碧く揺らめく外典にて   作:つぎはぎ

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さて、明日だ。金の準備は? カードの準備は? 当たらなくても後悔しない準備は? 金欠の覚悟は?

レッツカモン!アストルフォandシロウ!!

テンション高めですが、どうぞ。


黒の匂いの暗殺者

 ーーーああ、怖かった。

 

  カウレスは廊下を歩きながら、前にあった筈の光景を思い出す。カウレスが恐怖を抱いたのはランサーだ。どうやらゴルドとセイバー、そしてライダーの間で諍いがありセイバーを失うことになってしまったのだ。

  “赤”のバーサーカーを捕まえ、戦力上有利になったと思った矢先、戦わずにして最優のサーヴァントを失ってしまった。

  ライダーは何故か説明の途中に意気揚々となり始め、ランサーが激怒した。この怒りに向けられていないはずのカウレスは生きた心地がしなかった。黒魔術の使い手であるライダーのマスターのセレニケさえもが顔色を青くしていた。

  アーチャー、キャスター、バーサーカーは平然と構えていたことに対し、驚嘆を隠せない。ライダーなんか笑って怒り狂うランサーの前に立っていた。あれが理性が蒸発しているということなのだろう。

  怒ったランサーは罰としてライダーの手足を杭で貫き、地下牢に幽閉させた。そのライダーの様子を見てくるとバーサーカーは何度も本や雑誌など持ってライダーに会いに行っているらしい。

  仲がいいのは問題無いが、ランサーの怒りを買うような真似は絶対してくれないようにと密かに願うカウレスであった。

 

「あら、カウレス」

 

「姉さん? そんな物騒なもの持ってどこかにお出掛け?」

 

  考えを止めて前を向くと姉であるフィオレがアーチャーに車椅子を押されていた。姉の膝には黒いスーツケースがある。これが何なのか知っているカウレスは異常なのだと察知した。フィオレは厳粛な様子で頷く。

 

「ええ、“黒”のアサシン、ジャック・ザ・リッパーとそのマスターにコンタクトを取りに行くつもりです」

 

「コンタクト? その割には物騒だと思うんだけど…」

 

  フィオレの膝のスーツケースの中に収められているのはフィオレが独自に考案した接続強化型魔術礼装だ。魔術戦闘の際や複雑な行動を伴う移動の時に用いられる礼装だ。

 

「これの事だと思うよ、カウレス君」

 

「うおっ!?」

 

  真後ろから声が聞こえて焦りながら振り返ると、手に丸めた新聞紙を持ったバーサーカーがいた。

 

「お前ライダーのところに行っていたんじゃないのか?」

 

「新聞はつまらないって言われて違う物を探しに来たんだ。…それよりこれ」

 

  新聞紙が広げられると一面を大きく飾る記事に目に付いた。そこには連続殺人鬼がルーマニアの首都ブカレストから北上し、シギショアラまで被害を広げていると書かれていた。被害者全員が心臓を抜かれていることからジャック・ザ・リッパーの再来か!?と囃し立ているが…。

 

「この連続殺人鬼って“黒”のアサシンじゃないのフィオレさん?」

 

「ええ、その通りですバーサーカー」

 

  バーサーカーの予想はフィオレが肯定した。カウレスはもう一度新聞の記事を読むと“心臓”が死体から抜かれているところに注目し、“魂喰い”と答えが行き着いた。

  サーヴァントが現界を保つことや宝具を使用するには魔力が必要だ。魂喰いとは生きた人間から魔力を吸収し、サーヴァントの力を底上げさせる行為だ。心臓は人間にとって生命の源となる臓器。それを集めることで強化を図っているのだろうか。

 

「だけど新聞に載るほどの殺戮行為はダメだろ?神秘の秘匿とか考えてない」

 

「その通りです。だからこそ会いに行く必要があるのです」

 

