・・・。」
にこと花陽は興奮で頬を紅潮させてこの戦いを見守っていた。
『FINISH!』
曲が始まっておよそ2分と言ったところで曲が終わり、画面に『FINISH!』の文字が出てきた。
「つ、疲れたにゃ・・・!」
「はぁ、はぁ・・・!」
凛は曲が終わると同時に筐体から転がり落ちて大の字に広がって寝転がり、志郎は膝に手をつき肩で荒く息をしていた。その2人の様子を見るだけで、どれほど壮絶な戦いだったかが見て取れる。
『PLAYER1 WIN!!』
「にゃぁ・・・!凛の勝ちにゃあ・・・!!」
結果が画面に出てくると凛は拳を上に掲げて息も絶え絶えな様子で呟いた。その顔は達成感と充実感が入り混じっていた。
「よっし・・・じゃなくって花陽、今のスコア書いておきなさい。」
「う、うん。コンボ数は?」
「コンボ数はいいわ。この勝負はあくまでもスコアが一番大切なんですもの。」
にこは凛が勝ったという事実にガッツポーズを決めそうになったがまだ完全に勝ったわけじゃないという事で気を取り直して花陽にスコアを記録するように指示を出した。
「凛ちゃんお疲れ様。すごいよ!凛ちゃんこの曲初めてだったのにクリアしたなんて!」
花陽はスコアを記録し終わると、凛の元に駆け寄って彼女を労った。
「・・・そうなの?」
「うん!みんな初めてこの曲をやるとクリアできないってことがほとんどだから、初プレイでクリアって言うのは凄い事なんだよ!!」
「そっか・・・。かよちんが嬉しそうで凛も嬉しいにゃ・・・。」
凛は恥ずかしそうに笑ってそう言った。
「見事だったぞ凛・・・。」
志郎も息を整えながら凛を労う。
「志郎くんも凄かったにゃ・・・!志郎くんの態勢が整うのがもうちょっと早かったら凛の負けだったにゃ。」
凛も志郎の奮闘を称えた。
「うん、2人ともすごい接戦だったよ!スコアの差も5000以内切ってるんだから!」
花陽は食い気味に2人の戦いが接戦だったことをアピールした。
「そうなのか?」
「うん、このゲームはどの曲もフルコンボすれば100万点になるようになってるからね。ちなみに凛ちゃんは872593点で志郎さんは869742点だったよ!」
「なるほど、最初の動揺が敗因だったわけか。心の揺らぎが原因で負けるとは俺も未熟だな・・・。」
花陽からスコアを聞かされた志郎は天井を仰ぎながら自身の未熟さに歯噛みした。
「さっ、そろそろ次の勝負いくわよ。」
にこは3人の会話を切り上げさせて次の勝負の準備をするように言った。
「次の相手は花陽か。」
志郎は気持ちを切り替えて筐体の上に上がると花陽の方を見て呟いた。
「は、はい!よろしくお願いします!!」
と花陽は志郎にお辞儀をした。
「先に忠告しておくけど花陽を侮らないほうがいいわよ?運動神経は凛に比べたら低いけど、このゲームに関してはあたしと一緒に鍛えて店内5位にまでのし上がったの。いつもの花陽だと思ってたら負けるわよ。」
「ああ、俺も花陽を舐める気は微塵もないさ。」
にこの忠告を聞いた志郎は彼女の方を向かずにそれに答えた。
『START!』
そして2回戦の火蓋が切って落とされた。
(なるほど、確かに速すぎる故に普通なら殆ど気が付かないがさっきと譜面が所々変わっている・・・!譜面が変わっていなければ何とかなるがさっきと全く違うものだから速さで対応できても正確さで対応するのは難しいな・・・。)
志郎は持ち前の身体能力でなんとか対応できるようになってきたが、やはり譜面が不規則的なせいでいまいち対応しきれなかった。
(花陽はすごいな・・・。俺のような身体能力でゴリ押しではなく、ちゃんとしたテクニックで譜面を追っている・・・。いくら鍛えたとはいえμ'sの中でも下の方に位置する身体能力をテクニックで補えるのは凄いものだ。)
志郎は踊りながら横目で花陽をちらりと見て、自分でも完全に対応しきれないものに順応している様に畏敬の念を覚えた。
(志郎さんはやっぱり凄いなぁ・・・!なかなかできない所見クリアをやってみせた上にもう上級プレイヤー並みに対応できてるなんて・・・!私も負けられない!!)
志郎が花陽に対して畏敬の念を覚えていた一方で、花陽もまた凛を超える身体能力を持つ志郎に対して畏敬の念を抱くと同時に闘志を燃やしていた。
その心優しく控えめな性格から、争い事や競争の類に対して苦手意識を持っていた花陽であったが、アイドルを愛する同志であるにこと共に店内トップランカーにのし上がって来た自負や誇りが芽生えたのだろうか、はたまたアイドルを愛することに関しては誰にも負けないという自負が変質したのであろうか、それとも志郎と戦う事で雰囲気に呑まれている ――いわゆるランナーズハイになっている―― のか、花陽の心構えと面構えは1人の
にこは、そんな2人の戦いを後ろから仁王立ちで見守っていた。
(ここまでは大体想定内って言ってもいい状況だけど、それでもやっぱり落ち着かないわね。このゲームの技量なら圧倒的に上回っているはずの花陽に喰らいつこうと全力を尽くしている姿は凄まじいわ・・・。何事にも全力で挑もうとする姿は穂乃果にそっくり・・・いや、寧ろその背中から感じる気迫はあの子を遥かに超えている!少なくとも高校生が発していいもんじゃないもんも出してんじゃないの!?)
