ラブライブ! 若虎と女神たちの物語   作:截流

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どうも、截流です。

いよいよアニメ1期11話も中盤に差し掛かってきました!あのシーンに向けてシリアス度も少しずつ少しずつ盛り上がっていきますよ!!

あと15000UA突破しました!!読んでくださってる読者の皆様、本当にありがとうございます!!


それではどうぞお楽しみください!!


38話 最高のライブのために

学園祭のライブに関する会議がまとまり、いよいよ学園祭に向けての練習が本格的に始まった。だが、屋上にはいつもいるはずの志郎と幸雄の姿がなかった。

 

 

 

 

 

「いやーほんと悪かったてば志郎。」

 

「・・・。」

 

とある空き教室で幸雄は志郎に謝り倒していた。

 

「俺もお前とみんなの事を考えて良かれと思ってやったんだよぉ!」

 

「・・・それは重々承知してる。」

 

「正直俺もこうなることが分かってたらお前の事は止めてなかったさ。」

 

頭を掻きながら志郎に言い訳を言う幸雄の前には、たくさんの資材が転がっていた。

 

「過ぎたことは気にするな幸雄。俺もまさか屋上でのライブステージを造るという事は予想外だったんだからな。」

 

「そうそう、ほんっと完全に頭から抜けてた。この俺ともあろうがとんだ誤算をやらかしたぜ・・・。」

 

「こうなるとあいつらの練習に顔を出せなくなるな。」

 

「そうだな~・・・。」

 

2人はそう言うとため息をついたが、

 

「いやいや、弱音を吐いてはおれんぞ!あいつらのライブを成功させるためにも俺たちがあいつらに相応しい最高のステージを作らなければならんのだからな!」

 

と、志郎は自分の頬を両手で叩いて気合を入れた。

 

「そうだよな!俺たちがやらなきゃあいつらのライブは始まらねえ!泣き言はもうやめにして作業に取り掛かるか!!」

 

幸雄がそう言って用意されていた工具を持って作業に取り掛かろうとすると、

 

「ちょっと待った!」

 

「私たちを忘れてもらっちゃ困るね!!」

 

「私たちも手伝うよー!!」

 

と、扉の方から声が聞こえた。

 

「そ、その声は!!」

 

「ヒフミ!!」

 

志郎たちが声のした方に振り向くと、そこにはヒデコとフミコ、そしてミカの3人組が立っていた。

 

「せっかく穂乃果たちのライブのためのステージを作るんだからさ、初めてのライブからずっとあの子たちを陰からサポートしてきた私たちも呼んでくれなきゃ!」

 

「しかしヒデコ、これはかなりの力仕事になるぞ。それでも手伝ってくれるのか?」

 

「平気平気!PV作る時だって一緒に校舎中に飾りを付けたりライブのカメラワークとかで鍛えられたし、それに私たちはずっと一緒に穂乃果たちを支えて来た仲じゃない!」

 

彼女が言うように、にこが加入した後に作ったPVでの校舎の飾りはヒフミトリオと、志郎と幸雄の2人がそれぞれ担当を分担して共同作業で作って飾ったのだ。今まで語られることこそは無かったが、彼女たちはこの仕事だけでなくファーストライブからずっとμ'sを陰から支えて来た戦友ともいえる関係だったのだ。

 

「ああ・・・、そうだったな。じゃあ今回もμ'sのためにひと働きするぞ!!」

 

『おおー!!』

 

志郎が号令をかけると、他の4人もそれに盛大に応えた。

 

「さて、ステージは屋上に作ることになったわけだが・・・。」

 

「屋上!?それだったら屋上で作業した方が早くない?」

 

「いや、屋上はあいつらの練習スペースだ。邪魔になりかねん。」

 

「じゃあどうするの?」

 

「俺にいい考えがある。」

 

「なになに武藤くん?またいつものいいアイデア?」

 

