碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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アヴェンジャー実装おめでとう。
早速の10連ガチャは誤爆。試しの彼の格好良さに惚れるが金が無し。
呼符のみが希望、今年の幸運を我にーーー!!

では、どうぞ


戦々狂興

  草原はホムンクルスの血で紅く染まっていた。

 

  戦いが始まり、あちこちでサーヴァント同士の戦いが始まる中、唯一血を流す兵であるホムンクルス達は敵の竜牙兵達による猛攻により肉を裂かれ、血を噴き出し、脆く崩れ去っていく。

  “黒”のキャスターによって創り出されたゴーレム達は土に還るだけ、また竜牙兵も崩れ破れた瞬間に魔力の散りとなって空中に分散する。

  この戦いのためだけに創り出された存在ではあるが、この時間に生きている肉人形であるホムンクルス達は大地にこびりつくシミとなってこの世に生きていたことを証明していく。やがて、降りやまぬ雨によってシミは流されて蒸発し、世界の一部として循環するだろう。人と、同じく。

  ならば、ホムンクルスも人と同じになるのだろう。時が経てば屍となり、地や空気と一つになり星に還る存在。この大地に存在するなら、どの生命も同等に等しい。

  ただ違いがあるとすれば、同等な循環の中で何を思い、何に行動し、何を残せるかだけ。

  人間はその答えを探し、見つけ、残してきたからこそ、世界を我が物顔で闊歩する生命なのだ。

  生まれてきた時から存在する答えがあるホムンクルスにとって、彼らは物と同列にされる。

 

  だがーーー答えに疑問を持ち、探し始めたならば…彼らは人間と呼べるのではないか?

 

  それを人間が許すかどうかは別の問題だ。この儚く短い命が消費されていく戦場で、二人。とある二人が足を踏み入れようとしていた。

 

  片や、英霊が憑依した娘。

 

  片や、英雄により命を貰った元ホムンクルス。

 

  イレギュラーである二つの存在はこの運命を加速させんと、自ら死地へと飛び込んでいく。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「さあ、我が国土を踏み荒らす蛮族達よ!懲罰の時だ!慈悲と憤怒は灼熱の杭となって、貴様達をさしつらぬく!そしてこの杭の群れに限度はなく、事実無根であると絶望しーーー己の血で喉を潤すが良い!『極刑王』!」

 

  宝具の真名を口にすると大地が揺れる。揺れる大地に竜牙兵たちが下を向くと、瞬時に大地一帯に細長い杭が召喚され、天へ伸びるが如く彼らを貫いていく。

  宝具の発動により竜牙兵たちは三桁程の数を消された。

  魔力の粒子となって消えていく竜牙兵に目をくれず、“黒”のランサーは真っ直ぐと空中庭園へと馬を走らせる。

  そこに、黄金の鎧を身につけるサーヴァントが迎撃へと立ちはだかった。

 

「“黒”のランサー、ヴラド三世とお見受けする」

 

「ほう。余の真名を呼ぶ貴様は“赤”のランサーか」

 

「そうだ。理由あって、お前を討つ。悪く思うな」

 

「いやいや、悪く思う必要はないさ。お前達は余を殺さねばならなくて、余はお前達を殺さねばならない。痛ましいが当然ではある。それに何より

 

  侵略者を打ち倒すのは王の役割。だから、嘆く必要はない」

 

  “赤”のランサーに、地面から杭が突き上がった。

 

「ーーーふむ」

 

  だが、“赤”のランサーは手に持つ神槍であっさりと打ち砕く。

 

「なるほど。やはり、この杭が宝具かーーーしかし、この数は異常だな」

 

  ランサーが首を回して周囲を見渡すと、草原を埋めつくさんとばかりに杭が突き上がっている。“黒”のランサー、ヴラド三世の宝具『極刑王』は聖剣や神槍の類の物ではなく、歴史的に起きたことを再現するものだ。ヴラド三世が起こした歴史、すなわち二万のオスマントルコの軍勢を串刺しにしたことである。

  一本一本は宝具未満に満たない代物である、が、二万という圧倒的な数が揃えばそれは英霊といえど威圧できる。

 

