碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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Q.あなたは何フェチですか?

A.ヒッポメネス:足(生前から)と猫みm…ゲフンゲフン耳かな?
アタランテ:……匂い、とかか?

リンゴを服や全身に全力で擦り付けるヒッポメネスの姿があったとかなかったとか。

では、どうぞ


否定解答

  天草四郎時貞(シロウ)の言葉を最初に理解できたのは誰だったのだろう。止まった時間は一呼吸の間だった。だが、空気が交換されるまでの時間は遠く、鈍重だった。

 

「天草四郎…!貴方は…人類全てを不老不死にするつもりですか!?」

 

  ルーラーは理解した。目の前の聖人と称された少年が行おうとしていることは全人類の不老不死化、大聖杯を使い、この世に生きる全ての人間ーーーいや、過去に存在した人間全てに第三魔法『天の杯』を行使するつもりだ。

 

  第三魔法『天の杯』

 

  その奇跡は“魂の物質化”だ。

  魂とは永久不変の存在。その存在は単体で活動することは不可能であり、肉体や幽体といった存在に繋がってなければ生命として成り立たない。

  魂を物質化する、それは永久不変の存在が肉体から抜け出し単体として、生命として活動することを可能とする業だ。

  シロウは、天草四郎時貞は過去に死んだ人間、現在に生きる人間、等しく全ての人間の魂を肉体から脱却させ、不滅の存在ーーー不老不死としてこの世に根付かせるつもりだ。

 

「それは人類が築き上げた歴史への叛逆…いや、人間という存在への叛逆です!」

 

「ですが私は確信しているのです。この方法こそが人類を救う法であると」

 

  その澄みきった瞳にルーラーは恐怖を覚えた。この方法こそ、全てを救えると信じている。疑っていない、迷いもしない。狂気とさえ思えるその確固たる信念に息を呑む。

 

「ではバーサーカー。貴方の質問に私は答えました。貴方の返答をお聞きしたいのですが」

 

  穏やかな笑みは変わらない。聖人のような純潔さが、今では悍ましさとさえ感じ取れる。バーサーカーは俯きながらもシロウへと答えた。

 

「……それで、本当に救えると思っているのかい?」

 

「ええ」

 

「誰もが、悲しまず、生きていけれると本当に思っているのか?」

 

「無論です」

 

「そうか。ああ、そうかい…っ」

 

  顔を上げ、シロウへと睨みつける。握りしめる拳と肩が震え、唇を深く噛み締めている。バーサーカーのシロウを見る目は怒りに近い感情があったが、嘲りも憐れみもなくシロウを敵として判断していた。相容れないと、言外で語っていた。

 

「君には、絶対に従えない」

 

「…そうですか。残念ですが…キャスター」

 

「分かった」

 

  キャスターが指を動かすと、ゴーレム達がルーラー、“黒”のアーチャー、バーサーカーを囲んだ。囲まれた三人は背中合わせになりながらゴーレム達の動きに注意する。

 

 

 

  シロウの計画の全貌を知った“赤”のアーチャー(アタランテ)は傍観という形で、ルーラー達の動きを見守っていた。

  彼女はまだシロウをマスターとして認められない。シロウが人類救済という大望を成就せんと動こうとは理解できたが、自分が動くにはまだ足りていない。

  とりあえず行く末を見守る形を取るのだが、彼女の弓兵としての知覚が視線を感じ取った。

  視線の正体は言わずもがな“黒”のバーサーカー(ヒッポメネス)だった。

 

「アタランテ」

 

  ゴーレムに囲まれ、警戒しながらもこちらへと語りかけてくるのは余裕なのか、愚かなのか。怒るべきか、呆れるべきなのか判断に迷うが応えることにした。

 

「なんだ」

 

「聖杯で、君の願いは叶わない」

 

  叶わない。その言葉に心が固まり、理解した時、怒りが込み上げた。

 

「ーーー謀るな、バーサーカー。そこな聖人は全人類の救済を聖杯によって叶えると言った。我が願いぐらい叶えずして何が聖杯だ」

 

