碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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すいません、『巨人闊歩』の文章を修正しました。幾らか直しているというか、結構変えてしまったので申し訳ありません。
あまり修正しないように気をつけます。

では、どうぞ


少年の帰還ーーー

  ホムンクルスの少年、ジークはルーラーでありレティシアという少女に憑依したジャンヌ・ダルクと行動を共にした。

  “黒”のライダー、アストルフォと“黒”のセイバー、ジーフリートに救われたジークは自由に生きろと言われ、自由が分からずにジャンヌに自由とは何をすればいいのか?と尋ねると、こう答えられた。

 

『もしかすると、貴方には何か望みがあるのでは?』

 

  その言葉にジークは一つの願いが込み上げた。

 

『仲間を救うこと』

 

  かつて自分がいたあの城塞にいるホムンクルスの同胞達。何も為すことがないと確定された仲間達を救いたい。ライダーが自分を救ってくれたように、彼らを救いたい。助けてほしいという声を聞いてしまった。聞かなかったことも、逃げ出すことも俺にはできない。

  仲間の嘆きに応じるために、ジークは抜け出した場所へと戻ってきた。

  ジャンヌ・ダルクはこの戦いに何か見逃せない不安を感じると“赤”と“黒”の大戦へと赴いた。ジークは元々戦争の中ならばチャンスはあるとジャンヌと行動を共にし、途中までは戦場の中を潜り抜けた。

  空へ浮かぶ空中庭園からの爆撃で別れ、ジークは仲間の救出、ジャンヌは“赤”の陣営の調査にためそれぞれ駆け出した。

  荒れる戦場で運良くジークは前線で戦うホムンクルス達に出会い、自分達の生き方は自分達で決めるよう他のホムンクルス達に伝えてくれるよう頼んだ。

  これでジークの目的は達成された。そして、ジークはもう一つの目的の為に再び戦場を走り出す。

 

  “黒”のライダーとの再会。

 

  あの少女とも思える美貌の騎士との再会を望み、駆け回るなか、一つ赤い光の奔流が戦場となっている草原の一角を焼いた。

  ジークは桁違いの魔力の一撃に恐る恐る近づくと、其処には見覚えがある二人と全身鎧を纏った少女のサーヴァントがいた。

  見覚えがある一人は傷ついた自分を治癒してくれた理性を失わなかった平穏なバーサーカー。

  そして、見覚えのあるもう一人はーーー

 

  そのもう一人が少女のサーヴァントに剣を向けられているのを見て、無我夢中となって駆け出した。

 

  恩人がくれた細身の剣を鞘から抜き、サーヴァントめがけて突貫する。サーヴァントはこちらを見向きもしない。

  全身鎧の腹部付近に空いている隙間から滑らせるように細身の剣を突き刺す。

  突き刺した時、初めて少女のサーヴァントがジークに気づいた。唖然と怒り。少女が此方へ向けてきた感情だ。

  サーヴァントが剣を振り上げて、叩きつけるように振り下ろされる。それを平常心に近い状態で眺めていた。生きるのを諦めたわけではない。恐怖で身が竦んでいるのでもない。ただ、どこか夢心地だった。

  剣が振り下ろされる寸前、水の壁がジークを守るように展開されたが、するりとジークごと斬り裂かれた。

  セイバーが持つクラス別スキル『対魔力』。魔術を無効化するそのスキルは、水の壁をもろともしなかった。

  だが水の壁がクッションとなったのか、ジークは即死には至らず、胸から大量の血を流しながら地面に倒れる。

  痛みが感覚を麻痺させ、夢心地が続く。虚ろとなっていく視界が重く黒ずんだ空を映す。戦場となるまえに降り始めた雨は、熱くなる傷口を冷やしてくれる。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「くそぉっ!!」

 

  地面に拳を振り下ろす。泥水が弾け、顔につくがどうでもよかった。ただ目の前で失われてしまった命を救えなかったことに強く歯をくいしばる。

  “赤”のセイバーによって、ホムンクルスの少年ジークは斬り伏せられた。

  “黒”のライダーは唖然と固まっている。“黒”のバーサーカーは小剣を握りしめ、“赤”のセイバーを睨みつける。

  睨みつけられた本人は既にジークから視線を外し、“黒”のライダーへと視線を移している。

  このままではライダーはセイバーの手によって殺される。やっと四肢に力が入り、立ち上がろうとした瞬間ーーー

 

  ジークの指がわずかに動いたのを目にした。

 

「…生きている!」

 

  歓喜が胸を満たす。生きていてくれた。それが何よりも嬉しかった。生きているなら傷を治せばいい。すぐにでも駆け寄り治癒魔術を施したい。だが、それを近くにいるセイバーが許さないだろう。

 

  最優のサーヴァントを出し抜き、彼を救出するのにはどうすればいい?

