碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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気がつけば既に三月後半。もう直ぐで五章も始まるわけだし、色々と節約せねば。

アヴェンジャーほしかった。

というわけで更新です、どうぞ。


赤雷渦巻く

  ーーー圧倒的じゃないか

 

  “黒”のライダーは自身の宝具『触れれば転倒!』である黄金色の馬上槍を握りしめ、果敢に攻めていくも、“赤”のセイバーは機敏に避け続ける。

  『触れれば転倒!』の能力は、一撃でも喰らえばサーヴァントの脚部を強制的に霊体化させることだ。

  だが、直撃しなければ意味はない。

  “赤”のセイバーはスキルに『直感』を保持している。故に彼女の直感は彼女に囁く。

 

 “あれに触れるな”と

 

「遅い!」

 

「ぐっ!」

 

  全身鎧を身に纏っていてもライダーを超える敏捷さでセイバーは一方的に刃を叩き込む。何とか凌ぎきろうと馬上槍で受け止めるが、一撃一撃に赤雷を纏わせたセイバーの剣に今にも崩れ落ちそうだ。

  この赤雷は“赤”のセイバーの魔力だ。全身から余すことなく放出される魔力は赤雷へと姿を変え、敵に襲いかかる。

 

「ああクソ、こっちは忙しいんだ。…さっさと死ねよ!」

 

「いやいや、そう言わずに、もうちょっと付き合ってくれない?」

 

「ほざけーーー!!」

 

  笑みを絶やさずに戦うライダーにセイバーは怒髪天を突く。沸点が低すぎる。

 

「くっ…!」

 

「隙だらけだぞ!オラァ!!」

 

「ガッ…!」

 

  馬上槍を上方へと弾き、がら空きになった腹部へ剣を叩き込む。ライダーは身体を捻ることに徹底した。それが功を奏したのか、脇腹を貫いただけで即死とはならなかった。

  だが、それはセイバーの剣が喉元へ突きつけられた状態では何の意味はない。

 

「じゃあな、楽しかったぜ」

 

  大剣を振り上げる。これが落ちれば“黒”のライダーは消滅する。ーーーが、ライダーは笑って呟いた。

 

「…準備、完了だ」

 

  ライダーの言葉に、セイバーは大剣を止めた。

 

「おい、なにが準備できたってんだ。ええ?」

 

  ニヤリと笑うライダーにセイバーの苛立ちが募る。策か罠か、自らの状況を振り返ろうとした時ーーー

 

「シッ!!」

 

  音もなく参上した“黒”のバーサーカーが、“赤”のセイバーの背中に小剣を突き刺した。

 

  キィン!!

 

  しかし、金属音が寂しく響き渡っただけであった。

  高ステータスの耐久に、ただのバーサーカーの刺突は通らなかった。

 “黒”のライダーは、驚愕を隠せずに“赤”のセイバーを見上げた。彼女は怒りで、身体を震わせている。

  背部で油断させたところでの完璧な一撃。だが、それは鎧の表面に剣を突き立てるだけの虚しい結果だけが残るのみだった。

 

「てめぇ如き三下が、一匹増えたところでな…」

 

  ギリギリ…と歯軋りが響く。“黒”のライダーはその様子に危険を察知し、馬上槍で突こうとするもセイバーに肩を踏まれて身動きが取れなくなった。

 

「勝てると思ったーーー」

 

 

 

「君みたいな一流に噛み付けるように令呪があるんだよ」

 

 

 

  “赤”のセイバーの直感が告げる。

 

 ()()()

 

  彼女はその直感に従い、体を捻った。背中に突き刺された小剣の位置を、せめてもと腹部へと移せたのはまだ幸運だっただろう。

  だが、時は既に遅すぎた。バーサーカーの持つ小剣に力が篭る。それと同時にバーサーカーのマスターから命令が下された。

 

 

 

『第五の“黒”が令呪を以って命じる』

 

 

 

『貫け!バーサーカー!!』

 

 

 

「淵源=波及《セット》!!!」

 

 

 

「…ガアアアァァーーー!!?」

 

  小剣が鎧に突きつけられた状態からの魔力放出、加えての令呪によるバックアップ。限定されたこの一撃は最優と称されるセイバーの堅牢な鎧を突き破り、中の肉体を貫いた。

  衝撃は空気を揺らし、“赤”のセイバーは吹き飛ばされる。

  切っ先についた血を払い、バーサーカーは倒れるライダーへと手を伸ばす。ライダーは満面の笑みで手を取って、立ち上がる。

 

