では、どうぞ。
それにしても相変わらずメンテナンス長えな。
「…ふわぁ、寝過ごしてしまった」
「最近眠りが深いね。 疲れているのかい?」
「…聖杯大戦の最中だしな。 まともに眠れている方がおかしいだろ」
それはごもっともだ、とバーサーカーは納得した。カウレスはバーサーカーを引き連れて食堂へと向かっていたが途中、ホムンクルス達が使用する食堂に立ち止まった。
多くのホムンクルス達が食堂にひしめき、食事を摂っているというのに静けさが浮き彫り立つ。食事中に私語をしないのはマナーが良いのかもしれないがここまで静かだと異様にも思えた。
「あれ? カウレス君じゃん」
さっさと立ち去ろうとしたカウレスの後ろから本日の作戦の要たるジークとルーラー、そしてライダーがやってきた。
「お前達か。 今日は大丈夫か?」
「問題ない。 これから食事を摂るところだ」
「それじゃあご飯だ、レッツゴー!」
「お、おい!?」
「ライダー、食堂です。 静かにしてください」
「さて、僕は席を確保しようかね」
ライダーに引っ張られ同じ席へと座られたカウレスはこれ以上動けないことを悟り、ここの食堂で朝食を摂ることにした。
給仕係のホムンクルスが全員分の食事を運び、全員で食べ始めた。
「美味しい美味しい♪」
「これは美味です…」
凄い勢いで食事を胃へとかきいれる様に唖然とする周囲。まるでブラックホール、何故そこまで食べられるのだろう。いや、お前らサーヴァントだろう。
「俺たちの分まで無くなりそうだな…」
「おかわりが無くならない内に食べ切ってしまおう」
細々と食べる男達。その姿が目に入らないのか、未だ食べ続けるライダーとルーラーに思わず給仕係も苦言を申す。
「そろそろ加減しろ。 全員分のアイントプフが無くなる」
「え? これはポトフですよね?」
「いや、これはアイントプフであって、ポトフではない」
「これはポトフですよ、絶対」
「アイントプフだ」
「ポトフです」
ポトフと主張するルーラーとアイントプフと主張するホムンクルスの舌戦が火花を切った。
それをよそにウマウマとおかわりをし続けるライダー。
話を聞きつけ舌戦に参加し始めた他のホムンクルス達。
最終的にこの料理はアイントプフとなった。
「ポトフなのにぃ…」
「アイントプフだ」「アイントプフ以外あり得ない」「アイントプフを作ったものがいるからアイントプフだ」「あれ? 無くなっちゃった」「おい、寸胴鍋が空になっているぞ?」
「「「なに?」」」
ホムンクルス達が寸胴鍋を覗き込むとアイントプフは無く、ライダーの皿には何杯目となるであろアイントプフが山盛りに注がれていた。
「…サーヴァントの癖に」「よし、戦争だ」「皆の者、武器を取れ」「我々の自由を勝ち取るぞ」
「ちょ、待て待て待て!?」
朝の食事だけで内部崩壊が始まりそうになり、自分の食事量を確保できたカウレスが止めに入る。
だがホムンクルス達は人間味が薄い顔をギラつかせ、食事を奪った張本人へと目を血走らせていた。
「バーサーカー、止めるのを手伝ってくれ!」
「んむっ?」
こちらはこちらでサーヴァントなのに食事を摂っていたバーサーカーがホムンクルス達の憤りにやっと気づいた。
「みんな感情豊かになってるな〜」
「ああ…じゃない! なんとか場を鎮めなきゃ姉さんに叱られんぞ!」
「そうだね…じゃあ、僕が料理を作ろう」
「え?」
ポン、と名案を思いついたように手を叩いたバーサーカーは嬉々として厨房へと向かっていった。
カウレスは一瞬茫然としたがこの際何でもいいとホムンクルス達へと叫んだ。
「落ち着け! バーサーカーが代わりのものを作ってくれるらしいぞ!」
「なに?」「バーサーカーがか?」「料理できるのか、サーヴァントに?」
暴動寸前のホムンクルス達が持ってきた戦斧や盾などを置き、熱気は好奇心かはたまた猜疑心により収まる。ルーラーやライダー、ジークもバーサーカーが料理を作ると興味を持ち、食堂にいた者が厨房へと耳を傾けるとーーー
「あ、これは調味料? 香辛料? いい匂いだから適当に…あ、入れすぎたかな。 まあ、煮て薄めればいいか。 お、鹿肉。 よいしょっと…」
ガイン!ガイン!ガイン!
「大きさはこれぐらいで…フン!」
ぐちゃり……!
「あ、お酒…料理酒かあ、現代には色々増えてて面白いな。よし、採用!」
ドボボボボ…!
「後は火を…なんだこれ? これを回せばいいのかな? いや、魔術で熱すればいいか」
ゴゥン!!!
