運命の陰陽師と予言の子   作:霧のまほろば

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お久しぶりでございます。
二ヶ月振り……。間を置きすぎました。次回はもっと早く投稿できるように頑張りたいと思います。


第4話 キングズクロス駅

ゴトンゴトンという電車が通る音で目が覚めたマリナは寝ぼけ眼でぼんやりとしていたが、見慣れないボロボロの天井を見たことで意識が覚醒し、飛び起きる。

 

「あれ?………そっか、ここは漏れ鍋だったけ。見慣れない天井だったから慌てちゃったよ」

「おはよう、マリナ。よく眠れた?」

「わひゃあ!?あ、ああ……なんだ、チヨツネかぁ。おはよう」

 

突如後ろから声を掛けられたことで身体が跳ねるが、後ろを見ることで安堵の息を吐く。

窓際に椅子を持ってきて、小さくなった九尾のハクを撫でながら挨拶をする晴明だ。

手には昨日譲り受けた【緋座袮鈴音の扇子】が開かれた状態で持たれ、『お早う』と妙に達筆な字で書かれていた。

だが、マリナが寝惚けて襲名前の名前を出したことで苦笑を浮かべる。

 

「こらこら、マリナ。今は晴明だよ。二人きりの時は良いけど、人の目があるところでは間違えないでね」

「まだ慣れないんだもん……」

 

頰を膨らませて拗ねるマリナを撫でることで宥め、朝ごはんの時間だよと伝え、肩にハクを乗せて先に部屋を出る。

マリナも急いで着替えて、身嗜みを整えてから、晴明の後を追って漏れ鍋の一階に来る。

 

「やあ、おはよう、マリナ。セイメイはそこのカウンターにいるよ」

「あ、おはようございます、トムさん。……ええと、このサンドイッチとココアをください」

「あいよ。ちょっと待ってくれ、直ぐに作るから」

 

朗らかな笑みを浮かべたトムは直ぐにキッチンに引っ込み、数分もすれば、湯気が立つココアと野菜をふんだんに使ったサンドイッチをトレイに乗せてくる。

 

「お待たせ」

「ありがとうございます。ん〜、いい匂い!」

「はは、そう言ってくれると嬉しいよ」

 

トムから渡されたトレイを持ってカウンターで同じようなサンドイッチをトレイに置いて待っている晴明の隣に腰を下ろす。

そのあとはいつも通りの日常的な会話や、ホグワーツの事、ホグワーツで学ぶ魔法などに話は及び、気づけば朝の9時。

 

「いけない、もう9時になっちゃった。そろそろ出発しなきゃ」

「えっ!?あわわ、急がなきゃ!?」

「落ち着いて。もうマリナの分も準備出来ているよ。ほら、おいで【葉】」

「はいなの!主さま!」

 

ふよふよと浮いて、大きなカバンを一つ持ってきた可愛らしい童の少女。

 

「この子、初めて見るけど、式神?って、チヨ……セイメイの荷物は?」

「最近拾った子なんだ。座敷童子なんだけど、人に追い出されて彷徨っていたところを拾ったんだ。ああ、私の荷物?それはこう………」

 

葉と呼ばれた少女は日本に古来から存在すると言われる妖怪の一つ、幸運を運んでくれる存在、座敷童子である。しかし、現代日本の文明は妖怪にとって生きにくい環境であり、力の弱い妖怪は段々とその姿を消していった。何処に行ったのかは分からない。

そして、この葉もその追いやられた妖怪であり、昔から暮らしていた古民家が取り壊された為、その家を出て、彷徨っていたところを晴明と出くわし、拾われた。普段は人型の紙になって晴明の懐に仕舞われている。

懐から【収納】という意味の梵字が書かれた札を取り出し、「展開 急々如律令」

と唱えると、晴明の荷物が入った鞄が現れ、札から梵字が消える。

 

「ああ、なるほど!ねぇ、セイメイ、私の分もお願いできる?」

「勿論。収納 急々如律令」

 

フッと葉が持っていたカバンも晴明が持っている鞄も消え、晴明が人差し指と中指で挟んでいた二枚の札に再び梵字が現れる。

 

「陰陽術ってこういう時、便利だよね」

「元々は妖怪たちと戦う時に必要な武器や道具を運ぶ時に使っていたからね」

 