「やるじゃんバーサーカー!!」

 

「ナイスアシストだろ?」

 

「ああ!」

 

  勢いよくハイタッチする。傷ついたライダーの肉体は、マスターからの治癒魔術がやっと届き、少しづつ治っていく。

  二人は少しだけ喜び合うと、セイバーが吹き飛ばされた方向へと向き直す。

 

「ねえ、あいつ倒せると思う?」

 

「かなり…難しすぎる」

 

「だよね〜」

 

  ガラリと、鎧が音を立てながら立ち上がる。ゆっくりとした動作はまるで何があったのか、確認しているようだった。

 

「ところで“黒”のセイバーとあいつ、どっちが強いと思う?」

 

「……断言できないな、どちらも次元が違い過ぎる」

 

「だね」

 

  やがて、立ち上がった彼女の周囲には赤雷が迸り始めた。彼女の感情と連動し、大地を、空気を、降りやまぬ水滴を焦がしていく。離れた位置でも、赤雷にどんな感情が含まれているのか分かる。

  ーーー怒り

  この一点に他ならない。

 

「でも“黒”のセイバーの方が勝てない、と思えたかな?」

 

「違いない。しかし、前に立つのは彼だ。ーーー気を引き締めてよ、ライダー?」

 

「大丈夫!やってやるさ!」

 

  黄金色の馬上槍を構える“黒”のライダーと、槍と小剣を両手に構えた“黒”のバーサーカー。

  幽鬼のように揺らめきながら、“赤”のセイバーは剣を一度振る。

  赤雷が剣の軌跡に乗り、破壊力を得る。大地が爆ぜて、空気が燃える。

  顔を上げた“赤”のセイバーは真っ直ぐと二人を見据えて、叫んだ。

 

「ぶっ潰してやるぞクソッタレどもがああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

  その表情はまさしく若獅子。兜の奥では可憐と思える顔の造形が恐怖へと感じる程に怒り猛っていた。

  直に怒りをぶつけられる二人は揃って呟いた。

 

 

 

「「あ、ダメだコレ」」

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  走る、走る、走る。

  少年は走り続ける。目指すのは恩人の元。

  “会いたい”ただそれだけが、彼を突き動かす。

  彼の目的はもう一つあった。だがそれは既に果たされた。

  ならば恩人の再会に全てを置いて、走る。

  戦場で幾度となく叫ぶが返事はない。喧騒が掻き消し、雨音が音を落とす。

  肌に張り付く衣服が不快感を生むが、それさえも今は感じていられない。

  この戦場で今、命を削りながら戦い続けているもの達がいる。

  恩人もその一人であろう。

  なら、借りを返したい。役立たずかもしれない。逃げろと怒られるかもしれない。

 

  でもーーー自分で選んだ。

 

  引き返そうとも既に選択肢は散り散りとなっている。

  ならば、一歩でも前へ進まなければならない。自分が選んだ道程を、少しでも良かったと思えるために。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「オラアアアァァァァァァァァァァ!!!」

 

「ぐぉっ!」「くっ!」

 

  “赤”のセイバーの猛攻を、“黒”のライダーと“黒”のバーサーカーは耐え忍ぶことしかできなかった。バーサーカーのあの一撃は令呪あっての最高の一撃。セイバーの鎧を貫き、手傷を負わせれたがそれも時間が経つことでマスターの治癒魔術で修復されるだろう。

  空いた鎧から血が漏れているが、些末だと言わんばかりに赤雷を撒き散らす。

 

「ぶっ潰れろ!!」

 

「潰れ、ない!!」

 

  急速な振り下ろしを槍を両手に持って防ぐ。槍に直撃した瞬間に、足が地面に埋まるような衝撃に身体が硬直した。その隙を逃さず、蹴りを叩き込もうとセイバーが足を半歩引くが、その前にライダーの横入りが入った。

 

「倒れてよ!」

 

「鬱陶しいな、おい!」

 

  馬上槍を突き出すが身体を後ろに逸らして躱された。セイバーは大きく後ろに飛び退き、間合いを取る。ライダーとバーサーカーの二人はセイバーの余りにも格が違いすぎる実力に舌を巻くばかりだ。

 

「バーサーカー、あのセイバー強すぎない?」

 

「それはセイバーだからね。生半可な実力で最優には選ばれないだろうから」

 