  今一刻と命が尽きそうな彼を窮地から救うにはどうすればいい?

  一秒にも満たさない内に思考回路が稼働し、最善の策を導かんと考える。

 

  ーーーそして、“黒”のバーサーカーは最善へと至る。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

「待たせたな」

 

「・・・・・」

 

  “赤”のセイバーは“黒”のライダーに向き直った。ライダーは顔を伏せて沈黙する。ライダーの表情から、柔らかな笑みは消えていた。

 

「行くぞ、“赤”のセイバー。君は、許さない」

 

「は、情を移すのも結構だがな!此処は戦場だぞ。オレに敵対した者はそりゃ、殺すさ。傷を付けた者なら、尚更だ!」

 

「ああ、そんなコトは分かっている。分かっているけどな、このアストルフォが、そんな理屈で納得するわけないだろうッ!」

 

  ライダーが槍を低く構えて、突貫を試みる。それを迎撃しようと剣を構えたセイバー。両者の獲物がぶつかろうとした一瞬にーーー地面が弾けた。

 

「「なっ!?」」

 

  土砂が吹き飛び、泥水が降りかかる。地面が幕となって迫り来るのを剣を振るって薙ぐも、続け様に地面が弾けて土砂や泥水が口に入ったり、頭にかかる。

 

「げっ!ペッペッ!!うぇ!?なん、だこれ!?」

 

  全方向からくる土砂に焦るセイバー。全身に泥や土がこびりつく。誰がこのような仕業をするか、すぐに答えが出た。

 

「…バーサーカァァァァァ!!!」

 

  最初は不意打ちを喰らい痛手を負って、二度目は真名を見抜かれ、今は土砂を浴びせられる。苛立ちが募りに募り、剣を振り回して下手人を探す。

 

「どこだてめええええええ!!!」

 

  絶対に叩き斬ると魔力を全開に放出し、地面ごと赤雷で弾き飛ばす。やっと止んだ土砂の向こうに、小剣を地面に突き刺すバーサーカーを見つけ、すかさずセイバーは弾丸のように接近した。

 

「くたばりやがれ!!」

 

  怒りに身を負かした一撃にバーサーカーは正面から立ち向かった。両手の槍と小剣で防御の姿勢を取り、白銀の剣がぶつかる寸前に魔力放出で立ち向かった。赤雷纏う白銀の剣と名も無き小剣がぶつかった。

 

「っ!ぐうおぉぉぉぉぉ!!!」

 

「オラアアアァァァァァ!!!」

 

  互いの魔力が底力を上げ、周囲に圧力を生む。塵一つでも二人に近づけば、木っ端微塵に押し消される。今は均衡に保つが、それは一瞬で勝負がついた。

 

「ーーーラアァ!!」

 

「ーーーガッ…!」

 

  バーサーカーが打ち破られた。セイバーの怒涛の一撃がバーサーカーの片腕を折り、遠くに投げ飛ばした。

  地面に転がり、立つ事もままならない。そもそもセイバーの宝具を受け、疲労困憊だったのだ。バーサーカーの実力ではどうやってもセイバーには届かない。

  伏せるバーサーカーにセイバーが近づいていく。

 

「やっとこれでお前は終いだ、バーサーカー。本当に厄介だったが、片腕で勝てるほどオレは安くねぇぞ」

 

「・・・・・」

 

  答えぬバーサーカーにセイバーは細心の注意を払う。少しでも油断を見せれば何を起こすか分からない。視線を外さず、周りを警戒して近づいていく。もしかしたらあの“黒”のライダーが邪魔するかもしれない。

 

  …“黒”のライダー?