  フィオレの頑として揺るがない意思を瞳を通じて分かった。魔術師として神秘の秘匿を無視する行いを憤るのではなく、人として当たり前のように殺戮行為を続ける殺人鬼に対しての義憤だった。

 

「だから私達はシギショアラへと向かいます。留守番よろしくね。…あと、パソコンだけじゃなく新聞も読むように」

 

  小言を残し、アーチャーに車椅子を押されて立ち去った。残されたカウレスとバーサーカーは新聞紙を広げたまま立ち尽くしていた。

  部屋へ帰ろうとしたがバーサーカーは新聞紙の一面を隈なく読んでいる。まるで殺人鬼の被害者に身内がいないことを願うように。

 

「バーサーカー?」

 

「…ん、ああ。ごめん」

 

  バーサーカーは新聞紙を折り畳みカウレスの後をついていく。自室へと戻ったカウレスはパソコンの電源をつけ、電子メールを確認し始めた。カチカチとマウスのクリックが鳴り響き、続いて新聞紙が捲られる音。どうやらまだバーサーカーは新聞紙を読んでいるようだ。カウレスはその様子に疑問符が浮かんだが、新たな電子メールの内容を開き。

 

「……はぁ」

 

  電子メールの内容を読み終わり、一息つくと机の中にしまっていたものを取り出した。腕輪に蟲の卵、全てカウレスが使用する魔術の魔道具だ。腕輪を着けたり、靴の爪先に仕込んだりする様子にバーサーカーは怪訝に見つめた。

 

「カウレス君?」

 

「悪いがバーサーカー。ちょっと留守番頼んだ」

 

「…フィオレさんの援護に行くの?」

 

「…連続殺人鬼に殺された被害者は魔術協会の魔術師達らしい」

 

  カウレスが見ていた電子メールには、連続殺人鬼に殺されているのは魔術協会に属する魔術師達だという情報が書かれていた。

  これだけを見れば、連続殺人鬼である“黒”のアサシンは“赤”の陣営である魔術協会に被害を与えていると見えなくはないが。

 

「…“黒”のアサシンが、どちら側にもついていないということかい?」

 

  バーサーカーの答えに、カウレスは無言で頷いた。もし“黒”のアサシンがこちらの味方ならば何かしらのメッセージをこちらへ送る筈だ。

しかし、アサシンからの連絡は一切なく姿も現さない。マスター達の中では裏切ったのではないかと疑念されている。だからこそフィオレが確認にいったのだが、かなりの確率で裏切っていると確信している。

 

「もしもだ、“黒”のアサシンがうちと“赤”の陣営どちらともに敵対しているなら…シギショアラで三つ巴の乱戦状態になる」

 

  “黒”のセイバーが脱落した今、“黒”の主戦力はランサーとアーチャーだとはっきり言える。もしアーチャーがアサシンとの戦いの最中、赤のサーヴァントの乱入により脱落となったら…“黒”の陣営の勝利は無いものだと思ったほうがいい。

 

「なら、僕もついていったほうが良くないかな?」

 

「それはそうなんだけど…、この要塞も守らないといけないし留守番を頼みたいんだ。やばい時には令呪使って呼ぶから」

 

  カウレスが言うことに納得するしかないのだろう。確かに要塞の戦力が減ることは好ましくない。もしもバーサーカーも居なくなり、その隙にあのアキレウスでもやって来られたらどうなるのだろうか。

  ランサーがいるからまだ大丈夫かもしれないが、護国の鬼将でも限りはある。防衛を担当するサーヴァントの欠落は防ぎたいのだろう。

  バーサーカーは渋々とカウレスの頼みを聞き、部屋を出る彼を見送った。

 

 

  主人が居なくなった部屋でバーサーカーは持っている新聞紙を見る。記事には被害者となった者の特徴が書かれている。最初の方は年齢にバラツキはあったが男性だけだった。徐々に女性が増えていっている。