「あー、王様は伊達じゃないかぁ。というか女の子だから女王かな?」

 

「ん?王様?女王?」

 

  ライダーの言葉に反応するバーサーカー。ライダーは頷くと“赤”のセイバーを指差した。

 

「あの娘、女の子だよ?」

 

「…女の子で騎士で王だった英雄?」

 

  真名をーーーブリタニアの女王、ブーディカかと“黒”のバーサーカーは考えた。王であった夫の死後、女王の座に就いたが女性に相続権がないとローマ帝国に娘共々苦痛と陵辱に遭わされ、大帝国へ反旗を翻した勝利の女王。

  しかし、ならばあの情報隠蔽のスキルは何だ? かの女王にそんな逸話があったか。そもそも女王は王であって、騎士ではない。

  それにあの気性の荒さに、“黒”のランサーのような王気を感じない。

  卓越した剣術を持つ歴戦の騎士、それが“赤”のセイバーから感じられた印象だ。王というにはーーー少し違う。

 

  こちらの会話を聞いていたのかセイバーの眉が跳ね上がった。

 

「てめぇ、俺の事を女と呼んだな?絶対てめぇの首を跳ねてやる!」

 

「ありゃ、更に怒ったよ」

 

「……むう」

 

  女が嫌い…という訳ではない。恐らくあの様子だと生前は男として振舞っていたのかもしれない。もしかすると事実は女で、逸話では男として語り継がれた英雄なのかもしれないとバーサーカーは考えた。

  逸話と事実はとことん掛け離れている。伝えられていない部分など幾らでも存在するだろう。

  このまま思考しても何の問題解決にもならない。だから、聞いてみよう。

 

「“赤”のセイバー。君は本当に王なのかい? 僕の知る王という姿は、もっとこう、誇り高くて…君みたいに粗暴ではないと思うんだけど?」

 

  バーサーカーはもう少し情報を得ようと話しかけてみる。返事は赤雷と咆哮であった。

 

「うるせえ! 品行方正とか礼儀正しいとかは忌々しい優等生だけで充分だ。王は王だ! 俺は()()()より王として、相応しい!」

 

「なるほど、その言い分だと結局のところ君は王になれずじまいだった訳だね」

 

「てめえ…!」

 

  兜の下にどんな顔が収まっているかは分からないが、絶対激怒している。彼、いや、彼女にとって王というワードは彼女という英霊に深く関わっている。そして、『あの人』。この流れだとすれば必ず『あの人』とは王を指す。

 

「君が騎士ならば、さぞ『あの人』という方は優秀な人なんだろうね。君みたいな不良騎士を従えていたんだ。王として、()()()に立派な方だったんだろうさ」

 

「ーーーてめえが」

 

  竜の尾を踏んだ。もしくは逆鱗に触れたか。怒りにより魔力が体から溢れ出し、弾けた赤雷が空気を焦がし、大地を爆ぜる。

 

「オレと、()()を語っているつもりか三流!!!」

 

  ーーー父上

 

  その言葉にバーサーカーの思考回路が高速で回転する。

  騎士、素性を隠すスキル、宝具と思わしき白銀の剣、そして王である父への執着。

  そこで一人の英雄の名へと辿り着く。可能性としては大きい。だからこそバーサーカーはセイバーに向かって、こう口にした。

 

 

 

「だから父に刃向かう道を選んだのか?叛逆の騎士()()()()()()?」

 

 

 

  ピタリ、と“赤”のセイバー、モードレッドの動きが止まった。今までの怒りは何処へ消えたのか、雷の轟音は不思議と鳴り止んでいた。

 

「…てめぇ」

 

  その反応にバーサーカーは小さく呟く。ーーービンゴ、と。

 

「…モードレッド?モードレッドってあの、モードレッド?」

 

「ああ、円卓の騎士の末席にしてアーサー王に叛逆した騎士、モードレッドだろうね。彼女…いや、彼は」

 

  モードレッド。伝説名高き騎士王、アーサー王の息子にして、アーサー王の伝説に終止符を打った叛逆の騎士。

  アーサー王がフランスに出兵している間、留守を任されたモードレッドは多くの諸侯や豪族を従えて謀叛を起こした。

  そして、帰ってきたアーサー王の軍勢とぶつかり合い、カムランの戦いにてアーサー王に一騎討ちを申し込み、騎士王の一撃にて破れた。

  そのモードレッドがまさかの女性とは予想外だったのだろう。正体を言い当てたバーサーカーも、セイバーが動きを止めるまで疑い半分だったのだから。ライダーも驚愕で口をあんぐり開けている。

