碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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日間四位!? 皆様、読んでいただき誠に感謝します!!
まさかまさかの結果に作者の心臓がヤバい! お気に入りも六百人突破と目を疑うばかり。

この調子で完結目指しますのでどうぞお付き合いください!

では、どうぞ



閉じられつつある平穏

どうしたらいいものか。カウレスは霊体化してから沈黙を保つバーサーカーをどう接したらいいか分からずにいた。

調子に乗ったゴルドがバーサーカーの妻を侮辱し、ゴルドを殺そうと襲いかかったバーサーカー。セイバーがそれを阻止したが、その後魔術を駆使し、鍔迫り合いでセイバーに二歩下がらせた。

魔術による身体強化。というよりもあれは魔力の放出であったがそれだけでも、あの最優のセイバーを押したのだ。

バーサーカーというクラスでありながらもだ。

なぜ魔術が使えるのか、これが一番気になるところだ。ヒッポメネスが魔術師であったという逸話など聞いたことがない。いや、実際は魔術師であったが逸話に残らなかったというだけかもしれない。

事実は小説よりも奇なり、という言葉もある。それならばこの機会に神代の魔術を教えてほしいものだ。…あんなことがなければ。

 

森で実力を確かめるという予定だったが、セイバーとの鍔迫り合いではあるが片鱗は見えた。他にもあるのであれば教えてほしいものだ。語られなかった逸話の裏話を。…本当にあんなことがなければ。

 

『…ごめんね〜、カウレス君』

 

『バーサーカー?』

 

今まで黙っていたバーサーカーが話始めた。声音からは怒りはなく、暗然としていた。

 

『いやぁ、怒りに身を任せて斬りつけてしまって…』

 

『いやいや、あれはキレて当然だろ』

 

誰がどう見てもゴルドが悪い。ましてや英霊に喧嘩売るなど正気とは思えない。セイバーが不本意な束縛を赦していることや、バーサーカーが不遜な態度を容認していることで気が大きくなったしまったのだろうがそれでも愚かとしかいいようがない。

 

『お前奥さんのこと大事にしてんだろ? そりゃ英霊じゃなくても一発殴りたくなるもんじゃないのか?』

 

『ごめん。本気で殺そうとした』

 

…セイバーが後ろにいてよかった。ゴルドがあまりに愚かでも今は聖杯大戦の最中。序盤からセイバーが脱落なんて洒落にならない。

“黒”のバーサーカー、ヒッポメネスの妻は純潔の女狩人で有名なアタランテ。ヒッポメネスはアタランテの名あってこその英雄なのだ。ヒッポメネスが彼女の事を誇りとしていてもおかしくない。

おかしくない。おかしくないのだが、ここ数日間でバーサーカーと行動を共にしたカウレスは一つの謎が生まれていた。

 

『なあ、バーサーカー。答えたくないのなら答えなくてもいいんだが…』

 

『? どうしたんだい』

 

 

 

『お前、本当に黄金の林檎を使って奥さんに勝ったのか?』

 

 

 

ヒッポメネスという英霊の根底を揺るがす質問だったと思う。ヒッポメネスは英霊という割には平穏な人格者だと思えた。姉のサーヴァントであるアーチャーも威圧的ではないであれ、大賢者の名に負けぬ聡明な雰囲気を放っている。しかし、ヒッポメネスは聡明でなくて平穏。目に移れば無害、話せば温厚という悠然とした英霊なのだ。

力や武勇で女を手に入れるのではなく、言葉と時間と愛情で妻を娶るというのが彼らしいのではないのか?

知れば知るほどに逸話とは違う人間性が見えてしまい、尋ねずにはいられなかった。

尋ねられた本人は

 

 

 

『そうさ。僕は林檎を使って妻を娶ったんだ』

 

 

 

無味な返事だった。淡々と事実を語る。逸話に間違いはないと言った彼は、霊体化を解いてカウレスに頭を下げた。

 

「…あ〜、ごめん。少し頭を冷やしてきていいかい」

 

「あ、ああ。大丈夫だ」

 

バーサーカーは去っていった。残されたカウレスは地雷を踏んでしまったか、と困り果ててしまい踵を返して自室へと帰った。

 

 

 

○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

ルーラー、というクラスのサーヴァントが存在する。ルーラーとは聖杯戦争を管理するクラスなのだ。

 

そのサーヴァントが聖杯戦争に参加することは基本的にはない。なぜならば、ルーラーが召喚されることには条件があるからだ。

 

一つ、聖杯戦争が非常に特殊な形式で、結果が未知数な場合。

 

一つ、聖杯戦争の影響で世界に歪みが出る可能性がある場合。

 

この二つのどちらかによって、ルーラーは聖杯により適応する英霊を詮索し、現界する。

 

此度七騎対七騎の史上最大規模の聖杯戦争が勃発したことにより、ルーラーは聖杯に召喚された。

 

