ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、截流です。

父と盟友の激励で色々吹っ切れた志郎の次の手とは・・・?



それではどうぞお楽しみください!!


45話 若虎、再始動

志郎が晴彦と政康の激励によって絶望、迷いや躊躇いを振り切った次の日の朝、志郎は誰もいない屋上で空を眺めながらある人物を待っていた。

 

「――来たか。」

 

後ろを向くことなくひとりごちるように志郎が呟くと、

 

「へへ、ずいぶん久しぶりの呼び出しだな。」

 

いつの間にか幸雄が後ろに立っていた。

 

「ああ、あの日以来だな。」

 

志郎は幸雄の方に振り替えりながらそう言った。

 

「で、何の用だ?もうμ'sが実質解散状態になった今、俺たちがすることなんて何も無いはずだが?」

 

「ああ、そうだな。確かに常識的に考えればもう俺たちがすることは何もない・・・。だが、お前に頼みがある!」

 

すっとぼけたような物言いで志郎に用件をたずねる幸雄の目をまっすぐ見据えながら志郎は幸雄に話を切り出した。

 

「俺はμ'sを・・・。バラバラになってしまったあいつらの絆を元通りにしたいと思ってるんだ!!」

 

「あいつらを元通りにするだ!?」

 

志郎のものとは思えない突拍子もない提案に幸雄は思わず目を丸くして驚いた。

 

「ここ数日、あの日の事で後悔したまま塞ぎ込んでて気が触れたらしいな。そいつは無茶な話だぜ。決定的にすれ違っちまった穂乃果とことりを和解させるのが難しいのはお前だって実感してるはずだ!それに、μ'sを元に戻すなんざそれに輪をかけて無茶な話さ。当の穂乃果はスクールアイドルをやめるって言ってるし、μ'sは9人のうち誰か1人でも欠けたら立ち行かなくなる運命共同体だ!元に戻すって言うんならことりの留学を無理やりにでも阻止しなくちゃならねえ・・・。」

 

そして幸雄は志郎の提案が如何に無茶な事であるかを志郎に語る。

 

「・・・幸雄。お前は何か勘違いをしているようだが、俺は何もμ'sを今まで通りの状態に再興しようと思ってはいない。」

 

「なに!?」

 

「俺が取り戻したいのはあくまでもあの9人の結束、絆なのだ。」

 

「絆・・・。」

 

「確かに9人のμ'sが無くなってしまう事になるだろうというのは惜しい事だが、何も俺は無理やりμ'sを元に戻そうというわけではないんだ。ただ、終わるにしてもこのまま喧嘩別れのような状態で終わらせたくない・・・。終わりを迎えるならせめて空中分解という形ではなく円満な形がいい、俺はそう考えている。」

 

「なあ志郎よ、お前は本気でそう思ってるのかよ?」

 

「ああ。俺もできる事ならμ'sを終わらせたくはないが、どうしようもないというのなら俺はこの運命を甘んじて受け入れるよ。」

 

(志郎め、何があったか知らんがずいぶんとまあ澄んだ目をしてらっしゃる・・・。奴の話を聞くだけじゃ一見諦めてるようにしか見えないが、奴の目の底にある炎はまだ消えたくないと言わんばかりに燃え続けている・・・。)

 

幸雄は自分が出した答えとどうしたいかを語る志郎の目を見て、望みを完全に捨てているわけではないことを感じた。

 

「志郎、お前いい目をするようになったな。」

 

「は?確かにしょぼくれてた時よりは目つきは良くなってるだろうが・・・?」

 

「違えよ、もっと前と比べての話だ。お前は今まで『μ'sに自分の二の舞を演じさせてはいけない』という使命感で動いてただろう?だからお前さんの表情は勝頼さまだった頃ほど切迫したものではないが余裕がなかった。だが、今のお前は違う。色々と吹っ切れたおかげか、表情が今までよりも柔らかくなって余裕が出てきている。」

 

「余裕・・・。」

 

幸雄に自分の表情について指摘され、顔を手でなぞりながら呟く。

 

「そうだ。そして何より、お前の行動原理が『~しなくては』から『~したい』に変わっている!これは大きな成長だ!ようやくお前は信玄公と同じステージに立ち上がったんだ!!」