 

  急いで振り向いてライダーが倒れた場所を見ると、ライダーの姿が見当たらない。

 

「…逃げやがったか!!」

 

  なぜバーサーカーがあれほど地面を弾いて土砂を撒き散らしたか、それは目眩ましの為。セイバーの視界を遮ることでライダーを隠し、バーサーカー自身が囮になることで意識を逸らした。

  セイバーは倒れるバーサーカーを睨みつけた。この狂戦士はどこまでも戦場を掻き乱す。三流と侮るべきではなかった。二人仕留められるはずだったのに、一人逃してしまった。その事実に誰よりも自信過剰な“赤”のセイバー、モードレッドは歯噛みする。

 

「てめえだけは確実に仕留めるぞ!バーサーカー!!」

 

  魔力放出の突出で距離を殺す。バーサーカーは無防備で息絶え絶え、ここで剣を振り下ろせば確実に仕留められる。そう思っていた。

 

 

 

  彼女の背後で、()()()()()の光が生まれる時までは。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  ルーラー、ジャンヌ・ダルクは空中庭園から連続で発射される魔術による光線を自身が持つ尋常ならぬ『対魔力』で捌きながら、進み続けている。この戦場において会わなければならぬ“何者か”を追跡しようとするが竜牙兵達が道を防ぐ。それを手に持った聖旗の尖端で一点を狙い、突き崩した。

  “赤”のサーヴァント達と出会わぬよう、ルートを構築して進んでいたのだが、とんでもない相手が道を防ぐように現れた。

 

「な…!?」

 

  現れたのは、一言でいうならば“小山”。巨大な体躯に異形の姿をした物体が現れたのだ。腕が八本に、丸太のような足には昆虫のような足が生えている。頭は首に呑まれ、肩からは恐竜のような上顎と下顎が生えている。

  一目見ただけでその正体を看破できるルーラーなのだが、それでも異形の姿に驚愕を隠せずにいる。

  この化け物の正体は“赤”のバーサーカー、スパルタクス。

  スパルタクスが持つ宝具『疵獣の咆哮』は、ダメージの一部を魔力に変換、蓄積して能力を向上させる。

  この異形はその宝具による影響なのだろう。

 

「む、そこの汝、“黒”のサーヴァントーーーではないな。ふん、ルーラーか」

 

  空中で体を回転させ、ルーラーの近くに翠緑の少女が着地した。

 

「“赤”の…アーチャーですか」

 

「何だ、汝は裁定者であろう。今、警戒すべき対象が分からんのか?」

 

「ーーーいえ、当然理解しています」

 

  “赤”の陣営に襲われたルーラーにとって、“赤”のサーヴァントは警戒すべき相手だ。だが、“赤”のアーチャー、アタランテはこちらを殺害対象とは見ていないようだ。“赤”の陣営も一枚岩ではないということだ。

 

「…“黒”にとっては二人目のバーサーカー、スパルタクス…ですか」

 

「確かにそうだが、これを陣営に当てはめようとするのはやめておいた方がいいぞ」

 

「雄々々々々々々々々々々々々々々々々!!!」

 

  異形の怪物となったスパルタクスは叫び続けている。それに二人は身構えた。

 

「…ここまで酷いとは思わなんだ。射てば射つだけ、増強され、最早人のカタチを忘却している。さすがバーサーカー、ここまで狂っているとはな」

 

  それを生み出した当事者は嘆息する。だが、嘆息させてくれる時間は与えんと、“赤”のバーサーカーが動いた。

 

「そこ、かーーー!!」

 

「ぐ、ぅーーー!」

 

「くっ…!」

 

  スパルタクスの一撃が大地に当たり、石や岩が彼女達に襲い掛かる。ただの石や岩にサーヴァントを傷つける力はない。だが、彼が触れた一撃には魔力が宿り二人を傷つけることを可能とした。

 

「ふむ。どうやら巻き込んだ形になったか、許せルーラー」

 

「いいえ、このような些事はよくあること。…ただ、立場上私は彼と相対するわけにもいきません。現状、被害が及ぶとしたらこの戦場だけですので」

 

「ふぅむ。私もまあ、その点については文句はないのだがーーー」

 

  急に表情が渋くなった“赤”のアーチャーに、ルーラーは嫌な予感がした。

 

「…何か?」

 

「マスターからの命令でな。そろそろ撤退する」

 

「あの、まさか」

 

  ポン、とルーラーの肩を叩いた“赤”のアーチャー。

 

「申し訳ないのだが、後は任せた」

 