「「「「「・・・・・」」」」」
料理をしているのか、儀式しているのか。料理とは思えぬ行き当たりばったりかつ適当な采配。ここにシェフがいたら料理人の魂なんて知ったもんかと包丁を突き立てているだろう。というか古代ギリシャの料理はこんなにも混沌としているのか。いや、そもそも食べられるの、アレ?
「そういえば俺は十分に食事を摂っていた」「それほど憤ることもなかったな」「しかしバーサーカーが作ってくれている料理はどうする?」「そこに無駄に大食らいの駄サーヴァントが二人もいるぞ」
「「「よし、頼んだ」」」
「「ちょっ!?」」
ホムンクルス達がそそくさと去り、食堂には違う静けさが広がる。残ったのは駄サーヴァント二人とジークにカウレス。ジークとカウレスが顔を合わせ、その場を立ち去ろうとしたがライダーとルーラーに手を掴まれて逃げそびれた。
「離せ! 朝から腹を下す気はない!」
「ボクだってないさ! ほら、意外と美味しいかもしれないし!」
「それならば食べてくれ、全部」
「ジーク君! 同じ卓で共に食事を摂る尊さを学びましょう…!」
残念ながらサーヴァントの力には敵わず逃げられない。どうにかしようとカウレスが説得を試みるが。
「あれ? みんなどこ行ったのかな」
鍋を運んできた狂戦士が来てしまった。ジークでさえも青い顔をする。
ガシャンと卓の上に鍋を置く。四人がそっと鍋の中身を見てーーー見なきゃ良かったと全員の心が揃った。
「ふう、なかなか苦戦したけどいい出来だよ。 見た目はちょっと不揃いだけど味は保証するよ」
お願いしますその暗黒物質をどこかへやってくださいと言いたかった。でも言えなかった。バーサーカーに一抹の悪意など存在しなかったのだから。
「さあ、どうぞ」
丁寧に皿へ鍋の中身をよそってくれる。もうちょっと早くに止めてくれっていえば食べずに済んだものの時は既に遅し、全員分の皿に鍋の中身ーーー形容しがたいナニカがよそられた。言葉にするのなら、それは泥沼のようだった。色は茶色と黒の境目。油が浮かび、肉を使ったのかもしれないが、熱していないのにゴボッと油が泡となって膨れて弾けた。トロミというよりももっと粘着質的な液体が重々しい。口に入れた瞬間にご馳走様と言いたくなるような、不出来な何かが全員に行き渡った。
「「い、いただきますぅ…」」
もう後には引けないと悟ったサーヴァント二人がスプーンを取った。いや、ナイフとフォークを取るべきだったのか。とりあえずよそられたということは液状なのだと判断し、スプーンを取ったのだ。
観念したのかジークとカウレスもスプーンを取った。スプーンでバーサーカーが作った料理を掬い、口へとゆっくり運びーーー
「それではジーク君、参りましょう」
和かにジークを連れて町へ行こうとしたルーラーに心配そうに見つめるジークがいた。
「ああ。 …ところで腹痛は大丈夫か?」
「だ、大丈夫です。 でも…なんで私だけお腹を痛めなければならないのですか!?」
バーサーカーの料理はギャンブルだ、と食べ終えた後にカウレスは語った。見た目と反し、意外に意外、バーサーカーの料理は美味しかった。
一口にした後、ルーラーとライダーは一気に料理をかきいれはじめ、カウレスも美味しさに目を丸めた。味覚が薄いジークも美味と判断し食べはじめたのだがーーーなぜかルーラーだけ食べ終えたあとに腹痛で魘されてしまった。
「一定の確率で腹痛となるか、もしくは時間差があるのかもしれない」
「何なんですか!? 毒なんですかあれは!?」
「少なくとも魔術を利用した料理だ。 何らかの呪いがあるのかもな」
「迷惑極まりないですね!?」
ルーラーが涙目で語りながらも二人は町へと繰り出していった。
ちなみに余談でしかないのだがバーサーカーの料理を食べたことがあるとある狩人は
『ヒッポメネスの料理? 腹に収めてしまえばなんであれ問題ではないだろう。だが見た目はないな、本当にない。獣でもない』
と申していた。あと一度も腹痛に悩まされたことはないらしい。
○ ○ ○ ○ ○
『こちら異常なーし、オーバー』
『こちらも特に変わった様子はありません』
『魔術師、又はアサシンらしき姿はないです』
『ジークとルーラーがいちゃいちゃしていてつまんなーい、オーバー』
『ライダー、集中なさい』
『今のところ、昼過ぎなのか人が集まってきてますね』
『あー! 僕が目に付けてた喫茶店に入った! オーバー!』
『先程から言葉の終わりにつけるオーバーはなんなのですか?』
『映画館に観にいった映画の軍隊の真似事をしているんですよ』
ジークとルーラーによるアサシン誘き寄せの囮作戦が実行され、サーヴァント達は二人にアサシンの魔の手が忍び寄ってないかミレニア城塞から現代の望遠鏡や魔術施工された水晶玉で監視していた。
二人もその事を重々承知のはずなのに、と言うよりもルーラーがその事を忘れているようにジークとのデートを楽しんでいた。