 

「俺が、父上と同じステージに・・・!?」

 

「そうだ、お前はようやく本当の意味で夢を追う男になったんだ・・・!!」

 

志郎は、自分が追い付くことのできなかった信玄と同じ領域に立ち上がったという幸雄の言葉に困惑していたが、幸雄はそんな志郎の肩を叩き、笑顔でそれを祝福した。

 

「じゃあ幸雄、もうμ'sを見限ったお前にこんな事を頼むのは勝手かもしれないがどうか俺と共にμ'sのために力を尽くして欲しい!!」

 

志郎は幸雄にもう一度自分とμ'sの支えになって欲しいと頭を下げて懇願した。

 

「おいおい!そんなに頭を下げないでくれよ水臭えな。お前に・・・否、勝頼さまに頼まれたことをこの俺が断るわけないでしょう!!」

 

幸雄は慌てて志郎の頭を上げさせ、ニカッと笑ってそう言った。

 

「そうか、ありがとう・・・!ありがとう・・・!!」

 

志郎はそんな幸雄の心強い言葉に男泣きに泣いた。

 

「おいおい、今泣くのは早すぎだろう。それに男に泣かれても気持ち悪いだけだぜ!」

 

「それもそうだな。」

 

音ノ木坂学院の屋上にはしばらく男2人の笑い声が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、じゃあこれからどうするか考えようか。」

 

ひとしきり笑った後、幸雄はそう言って屋上にどかっと座り込んだ。

 

「これからどうするか・・・か。それなりに策は考えてきているが・・・。」

 

「そうじゃねえよ。今言ってるのは俺たちが目指すべき終着点の話だ。」

 

「最終目的だと?」

 

「そうだ。今回のこの騒動の決着をどう付けるかで俺たちのこれからは大きく変わる。場合によっちゃ廃校が阻止されたこの音ノ木坂学院には俺たちは用済みだって事で出て行くことになるなんてことも起こりうるかもしれないからな。」

 

幸雄はこの方針の選択が自分たちの運命を左右するかもしれないという事を険しい表情で説明した。

 

「俺の方針はμ'sの絆を取り戻すこと、それ以外には何もない。」

 

「本当か?」

 

「なっ・・・、俺が嘘をついてると言いたいのか!?」

 

志郎は幸雄の訝しむような物言いに憮然と言った様子で抗議した。

 

「別に俺はお前が嘘をついてるって言ってるわけじゃあねえよ。ただ、それがお前の本懐なのかって聞いただけさ。」

 

幸雄はそれに対して志郎を宥めるように答えた。

 

「少なくとも俺の目にはμ'sを復活させること(・・・・・・・・・・)こそがお前の本懐のように見えるんだがな。」

 

「そう・・・なのか?」

 

「あ?もしかして自覚が無かったか?」

 

幸雄はむきになって反論するかと思ったら、きょとんとしてたずねてきた志郎の反応が予想外だったのか、拍子抜けした。

 

「とにかく俺とお前は400年越しの空白期間があったとはいえそれなりに長い付き合いだったんだ、大体お前のやりたい事は分かるさ。さっきお前の目を見た時にな、俺はお前の目に炎を見たのさ。」

 

「炎?」

 

「そうだ、大きな野望を抱いた者が燃やす野心の炎・・・信玄公の目にもそれがあった。お前は心の奥底でμ'sを復活させたいという野心を燻らせてるんだよ。」

 

幸雄は志郎の目を指差しながら彼の本心を言い当てるように言った。

 

「・・・確かにそう考えはしたさ。でもそれは難しいと思ったし、お前だってさっきは無理な話だって言ってただろ?」

 

「ああ、確かに言ったな。だが俺はお前の野心の炎を宿したその目を見た瞬間にその意見を覆した!お前となら・・・、さらなる領域に立ったお前となら成し遂げられるってな!!」

 

「幸雄・・・。」

 

「お前だってμ'sを復活させること考えはしたんだろ?だったらやってやろうぜ!お前の野心と勇気、そして俺の知略で!奇跡を起こしてやろうじゃねえか!!」

 

「ああ・・・そうだな!!」

 

