A.
ヒッポメネス「あるよー。背中と臀部の間に生えているし、服にも穴開けて出せるようにしてるよ?」
アタランテ「だが普段は見えないが?」
ヒッポメネス「腰に巻いてるんだよね」
カウレス(○ジータとかナッ○みたいな感じか)
「駄目元で撮影してみたけど、写ってたな」
カウレスが皆に見せたのは携帯電話の撮影機能で撮影したミレニア城塞の様子だった。城塞は全体を霧で包まれ、城塞の輪郭がボヤけて見える。
“黒”のアサシンの調査の為出ていたサーヴァント達とカウレス、ホムンクルス達はミレニア城塞が襲撃されると気づき、先にサーヴァント達を向かわせ、カウレス達は後から追いかける形となったのだが、その時カウレスは“黒”のアサシンが何らかのスキル、宝具で情報を抹消することを思い出し、咄嗟に記録を残していた。
「霧、ね。亡くなったホムンクルス達の身体を調べてみると皮膚が溶けて、肺が爛れていたわ。ジャック・ザ・リッパーが存在したとされる当時のロンドンは産業革命の影響によって深刻な公害が発生していたらしいから…、それが宝具として昇華されたものかしら?」
「だとしたら魔術師にはこれを払うことはできなさそうだな。サーヴァントにはあまり影響が無さそうだけど…」
カウレスがチラッと己のサーヴァントへ視線を移す。実際にアサシンと対峙したバーサーカーは覚えている限りの事を話す。
「そうだねぇ。僕自身大した傷も受けてないし、アサシンの能力の霧は視覚の妨害、敏捷のランクダウン、そして霧に溶け込んでの奇襲になるのかな」
この検討に皆、反論はない。反論はないものの、これによりアサシンが想像以上の難敵だということも分かった。
姿を消す度に情報を隠蔽し、同じ奇襲を何度も再現できる。能力が分かったとしてもアサシンは今回のようにマスターを狙う戦略を取る。
英雄としての矜持はなく、ただ卑怯と罵られるのも顧みず勝利のために用意周到に暗殺を執行する。それがアサシンの戦いだ。
「う〜ん、それじゃあどうやってアサシンをあと二日で仕留めれるんだろう? アーチャー、何かいい策はない?」
「…困難でしょう。 犠牲を払う、という前提であれば話は別ですが」
アーチャーを含め、その場にいた全員の表情が苦い。犠牲とはつまり、アサシンをこの街に残すということ。アサシンが積む犠牲の山は幾つになるか、誰も想像がつかない。
「バーサーカー、貴方の宝具の能力は『対象を引き寄せる』。それでアサシンを引き寄せれないのですか?」
ルーラーがバーサーカーの宝具の能力を思い出し、尋ねるがバーサーカーは首を横に振る。
「あの宝具は引き寄せる対象が認識できていないと真価を発揮できない。街全体に林檎の魅力を放って引き寄せる手段もあるけどーーー」
「三つ揃わなければできないということか」
バーサーカーの宝具である黄金の林檎は現在二つ。三つあった内の一つはジークのために使ったため、既に失われてしまっている。
「まあね、二つでもある程度の範囲はできるけど…」
「アサシンが当たるかよりも、カウレス殿の魔力が持つかどうかですね」
アーチャーの指摘はカウレス、バーサーカー主従を苦笑いさせる。
実際、宝具の使用には大量の魔力が消費させられる。魔力量がフィオレに比べて乏しいカウレスでは闇雲に放つ宝具の使用により魔力が持ってくれるかどうかが問題である。
「ここで実力の問題かよ…」
「せめて、アサシンの姿を覚えていれば問答無用で呼び寄せられたのに…」
姿さえ覚えていれば長距離でなければ林檎の魅力で引き寄せられる。しかし、アサシンの能力には情報を隠蔽させることができるスキル、宝具があるため姿を覚えていない。
「…でも、ねえ」
「ん、何か他に気づいたことがあるのか?」
どこか釈然としない気持ちで悩むヒッポメネスに全員が首を傾げる。ここ最近は“赤”のアーチャーのことで悩む姿が見られるが、他のことに関しては大抵平気そうにしている彼にしては、珍しいと思ってしまう。
「なんか、こう、納得いかないというか…忘れちゃいけないというか、腑に落ちないんだよね」
「なにそれ?」
ライダーもその返しに首をかしげるが、本人の方が分からなくて頭を悩ませている。
「…ん〜〜〜、ダメだ全く思い出せない」