  英雄アタランテの願い、理想、原動力。死して座に収められても尚、足掻き、挑み続ける悲願を、極東の聖人は叶えられる。方法こそ魔術師ではない自分が到底理解できるものではないが、十分な可能性がある。それを理解してバーサーカーは自分をこちらに引き込もうと嘘をついている。自らの願いを知ってくれている男が騙そうとしている。そう思った彼女の声には熱が籠っていた。

 

  バーサーカーはそんな彼女の心境を察してか、追い込まれている状況にも関わらず、厳として告げる。

 

「確かに。シロウ君の方法は悲劇に見舞われ、救われるべき人や、救われなかった人に光を与える神の御業のようなものかもしれない」

 

「なら」

 

「だけどね」

 

 

 

「死ぬ必要がないということは、()()を愛する必要もなくなることでもあるんだよ」

 

 

 

 

  ーーーガギリ

 

  耳の奥で、頭の奥で何かが深く食い込み引っ掻くような音が響いた気がした。頭蓋の奥を軋めるように、鎖が絡まり犇きあうように、音と共に頭が少し痛んだ。

  “赤”のアーチャーは頭を少し抑え、謎の痛みに耐えた。

 

(…なんだ、今のは?)

 

  不可解な痛みの原因が思いつかず動揺する。“黒”のバーサーカーがアーチャーの様子に気がついたが、囲んでいたゴーレム達がバーサーカーの視界から彼女を隠した。

  “赤”のアーチャーの変化を“黒”のバーサーカー以外は気づかずに状況は展開し続ける。

  “赤”のアサシンがバーサーカーとアーチャーの会話に呆れながら鼻で嗤う。

 

「バーサーカー、この後に及んで何を申すかと思えば…」

 

「もう少しで死ぬかもしれないから、伝えなければならない事を彼女に伝えているだけですよ」

 

「…ふん、ならば跪け。さすれば妻と話す時間ぐらい作ってやらんでもないぞ?」

 

「ご厚意感謝します、が、貴女に似た人…というより女神に一度恩恵を受けていますからね。二度目はないようにしているんですよね」

 

「殊勝な事だな。…ならば、早々と消え去れ目障りだ」

 

  “赤”のアサシンが右手を振ると、バーサーカー達の頭上から光の刃が振り下ろされる。ここは女帝の領域。この『虚栄の空中庭園』内部なら、彼女の魔術は魔法に近い大魔術へと昇華する。

  三者三様に回避行動を取り、逃げようとするがゴーレム達が立ち塞がり邪魔をする。

  再び“赤”のアサシンの手が振るわれ、光の刃がバーサーカー達へと降り注がれようとした。

 

 

 

  だが、赤い稲妻を纏った若獅子が剣を携えて現れた。

 

 

 

「何!?」

 

  予想外の乱入者に驚きを隠せないサーヴァント達。驚いていないのはルーラー、“黒”のアーチャー、“赤”のランサーの三騎だった。

  剣を携えた若獅子ーーー“赤”のセイバーは手にした大剣を振るい、ゴーレム二体を一太刀で斬り崩した。大剣を振るった後に聞こえるうねりは獅子の咆哮のようだった。

  口元を僅かにあげて薄笑う“赤”のセイバーは一騎を除き勢揃いした“赤”のサーヴァント達を一目眺め終えると鼻で笑う。

 

「はっ!どいつもこいつも、雑魚ばっかだ!」

 

  休む暇も与えないと自分が砕いたゴーレムを足蹴にして、違うゴーレムへと突貫する。次々に破壊されるゴーレムを見て、“赤”のアサシンは何かに気づいたように舌打ちする。

 

「“黒”のアーチャー…!先ほどの矢はこの為か!」

 

  “黒”のアーチャーが前に放った矢は“黒”のキャスターの再契約を防ぐために行ったのではなく、“赤”のセイバーがここへ正しく辿り着くために射出したものだった。大きな音で居場所を伝え、早く駆けつけれるように。

 

「セイバー!貴様、裏切るか!?」

 

「馬鹿か手前ぇ!先に裏切っていたのはそっちだろうが!オレのマスターを狙った時点で手前らはオレの敵だ!!」

 