ミカが身を乗り出して幸雄の考えがどんなものなのかたずねる。

 

「ああ。今回は『墨俣一夜城形式」で造るのが得策だと思うんだ。」

 

「墨俣一夜城?」

 

「簡単に説明するとだな、まずここでステージを小分けにした状態で作っちまうんだ。そんで前日か前々日に屋上に運んで組み立てる寸法よ。」

 

「なるほど、確かに小分けにされているから屋上に運ぶ負担が軽くなるな!」

 

幸雄の提案に志郎は賛成した。

 

「もちろん何往復かする羽目になるが、志郎もヒフミも大丈夫だよな?」

 

『もちろん!!』

 

「よし!じゃあそう決まったら作業の分担だな。効率的に進めるには・・・。」

 

こうして志郎と幸雄、そしてヒフミトリオの5人によるステージ作りが進められていくことになった。

 

 

 

そしてそれぞれが自分たちのやるべき事に時間を費やし、力を注ぎ、気が付けば学園祭まであと1日に迫っていた。

 

「ふわあぁ・・・。」

 

「ちゃんと寝ているのですか?」

 

部室で着替えながらあくびをする穂乃果を見た海未は心配するように言ったが、

 

「えへへ、つい朝までライブの事を考えちゃうんだよね。今からワクワクして眠れないよ!!」

 

と穂乃果は平気な様子だった。

 

「子供ねえ・・・。」

 

「にこちゃんには言われたくないよ!」

 

「どういう意味!?」

 

「あ、そうだ!」

 

穂乃果はそう言うと突然、ステージ作りに行っててその場にいない志郎と幸雄以外のメンバーの前で突然踊り始めた。

 

「どう!?昨日徹夜で考えたんだ!」

 

なんとそれは新しい振り付けだった。

 

「ちょっと、振り付け変えるつもり!?」

 

「それはちょっと・・・。」

 

「絶対こっちの方が盛り上がるよ!昨日思いついたとき、これだ!って思ったんだ!!」

 

穂乃果の提案に驚くにこと花陽の言葉を押しのけるように穂乃果は新しい振り付けをみんなに勧める。

 

「ことり、これは流石に・・・。」

 

穂乃果の様子を見て流石に諫めなくてはいけないのでは、と思った海未はことりにも穂乃果を諫めるべきかをたずねるがことりは、

 

「い、いいんじゃないかな・・・。」

 

と苦笑いで曖昧な返事をするだけだった。

 

「だよね!だよね!!」

 

穂乃果はことりの言葉を聞いて目を輝かせた。結局その場で反対する者は誰も出てこなかったので、穂乃果の提案通りに振り付けを変えることが決まった。そして練習では、本番に向けてのおさらいに加えて新しい振り付けの練習も行う事となった。

 

 

 

 

「はぁ・・・!もう足が動かないよぉ~!!」

 

練習が一通り終わると、にこは屋上のフェンスの側に座り込んでそう叫んだ。本来ならば学園祭本番に向けてのおさらいをするだけのはずが、それに加えて新しい振り付けの練習も加わったことで運動量も段違いに増えたのだから、身体能力が特別高いわけでも無いにこが弱音を吐くのは無理もない話である。

 

「まだダメだよ!さっもう一回!!」

 

「ええ!また~!?」

 

「いいからやるの!!まだまだできるよ!!」

 

「いや~!!」

 

穂乃果はフェンスに掴まるにこを引っ張るが、にこも盛大に抵抗していた。

 

「私たちはともかく、穂乃果は少し休むべきです。」

 

そんな2人の様子を見かねた海未が穂乃果に休憩するように促した。

 

「大丈夫!私燃えてるから!!」

 

「夜も遅くまで練習してるんでしょう?」

 

「だって、もうすぐライブだよ!!」

 

穂乃果は海未のいう事を聞くような様子は微塵もなかった。

 

「・・・ことり。」

 