「仕方ないことだと思います。ライダーや私、ルーラーは対魔力をスキルとして宿していますがそれを持ってしても防げないということは、相手の能力はよっぽどじゃなければ防げないということですから」
「アーチャーの言うことじゃなくて、もっと…個人的な感覚なんですよね」
「つまり趣味とか性癖とかそんな感じ?」
「いや、それはなんか違うような…、だけど遠からず近からず…」
「あ、分かった! アサシンは女性で容姿が凄くバーサーカーのタイプだったとか!?」
「アタランテは“赤”のアーチャーであって“黒”のアサシンじゃないよ?」
「話が拗れてきてます!」
バーサーカーの言いたいことは全く分からないが、これ以上ライダーとバーサーカーの会話を放置していると止められないと思い、ルーラーが無理やり話を変えた。
「とりあえずこの話は置いておきましょう。 まずはアサシンをどう討ち取るか、ですが……え?」
突然ルーラーが驚いたように表情を変え、己の意識に集中するように俯いた。何があったと皆が見つめていると、ルーラーは微笑みながら顔を上げた。
「皆さん、一つ良案が出ました」
「大、はんた〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜い!!!!!」
響くのはライダーの金切り声。思わず耳を塞いだのはルーラーだけではない。
「なんでさ! 別にジークを囮にしなくてもいいじゃない!」
「ジーク君だけではありません。 私、も。 囮になるのです」
ルーラーが提案した良案とはジークとルーラーが街へ出向き、アサシンをおびき寄せるというものであった。
当初、なぜジークとルーラーなのかと疑問に思ったがジークは“黒”のセイバーの心臓がある為、セイバーを憑依させなくともある程度は対抗できる。
アサシンが魔力を狙って犠牲を生み出しているのなら、ジークを狙うだろう。だがーーー
「ルーラーはサーヴァントじゃん! サーヴァントはアサシンに悟られて逃げられるんでしょう!」
「私は特別な手段で喚ばれたサーヴァントです。 純粋な霊体ではなく、きちんとした肉体を保持しています。 霊体を抑え込めば、サーヴァントとしての気配を断てます」
「むむむ…! じゃあ、ルーラーが憑依しているレティシアさんが可哀想じゃん! 反対、反対、はんたーい!」
「ルーラー、俺もレティシアに危険が及ぶような作戦には同意しかねる」
ライダーの反対に、ジークも賛同する。いくらアサシンを討つためとはいえ、ルーラーの本体であり憑依している少女のレティシアが傷つく真似はしたくない。
「いえ、これはレティシアが提案したものです」
「レティシアが?」
今のルーラー、ジャンヌ・ダルクとレティシアの意識は混じっている状態である。普段はレティシアがジャンヌを立てて、レティシアは眠りについている状態となっている。
レティシアはジャンヌの視点から全てを俯瞰しており、夢心地で物語を鑑賞しているようなものだ。
いつもならレティシアは眠りにつきながら、傍観しているのだがーーー
「“それならこんなのはどうですか?”と言って、それきり何も言わなくなって…」
「まあ、こっちとしてはその提案はありがたいものですが…」
ルーラーを憑依させているとはいえ、一般人を危険に晒してしまうことにフィオレは申し訳なさそうにしながらも良い案だと思ってしまう。
「むー…、バーサーカー!」
「いや、僕に助けを求められてもなぁ…」
「ライダー、俺は別に一人で囮をして構わない。いや、俺が一人で囮をする」
ルーラーの案を覆し、一人で行うと言い放つジークにライダーとルーラーの眉間に皺が寄る。
「ジーク君、確かに霊体を抑えようとも私はサーヴァントです。 アサシンの奇襲ぐらい、退けてみせます」
「そうだよマスター。 それよりも危険なのはマスターの方だし、マスターは外してルーラーだけでも…」
「いや、俺は囮となる。 これだけは譲るわけにもいかない」
頑として意見を変えないジークに、一同が違和感を覚えた。感情に乏しいはずのジークに、どこか憤りが見てとれる。
「どうしましたジーク、なぜそこまで自らが囮になる事をこだわるのです」
「アサシンは俺の同族を殺していた。 俺はそれに怒りを感じている」