  バーサーカーはこの情報に被害者に悪いと思いつつ、安堵する。被害者の中には“子供”はいない。バーサーカーが懸念しているのは年齢。子供は被害にあっていない。

  カウレスが部屋から出て姉の後を追って数時間。バーサーカーは指示通り待機することにしたが、一つの“もし”が浮かび上がる。

 

  “彼女が動くかもしれない”

 

  バーサーカーは立ち上がり、部屋から出る。カウレスの自室には電源が付けっ放しのパソコンが光っている。僅かに空いた扉から漏れるパソコンの明かりが薄暗い廊下に差し、照らしていた。

 

 

 

 ○ ○ ○ ○ ○

 

 

 

「なあ、姐さん」

 

「なんだ」

 

「暇だな」

 

「ああ、暇だ」

 

  彼らは“赤”のアサシンによって造られた庭園の玉座の間で、することがなく時間を持て余していた。

  昨夜の戦闘で帰還した二人は待機するようシロウから伝えられたが、暇を潰せるような娯楽は庭園にはない。ランサーは空を見上げ星を眺めたり、沐浴をしたりと時間を潰している。キャスターは庭園の中に造られた陣地ーーーというより“書斎”に籠っている。アサシンは裏で何をしているか知らないし知りたくもない。ライダーとアーチャーは怠惰な時に飽き飽きしていた。

  ライダーが仰向きに寝転がり、アーチャーが欠伸をしていると扉を開きトリックスターもとい、トラブルメーカーであるキャスターが入ってきた。

 

「お暇ですかな御二人共!!」

 

「…やってきたよ」

 

「放っておけ」

 

  暇なのは嫌だがキャスターの相手はもっと嫌だ。二人はキャスターを無視の方向に決めた。だが、キャスターは構わず話し続ける。

 

「そういえば二人は知っておいでですかな!巷を騒がしている殺人鬼を!」

 

  手には新聞紙を掴み、無視する二人など知ったことかと言わんばかりに声を張り上げる作家。

 

「このルーマニアに夜な夜な現れ標的を見つけると、一人だろうが二人だろうが三人だろうと心臓を抉り出す。おお、怖い怖い!我らサーヴァントには巷を騒がす殺人鬼など関係ないでしょうな!しかし、そうも言ってられませんぞ!なぜなら!殺人鬼の正体は“黒”のアサシンなのですからな!」

 

「…なに?」

 

  キャスターの台詞を流石に見逃せなかった。二人が反応を示したのを見てキャスターの口角が上がる。

 

「えぇ!“黒”のアサシンはどうやら魂喰いで魔力を補充し続けているようなのです!無関係な一般人を襲い生命の源たる心臓を食し魔力で自身を強化しているのです!シロウ殿も“黒”のアサシンが起こした事件の所為で監督官の仕事に手一杯のようで!」

 

「なるほどな…、道理でシロウの奴が顔を見せない訳だ」

 

「…まあ、私達には関係なきことだ」

 

「おや?関係なきことなのでしょうか?“黒”のアサシンの犯行ですぞ?」

 

「“黒”のアサシンの仕業だとしてもだ。死した者たちは“黒”のアサシンに狙われた。運が悪かったのだろう」

 

  弱者は強者に運悪く喰われてしまい、強者ですら“何か”に絡め捕られる。死の責任は彼らにある。ただ、致命的に運が悪かった。それを知っているアーチャーはキャスターの話に興味を失くした。

 

「確かにそうでしょうな。“黒”のアサシンが一般人を襲おうかと世間では殺人鬼の再来で済んでいるだけ。最初はマフィアやゴロツキといった男性ばかり狙っていましたが、最近では老若男女見境なく襲っていようが我々には…」

 

「ーーー待て」

 

  キャスターの止まらぬ言葉の数々に一つだけ見逃せなかった言葉があった。アーチャーの鋭い眼差しがキャスターへと戻る。

 

「老若男女、と、言ったか?」

 

「えぇ、老若男女、見境なく襲っているようですぞ?」

 