「ちょっ!」

 

  “赤”のアーチャー、アタランテ。駿足を誇る英雄。その彼女の足に追いつける者はそうはいない。ルーラーが引き止める前に、彼女は森に姿を消した。

 

「…やられた」

 

  ルーラーが上を見上げると、スパルタクスの五つの目が自分を捉えている。

  ルーラーは旗を握り締め、迫り来る巨体を待ち構えた。

 

  ーーースパルタクスの頭上から極大の光線が降り注いだ。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  “黒”のバーサーカーによって土砂が巻き散らかせられた時、“黒”のライダーはこちらへ投げつけられた物体に目を惹かれた。

 

  それは余りに神々しく、心を揺さぶる秘宝だった。人類が求める極致であり、触れてはならない領域を秘める()()()()()が飛来する。

 

  慌ててそれを掴んだ。手に持った瞬間、思わず喉が鳴った。

  ーーー食べたい。本能が揺すぶられ、理性が崩壊しそうになる。

  だが、それを蒸発していると言われる理性で持ち堪える。自分でよく持ち堪えられたと絶賛すると同時に、なぜ()()がここにあるのかと疑問になる。

  飛んできた方向を見ると、“黒”のバーサーカーが小剣を地面に突き刺しながら、別方向を必死に指差している。“黒”のライダーが指差された方向を見ると、セイバーに斬り裂かれたジークがいる。

  暗い気持ちが湧き上がるがーーー僅かに、彼の胸が動いている。

 

  ライダーはバーサーカーが何をしてほしいか理解した。

 

  土砂のカーテンが“赤”のセイバーの視界を遮り、“黒”のライダーとジークを隠す。ライダーはすかさずジークに駆け寄り抱きかかえると、戦場から離れた。

  ある程度離れた時点でジークを降ろし、傷口を抑えながら叫んだ。ジークの口元に手にした()()()()()を近づけながら。

 

「起きるんだ!起きて口を動かせ!それで君は助かるんだ!!!」

 

  ライダーがジークへと呼びかける。ジークの瞼は閉じ、ピクリとも動かない。それでも体を揺すぶって叫び続けた。

 

「ここで死ぬとかふざけるなよ!君は生きるんだ!生きなきゃダメなんだ!君が生きなきゃボクも、セイバーも、バーサーカーも何の為にここにいるのか分からなくなるだろ!!

 

  君は生きて自由を謳歌して幸せになるんだ!!だからここで死ぬなよバカ野郎!!

 

  少しでいい!無力でいい!少し口を動かすだけでいいんだ!それで、君は生きられる!

 

  だから…頑張ってよ!!」

 

  ジークの口元が、少しだけ動いた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーー貴方こそ、彼女に必要なモノでしょう。

 

 

 

彼が目の前の美貌と愛の化身に跪くと、その手に黄金に輝く秘宝が置かれた。

  化身は姿がブレて、光に包まれているため人の目では化身の姿を認識できない。恐らく、跪いている彼にしかできないのだろう。

 

 

 

 ーーーこれを使いなさい。しかし、覚えておきなさい。これは栄華の灯火なれど災禍の種。求め、懇願するものこそを与えますが、誠実なき者には悲劇を送るでしょう。

 

 ーーーゆえに…間違えてはなりません。己を、想いを、過ちを。何よりも人を間違えてはなりません。

 

 ーーー貴方にこれを与えるのは、ええ、きっと。貴方がそういう人なのだと期待しているからよ。

 

 

 

  手に置かれた“黄金に輝く秘宝”を抱き寄せて、彼は頷いた。それに満足したのか化身は姿を消した。一人残った彼はゆっくりと立ち上がり、黄金に輝く()()を見て呟いた。

 

『僕が…すべきなんだ』

 

  両の瞳から、涙が零れ落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

  それはとても寂しい背中だった。

  後ろから幽霊のようにその光景を眺めている自分は、なんでこれを眺めているのかという疑問より、なぜそんなに悲しい顔をしているのかが気になった。

 

  これが彼の英霊としての力の根源なのだろう。だが、その力には悲哀が籠められていた。

  彼が為して手に入れられたのではなく、化身から与えられた物が彼を英雄として導いた。

 

  いや、きっと彼は英雄になりたかったのではない。英雄になりたいのではなく、たった一人の、たった一人の女性のーーー

 