「え、私?」

 

「ことりからも何か言ってやってください!」

 

自分だけでは穂乃果を抑えられそうにないと思った海未はさっきと同じようにことりにも穂乃果を止めるように頼むが、

 

「私は・・・穂乃果ちゃんがやりたいようにやるのが一番いいと思うよ・・・。」

 

ことりはさっきと同じように穂乃果を肯定するような言葉を口にした。

 

「ほら!ことりちゃんもそう言ってるよ!!」

 

「・・・。」

 

2対1となっては流石の海未も分が悪いのか何も言い返せなかった。しかし、なんとか絵里や希たちが暴走する穂乃果を宥めたことで、本番前日の練習は何とか終わった。

 

(穂乃果はいつも以上に暴走しているような気がするし、ことりの様子もおかしい・・・。普段冷静な志郎があそこまで感情的になって恐れていた事がここまで起きているのは少しまずいかもしれませんね・・・。)

 

みんなが屋上から部室に戻る時、海未は部室へと足を進めながら数日前の志郎の様子を思い浮かべながらどうするべきか考えていた。

 

 

 

 

そして、μ'sの練習が終わってからしばらく経ち・・・。

 

「ふう、これで後は明日の本番まで待つだけだな幸雄!」

 

「そうだな・・・。ぜえ、ぜえ・・・。ここ最近で一番体力使ったぜ・・・。」

 

志郎たちは穂乃果たちが練習を終えると、それと入れ替わるように今まで作っていたステージの部品をヒデコ達と屋上に運び込み、それを組み上げて機材をセットしていたのだ。

 

「結局あいつらの練習に顔を出すことは出来なかったが・・・。」

 

「まあ、あいつにはストッパー役である海未が付いてるんだ。平気だろ。」

 

穂乃果たちの事を案ずる志郎に対して幸雄は汗を拭きながら楽観的に答えたが、

 

「いや、そうでもないらしい・・・。」

 

そう答えた志郎は険しい表情で屋上の入り口を見ていた。幸雄が入口の方を見てみると、そこには海未が立っていた。彼女もまた、志郎ほどではなかったが険しい表情をしていた。

 

「よお海未!練習の方はどうだったよ?」

 

幸雄は何とか空気を変えようといつものおどけた口調で海未に話しかけるが、彼女の表情が緩むことはなかった。

 

「・・・穂乃果の事だな?」

 

志郎は海未の表情から、彼女が何を言いたいのかを察して問いかける。

 

「はい、穂乃果の事なんですが・・・。」

 

海未は今日あったことを全て2人に話した。志郎の憂いが着実に現実になろうとしている今の状態を、包み隠すことなく全て―――――

 

 

 

 

「そうか・・・。」

 

海未から事情を聞いた志郎はただ静かにそう言うだけだった。

 

「おいおい、やけに落ち着いてるじゃねえか。もしかして諦めちまったのか?」

 

幸雄はそんな志郎の様子を意外に思っていた。

 

「いや、諦めたわけじゃあない。ただ、俺たちが何をしようとこうなるのだなと改めて実感させられただけさ。とはいえ俺は座して滅びを待つほど諦めのいい男ではないからな。」

 

幸雄の言葉に応える志郎の目がいつもよりも鋭く光ったのを海未は感じた。

 

「ところで海未、穂乃果は最近夜遅くまで練習していると言ってたがどこでやっているかは知らないのか?」

 

「はい・・・。ですが多分穂乃果なら神田明神の男坂に行くと思います。」

 

「そうか。なら今夜は張り込んでみるか。」

 

『なっ!?』

 

志郎の言葉に2人は驚きを隠せなかった。

 

「志郎!流石のあいつも今夜練習に出るとは限らねえだろ!?もしあいつが出てこなかったらどうすんだよ!」

 