  “赤”のセイバーの怒りを現したような赤い魔力が雷へと変換され、猛威となって周囲へと撒き散らされた。床が弾かれ、砂煙が舞い上がる。

 

「むっ、いかん」

 

  “赤”のランサーの言葉を“赤”のサーヴァント達は聞き逃さなかった。視界を奪う煙の向こうに一縷の閃光。光が煙を払い、姿を現したのは黄金の果実とそれを握る碧の青年。

 

『不遜賜す黄金林檎』(ミロ・クリューソス)!」

 

  二度目の宝具の開帳。バーサーカーは吸血鬼の時とは違い、使うリンゴの数は一つ。高く遠く、シロウ達の後方へとリンゴは投げられた。

 

「…しまった!」

 

  自然とシロウ達の視線が動き、リンゴが描く放物線へと集中する。警戒すべきはルーラーと“黒”のサーヴァント達、そして“赤”のセイバー。なのにシロウ達は敵対者達に目も顔も向けれぬままリンゴを追う。

  あの宝具の能力は『ただ引き寄せること』だ。一個だけなら一騎のサーヴァントを引き寄せるが、()()だけなら複数のサーヴァントの視線を同時に引き寄せることなど容易い。

  リンゴはやがて粒子となって空気に四散する。すぐに視線をルーラー達へと戻したが時は遅く、彼女達の姿は消えていた。

 

「“黒”のセイバーが消えたのをいい事に彼の宝具の危険性を過小評価しすぎてしまったようですね」

 

「すぐに始末する。少し待てーーー」

 

「いや、ここは僕がいこう」

 

  “黒”のキャスターが“赤”のアサシンを遮り、前へ出る。後方支援で実力を発揮する魔術師であるはずの彼が、ゴーレムの肩に乗り追跡へと走りだした。

  呆気取られ、“黒”のキャスターを見送ってしまった面々はしばらくして動きだした。

 

「ありゃ大丈夫なのか?」

 

「大丈夫、とは言い切れませんね。彼はおそらくこちらへ来た目的を果たそうとしているのでしょう」

 

「目的?」

 

「ええ、彼の真名はアヴィケブロン。彼の目的は己の造るゴーレムが至高であることを証明すること。それ以外に執着するものはなく、そこに邪念は一切ありません」

 

  そう“黒”のキャスターを推察するシロウの言葉は、“赤”のアーチャーの耳には入らなかった。

 

「・・・・・」

 

  証明のためと去っていった“黒”のキャスターとは二度と会うことはない、と自然と分かってしまう。最初に攻め込んだ時と変わらぬ顔触れが空中庭園に戻った。だが、最初と今では状況が変わってしまった。

  シロウの正体、目的、そしてーーーバーサーカーの言葉。

  “赤”のアーチャー(アタランテ)の心の中に広がる蟠り。言葉の真意、聖杯への疑問、そしてーーーシロウの悲願の先にある世界の在り方。

 

  分からない。

 

  捉えられない謎の正体を掴むことができず、“赤”のアーチャーは考えることを止めて、彼らが場所を見つめ続けた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  さて、どうしたものか。

  カウレスはこめかみを手で押さえながらこの状況に頭を悩ませている。

  自分の横には姉のフィオレと“黒”のセイバーの元マスターであるゴルド。そして、目の前にいるのはホムンクルス達と“黒”のライダー(アストルフォ)だった。

  ホムンクルス達が勝手に行動していると知り、供給槽がある部屋へ赴くと“黒”のセイバーが自決するきっかけとなったホムンクルスが指揮をとり、供給槽に入っているホムンクルス達を取り出していた。

  元の役割を果たせ、とゴルドとフィオレが命令するが役割を果たす義理はないと突っぱねられてしまった。

  ゴルドが怒り弾劾しはじめるが、ホムンクルスと再契約したという“黒”のライダーが現れると、押し黙ってしまったのだ。

  結果的にはホムンクルス達の解放は決定。だが解放の報酬として聖杯大戦をまだ諦めていないフィオレはホムンクルスに協力するよう言ってきた。

  ライダーは猛反対するがホムンクルスは同意した。マスターとして参戦してしまったからには戦いに身を投じるのは覚悟の上、とのことだ。

  これでこちらのサーヴァントは五騎。セイバー、アーチャー、ライダー、キャスター、バーサーカー。まだ充分に勝機は見出せれることにカウレスが安堵の息を吐こうとした時、バーサーカーからの念話が飛び込んできた。