「さあ、我が故国に無断で踏み入った咎人たちよ。処断の時だ、あのガラクタ共々屍を晒すが良い」

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「バーサーカー。お前のマスターは僕だ。分かるな?」

 

「ああ、分かる。どうやら、君の力無しでは私は存在できないらしい。許し難い隷属だ」

 

「…なら、僕を殺すかね?」

 

「だから君を殺すことはできない。何故なら、私には少しでも長くこの現世に残らねばならない使命があるからだ。圧制者を打ち倒し、絶望の果てにある希望を掴まねばならないからだ。そして最後に、聖杯を求めて集った権力者達を鏖殺しなければ」

 

「ーーーなるほど。だが、そのためにはまず相手方を殲滅しなければ話になるまい。行け、バーサーカー。お前の相手は侵略者であり、権力者の走狗だ。動機としては充分だろう」

 

  そう言ってキャスターは“赤”のバーサーカー、スパルタクスの封印を解く。

  バーサーカーは隷属からの解放を目指し、柔和な笑みを浮かべたまま戦場へと進み始めた。

  その様子にやれやれと溜め息をつく“黒”のキャスター。

  下手に高圧的に出れば前言撤回してキャスターに斬りかかることも考えれる。内心ヒヤヒヤしているが仮面を被っているせいでキャスターの表情は読み取れない。

  キャスターのやるべき事はあと一つ。頃合いを見て、宝具を発動させる事だ。ダーニックの許可を得て、不承不承だが宝具の炉心として、今は亡きセイバーのマスターを組み込む。本来ならもっと優秀で炉心に適した魔術師を炉心に使いたいが贅沢は言えない。炉心として使う予定のホムンクルスは“黒”のライダーが逃したし、そのホムンクルスがきっかけでセイバーを失った。炉心に拘りすぎると後々ツケがきそうなため、妥協することにした。

 

『先生!』

 

  不意に念話でマスターである少年の魔術師のロシェが話しかけてきた。同じゴーレムを基盤とする魔術師で、キャスター、アヴィケブロンの腕前に尊敬し、先生と呼び慕うマスターにサーヴァントであるキャスターは呼び声に応える。

 

『どうしたんだマスター』

 

『はい!あの、戻ってきたら…僕のゴーレムを見て貰えませんか!?今度は、上手くできたと思うんです!』

 

  ほう、と感心したように頷く。ロシェのゴーレムに対する情熱は知っている。アドバイスすればすぐに指摘された点を直す素直さは好感が持てて、生前なら弟子として迎えることも考える。

  今が戦闘中でなければよかったが、ロシェはこちらが負ける事など一切考えていないようであった。

 

『時間があれば見せて貰う』

 

『は…はい!』

 

  子供は苦手だと思いつつ、ロシェの頼みを引き受ける。直ぐにロシェからの念話は止んだが、やはりゴルドを炉心に使う事に残念だと嘆息した。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  “赤”のライダーは短命であった。

 

  生まれつき体が弱いという訳ではない、それこそ母の恩恵で踵以外は傷つけられない不死身の肉体を手にしている。

  ただ、英雄として生きる事を選んだため、戦場を華々しい活躍と絶賛される栄光を得られる代わりに、駆けるように命が尽きた。

  彼の最後は彼と比肩される英雄を殺した後に戦車で引き摺り回し、侮辱したことで太陽神の不興を買ったことから始まった。

  太陽神はトロイアの英雄パリスに加護を与えて彼の弱点である踵を撃ち抜いた。続け様に心臓を射抜かれ、そこで絶命ーーーすると思いきや、彼は自身の死を悟ると力尽くまでトロイア軍を殺し尽くした。

  平穏を捨て、英雄として生きる事を選んだ彼は若き身でこの世を去った。

 

  それが“赤”のライダー、アキレウスの人生であった。

 

  そんな大英雄アキレウスにはとても優秀な師匠であり、頼りになる兄であり、越えるべき父がいた。

  実父であるペレウスが頼み、九年間自身を英雄として開花させるべく、育ててくれた恩師がいる。

 

  その名はケイローン。

 