「来なかったら来なかったで済む話じゃないか。別に俺はあいつらのように体力は使わんのだからな。それと海未、もしよかったら寝る前にあいつに釘を刺しておいてくれると助かる。」

 

「分かりました。私も穂乃果に話しておきたいことがあるので・・・。」

 

「ことりの事か?」

 

志郎は抱えていたもう一つの懸念を思い出すように海未にたずねた。

 

「はい。ここのところことりの様子がおかしいので・・・。志郎たちは何か心当たりはありませんか?」

 

「ことりの様子がおかしいのに気付いてはいたが、理由までは・・・。」

 

「俺も志郎と同じく理由は知らん。俺の目は超能力じゃねえから流石に人の心の内にあるものまでは見透かせませんわ。」

 

志郎と幸雄は首を横に振りながら答えた。

 

「心配だけしてても気が滅入るだけだし、何も始まらねえよ!とにかく明日のライブを成功させるって事だけ考えようぜ?な?」

 

「そうだな。」

 

「ええ、幸雄の言う通りです。」

 

幸雄の励ましの言葉に志郎と海未は頷いた。

 

「じゃあ海未。明日のライブ楽しみにしてるぞ。」

 

「最っ高のパフォーマンスを期待してっからな!」

 

「はい、期待しててくださいね。」

 

3人はそう言って屋上を後にした。

 

そしてその夜・・・、海未は穂乃果に電話をかけてみた。

 

 

 

「くしゅんっ!え、ことりちゃん?別にいつもと変わらないと思うけど・・・。」

 

『そうでしょうか・・・。』

 

「海未ちゃんは何か聞いたの?」

 

『いえ、私は弓道の練習もあったので最近はあまり話せてないのです。』

 

「大丈夫じゃないかなあ?きっとライブに向けて気持ちが高ぶってるだけだよ!」

 

『・・・ならいいのですが。』

 

「くしゅん!」

 

『ほら、明日は本番。体調を崩しては元も子もありません、今日は休みなさい。』

 

穂乃果がくしゃみをするのを聞いた海未は、話を切り上げて穂乃果に寝るように言った。

 

「はーい。」

 

そう言って穂乃果が電話を切ると、ラブライブの公式ホームページから通知が来た。開いてみると、21位だったグループが20位に上がっていた。それを見た穂乃果の表情は険しくなっていた・・・。

 

 

 

「また行くの!?」

 

「うん、ちょっとだけ。」

 

「もう時間遅いし、お母さんに怒られるよ?」

 

雪穂はまた(・・)自主練に行こうとする穂乃果を引き留めようとした。

 

「ごめん、すぐ戻るから。」

 

とだけいって穂乃果は家を出るが、外は雨が降っていた。

 

「うわぁ、雨ぇ?」

 

穂乃果は一瞬今日は練習をやめるかどうか迷ったが、意を決してフードを被って走り出した。

 

 

 

「・・・。」

 

穂乃果との電話を終えた後、海未は縁側で不安げに雨の降る夜空を眺めていた。

 

 

ピリリリリリ!

 

 

すると携帯が鳴りだしたので画面を見てみると、かけてきたのはことりだった。

 

「ことり?」

 

『海未ちゃん・・・。私・・・。』

 

ことりの声は何か思いつめているような雰囲気だった。

 

『あのね、実は――――――』

 

ことりは躊躇いながらも、海未に胸中に秘めていたことを話し始めた。

 

 

 

 

 

一方その頃、穂乃果は雨が降りしきる中で神田明神の階段を走っていた。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ・・・。」

 

「思った通りだ。やはり張り込んでて正解だったな。」

 

階段の一番上まで登り切ると、そこには傘も差さずに仁王立ちしている志郎がいた。

 

「志郎くん!?こんなところで何やってるの傘も差してないし・・・。風邪ひいちゃうよ!!」

 

「それはお互い様だろう。それに俺はお前とは違って、明日踊るわけでも無ければ最近無理をしているわけでも無い。」

 

