碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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戦闘描写? らしきものと新たなスキルオープン!回です。



狂の逆鱗

黒”のセイバーと“赤”のランサーがぶつかり合う。何故かは分からぬが鋭い眼光に肉体と一体化した黄金の鎧を持つ弩級の槍兵が()()()()を襲おうとしていたのだ。

セイバーとそのマスターであるゴルドが襲撃を阻止し、あわよくばルーラーをこちら側へと誘おうしていたがルーラーは公平を保つ為と拒否された。拒否された時のゴルドの顔がかなり惚けたものだったがそれはすぐ頭から消えた。

 

神域に達した武芸と技術。それを目にして心奪われたのだ。剣戟が激しい火花を生み、ぶつかり合う大剣と槍が轟音を撒き散らす。豪雨のような刺突を繰り出す英雄の前に、果敢に間合いを詰めようと踏み込む勇者。一歩も引かぬぶつかり合いは千日手。斬りつければ、突かれる。払えば、叩き落される。何度、何合も斬りつけあうも一向に終わらない。既に数時間も経っているのに、目を離せれるわけがない。直に見ているわけでもないのに、視線を外せば、殺されるのではないかと錯覚してしまうほどの殺し合いなのだ。

しかし、おかしい。セイバーはなぜ死なないのか?

セイバーはランサーの巨大な槍に千も超える刺突をくらっても膝を屈するどころか体勢を崩すこともない。喉や腹部、腕に足と致命傷や最悪一撃で絶命する箇所に斬りつけられても僅かに傷つくだけで大したダメージを負っていることはないのだ。

宝具の恩恵なのか。一撃で人肉がミンチとなる威力は、セイバーはすぐに治癒できる軽傷で済ませている。

超越した神技の槍兵に、勇猛果敢な鋼鉄の剣士。英雄同士の初戦は夜が朝へと変わる時間帯まで続いた。

夜明けと共に“赤”のランサーが去るとセイバーとゴルドも去っていった。ゴルドは最後にもう一度ルーラーにミレニア城塞にくるよう誘ったが断られたようだった。

 

 

 

○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「…一応聞くけどさ」

 

「あれとぶつかれと言えばぶつかるけど、結果は言わずとも分かるんじゃない?」

 

「……だよなぁ」

 

カウレスとバーサーカーは自室にてセイバーとランサーの初戦を見て、戦闘方針を見直していた。カウレスは英雄同士のぶつかり合いに固唾を呑むことしかできず、終わった後に冷たい汗が背中に流れるのを感じた。

 

「こないだのセイバーといい、ランサーといい、まだあんなのが五騎もいるんだよな」

 

「圧倒されているみたいだけどねぇ、あのランサーは間違いなく英雄の中でもトップクラス、あれ以上の存在なんかそうそう出張ってくることなんかないさ」

 

黄金の鎧が肉体と一体化し、巨大な槍を持つランサー。あんな英雄二人はいない。あのサーヴァントの真名は恐らくーーー“カルナ”。

古代インドの大叙事詩『マハーバーラタ』で有名な施しの英雄カルナ。太陽神スーリヤと人間の女性であったクンティーの間に生まれた半神。生まれた時からあの黄金の鎧を纏っていたと伝説が残る。

 

「施しの英雄以上の実力の持ち主はそうそういないさ。そんなに悲観的になることないよ〜」

 

「いや、おまえぶつかれば負けるって言ってたじゃないか」

 

「負けるとは一言も言ってないよ〜。…まあ、実力も格も桁違いすぎるけど、勝機はある」

 

虚偽なき瞳が真摯さを語る。カウレスは項垂れるのはやめて、バーサーカーの言葉に耳を傾ける。

 

「あれほどの英雄だと死因が大々的に明かされている。カルナだと黄金の鎧を剥ぎ取られ、呪いが祟り、アルジュナに殺された。鎧は雷神に騙し取られたけど、鎧がなければ剣は届く」

 

「じゃあ鎧を剥ぎ取るっていうのか?」

 

「剥ぎ取れる隙なんて与えてくれないだろうね〜。だから、待つ。セイバーにカルナの相手をさせてひたすらにね」

 

“黒”の陣営が有利となる切り札はホムンクルスを用いての魔力供給。魔術協会に潜ませている一族から得た情報では、サーヴァントの魔術供給はマスターからのみ。激しい戦闘を繰り返すと魔力は次第に尽き、徐々に弱体していくだろう。それを狙う。

 

「カルナの不死身はあの鎧。当然宝具の筈さ、宝具の自動展開なんて相当の魔力喰らい。長時間の激しい戦闘をしている内に魔力が尽きて隙もできるだろう」

 

「…だが、相手もそれは分かっているんだろうな」

 

「だね〜」

 

それを踏まえて作戦を練らなければならない。姿を見せない残り五騎の“赤”のサーヴァント。魔術協会が選んだサーヴァント達だ。どのサーヴァントも高名で破格の英雄が揃い踏みのはずだ。

勝てることよりも生き残れるかどうか、最近のカウレスの思考はそれに定まり始めたのである。

 