「・・・前々から思ってたけど、何者よあいつ。」
にこは一筋の冷や汗を額から頬に滴らせながら、少し引き攣った顔で呟いた。
『FINISH!』
そして再び2分ほど経過して、曲が終わった。
『PLAYER2 WIN!!』
「・・・っし!!」
結果が画面に表示された瞬間、志郎はガッツポーズを決めた。
「し、志郎くん・・・凄い・・・。」
「か、かよちん!大丈夫?」
筐体の上にへたり込む花陽を心配して、さっきまでベンチに座って休んでいた凛が花陽の元に駆け寄った。
「うん、平気だよ。ありがと凛ちゃん・・・。ごめんねにこちゃん、負けちゃった・・・。」
花陽は額の汗を拭いながら凛に礼を言い、にこに謝った。
「馬鹿ねぇ、謝る必要はないわよ。中盤でミスしたのは痛かったけどそれでも十分いいスコア出せてるんだから、いつも言ってるけど自信を持ちなさいよ。」
にこはいつものようなぶっきらぼうな口調だったが、どこか優しい雰囲気の声色で花陽の健闘を称えた。
「ああ、確かに花陽のテクニックは見事だった。途中のミスが無かったら俺は確実に負けていた・・・。」
志郎も荒くなってる息を整えながら花陽の奮闘を褒める。
「ふん、まさかあんたへの対策だったランダム譜面があんたの助けになるとはね。」
「どうやら俺にも悪運というものがあるらしい。」
にこの皮肉に対して志郎は自嘲するように笑いながら言い返した。
「・・・スコアは花陽が886423で志郎が890513よ。合計は・・・あたしたちが1759016で、志郎が1760255ね。志郎が少しリードしてるけど点差は1000点以内、次の勝負が終われば確実に決着はつくわ。」
にこはスマホで計算してスコアの合計値を出し、それを3人に発表した。
「最後の戦いは乾坤一擲の覚悟で臨む・・・か。そういうのは大好きだ。」
志郎はまるで遊園地に行くのを楽しみにしている子供のような無邪気な顔で笑いながらそう言った。
「さっ、いよいよ最後ね。やるわよ志郎。」
にこがそう言って筐体に上がろうとすると、
「にこちゃん!?流石に志郎さんを休憩させてあげないと・・・。」
「そうにゃ、いくら志郎くんでもぶっ続けはきついはずにゃ!」
と花陽と凛がにこに抗議をした。
「いや、大丈夫だ。次の試合で最後だろ?それなら休憩は必要ないさ。寧ろ休憩してしまうとせっかく身に付いた感覚を忘れてしまいそうだからな。」
志郎はそう言って2人を制止した。
「あら、いいのよ?別に5分くらい休憩しても。」
「お気遣いは嬉しいがここは遠慮させてもらおう。今は最後の戦いに向けて気持ちが高ぶってるもんだからうまく休めそうにない。」
(あいつは最初に自分の手を明かしたうえで勝負を挑んできた。ならばその策を分かった上で受けて戦う事が俺にチャンスをくれたにこに対する最大の敬意だ。ここで休憩し、少しでも体力を回復させてしまえば彼女の策がほんの少しだけとはいえ無駄になってしまう・・・。俺に勝つために必死に策を練ったにこの想いと労力を無駄にしてはならんのだ。)
志郎はさらりとにこの勧めを遠慮しつつも、彼女のこの戦いに対する覚悟と想いに報いようと決意していた。
「最後にもう一度おさらいするわよ。」
「おう。」
「あんたが勝てば私たちは3人揃ってあんた達の立てた計画に協力してあげる。でも、もし私たちが勝ったら私たちはあんた達には協力しない。分かってるわね?」
「ああ、分かってるとも。この戦いに全ての命運がかかっている、故に全力で行かせてもらうぞ。」
「誰に向かってものを言ってるのよ。あたしは大銀河宇宙ナンバーワンのスーパーアイドル、矢澤にこよ?あんたに言われなくってもいつだって全力なんだから!」
互いに啖呵を切り合い決戦に臨む志郎とにこ。花陽と凛が後ろから2人を見守る中、静かに戦いの時が迫っていた。
μ's復活を志す志郎と、矢澤にこ率いるμ's残党派・・・。戦績は両陣共に1勝1敗、スコアは志郎がリードしているがその差は1000点以内。泣いても笑ってもこの戦いで決着がつく。
壮絶な戦いの果てに勝利を掴むのは、果たしてどちらなのだろうか――――
いかがでしたでしょうか?
音ゲーの描写がすごく大変でした(小並感)。音ゲーなんてスクフェスとか太鼓の達人しかやった事ないので足でプレイするタイプのゲームを調べながら執筆しましたw
そして次回は遂に志郎とにこたちの戦いに決着が!?一体どうなるかは次回のお楽しみ!!
感想募集中です!ドシドシ書いてくださると嬉しいです!!
それでは次回もまたお楽しみください!!