穂乃果の言葉に応える志郎の声は、普段よりも少し冷ややかに感じられる。

 

「でも志郎くんが・・・!」

 

でも(・・)だって(・・・)もない!!お前は自分の立場を分かっているのか!!」

 

志郎は近所迷惑になるのも顧みずに穂乃果に向かって激高しだした。

 

「明日は学園祭本番なんだぞ!明日のライブでラブライブに出られるか否かが懸かっていると言ったのは貴様ではないか!!勢いに乗りすぎるのは危ないとは前々から思っていたのを幸雄は『考えすぎだ』と言ったが結局はその通りではないか!!ただでさえ最近は夜遅くまで練習していて睡眠時間さえロクに取れていないというのにこの雨の中でランニングをするというのは正気の沙汰ではないぞ!!それでもし体調を崩してライブが失敗したらどうするつもりなのだ!!!」

 

「志郎くん・・・。」

 

穂乃果たちの前ではめったに感情的にならない(ライブの曲を決める時に一度なってはいるが)志郎の剣幕に穂乃果は反論さえできなかった。ただ感情的に怒鳴っているだけではなく語っている言葉もちぐはぐではあるが、どれも正論であったのも理由の一つだろう。

 

「でも・・・。」

 

「でもなんだ?」

 

「でも仕方ないじゃん!!私だって不安だったんだもん!!ラブライブの予選のランキングで下にいる他のグループが追い上げてるのを見たら『私も頑張らなくっちゃ!』って思えてきちゃうんだもん!!ここで頑張らなかったら出れなくなっちゃうかもって思えてきちゃうんだもん!!」

 

穂乃果も自分の感状を吐き出して志郎に言い返した。雨に濡れているし暗いので分かりにくいが、その顔が泣いているようにも志郎には見えた。

 

「穂乃果・・・。」

 

志郎は穂乃果の反論に言葉が出なかった。いや、出なかったのではなくて何も言う事ができなかったのだ。その感情を吐き出す姿が、見えざる不安と向き合って健気に自分なりの方法で戦う彼女の姿が、かつての自分に見えたからだ。

 

その姿は本来武田家を継ぐことはなかったはずが、運命のいたずらによって武田の後継者となり、何をするにも偉大すぎる父親と比べられ、家中をまとめ重臣たちの信頼を得るために、ただひたすらに戦う事しかできなかったかつての自分、武田四郎勝頼の姿をそのまま写したように志郎には見えた。

 

「・・・とにかく、今日はもう帰るぞ。それで体をしっかり拭いて温めてから寝ろ。」 

 

志郎は感情が溢れてきて涙が出そうになるのを抑え、穂乃果の手を無理やり引いて階段を降り始めた。

 

「で、でも志郎くん・・・!」

 

穂乃果は抵抗しようとするが、

 

「さっきも言ったが異論は認めん!!とにかく今日はホントに帰れ!!嫌だというなら殴り飛ばしてでも帰す!!」

 

「ご、ごめんなさい・・・。」

 

志郎の『殴ってでも穂乃果を家に帰す』という強すぎる意志の前には流石に恐れ知らずな穂乃果でも大人しく言う事を聞かざるを得なかった。そしてなんとか穂乃果を家まで送り、自分もまた雨の中を走って家に帰った。

 

 

 

「ふう。あまりにも乱暴なやり方ではあったがこれで明日への憂いは取り除けたはずだ・・・。俺もさっさと寝るとするか。」

 

志郎は体を拭いて着替えてからベッドに入ると、明日に備えて眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「先陣はこの山県昌景が承った!!武田の精鋭たちよ、我が赤備えに続け!!」

 

全身を深紅の鎧に身を包んだ将、武田四天王の1人である山県昌景が吼え、彼と同じように赤い鎧に身を包んだ将兵たちが前へと進み、その後ろから数多くの強者たちが続いて走り出した。

 