 

 

「…ふん、カウレスか」

 

「…げっ、ゴルドおじさん」

 

城外の森でバーサーカーの手の内を確認しようと廊下を歩いているところでゴルドとカウレス、バーサーカーは鉢合わせした。ゴルドと会った瞬間カウレスは嫌そうな顔になり、ゴルドはカウレスと会うと見下した視線でカウレスを刺す。

 

「昼間からどこへ行くつもりだ? ああ、自分のサーヴァントと城下にでも遊びに行くつもりか。これだから未熟者は…」

 

事情も聞かず決めつけで話に走りだしたゴルドにカウレスはうんざりする。後ろで待機しているバーサーカーもこれには苦笑せざるをえない。チラッとゴルドの後ろで霊体化しているセイバーに視線を送るも、見られた本人はマスターの命令で話すことは許されておらず、律儀に命令を守っている。

誇り高い英霊にそんな扱いすれば、命の危険だと考えられるが、マスターの傲慢な態度を許し、つき従うことから高潔な英霊なのだと、改めて考えた。

カウレスがゴルドの説教にそろそろ痺れを切らしはじめたのか、“help me”と助けを求められたので会話に割り込むことにした。

 

「ゴルドさん、そろそろいいかな? 僕とカウレス君はこれから僕の実力を測るために森に行こうかとしているところなんですよ」

 

「む、む…。バーサーカー…」

 

ゴルド・ムジーク・ユグドミレニアは小心者だ。かつては錬金術で名門だった家系だが、ユグドミレニアに吸収されてしまうほどに血は衰退し始めてきている。もうすぐ四十と近い歳になっても名門()()()ということが認められず、誇りが増長して成長してきた。

此度の聖杯大戦においても魔力供給の分割化を実現させた手腕、セイバーをサーヴァントにしたことから益々傲慢となっているが、セイバーを後ろに置いておいても、誇り高く人類最高峰の亡霊を前にして萎縮してしまうのである。

 

「ふ、ふん。いい心がけではないか。精々セイバーの補助になる程度には使えるようにしておけ」

 

サーヴァントなどたかが使い魔風情、というもの言いにカウレスは表情に出ない程度に焦る。ヒッポメネスは知名度も低く、ステータスも低い。セイバーと比べればお粗末だろうが、ヒッポメネスも英霊なのだ。『使えるようにしておけ』などとあからさまな侮辱に平穏な英雄たる彼も激昂するのではないかと…思ったが。

 

「はは、そうですね〜。足手まといにならないよう決戦までには整えておきます」

 

…この程度ではビクともしないようだ。カウレスは安堵する。

 

ーーーが、その言葉を聞いてゴルドが調子に乗ったのが悪かった。

 

「そ、そうだ。貴様なぞ所詮妻を林檎で釣るしか無かった英雄だ。林檎で釣られる妻も安い女だとたかが知れているがーーー」

 

 

 

ーーー前触れはなかった。故に剣は唐突に振り下ろされた。

鋼と鋼が削れ火花が散り、轟音が響き渡る。

 

 

 

「ひぃ!?」

 

ゴルドが情けない声と共に尻餅をついた。

恐怖で顔を歪ませるゴルドの前にはセイバーが立っていた。小剣を手に前に立つバーサーカーとーーー鍔迫り合っていた。

 

「バ、バーサーカー!?」

 

腰布に吊るしていた小剣を抜き、ゴルドに斬りかかろうとした瞬間セイバーが霊体化を解き、マスターであるゴルドを守ったのだ。

 

「ーーー淵源=波及(セット)

 

「っ!」

 

大剣と小剣が鎬を削る鍔迫り合い。剣の重み、幅、尺などあまりに差がありすぎる。使い手の体格の差も違いすぎる。セイバーは190cm近くあり、バーサーカーは170cm近く。あまりに開けすぎている差が明確に存在するのにーーー。

剣から噴出された魔力がその差を覆し、セイバーを一歩下がらせた。

これにはゴルド、カウレス共々目を剥いた。想像していたのは逆、セイバーの力にバーサーカーが押され負ける。予想を覆すバーサーカーの実力にゴルドは焦る。

 

“殺される”

 

なぜバーサーカーが剣を抜いたのか。そんなこと明確だ。侮辱した、ヒッポメネスではなく、彼の妻を。そもそも英霊を侮辱したそれだけで殺されるかもしれないのだ。許してきたのだ。どんな見下した視線でも、言葉でも、態度でも。

その証拠にどうだ。今の彼の目は?