  当の本人はしばらく瞠目していたが、落ち着きを取り戻したのかため息を吐きーーー兜を脱いだ。

  バーサーカーは初めてセイバーの素顔を見ることになったが、素直に愛らしい少女だと思った。

  輝く金髪を後ろで一つに纏め、端整な顔立ちに勝気な目つきは何処か自分の妻に通じるものがあると感じた。

 

「…バーサーカー、だっけかお前?」

 

「あぁ、そうだよ」

 

「お前みたいな、弱い癖にやたら小賢しいやつは基本的に厄介なやつだって決まってんだよ」

 

  今までの暴威は何処に行ったのか、極めて落ち着いて語りかけてきたセイバーに、バーサーカーとライダーはたじろいだ。

  その佇みとは裏腹に彼女から発せられる魔力の圧力が先程とは比べものとはならない程に膨らみ上がっている。

 

「それが、どうしたんだい?」

 

「なに、そういうやつはのらりくらりといつの間にか戦場から遠のいて、決着がつかないことが多々あった。こっちには面倒くさいものを置き去りにしてくれたりしてな」

 

  白銀の剣を両手に持ち替えて、無作法に、だがしっかりと足を開いて構えを取った。

  膨大な魔力が剣に集束し、バチバチと魔力が弾き光る。

 

「だから、余計なことをしてくれる前にーーー」

 

  視線が此方に定まった。

 

「ーーーここで潰す」

 

 

 

「ライダー!!」「うん!!」

 

 

 

  その時二人は察した。

  セイバーはここで決着をつける気だと。

  二人は身を翻して、全力で後退し始めた。

  戦場で背を向けることは恥だと、侮辱されるが二人は背を向けて逃げることに徹した。

  あの魔力の集束は『宝具』の解放の兆し。そして、解放された宝具の威力を防ぐ術を持たない二人は、できるだけ宝具の一撃を避けようとなりふり構わず走り出す。

 

  白銀の刀身が紅へと染まっていく。形を変えて、王剣は邪剣へと変貌する。荒れる赤雷が周囲へと走り、形ある物を崩していく。

 

『我が麗しきーーー」(クラレント)

 

  赤雷の輝きが最高潮へと高まり、剣の振り降ろす向きを逃げる二騎へと向けられる。

  彼女は叫ぶ。彼女が最も世界に残した逸話を。王への、父への最大の憎悪と憧憬を込めて。

 

ーーー父への叛逆』(ブラッドアーサー)!!!」

 

  放出された魔力の奔流はまさに竜の息吹。その一撃は世界を削り、概念を揺るがせる。

 

  赤雷が、世界を満たした。

 

 

 

 

 

「ーーーゲホッ」

 

  やっと呼吸ができたと思ったら吐き出したのは血痰だった。肺に血が溜まっていたのだろう。血を吐き出して顔を上げて見える景色はーーー焦土だった。

  ホムンクルスの死体も、ゴーレムの瓦礫も、竜牙兵の残骸も、全て木っ端微塵となって消えていた。

  戦っていた場所は移動に移動を重ねながらだったため、森から草原の近くにいたが生えていた草木も消え去っている。

  モードレッドの宝具『我が麗しき父への叛逆』

  その宝具は周囲を跡形もなく消し飛ばす高威力の赤雷を放つこと。弱小のサーヴァントなら直に喰らえば、必殺となるだろう。

  だが、バーサーカーは生きていた。五体は満足ではあるが全身が痛めつけられて体を上手く動かせない。宝具の解放のギリギリまで逃げて、解放と同時に左右に飛び退いたことが功を成したか。

 

「ライ、ダー……」

 

  友の姿を探すが、すぐに見つかった。僅かに離れた距離にバーサーカー同様に倒れ伏せていたが意識を取り戻している。ーーーだが、その横でセイバーが剣を突き刺そうと立っていた。

 

 

 

 

「ーーーこれは、きつい…なぁ……」

 

  両目に映るのは剣を持ち、自分の胸に突き刺そうとしている“赤”のセイバー、モードレッド。“黒”のライダーは騎乗槍でも何でもいいから反撃しようとするが、上手く手が動かせない。というより、指が痺れて物も上手く掴めない。マスターであるセレニケが令呪で転移してくれればこの状況から逃げられるだろうが、不運にも先程の宝具の一撃で戦況を観察する使い魔は何処かへと飛んで行ってしまった。此方の状況を確認できなければ的確に令呪を使えないだろう。