志郎は一瞬躊躇ったが、奇跡を起こしたいという自分の心に従って幸雄の想いに応えた。

 

「よし!じゃあ話を戻そう。お前さっき策はそれなりに考えたって言ってたが、何かいいアイデアがあるのか!?」

 

「ああ、実は昨日徹夜して考えたんだ。」

 

「おお!それで?いったいどんな策が!?」

 

「それはな・・・。説得だ!!」

 

志郎が出した策は説得。ただそれ一つだった。

 

「・・・は?」

 

「だから説得だよ!9人全員を説得して回ってだな―――」

 

呆然としている幸雄に志郎は策の内容を説明したが、

 

「いやいやいやいや、そう言う事を聞いてんじゃねえよ。お前、まさかそんな単純で捻りのねえ初歩中の初歩の策を考えつくのに徹夜したって言うのか!?」

 

と、幸雄は呆れた様子で志郎の言葉を遮った。

 

「いや、他にもいろいろ考えはしたんだがどうにも気の利いたものが浮かばなくてな・・・。これを思いついたときにはもう朝の6時になってたわ。ふあぁ・・・。」

 

志郎は苦笑いしながら弁明するとあくびを一つ漏らした。

 

「はぁ・・・。そういやお前は脳筋だったな。なんで俺に相談しなかった!!?」

 

幸雄はため息をつき、自分に意見を求めなかったのかをたずねた。

 

「だって昨日までお前の事だから見限ったμ'sの事を相談しても取り合ってくれないだろうって思ったんだよ!!」

 

「確かに見限ったのは事実だがそれはお前がしょぼくれててμ's再起は無理だって思ってたからだっつーの!!」

 

「そんなの知るか!!」

 

と、志郎と幸雄は互いに言い争っていたが・・・。

 

 

 

 

 

「ぜえ、ぜえ・・・。まあ確かに、志郎の言う通りここは地道に説得した方がいいかもな。変に気を回して妙な事をすれば地雷を踏みかねん。」

 

「はぁ、はあ・・・。そうだろう?」

 

しばらく経つと、頭も冷えて来たのか息を切らしながら作戦会議を進めていた。

 

「だが、9人を相手に片っ端からってのはあまりにも非効率だ。」

 

「じゃあどうすればいいんだ?」

 

「とりあえず俺たちが二手に分かれて説得すりゃいいのさ。」

 

幸雄は、9人の説得を2人で分担して行う事を志郎に提案した。

 

「それは名案だ!で、どのように分担を分けるんだ?」

 

「こんな事もあろうかと、あの日以降のメンバーの動きを3つにカテゴライズしておいたぜ!」

 

幸雄はどこからかメモ帳を取り出して得意げにそう言った。

 

「まあ、あいつらの動向を大まかに分けると帰巣派、残党派、そして不動派に分かれているんだ。」

 

「帰巣派に残党派、そして不動派か・・・。誰がどのグループに当てはまるんだ?」

 

志郎が首を傾げてたずねると、幸雄は待ってましたとばかりに話を始めた。

 

「まずは帰巣派だな。これはμ'sに所属する前からやっていたことに専念してるタイプだ。弓道部の海未と、生徒会のツートップである絵里と希、そして昼休みと放課後に音楽室に入り浸ってる真姫がそれにあたる。」

 

「なるほど。」

 

志郎は幸雄の的確な分析に舌を巻きながら頷く。

 

「次に残党派は、にこと凛と花陽だな。にこはμ'sが活動休止になった後も凛と花陽を誘ってスクールアイドルとしての活動を続けているんだ。だから解散してるわけじゃないが残党って名付けた。恐らく今も神田明神の男坂でダッシュしてるとこだろうな。」

 

「それで残党派か・・・。」

 

「そして一番の難物にしてこの騒動の台風の目、不動派だ。ここまで来たら誰がこのグループにいるか分かるよな?」

 

「・・・穂乃果とことりか。」

 

「その通り。ことりは留学の準備で忙しいのか学校を休んでて、穂乃果は昨日までのお前と同じように無為な毎日を送っている。」

 

「これといった動きを見せてない事から不動というわけか・・・。」

 