「その雑紙を寄越せ」

 

  キャスターが恭しく新聞紙を差し出すとアーチャーが新聞紙を開く。ライダーはアーチャーの変化に少し瞠目したが近くに寄って新聞紙を覗く、が。

 

  アーチャーが新聞紙を持ち方を変えながら横に縦に回し始めた。

 

「姐さん?」

 

「アーチャー殿?」

 

  アーチャーが渋い表情になって呟いた。

 

「……どこから読む?」

 

「「・・・・・」」

 

  古代人の狩人は聖杯から異国の文字を教えられても新聞紙の読み方までは教えられてなかったようだ。

 

 

 

「…二十代男性、六十代男性、十代女性、三十代女性。確かに見境なく襲ってんな“黒”のアサシンの奴」

 

  キャスターの言葉に偽りが無く、“黒”のアサシンの所業にライダーは気分を害した。剣も盾も持たず、戦争と何の関わりもない一般人が虐殺されることに怒りを覚えぬはずがない。

  生前の彼なら殺人鬼を止めに探しに行くだろうが、今はサーヴァントの身。令呪で縛られ、マスターの命でこの世に繋ぎとめられている。迂闊に行動することはできない。

 

「警察は犯人の手掛かりが掴めず市民から無能と非難されていますな。サーヴァントの仕業なのですから手掛かりが掴めぬのは当然といえば当然。あらゆる手段で防ごうと奮迅しておりますが徒労に終わりましょうぞ。せめてもと学校に通う子供達の登下校を付き添っている警察官の姿が微笑ましく思えますな」

 

  新聞に貼られている写真には小学生らしき子供達が警察官の主導の元登下校している姿が映っている。最も“黒”のアサシンが動くのは夜。昼間に動こうとも意味は無い。

  アーチャーが新聞紙をキャスターに返す。

 

「キャスター。アサシンに襲われた者達の居場所は分かるか?」

 

「姐さん?」

 

  アーチャーの瞳の奥に怒りと使命感によく似た決意の色が浮かぶ。その瞳を見たキャスターは“既に”準備していたと思われる地図を取り出した。地図には“黒”のアサシンが起こした事件の場所が赤丸で書かれていた。床に敷いたシギショアラの地図に書かれてた赤丸に指差していく。

 

「ここと、ここと。そしてここですな。かなり広範囲ですが人目がつく場所では行っていないようですぞ」

 

「そうか。それだけ分かれば充分だ」

 

  アーチャーは説明を聴き終わるなり、王の間の扉へと向かう。それをライダーが引き止めた。

 

「姐さん。“黒”のアサシンを追うのかよ?」

 

「無論。このままでは()()が“黒”のアサシンの餌食となりかねん。その前に“黒”のアサシンを仕留める」

 

「彼らとは誰ですかな?」

 

  首を傾げて質問するキャスターに振り返る。“赤”のアーチャー、アタランテははっきりと告げた。

 

「子供達だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャスター、尋ねたいことがあるのだが」

 

「おお、どうしましたかな女帝殿?」

 

「我が庭園からアーチャーとライダーの気配が無いのだが何処に行ったかは知りはせぬか?」

 

「あの二人ならば…“黒”のアサシンを追いに行きましたぞ!!」

 

「なっ…!?何故止めなかった!」

 

「大英雄たる二人の義憤を前にしてこのシェイクスピア…、引き止めることは無粋と思いまして…」

 

「くっ!急いで使い魔を飛ばし……と、少し待てキャスター」

 

「はい。何でございましょうか?」

 

「床に広がっている地図はなんだ?しかもこの赤丸がついている場所はシロウが“黒”のアサシンの犯行現場を記したものだな?無くなったとシロウが探し回っていたものだぞ」

 

「……ふっ」

 

「…キャスタアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 




彼はバーサーカー。
妻がいると分かった以上、命令なんて知ったこっちゃない。
なぜなら彼はバーサーカーなのだから。

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