 

「ムカつく雌犬だったがよくやったーーーだが、これで終わりだ」

 

  セイバーは蔑みもなく、賞賛と終わりを告げる。ライダーは視線を横に移し、こちらを助けようと必死に這いずるバーサーカーの姿を捉えた。

 

(逃げるんだ)

 

  二度目の生で得た最初の友、ヒッポメネス。曲者揃いの“黒”の陣営で自分の遊びに付き合ってくれた平穏な英霊。彼の願いは妻であるアタランテとの再会。そのアタランテが皮肉にも“赤”のアーチャーとして現界している。普通の人なら敵同士で殺しあわなければならないことを憐れむだろうが、ライダーはバーサーカーにその事を聞いた時こう言った。

 

『良かったじゃないか!奥さんと会えるよ!』

 

  理性が蒸発しているライダーにとって敵同士など知った事ではなかった。純粋に友の願いが叶えられることを喜んだ。バーサーカーは少しだけ複雑そうに表情を変えていたが、すぐに嬉しそうに破顔した。

 

『ああ、アタランテに会ってくるよ』

 

  この戦場で満足いく再会はできていないだろう。だから、ここで逃げるんだ。ライダーは手をしっしっと振って逃げろとバーサーカーに伝えた。それでも、バーサーカーは転がっていた小剣を拾って近づいてくる。

  ーーー友達ってやっぱりいいね。そう思いながら、ライダーは視線をセイバーへと戻す。

  倒錯的なマスターに召喚されたがバーサーカーやアーチャー、そして命を救えたホムンクルスの少年と出会えたことは良かったと思いながら眼を瞑る。

 

「じゃあな」

 

  セイバーの言葉と、バーサーカーの叫びが聞こえる。

 

(…あーあ、これで終わりかぁ)

 

  少しだけ後ろ髪を引かれるが悔いはない。自分らしく、英雄らしく二度目の生を全うできたことを誇りながら剣が降ろされることを待つ。

  歯を食いしばり痛みに覚悟してその時を待つがーーーいつまで待ってもその時が来ない。

  何事かと、眼を開けるとーーー絶句した。

 

  セイバーの後ろには見覚えがある()()が立っていた。少年はバーサーカーが穴を開けたセイバーの鎧の隙間から細身の剣を突き刺し、修復されかけていた傷口を開かせた。血が再び流れ、セイバーは苦痛と驚愕に首だけを回して、自分を傷つけた正体を睨みつけた。

 

「ーーー何者だ、貴様?」

 

  ホムンクルスの少年、ジークは細身の剣は引き抜き後ろに下がる。無言、それがセイバーの質問に対するジークの返答だった。

 

「…答えぬならそれでも構わん。お前は、オレが殺すと決めた」

 

「ーーーっ!! 止めろ、セイバー!」

 

  現界まで傷ついた体を起こし、セイバーへと掴みかかるライダーだが、無謀な行動の代償に腹部に鋭い蹴りが入る。

 

「がっ…!」

 

  激痛に膝を着く。痛みどころで屈するつもりはないが限界に近い肉体は行動を障害する。

 

「残念なことに。オレはこいつを敵だと見定めた。せめて、もう少し弱ければ別の道が見つけられたものをな」

 

  セイバーが蹲るライダーへ告げると、白銀の剣を構える。ジークは動かない。直視する死の恐怖で動けないのか、平然な様子で目の前のセイバーを眺めていた。白銀の剣がブレ、ジークへ降ろされたその時。

 

淵源=波及(セット)!」

 

  ジークの前に地面に溜まった水溜りが壁とならんと盛り上がった。バーサーカーが魔術でジークを救わんと満身創痍で即席の壁を作った。ーーーだが。

 

「ーーーあっ」

 

  その儚い一言はジークなのか、ライダーなのか、バーサーカーだったのか。水の壁は容易く引き裂かれ、白銀の剣はジークを斬り裂いた。体が崩れ、地面に紅い水溜りを生む。

雨は未だ降り続く。草原を彩るホムンクルス達の血の中にまた、ジークも加わった。

 




接近戦では全くもって二流サーヴァントなヒッポメネスなのです。彼がアタランテと同等に闘えたのは、彼女を知っているからであり、それ以外のサーヴァントに対しては普通に弱いのです。

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