バッと開かれた扇子には『複雑だけどね』と書かれていた。

いい加減、その扇子の仕組みが知りたくなったマリナである。

しかし、この扇子は初代晴明が作ったものであり、初代晴明はその作り方を明記せずに“消えた”ためオリバンダーでさえ、作り方を知らないため、誰も仕組みを知る事は出来ない。

 

「確か、ホグワーツ特急はキングズクロス駅の9番線の3/4番線だったよね。でもこの3/4ってどういう事なんだろう?」

「此処で考えていても意味ないから急いで駅に向かってからだね」

「それもそうだね。急いで行こう!」

「はは、新しい世界にようこそ、ってところかな?良い学校生活を!」

「ありがとう、トム。トースト、ご馳走様」

「あ、サンドイッチも美味しかった!ご馳走様です」

 

フワリと濡れ羽色の艶のある黒い髪を翻して漏れ鍋から出て行く晴明を追ってマリナも出て行く。その後、起きてきた客や来客で騒がしくなった漏れ鍋でポツリと呟く。

 

「日本人って皆ああなのかねぇ。其処に居るだけで空気が違うというか、子供達の中に一人だけ小さなお姉さんがいるような錯覚さえしてしまうよ……って、お姉さんじゃなくてお兄さんか」

 

マリナと晴明が綺麗に食べた皿を洗いながら呟いた言葉は朝の食事の騒音の中にかき消えていく。

 

 

 

そして、キングズクロス駅。

其処にマリナと晴明は立っていた。周囲の注目を浴びながら。

何せ晴明は性別上男であるが、容姿のそれは完全に美少女のそれである。それも欧州では中々お目にかかれない、艶のある濡れ羽色の黒髪に黒真珠のような黒い瞳。整った顔立ちは将来的に美女となれるであろう、成長が楽しみな容姿だった。

そして、マリナも同様。母親譲りの茶髪にエメラルドの瞳。確実に美女の範疇に入るリリーの血を濃く引いたマリナは将来的に必ずと断言できるほどに美女に成長するだろう。

そんな美少女二人(うち一人は男)が手をつないで歩いているのだ。

そのため、男女の隔たりも無く見惚れさせる通行人が続出してしまう。

 

「此処でも同じなのかな?私のような黒髪、黒目は欧州にも居ると思うんだけど……」

「ええと、多分、セイメイの姿じゃない?」

「マリナじゃない?兎も角、こんなに注目浴びたらホグワーツ特急のところまで行けないよ。目立ち過ぎて」

「そうだよね……、どうしよう?」

「変装したらいいんじゃないか?眼鏡をかけるとか帽子を被るとか方法はあるぞ」

「さっすが、ハク!」

 

晴明の着ているパーカーのフードの中に潜っているハクがこっそりと晴明に耳打ちするが、マリナも晴明のすぐそばに居たため、はっきりと聞こえていた。

ぱぁっと華が咲くような笑顔を浮かべ、両手を合わせて感心のポーズを取る。

 

 

 

 

因みに何故狩衣では無くパーカーなのかというと、昨日漏れ鍋のトムからの進言があった。

 

「その格好だと、キミの容姿も相まって余計に注目を浴びてしまうから、マグルの格好…………僕のような格好をして行けば大丈夫だと思うよ」

 

と言われたため、昨日の内に漏れ鍋の近くにある服屋に行こうとしたのだが、イギリスの店は閉まるのが早く、既に閉まってしまったため、諦めて注目を浴びるのを覚悟して狩衣のままで行こうとしたのだが、マリナが自身の服を渡してきた。

 

「こ、これ、私の服だけど、多分サイズは合っていると思うから。私の服の中でも地味な方だから……」

「ありがとう……って、ワンピース?それとジーンズ?ええと……パンプスだっけ?」

 

マリナから渡されたのは白で統一された半袖と膝丈のワンピースと藍色の7分ジーンズとベージュのパンプス。

 

「ええと……Tシャツは花柄だったり、レースが付いていたりするものばっかりだったから……そのワンピースが比較的大人しめのものなの!(言えない、ワンピースを着ている姿が見たかったからなんて言えない!)」

 

割と煩悩に塗れていたマリナの思考だった。

だが、ワンピースだけでは無く、ジーンズも用意してあるところに晴明の男としての意思を汲み取っているだろう。

いくら、自身の容姿が美少女のそれだったとしても、精神や性別は男であるため、ワンピースだけというのは非常に恥ずかしいものがある………とマリナは思ったのだが、実は晴明には一般的な服装の知識が無い。辛うじて名前が分かるだけであり、性別上での着分け方や組み合わせ方が全く分からなかった。