記憶には無い、だがジークはホムンクルスの同族が殺された怒りを覚えている。感情は今も尚、鮮明に覚えているのだ。
「…はぁ、だめだ。 ボクのマスターは頑固すぎる」
「これは私の案で行ったほうが良さそうですね」
ライダーとルーラーがため息をつきながら、レティシアの作戦を承諾することとなった。
○ ○ ○ ○ ○
作戦が決まった夜、バーサーカーはいつも通りと見張り台に佇んでいた。
昨日はこの場所でカウレスとアーチャーと共にフィオレの心の弱みを見つけた。
今は誰もおらず、静かな夜の帳が辺りを包み込んでいた。バーサーカーも夜に溶け込むように、目を閉じて瞑想に浸かっていた。
「…バーサーカーか?」
そんは静寂に来訪者がやってきた。
「あれ? ジーク君かい?」
やってきたのはジークだった。時は既に時刻が変わる寸前、明日囮になるジークは眠りについていてもおかしくない。
「どうしたんだい、ライダーは?」
「眠っている途中ベッドから蹴り落とされた」
蹴られたと思わしき腰部を摩るジークを見て、バーサーカーは噴き出した。
「ははははは! ライダーらしいねぇ」
「ベッドを独占されてしまった。 暫くしたら寝相も変わり、隅が空くだろう」
「仲が良いねえ」
良き主従関係だと笑うバーサーカーにジークはどう反応すべきか迷った。
ジークとバーサーカーは城塞を抜け出す前に幾つかか話したことがあったがライダーと比べれば少ないほうだった。
しかも二人きりで話すのはこれが初めてだった。ジークはこの際だと、今まで聞きそびれていたことを尋ねてみた。
「なあ、バーサーカー」
「ん、なんだい?」
「なぜ俺に、黄金の林檎をくれたんだ?」
あの時、“赤”のセイバーに斬られた時、ジークは再び死にかけた。
痛みが引くと同時に熱も抜けていくような、死ににいくような虚脱感を味わいながら意識が遠のいていった。
しかし、ライダーの呼びかけと微かに開いた瞼に入る黄金の輝きが自分の命を現世に踏み止まらせた。
その結果、ジークは“黒”のセイバーを憑依できるようになり、肉体自体も人類最高峰のモノへと昇華した。
生きていることに、助けられたことには感謝している。
だが、バーサーカーがジークを助ける為に失ったのは英霊の象徴たる宝具である。
三つあった黄金の林檎は二つとなり、本来の力を発揮できなくなっている。決して強いとは言えないバーサーカーにとって致命的なはずだ。
宝具が一部欠損することによる影響を機転が利くバーサーカーが知らない筈がない。
そのデメリットを考慮して、自分を救った理由を知りたかったが
「…あー、勢い?」
「・・・・・」
このサーヴァント、特に考えていなかったようだ。
「そうか、貴方はライダーと仲が良かったのだったな」
「え、なに?その全てを理解したって感じの達観的表情? ねえジーク君、ちょっとこっち向いて」
ジト目で睨むがジークは一人納得したように頷くだけ。しかし、そう思われても仕方ないかなーと納得し、そしてバーサーカーはジークの質問に真面目に考えた。
「…そうだね、君なら間違えないって思ったからかな」
「間違えない?」
バーサーカーは何か、苦いことを思い出したのか表情が優れない。今にもため息をつきそうだったが、それを振り切るように首を振った。
「あの林檎はね、所有者は選ばないけど使用者を選ぶ。誤った使い方をすれば…悲劇を招く。そういう類の秘宝なんだよね、アレって」
「そうなのか。…ならば、なぜ本当にそんなものを俺に?」
ジークの疑問に、バーサーカーは小さく笑う。
「言っただろう? 君なら間違えないと。…まあ、直感だね、直感」
曖昧に答えるバーサーカーは答えたくないのか、視線をずらす。ジークは黄金の林檎を自分が預かるのにふさわしいのかどうか疑問に思い、もう少し深く聞き込もうとしたのだが。
「あ、君の仲間達だね」
バーサーカーは見張り台から少し身を乗り出し、城塞内の中庭に出ているホムンクルスを見下ろした。数人のホムンクルス達は中庭でバラバラに草木や石といった物を集めている。恐らく、“黒”のアサシンの襲撃で使われた宝具である霧の能力を調べる為、外壁や草、水といった物を収集して効果や範囲をより具体的にしようとしているのだろう。