 

『カウレス君!』

 

「…バーサーカー?」

 

  焦ったような声音に自然と体が強張る。フィオレもアーチャーからの念話が届いているのか、目の前のホムンクルスから意識を外し会話へと集中していた。

 

『どうした?“赤”の方に動きでも…』

 

『率直に申すとキャスターが裏切った!』

 

「……はぁ!?」

 

  思わず叫ぶとすぐに姉と顔を見合わせた。フィオレにもキャスターの裏切りが伝わったのだ。ホムンクルス、ライダー、ゴルドが訝しげにしているが気にしてられない。

 

「カウレス!ロシェを探してきなさい!」

 

「分かった!」

 

  扉からすぐに飛び出すと城塞内部を駆け巡る。何故ロシェを探す必要があるのか分からないが姉の緊迫した様子に思考するのは後と部屋を次々に開けていく。“黒”のキャスターのマスターであるロシェの姿はどこにも見当たらない。戦闘用のホムンクルス達も途中で協力し、探すも最年少のマスターは城塞にはいなかった。

  城塞の内部を全力疾走している途中、カウレスが抱いた疑問をバーサーカーは答えていた。

 

『カウレス君、ダーニックさんからキャスターの宝具の詳細は聞いたよね?』

 

『ああ、確か宝具の発動には『炉心』が必要不可欠とは…』

 

『その『炉心』は魔術師じゃなければならないんだ』

 

『…なっ!?』

 

  知らされていなかった事実にカウレスは絶句する。

 

『どうやらキャスターの奴、ジーク君…ああ、逃げたホムンクルスを最初に炉心にしようとして、ダメになったからゴルドさんを使おうとしていたんだ』

 

『だけどゴルドおじさんならここにいるぞ!』

 

『だからロシェ君なんだ。彼はゴーレムに造詣が深く、魔術回路、性質、その他諸々と宝具の炉心として適していたはずだ。だがそれはマスターだったから出来ずにいたけどーーー』

 

『裏切った今では関係ないってか!』

 

  改めて魔術師という存在を認識せざるを得ない。己が目的のためならば倫理、道徳を足蹴にし、無辜の人々を犠牲にすることを厭わない。

  例え先生と慕われた幼い少年であっても必要と分かれば炉心として使う。

  アヴィケブロンがなんのクラスとして召喚されたかを再認識し、走り続けて消耗した体を休める為に足を止めた。息を整え姉の元へと帰ろうとした時、後ろからホムンクルスの少女が近寄ってきた。

 

「カウレス様、こちらの階にもロシェ様の姿はありませんでした」

 

  分かった、と伝えようと喉を動かそうとした時。壁の向こう側から巨大な存在を感じ取った。すぐさまホムンクルスの少女の腕を引いたその時。

 

  鉄槌の如き、巨大な拳が振り下ろされた。

 

  天井から床を貫く規格外とも思える一撃が城塞の一部を破壊した。カウレスがホムンクルスの少女の腕を取っていなければ少女は形が無くなっていただろう。

  拳が引かれ、外の景色が見えるようになった。カウレスは崩れた壁から外を見た。

 

  そこにいたのは巨大なゴーレムーーーいや、あれは唯の土人形なんかじゃない。

  巨人だ。まるで自然の雄大さと美しさを宿した巨人だ。そして、理解する。あの様な巨大なものを創れるのは誰か。創造された巨人の正体が何なのか。

 

「あれがキャスターの宝具…」

 

 『王冠・叡智の光』(ゴーレム・ケテルマルクト)

 

 




Q.今異性の体に触れたい部位は?

A.ヒッポメネス:耳!絶対に耳!
アタランテ:ない
アキレウス:姐さん、俺ならどこでも触れていいぜ?
ヒッポメネス:君は呼んでない!!!

前書きや後書きに書く内容がないときはこうします。

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