思い返してみても、狩衣は色揃えに違いはあれども、ほぼ一組で作られ、浴衣も一枚の布。それだけで今まで11年を過ごしてきた。つまり、着合わせについて考える必要なかったため、晴明の頭からはワンピースとパンプスが女性の服装であるということがすっぽりと抜け落ちていたのだった。

そのため、首を傾げたのは他の服は無いのか、という疑問では無く、この服の名前はワンピースとジーンズとパンプスで合っているのだろうかということであった。

そのため、何の疑いも無く、すんなりと服を受け取り、部屋に戻ってから着替えて来たのだが、降りてきた晴明に一階にいる誰もが唖然とした。余りにも似合いすぎていたからだ。

東洋人らしからぬ白い肌に純白のワンピースに濡れ羽の髪が踊り、ワンピースの裾から覗く脚は藍色のジーンズで隠されているが、スラリと伸びた細く整った脚。その先にある足にはベージュのパンプスが包み隠す。

晴明本人も新しいことを知ったため、楽しそうな笑みを浮かべて降りてくるのだから、余りにも幻想的な風景を幻視してしまう程に見惚れてしまう。

 

「どうかな?初めてこういう服、着てみたけど、似合ってる?」

「ーーー………はっ!?へ?あ、うん!似合ってる、似合ってるよ!」

 

くるりと一回転したことでフワリとワンピースが浮かび、黒髪が流れる。

だが、暫し返答がなかった為、マリナの目の前で手を振ると直ぐに我を取り戻して慌てて褒めてくる。

 

「えへへ、ありがとう」

「はぅ!?」

 

照れたように頰を赤くして笑う晴明にダメージを喰らうマリナであった。

こうした一幕の末に、陰陽師の衣装である狩衣や着物では無く、洋服である。

だが、漏れ鍋での出来事が外にまで広がったという単純な出来事であり、狩衣か着物だったとしてもあまり変わらないと思える程注目を浴びていたのだった。

因みに八月と言えど、イギリスの朝はひんやりとした空気が漂い、半袖のワンピースでは少々肌寒いものがあるため、パーカーを着ている。

 

 

 

そんな折、ハクの提案があり、得心したように笑みを浮かべたマリナはキングズクロス駅にある売店に駆け寄ると帽子とサングラスを買って来る。晴明のワンピースに似合いそうな麦藁帽子と色の薄いサングラスを二つずつ。

マリナにお礼を言い、サングラスと麦藁帽子を被ると、まだ幼いために低い身長と麦藁帽子に隠れて、大人たちからは麦藁帽子を被ったお洒落な女の子二人としか見えない。

すると、パーカーのフードに潜っているハクがひょっこりと顔を出して、やれやれと言いたげにため息を吐く。

 

「全く、晴明は少しでも世俗的な事にも通ずべきだと思うぞ。マリナを見習ったらどうだ?帽子然り、サングラス然り。マリナの発想じゃないか」

「むぅ……、洋服よりも和服の方が好きだったから、着物ばっかりなんだよ。後は扇子だったり、陣羽織とかだったり」

「え?セイメイって、洋服持ってきていないの?それじゃ、寮では大変じゃない?目立つから……」

「え?そうかなぁ、和服や浴衣の方が楽だと思ったんだけど……」

 

マリナは以前から多くの私服を持っていたが、晴明は基本的に狩衣か着物を着ている時が多く、洋服の一着すら持っていなかった。

寮ではどうするつもりだったのかとマリナが問い詰めても、「浴衣や着物を持ってきているから問題ないと思ってた」と思わず頭を抱えたくなる返事がきた。

 

「多分だけど、ホグワーツのみんなは洋服だから、一人だけ和服で目立っちゃうよ」

「服装が云々の前にホグワーツでは私だけ日本人なんだからそれだけでも目立っちゃうよ。ただでさえ、“安倍晴明”の名前は伝説にまでなっている程だしね」

「ああー……。ホグワーツ創設に関わってたんだよね」

 

確かに、と相槌を打つマリナ。イギリス魔法界でも初代安倍晴明の名前はホグワーツを建てた四人の英傑達に並ぶ英傑として数ある伝説として伝わる。そんな晴明の子孫であり、晴明の名を襲名した千代経は否が応でも目立たざるを得ない。

 