  此度の聖杯大戦にて、“黒”のアーチャーとして召喚されたケイローンが、自分の前に立つことを、“赤”のライダー、アキレウスは何と言葉にしたらいいのか分からなかった。

  ただ一つ脳裏に思い浮かんだのは、“赤”のアーチャーであるアタランテと“黒”のバーサーカーであるヒッポメネスである。

  彼らが()()であったように、ケイローンとアキレウスも戦わなければならないことを、深く、理解した。

 

「ーーー行きます、先生」

 

「そんな言葉は不要ですよ、“赤”のライダー」

 

  厳しい言葉に萎縮しつつも、師弟の、兄弟の、父子の戦いが始まった。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「…よし、行くか!」

 

  能天気な声と共に飛び出したのは“黒”のライダー、アストルフォ。彼は宝具である自身の愛馬『ヒポグリフ』を召喚し、空中庭園へと空を駆け出した。ヒポグリフを呼び出す前に、“黒”の陣営の魔力供給を受け持つホムンクルス達を案じて宝具の使用を迷っていた。

  ホムンクルス達と、自分が救ったジークという少年のこと。

  彼らは魔力を精製する電池として造られたが、彼らの命を消費する宝具の展開はできるだけ避けたかった。

  だから、彼は最大の宝具は使わない。アストルフォはそう決めた。ヒポグリフの能力はただ幻獣を呼ぶことではない。真名の解放によって本来の力を発揮できるのだが、アストルフォはそれを封印することにした。

  莫迦な選択肢なのだろう。だが、その選択肢を取るからこそ彼は英雄なのだ。やりたくないことはやりたくない。絶対にやらないのだ。

 

「いよぉ〜し!ひとっ飛びだ!」

 

  主の命令に遵守に従い、翼を強くはためかせ、空へと駆けていく幻馬。目指すは“赤”のアサシンが支配する空中庭園。

 

  もちろん庭園の主は、アストルフォの侵入を許す訳ないが。

 

 

 

 

 

「ーーーほう?向こうのライダーも天を駆ける馬を持っているか。ならば、用意したこいつらも無駄にはなるまい

行け。醜悪なる翼者ども。せいぜい食い散らかしてやれ」

 

  “赤”のアサシン、セミラミスは薄く笑いながら空中庭園から接近してくる“黒”のライダーを見つめる。軽く手を振ると人間大の物体が空へと飛び出していく。

 

 

 

 

 

  “黒”のライダーは空中庭園から飛び出したものを見て、首を傾げた。それは上半身は竜牙兵であり、下半身は鳥類そのものだった。

 

「妖鳥?いや、竜牙兵の改良版?」

 

  数は多く、百羽近い数の竜翼兵が一斉にライダーへと襲いかかる。彼らの鉤爪は鋼鉄より硬く鋭い。庭園に近づこうとする不届き者を排除しようと群がってくる。

  だが、そんなものライダーの障害にはならなかった。

  ライダー、アストルフォの宝具は多彩で豊富だ。数は四つ。相手を転がすことに特化した槍、ありとあらゆる魔術を打破する魔導書、ある一点において特筆すべき力を持つ幻馬、そして、彼が今手に持つ角笛だ。

 

「それじゃ一列並んでぇ。はーい、ーーー『恐慌呼び起こせし魔笛』!」

 

  腰にぶら下げていた角笛が巨大化した。その角笛に一気に空気を吐き出すとーーー甲高い角笛の音が戦場に響き渡る。

  竜の咆哮と比肩する大音量は、百羽近い竜翼兵達を一瞬に消しとばした。この宝具、『恐慌呼び起こせし魔笛』は純粋な広域破壊兵器だ。

 

「ようし、真っ直ぐ真っ直ぐ。行くぞーっ!」

 

「そうは上手くいかんよ。可憐な戦乙女よ」

 

  ライダーは庭園の先頭に立つ、黒衣の女に気づいた。あれはサーヴァントだ。

 

「…“赤”のキャスターとお見受けする!!どうか、お覚悟を!」

 

「外れだ。我は“赤”のアサシン。しかし、お主の予想通り、魔術の腕にも少々心得があってな。この『庭園』にお主が入る資格があるかどうか。試させてもらおう」

 