 

冷えている。人形、いやそれ以上に無機質であり機械的であり、目の奥にある怒りの炎が燃え滾っているのが見てわかる。

平穏な態度を破り、牙を剥いた英霊にゴルドは叫ぶ。

 

「バ、バーサーカーを打ちのめせぇぇぇ!!」

 

セイバーはマスターの命令に戸惑う。目の前で鍔迫り合うのは同じ敵に立ち向かう仲間。それを打ちのめせという命令。最初の命令を破り、バーサーカーに怒りを収めるよう言葉にするか、指示通り屈服させるべきか。迷う間に、バーサーカーが先に動く。

 

淵源=波及(セット)

 

『魔力放出:C』ヒッポメネスが持つスキル。

 

魔力放出とは武器、もしくは肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することにより能力を向上させるスキル。だが、バーサーカーのこれは常時の発動ではなく、一動作毎に一詠唱を必要とし、一時的な能力の向上としかならない。

魔力が唸り、爆発する。加速した小剣はセイバーの持つ大剣を押し、もう一歩、セイバーを後退させた。

圧倒的な知名度の差とステータス差、それを補うスキルにカウレスは歴史に語られなかったヒッポメネスの実力を純粋に驚いた。

またセイバーも驚愕した。決して見下してはいない。英霊として、敬意を表していた。だが、平穏な性格とステータスからどこか見誤っていたと、バーサーカーを見直した。

だからこそ、セイバー(ジークフリート)は鍔迫り合いで一歩前へ足を踏み込んだ。魔力放出で均衡になった筋力。負けるつもりはない。が、油断すれば斬り込まれる。

鍔迫り合いから垣間見るバーサーカーの表情は極めて零。無表情に近い表情からは怒気が空気を焦がさんとばかりに溢れている。

誇りを傷つけた。彼が英雄たる理由を、侮辱した。それを分かったからこそセイバーは命令を、破る。

 

「…マスターの失言、無礼を謝る。バーサーカー」

 

セイバーが、口を開いた。怯えるゴルドもその場で立つことしかできないカウレスもセイバーの言葉に意識を持っていかれた。

 

「非はこちらにしかない。だが、どうか怒りを収めてくれ。我らが剣を向けるべきなのは“赤”のサーヴァント。ここで争うことは誰も望んでいない。俺からは謝る事しかできないが…すまない」

 

懇願。寡黙を強いられたセイバーからの懇願にバーサーカーは無表情が僅かに崩れた。

 

「・・・・・」

 

辺りに撒き散らされていた怒気は静んだ。バーサーカーは小剣を鞘に戻した。セイバーも構えを解いた。圧倒され、見守ることしかできなかった両者のマスターは動くこともできず、未だ見守る事しかできない。

 

「ゴルド」

 

ポツリと呟いただけでゴルドの心臓は跳ね上がる。

 

「今後、何があっても“彼女”の侮辱だけはやめてくれ。それを約束してくれるなら、今回の事は水に流す」

 

あまりに感情が含まれていない言葉。それだけあって、不安を湧きあがらせる。ゴルドは首を縦に何度も振った。

 

「…カウレス君、行こうか」

 

「あ、あぁ」

 

バーサーカーは霊体化し姿を消す。カウレスはゴルドとセイバーの横を通り過ぎ、その場を去る。セイバーはカウレスが去っていったあとに霊体化しているバーサーカーに頭を下げた。

 

 

 

 

 

「…ふむ、バーサーカーが魔術を扱うとはな」

 

「ロード、ゴルドの処分は如何にしましょう」

 

ヴラド三世とダーニックはセイバーとバーサーカーの鍔迫り合いを使い魔を通して王の間から眺めていた。最初はゴルドの軽率な発言に頭を痛めたが、剣士と狂戦士の鍔迫り合いを見て、表情を変えた。

 

「いや、何もしなくてよい。あれが傲慢で己の価値も見極めれぬ小者であれ、セイバーのマスターだ。今回の件で如何に自分が愚かであったか思い知ったであろう」

 

「はっ。…そして、バーサーカーですが」

 

「うむ。当初はライダー辺りと組ませてサーヴァントを討ち入らせようと考えておったが、策を考え直さねばならぬな」

 

「はい」

 

“黒”の陣営において一番知名度が低く、ステータスが低いバーサーカーであったが保有するスキルが弱さを補う。実力はセイバーを持って証明した。あの鍔迫り合いの中で僅かではあったがセイバーを押した。実力が不明瞭であったがこれで今後の作戦を立てるのに必要な材料は揃った。その切っ掛けになったゴルドはある意味よくやったと言えなくない。

 

「英霊として座に招かれただけある、ということか」

 

王は先を見据える。王が統べる土地に土足で踏み込んだ蛮族を屠った生前と同じように。

 

「余に生前に足りなかった『人』は集まった。我が配下、我が将は皆かけがえのない英雄達だ。…勝つぞ、この戦」

 

「はい、ロードよ」

 




おそらくカルナの真名バレは後の筈ですが、カウレスとバーサーカーは多分カルナじゃね? と推測の元に話していますので悪しからず。

あと魔力放出に関してはオリジナルっちゃ、オリジナルなんですがネットで調べていくうちにできるのではないかと直感が働いてしまいぶち込みました。それでも無双できないのが弱小鯖の悲しいところ。

そしてカム着火ファイヤー。バーサーカーとして呼ばれた彼の狂化はここで片鱗を見せる。バーサーカーでなければ怒るは怒るが殺そうとはしなかっただろう。

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