「でもさ、それを言うんなら、マリナも同じじゃないかな?『例のあの人』とやらを倒した“生き残った女の子”って言われているみたいだし、同じくらい注目は浴びちゃうよ」

「あっ!?そ、そうだった……!」

「ふっふっふー、人の事言えない、だね!」

 

完全に自分も魔法界では有名であることを忘れていた。その事を思い出して、頭を抱えるマリナ。

その傍らでは晴明が悪戯っぽく笑い、ワンピースのポケットから扇子を取り出してバッと開く。そこには『愉悦!』と書かれている。

その後、頰を膨らませたマリナと追いかけっこに発展し、笑いあい、じゃれ合いながら9番線へ向かっていく。

それはまるで仲のいい姉妹のように見え、構内を歩く人々は、微笑ましい表情を浮かべて見守る。

 

 

賑やかにも、微笑ましく追いかけっこをしていた二人はキングズクロス駅の9番線に辿り着く。歴史を感じさせる重厚なレンガの柱が連なる広大な空間のホーム。そこには銀色に光る電車が数本も入れ違うようにしてホームに入り、夥しい人々が行き交う、イギリスの交易の中心点がそこにあった。

 

「9番線には着いたけど……、3/4番線ってどういうことなんだろう?」

「魔法使いの鉄道が普通のホームに入るとは思えないから多分、空間魔法の一種だと思うけど、3/4番線はそこに入るための何かの目印だと思うよ」

「じゃあ、4つのものを探せば………あ、柱?」

 

ホームを見回して何かに気づいたマリナ。

その長いホームには天井を支えるレンガ造りの巨大な柱が四本、等間隔を開けて聳える。

マリナが目をつけたのは正しく正解であり、9番線ホームへの入り口から三番目の柱がホグワーツ特急の入るホームへとつながる道である。

 

「柱の前まで来たのは良いんだけど、その後はどうすればいいのかな」

「ん?この柱……、空間転移の類いの魔法?じゃあ、この柱に入ればいいんだ。ほら、こんな風に」

 

晴明が片手を柱に触ろうとすると、ザラザラしたレンガの感触は無く、スルリとと何か膜を抜けるような感覚がして、柱の向こう側に伸ばした手は此方側とは違って暖かい空気に触れる。

 

「大丈夫、向こうに行けるよ。一緒に行こう」

 

不安げなマリナと手をつなぎ、導くように柱へ入っていく。膜を抜けたような感覚がして、恐る恐る目を開けると、そこには蒸気を吐き出す真紅の蒸気機関車が出迎えてくれる。そして、ホームには尖り帽子やキラキラと輝くローブを着こなす大勢の人々が行き交い、子供と抱きしめあったり、荷物を列車の中に入れたりしている。

もちろん、この中にマグルなど一人もおらず、行き交う人々全てが魔法使い。

世界が変わったことを実感したマリナは感動で目を輝かせる。

すると柱からまた新しい人々が続々と出てくる。一族なのだろうか、赤毛の髪を持つ人々だった。

 

「出発まで10分前だよ!」

「ほらほら、急ぎなさい!ああ、もう、ジニー!泣くんじゃありません!」

 

そばかすをつけた男の子が叫ぶように言えば、恰幅の良い、温厚そうな女性が忙しなく急かすように息子と思わしき男の子たちを追いやり、愚図りだす女の子を窘める。

 

「ママ!俺たち」

「先に行って」

「いるぜ!」

「はいはい、さっさとお行き!フレッド、ジョージ!」

 

此処までそっくりの双子があるだろうかと思わざるを得ないほど瓜二つの身長の高い男の子が絶妙なコンビネーションで言い合うがそれを簡単に受け流す母親。

 

「残念、俺がフレッド!」

「俺がジョージ!」

「あら、そうだったの、ごめんなさいね」

「冗談!俺がジョージ!」

「俺がフレッド!」

「まあ!どうかしているわ!」

 

名前を逆に間違えていたかと謝るが、間違えていなかったことで悪戯されたことに気づき憤慨する母親。双子は笑いながら人混みの中へ消えていく。それを追うようにノッポの眼鏡をかけた青年も苦笑し、母親と抱きしめ合い、同じく人混みの中へ消えていく。

それを見た女の子は更に愚図りだし、兄の名を呼び、頭頂部が剥げかかった男性が慌てたように抱っこをする。するとまだ夫婦の元に残っていた男の子が不安げな顔を浮かべる。

 