『本格的に動くのは夜からだから別に構わないけど…楽しそうにしているね』
『じゃあボクも行ってきていい?』
『ライダー?』
『…分かったよぅ』
念話で三騎も暇とばかりに話をしているが、アサシンらしきサーヴァントの襲撃にいつでもいいように目を離さない。
『しかし、“黒”のアサシンを相手しているけど平和だね』
『“赤”のサーヴァントに動きがない、という事ですか』
『ほら、普通戦争って相手側に斥候を出す事が常道でしょ? せめてこないにしても何かアクションがあるんじゃないかなって』
『…なるほどね』
戦争という類の争いに関わったことのないバーサーカーにとっては戦に携わった騎士であるライダーの意見に納得した。バーサーカーだけではなく、アーチャーも肯定の意を唱える。
『そうですね。 相手側も後は時間稼ぎに徹する訳ですが何かしらの動きがあってもおかしくありません』
『ですが、斥候に何にしろ、相手のサーヴァントのアサシンはあの女帝ですからね…』
ルーラーの真名看破によって分かった“赤”のアサシンの正体、アッシリアの女帝セミラミス。
あれは婚約して数日で夫を毒殺した女だ。アサシンとして喚ばれてもおかしくない。斥候として適任のサーヴァントはアサシンだが、あの女帝に斥候という任を任せれるわけがない。
『まあ、それならそれで構わないけど気をつけておこうよ。 あちらには真名を確認できていないキャスターもいるんでしょ?』
『知略策謀に長けた魔術師の英霊…。 セミラミス同様の厄介さじゃなきゃいいけど…』
『お二人共、 話はそこまで』
アーチャーの叱るような口調にライダーとバーサーカーは同時に黙る。
『そろそろ太陽が沈み、夜が顔を出します。 アサシンも動くことでしょう』
話に夢中になっていると空は赤く染め、黒が赤を侵食していくようであった。
遠目からルーラーとジークの顔つきも昼の楽しげな雰囲気を終わらせ、緊張と覚悟が滲み出ている。
『我々も何時でも出陣できるように構えてーーー』
『ねえ、あれ!!』
ライダーの叫びに、アーチャーとバーサーカーの意識がトゥリファスの街へと向く。
バーサーカーは城塞の見張り台から遠見の水晶玉を通してジークとルーラーを見守っていたが、いま彼が見ているのは水晶玉ではなく眼下に広がる街並みだった。
「…これは!!」
重く、深く、そして何よりも暗く、包むものを霞ませる霧がトゥリファスの街から生まれ出てきていた。霧は迅速に膨れ上がっていき、広範囲までにその逸話を再現させている。
そして聞こえるーーー悲鳴。
その身が奇跡でできていた為に否応なく受け取ってしまうその聴覚には、老若男女関係なく苦悶を聞き取ってしまった。
「痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」
「目が、目が!! 喉が痛い!」
「あ、ああああああああああああああ!!!」
「肌が、私の肌がぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
「ど、どこだ!? 返事をしてくれぇ!!」
「ママ、ママ!! ママどこぉ!?」
ギリィ、と歯を噛みしめる。
この悲鳴をアサシンはどう思っているのだろうか?
バーサーカーにその疑問が過ったが、それを確認しようとするつもりは失せてしまった。
アサシンの姿を忘れてしまった。あの英霊との出会いも忘れてしまった。
知っているのは真名だけ。
「お前の蛮行…止めさせてもらう!」
突然の無差別の奇襲にバーサーカーは見張り台を飛び出した。
他二名も同様に飛び出した。あの街には多くの無関係な市民とジークとルーラー、そして“黒”のアサシンとそのマスターがいる。
アサシンとマスターを狩るべく“黒”の陣営は動き出す。
そして、ここに一人。
「…これは」
“赤”の弓兵がーーー翠緑の狩人がトゥリファスに到着していた。
Q.ヒッポメネスの料理を全員に食べてもらった。
A.
ジークフリート「す、すまない……」
ケイローン「少し調理作業を見させてもらってもよろしいですか?いえ、美味ですけど流石にこれは…」
ヴラド「ど、毒か!?」
アヴィケブロン「…特にないな?」
アストルフォ「美味し〜い!でもゲロみたいだね!」
ジャック「おいしい!ハンバーグ作って!」
モードレッド「…マッシュのほうがマシだな。見た目は。味は断然こっちだが」
アタランテ「懐かしいな。相変わらず見るに堪えぬが」
カルナ「………」(汗)
シェイクスピア「か、カオス!? でもこれはこれで…」
アキレウス「ぐ、うおおおおおおお!?」
セミラミス「…食えたものではないな。食えたが」
スパルタクス「圧政いいいいいい!?」
ジャンヌ「あれ? 今回は大丈夫ですね?」
天草四郎「…本当にただのギャンブルのようです。アタランテは別の理由だも思いますが」
ヒント、愛。