召喚されたのはジャンヌ・ダルク。彼女は聖杯大戦の管理者として十五体目のサーヴァントとして召喚された。しかし、その召喚方法は異常であった。

“憑依”による現界であった。フランス人の少女、レティシアの肉体に憑依してジャンヌ・ダルクは現界を果たしたのだ。この時からルーラーは、この聖杯戦争は異常だと感じた。憑依した直後にフランスからルーマニアへ飛び、決戦の地となるトゥリファスに移動した。だが、“赤”の陣営のサーヴァントに襲撃された。ルーラーは裁定者であり、管理者。どちらに肩入れすることはなく、公平に見守る立場のサーヴァントだ。襲う必要などない。なのに“赤”のランサーに襲われた。助太刀にと“黒”のセイバーに助けられ、その後ランサーとセイバーは去っていったがそれでも疑問が消えることはない。

 

“この聖杯戦争はどこかおかしい”

 

浮き立つ疑問は消えることなく、トゥリファスへと向かうルーラーことジャンヌ・ダルク。向かう先にある決戦の土地ではもうすぐ聖杯大戦の二戦目が開始されようとしていた。

 

 

 

○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

“黒”のバーサーカーはここ数日間の内、これほどまでに不満を募らせたことはなかった。原因は言わずともセイバーのマスター、ゴルドだ。傲慢ではあれ優秀な人物なのであろう、とそう評価していた。見下された態度もさほど気にしない。だが、平穏な彼にもどうしても許せないものは存在する。

 

“彼女”を侮辱すること。それが例え王だったとしても“彼女”を侮辱するなら首を跳ね飛ばす。

 

非常にイラついている。廊下を歩きながらもコツコツと壁を叩き、不満を放出している。叩かれた壁は罅が生まれ、ポロポロと細かい壁の破片が落ちる。 時折すれ違うホムンクルスがバーサーカーの不機嫌な表情にわずかに後ずさり、落ちた破片を掃除するという光景が生まれるが、幸いにも他のホムンクルス達以外には見られなかった。

どうにかしてこの不満を解消したい。不和を生んではならないと、ストレス解消法を考えはじめた。

 

「…海に行きたいな〜」

 

だがここはトゥリファス。海には行けない。

 

「…森にでも行こうかな」

 

森には多くの思い出がある。彼女は森が好きだった。厳しい自然の摂理がありのままに存在していた深く広がる森林で彼女とよく狩りをした。無謀にもどちらが大物を狩れるかを競ったこともある。結果は惨敗であったが、彼女が勝ち誇った笑顔を見れたのはいい思い出だった。

そういえば海に行った時にも同じことをした。銛を持ってどちらが大物を取れるか競ったがその時は自分が圧勝した。あの後は悲惨だった。もう一度と彼女が言うから競ったら、自分が突こうとした獲物を陸から矢で射られて命の危険を感じたものだ。

 

「…ふふ」

 

それがきっかけとなり、数々の思い出が蘇る。楽しかったことや辛い目にあったこと。思わず笑みが溢れる。

不満なんていつの間にか消えてしまった。なんとも単純な男だ。ゴルドのことも許そうとも思えた(彼女を侮辱したことは忘れないけど)。

 

「まあ、先にカウレス君のところに戻ろう」

 

不機嫌の振る舞いに迷惑をかけてしまったのだ。マスターの元に戻り、まだ見せていない実力を見せて作戦を練ろう。カウレスの自室へと戻ろうとした時。

 

『バーサーカー、王の間に集合してくれ。サーヴァントが攻めてきたらしい』

 

ーーーすぐに霊体化し、カウレスの元へと舞い戻る。

 

 

 

○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「諸君。キャスターによれば、このサーヴァントは昼夜を問わず真っ直ぐ森を突き進み、このミレニア城塞に向かっている」

 

ダーニックがキャスターに映し出させた映像には半裸の筋肉が森を突き進んでいた。二メートルを超す大男、青白い肌には無数の傷が走り、何が楽しいのか笑みを絶やさず浮かべて森の中を進行していた。

 

「私はこれが“赤”のバーサーカーであると睨んでいる。恐らく、狂化のランクが高いせいだろう。彼は敵を求めて暴走状態に陥っているのだ」

 

敵本陣に単騎で襲撃するなど普通は考えられない。大男の周りには他のサーヴァントが見当たらないことからバーサーカーと判断したのだろう。

 

「いや〜、あれこそまさにバーサーカーっぽいね」

 

「返す言葉がないな〜」

 

ライダーの大きい独り言に狂戦士らしくないバーサーカーは苦笑する。ダーニックが咳払いをし、二人は口を閉ざした。

 

「おじさま、どうなさいますか?」

 

「無論、この機を逃す手はない。サーヴァントを三機も出せば事足りるだろう。だが、これは此度の大戦における唯一無二のチャンスだ。この“赤”のバーサーカー、上手くすれば我らの手駒にすることが可能かもしれぬ」

 

ダーニックの言葉に王の間がざわめく。落ち着いた頃合いにランサーがダーニックに尋ねた。

 

「具体的なプランを聞かせてもらおうか。もちろん、こうしてサーヴァントを集めたからにはそれがあるのだろうね?」

 

「はい、ロードよ」

 

“赤”のバーサーカーが到達し次第、捕獲作戦を開始することが決まった。バーサーカーの歩行速度から約一日。それまでに“黒”の陣営は準備を整え始めた。

 




はい、次回かな!? 何が次とはお楽しみに!

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