「ママ……。僕、グリフィンドールに入れるかな……」

「パパもママもグリフィンドールよ。ビルもチャーリーもパーシーもフレッドもジョージもグリフィンドールよ!心配なんて無いわよ!さぁ、自分に自信を持ってお行き!」

 

なんと、この親子にはまだ二人の兄が居たのだろうか。此処に居ないという事は既にホグワーツを卒業したのだろう。

何とも子宝に恵まれた家族だとマリナと苦笑し合う。

 

「あらっ?可愛らしい姉妹だこと!貴女たちもホグワーツ新入生かしら?」

「あ、はい!」

「あ!いけない、急いで汽車に乗らないと出発しちゃうわ!さあ、貴女たちもお行き!」

 

半ば追いやられるようにしてそばかすの男の子と一緒に列車の中へ乗り込む。列車の通路を通って空いているコンパートメントが無く、仕方なく後列に向かう。

すると最後尾で漸く一つだけ空いているところを見つけ、ほっとため息を吐き、ガラス張りの扉を開けて中に入る。

 

「あー……、僕も入っていいかな?」

「此れも何かの縁。新入生同士だし、歓迎するよ」

「ありがとう!あ、僕はロン・ウィーズリーって言うんだ。君たちは?」

「マリナ・ポッターだよ」

「セイメイ・アベノ。よろしくね」

 

二人が名前を言うと、ギョッとしたかのように目を見開く。真逆目の前の女の子二人(片方は男の子)が有名人であるとは思わないだろう。

 

「え!?き、君が“生き残った女の子”!?ほ、本当かい!?」

「う、うん、そうみたいだね。つい最近まで日本にいたからよく分からないけど」

「あー、その、稲妻の傷痕ってある?」

「あるよ。此処にね」

 

左鎖骨の下に触れるようにして場所を示す。そこを目を輝かせて凝視するロン。何だかその視線が恥ずかしくなったマリナは体を庇うようにして晴明にひっつく。何と無く、マリナが体を隠した理由に気づいた晴明はジト目になってロンを睨む。

 

「………ロンって、スケベなの?」

「うえっ!?な、何で?」

「女の子の体をじっと見つめるからだよ。女の子はそこら辺は敏感なんだし、デリカシーの事もあるんだから」

「ご、ごめん!」

「う、ううん、大丈夫」

 

ホッと息を吐くロン。まだ11歳とはいえど、女の子の体を凝視したなんていう疑惑をかけられたく無いだろう。増してや、目の前にいる女の子は魔法界でも有名人。セクハラなんてしたという噂が広がれば、どんな扱いになるか分からない。後ろ指指されながら生きていく羽目になりかねない。そんなこと、御免である。

 

「………って、セイメイ・アベノッ!?」

「っ……。こんな狭いところで大声ださないでよ」

「あ、ご、ごめん。ってそうじゃなくて、1000年前の物語の人!?」

「ああ、多分、ロンの言っている人は私のご先祖様。初代安倍晴明のことだね。私は初代様から数えて27代目の晴明だよ」

「ああ、よかった、1000年も生きていたのかと思ったよ。ホグワーツの歴史にはセイメイは不老不死であると書かれていたからね」

 

不老不死。事実なのかは分からないが、晴明とマリナには思い当たる事があった。興奮して語りだすロンを尻目に顔を寄せてヒソヒソと話し合う二人。

 

「不老不死?それって……?」

「んー、ご先祖様は『泰山府君祭』っていう術を開発して体の成長を止めていたっていう話があるけど、多分それだと思うよ。曾祖父様もそれで30代の姿を保っていたしね」

「そう、だよね……。でも、成長を止めていたっていうだけで不老不死なんて言われるかなぁ?」

「私もよく分からない。曾祖父様に聞いてみないと、分からないかな(泰山府君祭…。“禁術指定”されている強力な呪詛。この世の理から外れ、孤独に生きる術……)」

 

詳細は後程語ろう。そう決めた晴明は窓を眺める。丁度汽笛が鳴り、蒸気機関車特有の駆動音を立てて車輪が回り出し、列車が動き出す。

窓から身を乗り出して家族と別れを告げる子供達。

キングズクロス駅が遠くなると子供達は席に戻り、此れから起こる奇跡に目を輝かせて想像を膨らませる。

それは晴明も同様であったーーー。

 




今回は漏れ鍋からキングズクロス駅のやり取りが中心です。

次回、漸くホグワーツ城、寮組み分け編でございます

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