  指を一度鳴らすと、彼女の周囲に魔力が展開した。

 

「ああ、上にも下にもあるぞ。気をつけろ」

 

  ライダーが空を見て唖然とした。彼女が展開したのは彼女自身の周囲だけではない。ライダーの上空に四つ、下側に四つと十二の高魔力の密度が装填された魔法陣が展開していた。

 

「ーーー失墜ろ」

 

  この魔法陣から繰り出される魔力砲に、ライダーは冷や汗を流しーーー余すことなく直撃した。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

  雨は降りやまず、然りとて強くなるわけでもない。肌に纏わりつく小雨の水滴が顔のラインを伝って顎から流れ落ちる。草原の土は雨水を吸い、歩く度に足跡が残る。

  大地を駆ける二人は高地、低地、森、草原と多くの足跡を残しながら互いの肉体を傷つけていた。

  翠緑の狩人、“赤”のアーチャーは俊足を駆使し、岩や木々の障害物があろうと速度を落とさぬまま弓を構えて相手の命を奪おうと射抜く。

  碧衣の青年、“黒”のバーサーカーは槍と小剣、魔術を巧みに扱いながら“赤”のアーチャーに喰いつこうと雨により濡れた大地の上を滑るように走る。

  “黒”のバーサーカーは『大海の血潮』という保有スキルは水の恩恵により、ステータスの補正を受けれる。主に俊敏、魔力、幸運の補強があるが、現在バーサーカーは俊敏と魔力が上昇し、俊敏:Aのアタランテの俊足と渡り合っている。

  魔力放出で弾丸のように加速するバーサーカーはアーチャーへと斬りかかるが、避けられる。

  矢を連続で放ちながら、脚の腱や心臓、喉元、膝に狙うが、詠唱と共に作り出された水の蔓や水の剣が壁となりバーサーカーには届かない。

  最も広く、疾く、戦場を使う二人の戦いは未だ決定的な致命傷を与えるには至らない。

  バーサーカーは腕や足に矢が刺さっているが戦闘の支障とはなっていない。

  アーチャーは体の所々に切り傷が走るが、どれも軽傷に過ぎず戦意は衰えるどころか昂ぶっている。

 

  バーサーカーが片手に持っていた小剣をアーチャーへと投擲するも、それをバック転の要領で上空へと蹴り飛ばされる。槍だけとなったバーサーカーは、残った槍さえも魔力放出で加速された状態でアーチャー目掛けて振りかぶった。

  舌打ちをしながらアーチャーは横に飛びながら分厚い鋼鉄さえも貫く槍の投擲を躱す。

  バーサーカーは手ぶらとなり、このままでは武器は無いままアーチャーの弓から逃げ延びねばならないーーーが、わざわざ武器を手放し弱みを作るわけがない。

 

  「くっ!?」

 

  横に躱した一瞬を突いて、アーチャーへと接近したバーサーカーは拳をアーチャーの弓を持つ手首へと叩き落す。

  痺れたせいで指の力が入らない。バーサーカーはアーチャーの弓の恐ろしさを知っている。だからこそ、できるだけ弓を握れぬよう腕をへし折ろうと試みるが、それをアーチャーがやすやすと許すわけがない。

  バーサーカーがアーチャーを知るようにまた、アーチャーもバーサーカーの技を知っている。否、弓を扱う狩人の殺し方を教えた者として、バーサーカーがどう動くか知っていた。

  叩き落とした拳でそのまま手首を掴み、捻りあげようとするがアーチャーは腕を折られる前に、捻られる方向へと身体を回す。身体を回しながらバーサーカーの手首を逆に掴み上げながら、背中へ回り込み、首を絞め上げる。

 

「かっ!?」

 

  膝を後ろから蹴り、片膝を着かした状態で立ち上がれぬよう地面に膝を着いた足を踏めつける。身動きが取れない状態で首を絞め、絶命するまで力を入れ続ける。

  だが、バーサーカーは踏まれていない足の踵に魔力を集中させる。

 

淵源……=波及(セット)!!」

 

「なにっ!?」

 