 

 

  手を握りたかっただけなんだろう。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

 

 

  重い瞼が開かれると、眼に映ったのは別れてからそれほど時間は経ってない筈の恩人の泣き顔だった。

 

「…えぐっ、うぐっ!良かった、良かったァ…!!」

 

「……ライダー?」

 

  痛いほどに抱きしめられるが振り解こうとは思わなかった。されるがままの強い抱擁にしばらく精神と肉体を預けていたが、直ぐに疑問が浮き上がった。

 

「…生きている?」

 

  体を動かすが痛みは感じない。セイバーに斬られた時の尋常ならぬ激痛は既に消え去っていた。むしろ、肉体の調子は良いぐらいだ。

 

「…こんの、バカ野郎!!」

 

「っ!?」

 

  突如抱擁止めたライダーに拳骨を喰らい、脳が揺さぶられる。ジークは頭を抑えながら、ライダーへと意識を戻す。

 

「なんでここに帰ってきたんだよ!危ないことぐらい分かっているだろう!?なのになんで!?」

 

「…すまない」

 

  ジークはライダーへと素直に頭を下げた。自分の愚かな行動は自覚している。“黒”のセイバーから貰った心臓により、肉体は強靭となったがそれでもサーヴァントに敵うはずがない。それなのに“赤”のセイバーへと突貫した。ライダーの怒りは最もだ。助けられたのに危ない目に自ら飛び込むなど愚の骨頂。それでもーーー

 

「ライダーに会いたかった」

 

「っ!」

 

「自由に生きるべきだったのかもしれない。…しかし、願いがあって、ライダーやセイバーに胸を張れるように生きてみたいと思えた。だから、此処に戻ってきた」

 

  そう言われては、ライダーは何も言えなかった。彼が選び、決めた道程だ。それを否定できるわけがない。でも。

 

「ならもうちょっと考えたらどうさ!?」

 

「…君が言うか?」

 

「うるさい!!」

 

  ジークは立ち上がって、周囲を確認する。雨は止まず、戦いは続いている。何処かしらから、サーヴァントの戦いの余波が音となって響いてくる。

  自分が気絶している間でも変わっている様子はないようだと理解すると、左手の甲に痛みが走った。

 

「っ!」

 

「ちょ!? なにソレ!」

 

「…馬鹿な、これは!?」

 

  ジークの左手に刻まれていたのは参画の“令呪”だった。だが、普通の令呪とは異なる。令呪の紋様はマスターにより変わるが、赤い色が普通だ。だが、ジークの令呪は黒だった。なにより、その令呪は悍ましい。この令呪の奥には巨大な生物が潜んでいそうだった。

  これは何なのか、なんでこれが宿っているのか。疑問は生まれ、一つ一つ彼の優秀な頭脳が解決してくれる。

  少しづつ納得、理解していき、隣で驚くライダーに尋ねた。

 

「ライダー」

 

「・・・・・」

 

「ライダー!」

 

「えっ!?なに!」

 

「俺はどうやって生き返った?」

 

「バ、バーサーカーの()()って…、バーサーカー!?」

 

  思い出したように走り出したジークに、その後を追いかけるライダー。

  直ぐにライダーが辿り着くと離れた先にはセイバーがバーサーカーへ叫びながら突撃していた。バーサーカーは倒れ、抵抗しようにもできていない。

 

「バーサーカー!!」

 

  きっと、バーサーカーがライダーと自分を逃し、時間を稼いでくれたのだろう。ジークはバーサーカーの宝具と胸に収まるセイバーの心臓、そして手に刻み込まれた令呪で今の自分が何なのか把握した。全てではない、だが大まかに知れれば問題はない。

  今やるべきは、ライダーとセイバーに続き、自分を救ってくれた恩人を救うことだ。

 

「ーーー令呪を以って、我が肉体に命ずる」

 

  三分だ。三分を三度だけ、奇跡を再現できる。その代償は何なのかはわからない。だが、進もう。ここで立ち止まるわけには行かない。

  令呪の一画が輝き、ジークの身体が変貌する。

 

 

 

  そこに伝説の龍殺しが再現される。

 

  胸にーーー黄金の鼓動を宿しながら。

 

 

 




原作通りジーク君復活。結構ゴリ押しかも知れませんが生暖かく見守っていただけたら、と…!


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