「このような柵などで我らを阻めると思うな!!打ち倒せええ!!」

 

「鳶ヶ巣山の砦が落ちた以上我らには退路はない、突き進め!!」

 

六文銭の旗を掲げて奮戦する真田信綱、昌輝の真田兄弟率いる真田隊や土屋昌続率いる土屋隊といった武田の誇る猛将たちが次々と織田軍の仕掛けた馬防柵を打ち倒していき、三段ある防衛線があと一段だけとなっていた。

 

数こそは30000の大軍を率いる織田軍の半分以下である12000人の兵を率いる武田軍は圧倒的に不利であったが、最強の名をほしいままにした武田軍の中核を率いた猛将、勇将たちとそれに率いられる甲信の強兵たちによる猛攻のおかげで、織田軍の防備は残りわずかとなっていた。

 

 

―――――いける!こちらも疲弊し損害も甚大ではあるが、このまま突き進めば信長の本陣はすぐそこにある・・・!父上でも成し遂げられなかった織田信長の打倒がすぐそこに・・・!!

 

 

武田軍を率いる若き虎、武田勝頼は父より譲り受けた軍配を握り締め、

 

 

「全軍!そのまま突撃せよ!!我に続け!!」

 

 

そう指示を出すはずだった。しかし、現実はそれほど上手く行くものではなかった。

 

 

 

ズガガガガガガガガアァーーーーーーーン!!!

 

 

 

 

広大な設楽ヶ原に突然、雷が目の前に落ちたかのような轟音が鳴り響いた。

 

 

「ぐわあ!!」

 

「ぎゃああ!!」

 

次々と武田軍の兵士や騎馬が倒れていく。

 

「くそ!!織田の本陣まであと少し・・・がァ!!」

 

「兄上!何としても織田軍を・・・うっ!!」

 

「あと一段・・・。越えられなかったか・・・!!」

 

真田兄弟、土屋昌続ら深入りした将たちも次々と織田軍の一斉掃射に倒れていく。

 

『三段撃ちはなかった。』最近の研究ではそう言われているが、それでも織田軍は少なくとも1000挺以上の鉄砲を配備して、武田軍を自陣深くまでに引き寄せてから一斉掃射したのだ。それだけでも破壊力は凄まじいものだった。

 

 

「くっ、赤備えがこうもあっけなく・・・。だが!この昌景をそう簡単に仕留められると思うな!!!」

 

自慢の赤備えの精鋭が次々と倒れ行く中、昌景は采配を口に咥えながら敵陣に突撃し玉砕した。

 

 

 

「真田信綱さま及び昌輝さま、御討ち死に!!」

 

「土屋昌続さま!御討ち死に!!」

 

「赤備え山県昌景さま、奮闘の末御討ち死に!!」

 

本陣の勝頼のもとに次々と凶報が届いた。

 

「なんということだ・・・!父上が築いた武田軍がこうも容易く・・・!このままでは死んでいった者たちも浮かばれん!こうなれば俺も突撃し、武田の意地を見せて・・・。」

 

呆然自失の勝頼が敵地に特攻をかけようとしたその時、

 

「馬鹿な事をなされるな勝頼さま!!ここで死ねば犬死に、それこそ死んでいった方々が報われないではありませんか!!!」

 

そう言って勝頼を止めたのは彼と共に本陣にいた武藤喜兵衛、今でいう真田昌幸であった。

 

「喜兵衛・・・。」

 

「よくぞ言った喜兵衛。勝頼さま、ここはお逃げなされ。亡き信玄公も砥石崩れや上田原といった負け戦を経て名将となられた・・・。」

 

「勝頼さまは信玄公をも超え得る器をお持ちだ。この負け戦を糧となされませ。さすればあなたは真なる名将となるだろう。」

 

昌景と同じく武田四天王である、馬場信春と内藤昌豊はそう言って勝頼を逃がし、自らは殿(しんがり)となって織田軍の追撃部隊に立ち向かった。

 

 

 

「甘利信康さま、御討ち死に!!」

 

――――なぜだ。なぜこうも裏目に出る?