  踵より放出された魔力は後方へと飛び出し、バーサーカーの後ろに抱き着く形で首を絞め上げるアーチャーも後ろへと飛ぶ。

  後方へと飛ぶ先には竜牙兵を叩き潰すゴーレムがいた。ゴーレムはバーサーカーとアーチャーの姿を目視するなり、腕を引いた。どうやら、アーチャーを認識し攻撃するように判断したようだ。

  アーチャーは逃げようと首から手を離すが。

 

「逃さないよ!」

 

  バーサーカーが逃さんとアーチャーの身体へと飛びついた。

 

「くっ!離せバーサーカー!…がっ!」

 

  バーサーカーが口角を上げたのを確認した時、背中から凄まじい衝撃が走る。ゴーレムの堅固な拳は鉄より硬い竜牙兵を粉々にする。その拳の一撃をまともに受けたアーチャーは苦痛に声を漏らす。バーサーカーもアーチャーの身体を通してその衝撃を理解し、アーチャーもろとも吹き飛ばされる。

  地面にしばらく転がるとアーチャーの上へと馬乗りになり、体を押さえつける。

 

「はぁ、はぁ、はぁ…!」

 

「どけ! バーサーカー!」

 

  息を整えながらも、アーチャー。逃さないと体を押さえつける。両手で彼女の両腕を押さえつけ、体を捩ることしかできない状態へと持ち込む。

  こうなってはどうしようもない。もし、アーチャーが真名の詠唱だけで宝具を発動できるならこの状況を脱することができるだろうが、そう都合の良い宝具を彼女は持っていない。

  弓を矢に番えれず、射抜くこともできない。蹴ることも殴ることもできず無防備。

  バーサーカーの遥か格上である英雄のアーチャーにこの状態へ持ち込めたのはーーー奇跡としかいいようがない。

  この状態が解かれれば、次は二度とないだろう。それほどまでにこの状況は千載一遇のチャンス。格上殺しの英雄たる堂々とした成果だろう。だがーーー

 

「・・・・・」

 

  バーサーカーは何もしない。剣を握らない、槍を掴まない、彼女の細い首に手が伸びない。

  ここまで来たら、あとは“赤”のアーチャーを絶命させるのみだ。でも、バーサーカーはそれを行わない。

  何もしないバーサーカーにアーチャーは眉を顰めながら、吼えた。

 

「…いつまで私を組み敷くつもりだ! 殺すならば殺せバーサーカー! 汝は私の敵だろう! もしや敵を辱める趣向でも持ち合わせているのか!」

 

「違う!!」

 

  怒るアーチャーに負けない否定の叫びが雨降る平原に響く。その怒声は一瞬だがアーチャーの虚を突き、破顔させる程の声量だった。

  そしてアーチャーはまたすぐに驚くこととなる。

 

「何を、している」

 

  アーチャーの体から退き、馬乗りの姿勢を解いた。腕も体も自由となり、すぐにでも再戦ができる。

  しかし、わざわざバーサーカーは好機を捨てた。アーチャーの横に座り、まっすぐな瞳が彼女の瞳と混ざり合う。

  アーチャーは射抜くために距離を取ろうとしたが、動こうとしないバーサーカーを前にして、動きを止めた。それと同時に思い出したことがある。

 

  ーーー何を糧とし、生きたのか。

 

  それを知らなかった。夫である男のことを何も知らない。それを聞こうと思っていた事を、アーチャーは思い出した。

 

「アタランテ、聞いてほしいことがある」

 

  戦場のいたるところで戦火が上がるのにも関わらず、バーサーカーの瞳の中にはアーチャーしか映らない。そしてまた、アーチャーの瞳にも今はバーサーカーの姿しか映らない。

  それほどまでに今は彼の言葉を待たなければならないと、彼女は不覚にも思ってしまった。

 

「僕は君をーーーっ!?」

 

  そう思っていたのに、彼の瞳はアーチャーから違うものへとズレた。何事かと思った瞬間、アーチャーも気づいた。自分達の上に何か()()()()が伸びている。

  すぐに振り向けば其処にはーーー

 

 

 

  巨大な嗤う筋肉(マッスル)があった。

 

 




スパさんはさすがスパさん。圧政圧政ィ!!

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