「そういうこった。梃子でも動かせそうにねえって意味でもあるが・・・まあ一番の難物であることに変わりはねえわな。」

 

志郎の言葉に幸雄はうんうんと頷きながら軽い冗談交じりに答えた。

 

「みんなの動向はそれなりに分かったが、これでどうするつもりなんだ?」

 

「これからメンバー全員を説得するんだろ?だったらこれを活かさない手は無いってことだ。1人1人しらみつぶしに当たるより複数人を相手にした方が効率的だろ?」

 

「なるほど、グループごとに説得していけばいいわけだ!だが、誰がどこを担当するかが問題だな・・・。」

 

志郎は幸雄の言葉に合点がいったように指を鳴らすが、誰がどのグループを、そしてどのメンバーを説得すべきか考え込み始めた。

 

「それについてはもう答えは出てる。いや、今分析して割り出した。」

 

「おお!それで、誰がどこを担当すればいい!?」

 

志郎は身を乗り出して幸雄にたずねる。

 

「とりあえず真姫とことりは俺が担当する。」

 

「2人だけ!?」

 

「当ったり前だろ!?俺の調略があいつらに通じにくいのは知ってるだろうが!!」

 

幸雄は素っ頓狂な声を出した志郎に対してムキになって抗議した。事実、真姫にはおべっかの類が通じないと見切り、オープンキャンパス前に絵里にゆさぶりをかけた時も彼女には通じなかったり、そもそも海未とは本質的に相性が悪い(仲が悪いわけではない)などと、様々な意味で幸雄がμ'sのメンバーと相性が良くないことが今までの出来事から伺う事ができる。

 

「確かに前々からそんな事言ってたな。それにしてもなぜその2人なんだ?」

 

志郎はそんな事もあったかと今までの出来事を思い返して苦笑したあとに、どうして幸雄がことりと真姫の2人に狙いを絞ったのかをたずねた。

 

「まずは真姫だな。あいつはメンバーの中でも群を抜いて冷静かつ理性的な奴だとここ数ヶ月で把握できている。そんなわけで9人の中で最もスムーズに交渉ができる相手だと考えてターゲットにした。」

 

「なるほど。確かに真姫は理詰めで話し合うと納得してくれる気がする。」

 

志郎は幸雄の説明に納得して頷く。

 

「だがことりを選んだのは解せんな。あいつはお前にとっちゃかなり分が悪い相手だろうに。」

 

「だと思うじゃろ?」

 

志郎は幸雄がことりを選んだことに対して疑問と懸念を感じていると、幸雄は志郎の言葉に対して悪だくみをしているような表情をニヤリと浮かべる。

 

「・・・何かアテでもあるのか?」

 

「ふふふ・・・。確かにことりは俺にとっちゃ分が悪すぎる相手ではあるが、今回の一件ならむしろその相性をひっくり返して俺がマウントを取る事ができるのよ!」

 

訝しむようにたずねる志郎に対して幸雄はウキウキと楽しそうに語る。

 

「はぁ・・・。お前がそうやって楽しそうにしてると大抵ロクでもない事を考えてると予想はつくが、とりあえずことりにどんな手を使う気なのか教えてみろ。」

 

志郎は呆れたようにため息をついて幸雄のことりに使う策を聞き出そうとする。もちろん内容次第では反対するつもりであった。

 

「いいぜ。今回のは特上だからあまり人には漏らしたくないが、お前なら特別だ。それはな・・・。」

 

幸雄はわざとらしく勿体ぶるような仕草をしてから、志郎に対ことり用の策の全貌を耳打ちで教えた。

 

 

 

「正気か貴様!?」

 

幸雄の策を聞いて驚いた志郎は思わず勝頼だった頃の口調に戻っていた。

 

「耳元でそんな大声出すなって・・・。正気じゃなかったらこんな事考えつかんよ。」

 

幸雄は志郎の大声でキーンと耳鳴りする耳を押さえながら志郎にそう言った。幸雄自身は自分は正気であると言い張っている。

 

「お前の性分はそれなりに分かっているつもりだがそれは・・・。」

 

「何か不備でも?」

 