 

「小幡信貞さま、御討ち死に!!」

 

――――俺は、みんなに信頼されたかっただけだったんだ。

 

「原昌胤さま、御討ち死に!!」

 

――――かつての敵国の血が流れていても武田の、父上の後継者に相応しい将であることを・・・。

 

「内藤昌豊さま、御討ち死に!!」

 

――――皆に証明し、共に天下に向かって戦いたかっただけなのに・・・!!何故だ、何故だ、何故だ、何故だ何故だなぜだなぜだなぜだなぜだナゼだナゼだナゼだナゼダ・・・!?

 

 

「馬場信春さま、御討ち死に・・・。」

 

 

――――やめろ、やめろ、やめろ。やめろ。やめろ!やめろやめろやめろやめろやめろ!!もう聞きたくない!!こんな俺のために次々と皆が死んでいくのはもう聞きたくない!!

 

すべてが間違っていたのだ。勢いに乗って織田や徳川の城を次々と落としたことも、父上の後を継いだことも、父上のもとで当主となるための経験を積むために戦ったことも、義信兄上の代わりに嫡男となったことも、父上の子として生まれたことも!!

 

 

――――俺の全てが・・・何もかもが過ちだったのだ!!!

 

 

 

 

 

 

ジリリリリリリリリリリリリリ!!!

 

「はっ!!!」

 

志郎は飛び起き、周りを見回すとそこは間違いなく、設楽ヶ原から落ち延びる道ではなく諏訪部志郎の部屋だった。

 

「夢・・・か。」

 

志郎は目覚ましを止めて胸を撫でおろしながら呟くが、

 

(いや待て!今のは夢にしてはあまりにも鮮明過ぎた!!ことりが何か悩んでいるのを知った日にも長篠での戦の夢を見たが、あれは霧がかかっていたし何よりもあまりにも俯瞰的で曖昧だった。だが今見た夢はなんだ!?あまりにも鮮明過ぎる・・・。まるであの時の事をもう一度体験しているかのような・・・。あの日の光景をもう一度自分の目で見て、肌で感じているような有り様だった!!)

 

志郎は今見た夢が今まで見てきた夢の中でも一番と言えるほどに鮮明だった事実に戦慄した。

 

(今思い返してもあの夢の事をはっきり覚えている!今までならばどれほど鮮明に見ても『ああ、やけにはっきりしてるな。』と思う程度だったのに、今回はその夢の内容が今でも脳裏をよぎる!!)

 

志郎はこのことから、ある事をただ一つだけ直感した。

 

 

――――今日は間違いなく、諏訪部志郎として生きてきた中で最も経験したくなかったであろう凶事が起こる。

 

 

 

志郎は頭に浮かんだ直感を振り払うように首を振り、部屋を出て行った。もちろんこの時の志郎には、この後の学園祭で起きる出来事は全く知る由もなかった。




いかがでしたでしょうか?


今回は志郎と穂乃果ちゃんを衝突させるというオリジナル展開を組み込みました。

志郎にとって穂乃果ちゃんは自分が持ち得なかった天性のカリスマの持ち主だとして特別視していましたが、この一件で彼女も自分と同じ不器用な人間だったと思い知らされました。穂乃果がさらけ出した想いは完全に作者の妄想ですが、あの時の穂乃果ちゃんの心境がどういう物だったかを考えながら書き上げました!

さて、いよいよ次回は11話のクライマックス!凶事の前兆である悪夢を見た志郎と幸雄は如何なる行動をとるのか、ライブは果たして成功するのか・・・ご期待ください!!

あと最近感想が全然来なくて寂しいので書いていただけると嬉しいです(乞食)



それでは次回もまたお楽しみください!!

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