そんな彼らを見て、バーサーカーはジークに聞こえるか、聞こえないぐらいに呟いた。
「…外見と知識は完成しているけど、彼らもまだ子供なのかもね」
「バーサーカー?」
ジークはバーサーカーの呟きを聞き取れなかった。何を呟いたのか。何を思って同族である彼らを見たのか。そんなバーサーカーの内心を読み取れずジークは黙ったのだが、それに気づいたバーサーカーは少しだけ微笑み。
「ごめんね」
と、だけ言ってジークの頭を軽く撫でた。その謝罪の言葉はーーーかつて仕方ないと割り切って魔力供給のために見捨てたホムンクルス達と、まだ子供なのだと気づけなかったことに対してのものだと、ジークが気づく事はなかった。
暫く静寂の時間が流れて、ジークは思い出して呟いた。
「…そうだ、そういえば夢を見たんだ」
「夢? それは竜に襲われるアレかい?」
「違う、貴方の夢だ。 黄金の林檎を食べた時に、貴方が光に包まれた何かに跪いて黄金の林檎を貰っていた」
「…あぁ、なるほど」
ジークが見た夢は宝具の影響により、バーサーカーの記憶が入り込んだのだろう。黄金の林檎がヒッポメネスに美の女神から手に渡った時のことをジークは目撃していた。
「とても古い記憶さ。 古すぎて、薄れることがない僕の根源だよ」
目を細め、ここにいない誰かを見ているようだった。感情について薄いジークにもそのいない誰かが分かった。だからこそ尋ねた。
「…友情と愛はどう異なるのだろうか」
「…はい?」
突然の問いに、バーサーカーは固まった。
「俺はライダーという友を持てた。 その事に深く感謝し、幸運だと思っている。 多分、ライダーの為に戦うことを厭わないし、ライダーもそうなのだろう。 俺がそう思えるこの感情こそが友情だと思えるが…ならば愛とはなんなのか、と思ったんだ」
純粋な疑問。ただ単純な知識欲なのだろう。友を得たことにより理解した思いとは別に、ジークはバーサーカーが“赤”のアーチャーへ向ける感情、合理的に物事を進める手段とは違う思いに疑問を持った。
「俺が得た知識には愛とは親しき者へと向けるものだとあるが…それでは友情と変わりないのではないか?」
だからこそバーサーカーに聞いた。 ジークが知る仲で愛に動く者が理性ある狂戦士なのだと認知したから。
「…愛かぁ」
困ったように、頬を掻く。その仕草は語るのが恥ずかしいのではなく、どちらかというと自分が言っていいのかと迷っているのかのように見えた。
「…ごめんねジーク君。 僕には君の疑問に答えることができそうにないかな」
「なぜだ? 貴方は“赤”のアーチャーを愛しているのだろう」
「…うん、そうだね。君の言う通りだよ。だけどね、愛するってのは意外に言葉にするのは困難な事なんだよ。友情だって愛だって結局は相手を想うことで合致する。其処からどう分布するのかは自分の感性次第だ。感性っていうのは具体的にしようとするとどうも陳腐で安く見えてしまうでしょ? それと同様に僕が説明すれば…君は逆に理解出来にくくなってしまうかもね」
人は感情を共有できても理解するには至れない。
それは人から生まれた感情は、その人唯一独自の世界だからだ。
世界は一つに当てはめればこそ、万人が見る視界は同じ位置からでも違って見えてくる。差異を消そうと工夫を懲らそうとも、世界を捉える視点が違えば同じ物とは見れなくなる。
故にバーサーカーがジークに愛を教えようとも、愛という感情の立ち位置に気づけていないジークにそれを伝えることはできない。
「そうか。 まだ俺には理解できないのか」
「君もいつか分かる日が来るさ。 それが分かった時、僕が言ったことが分かるかもね」
そして、しばらく二人は空に浮かぶ月を眺め続けた。 会話も何もないが空虚ではないささやかな時間。 やがてジークに眠気が訪れ、二人の時間は尽きた。
そして、作戦実行の朝がきた。
Q.無人島に漂流するとしたら、必ず持っておきたいものは何ですか?
A.
アタランテ「ナイフ…まあ、小剣だな」
ヒッポメネス「銛かな? 海があるなら魚もいるしね」
アヴィケブロン「ふむ、君ならば妻を所望すると思ったのだが?」
ヒッポメネス「アタランテは『物』じゃないよ?」