「いや、不備は無いしお前なら必ず遂行できると確信している・・・。だがこれはやり方があまりにもマズいし何より、失敗すればことりの心に大きな傷と誤解を植え付けた状態で旅立たせてしまうし、もし成功したとしてもお前とことりの仲は確実に決裂する(・・・・・・・・・・・・・・・・)事になるぞ!!」

 

志郎は幸雄が考えついた策のリスクがあまりにも大きすぎることを懸念していた。リスクの大きさが大きさなだけに志郎は荒い口調で幸雄に詰め寄る。志郎としては無二の友である幸雄に自分を犠牲にするような策を取って欲しくないという思いがあった。

 

「いやそんなリスクなんざこの策を考えついた時から承知の上に決まってんじゃん。志郎こそ正気か?大業を為すにはそれなりにリスクを背負うのは当然だろうに、こんな時にそんな事でゴチャゴチャ言ってちゃμ's復活は成し遂げられないぜ?」

 

幸雄は突き放すような目で志郎に、自分の背負うリスクは当然のものであることを説明した。

 

「確かにお前の言い分は分かるがしかし・・・。」

 

「まあ、お前はこんな俺でも気遣ってくれるくらい優しい奴だからな。気持ちは分かるがお前は穂乃果に次ぐμ'sの第二の旗印でもあり、あいつら9人の道を照らす篝火でもあるんだ。そんな奴が汚れ仕事をする必要もねえし、俺みたいな悪だくみ大好き男に頼ってくれりゃそれでいいのよ。泥をひっ被るのは俺だけでいい。」

 

幸雄はさっきの冷徹な態度から一変して優しい表情と声で志郎を宥めた。

 

「・・・分かった、そこまで言うなら真姫とことりについてはお前に一任する。何としてでもしくじるなよ?」

 

幸雄の言葉に折れた志郎は念を押すように2人の説得を改めて幸雄に任せた。

 

「必ずや成し遂げてみせるぜ。」

 

幸雄はガッツポーズでそれに応える。

 

「じゃあ俺は残党派と、帰巣派の絵里、希、海未、そして穂乃果を説得すればいいんだな?」

 

「そうなるな。あ、それと一つアドバイスしてやるよ。」

 

「アドバイス?」

 

「ああ、実は残党派の連中は明後日に3人でライブを開くつもりだからこれに便乗すると良いと思うぜ。」

 

「なるほど、上手く行けばμ'sの復活ライブに持ち込めるわけだな!?ありがとう幸雄。」

 

志郎は耳よりの情報を教えてくれた幸雄に感謝した。

 

「いいって事よ。」

 

幸雄は照れ臭そうに笑った。

 

「それで、作戦決行はいつにする?」

 

志郎は次に、作戦決行日時をいつにするか幸雄にたずねた。

 

「ことりが日本を発つのは明後日だ。やるなら今日の放課後だ!」

 

「今日だと!?急すぎないか?」

 

「『疾きこと風の如し』って言うだろ!?こういうのは早いほうがいい。それにその方が不測の事態に対応しやすい。」

 

いきなりすぎる作戦決行に困惑する志郎に対して幸雄は風林火山の風の部分を引用して自信満々な様子でそう言った。

 

「た、確かにそうだな・・・。じゃあ今日の放課後に生徒会室に―――」

 

「馬鹿野郎!生徒会じゃなくて残党派のところに行け。」

 

「な!?生徒会室の方が近いだろ?」

 

「今日はあいつらは放課後の練習で神田明神に行くはずだ。」

 

「なんでそんな事が分かるんだ?」

 

「ちょうど1週間前の練習メニューが神田明神の男坂でのダッシュだからな。」

 

「すごい・・・。」

 

志郎は幸雄の情報収集能力に舌を巻いた。

 

「とにかく、放課後になったら神田明神で残党派を説得してから次は学校に戻って弓道場に行って海未、そして最後に生徒会室って順路にした方が効率がいい。」

 

「すごいな・・・。参考にさせてもらおう。」

 

「とりあえず俺はゆっくり真姫の説得に取り掛からせてもらうぜ。」

 

「そう言えばことりの説得は今日やるのか?あいつは最近休んでて学校に来てないが・・・。」

 

志郎は幸雄にことりの説得をいつやるかたずねるが、

 

「あいつの説得は出発前だ。」

 

とだけ答え、

 

「出発前だと!?それじゃさすがに色々無理があるだろ!!」

 

という志郎の言葉には答えなかった。

 

 

 

 

 

「それにしても、一度は見放した俺に協力してくれてありがとうな幸雄。」

 

作戦会議も大方終わった頃、志郎は幸雄に対してもう一度礼を言った。

 

「なんだよいきなり改まって。」

 

「いや、お前には本当に感謝してもしきれないと思ってな・・・。」

 

「いいんだよ。俺はお前のそのイキイキとした目を見てお前がもう一度協力するに値する男だって思って付き合ってるだけなんだからさ。・・・それにあいつ(・・・)との約束もあるしな。

 

幸雄は志郎に対して照れ臭そうに感謝の言葉を撥ね退けつつ、志郎に聞こえないくらいの小声で何かを呟いた。

 

「ん?最後なんか言ったか?」

 

「いや、何でもねえよ!それよりも必ず成功させようぜ。」

 

「ああ、そうだな・・・。穂乃果に謝って、みんなを説得して・・・、必ずμ'sを復活させてみせるぞ!!」

 

志郎は太陽を掴むように空に向かって手をかざして決意をさらに固めた。

 

「なあ志郎!せっかくだからアレ(・・)をやろうぜ!!」

 

アレ(・・)?」

 

志郎は幸雄の突然の提案に首を傾げた。

 

「俺たちは400と数十年の時を超えて名前も身体も、そして内側に流れる血もかつてとは全く違う人間に生まれ変わっちまったが、魂は昔と変わらず武田家の旗の元に集った時のままだ。となるとやる事は決まってるだろ?」

 

「・・・あ!アレ(・・)か!!そうだな!俺たちは名前や身体、そして流れる血が変わろうとも武田家と共にある!だとしたら武田勝頼たる俺ならアレ(・・)をやらねばな!」

 

志郎は幸雄の言葉に心を躍らせて彼の言葉に応えた。

 

今の2人は、『諏訪部志郎』と『武藤幸雄』という現代に生きているどこにでもいそうな男子高校生であったが、その魂は紛れもなく群雄割拠の戦国乱世を生きた戦国武将、『武田勝頼』と『真田昌幸』そのものであった。

 

 

 

「御旗楯無も御照覧あれ!!」

 

 

 

志郎が天に拳を掲げて叫んだその言葉は、戦国時代において甲斐の国を治めた武田家の当主が戦に出陣する際に大広間に飾ってある家宝の『楯無(たてなし)の鎧』に対してかけたという誓いの言葉だ。

 

このμ'sの復活を懸けた作戦が志郎にとっては戦国時代で経験したいくつもの戦いと同列に並ぶほど重要かつ心を引き締めて臨むべき事であることが分かる。

 

「おお!!」

 

幸雄も志郎の誓いの言葉に続いて鬨の声を上げる。幸雄もかつては武田家臣だっただけにこの誓いの言葉を聞くだけで全身の血が熱く燃え滾っていた。

 

「よし、行くぞ幸雄!」

 

「ああ、武運を祈る。」

 

不退転の決意を立てた志郎と幸雄は互いの拳を打ち合わせて互いの武運を祈って屋上から降りて行った。

 

 

 

 

いよいよ志郎と幸雄の、μ'sの行く末を左右する2人だけの戦いが幕を開けようとしていた。




いかがでしたでしょうか?


今回はハーメルンの文字の拡大や縮小、色付けといった今まで他の小説で見て来たもののどうやってやるのか分からなかった特殊な機能を用いてみました!!

誓いの言葉と共に動き出した志郎と幸雄。μ'sの復活を志した志郎、意味深なつぶやきに宿る幸雄の隠された真意、自分自身の在り方を見つめ直すために敢えてバラバラに動くμ'sのメンバー、そしてあの日から動きを見せない穂乃果やことりの互いに対する想い・・・。様々な想いや思惑が交錯する中、遂に志郎の戦いが幕を開ける!


感想があればどしどし書いてくださると嬉しいです!


それでは次回もどうぞお楽しみください!!

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