運命の陰陽師と予言の子   作:霧のまほろば

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初めまして♪霧のまほろばです。
ハリー・ポッターの二次創作は初めてなので上手く出来るかどうか不安ですが、お楽しみくださいませ♪


第1話 全ての始まり

七回目の月が死ぬ時に産まれる御子は闇の帝王を打倒するという旨の予言を聞いた闇の帝王はその子を殺す事に決め、ある夫妻の家を襲った。

 

秘密の守人であった男は友を信じ、漏らしてはならない秘密を託した。そして、託された男は闇の帝王に下り、秘密を明かした。

果たして。その子の父親は家族を守る為に命を賭して戦うものの、闇の帝王の力には及ばず、斃れる。

母親は子を守る為に身体を投げ打ってその身に死を刻まれた。残るは予言された子のみ。

だが、闇の帝王でも不慮の事態が起きた。

その子に刻まれる筈の死は"左胸の上、鎖骨辺り"に僅かな傷を残して闇の帝王に跳ね返り、闇の帝王に死を刻んだ。

だが、闇の帝王は予め魂を裂いてこの世に留まらせた事によって死を迎える事はなく、霊魂に成り果て、その場を逃げ去った。

 

闇の帝王の姿が消え去り、静寂を取り戻した瞬間、夫妻の家のすぐそばにバチンと音が複数聞こえ、様々な衣装を纏った数人の者が現れた。

 

「……一歩遅かったかの……!?」

「ああ……!闇の印が……。では、ポッター夫妻は……!?」

「急ごう……!"マリナ"が心配だ」

「辺りに異常はねぇです!」

「ジェームス……、リリー、マリナ……、どうか無事でいてくれ……!」

 

現れたのは腰あたりまで伸びる銀の髭を蓄えた老人、【アルバス・ダンブルドア】、【ミネルバ・マクゴナガル】、【ルビウス・ハグリット】、【シリウス・ブラック】、【リーマス・ルーピン】。

彼らは闇の帝王に襲撃されたポッター夫妻と旧知の仲であり、闇の帝王が予言を聞いたと闇の陣営に潜入していたスパイから伝達があり、急いで救援に向かったものの、家は荒らされた後で、空には不気味な緑色に輝く髑髏とその口から這い出る蛇。

全員がポッター家の死を覚悟して、魔法使いの証である杖を持ち出して慎重に歩みを進める。

大きく穿った玄関の穴を潜り抜け、リビングに進む。

 

『ルーモス 光よ!』

 

ダンブルドアが杖先に眩い光を灯すとリビングの惨状が光に照らされる。

壁に無数に空いた破砕口、ひっくり返されたテーブルや椅子。砕かれた窓ガラス。あちこちに飛び散る血痕。

此処で激しい戦闘があったのは明らかだった。

2階に行くための階段があるリビングの奥へ向かうと、通路に折れた杖を持ったまま横たわる若い男。

 

「ジェームス!!……ジェームス……済まない……済まない……!」

 

倒れていた男はジェームス・ポッター。

体の彼方此方に何か鋭利なもので切ったような傷が付いて、目は見開かれたままで、ずれた眼鏡が彼の死を告げていた。

ジェームスの遺体を抱き上げて啜り泣くシリウス。彼はルーピンと共に学年時代からの付き合いがあり、親友という言葉でさえ足りない程の絆を持つ。

 

「シリウス……、急ぐのじゃ……」

 

泣き崩れるシリウスをルーピンが半ば引きずるように、連れて一行は2階へ上がる。

2階は戦闘の跡が全くなく、ただただ、静寂が辺りを支配していた。

2階の通路を進んで行くと、奥辺りにある部屋のドアが僅かに開いて、闇の印の緑色の光が漏れていた。

更に警戒を強めてダンブルドアを先頭に部屋に飛び込むと、ベビーベッドにもたれかかるように女性が倒れていた。

 

「ああ……!エバンス……」

「なんということじゃ……」

 

思わず、女性の前の苗字を読んで抱き抱えるマクゴナガル。

女性はリリー・ポッター。旧姓をエバンスという。

外傷は無いにも関わらず、目は閉じたままで、体は氷のように冷たかった。

 

「マリナ!マリナは無事かい!?」

 

珍しく声を荒げてルーピンがベビーベッドを覗き込む。そこには、首の麓あたりにじんわりと赤に染まったモコモコした毛布に包まったマリナがスヤスヤと寝息を立てていた。

 

「よかった……、マリナ……!生きていてくれて……」

「この傷は……?」

 

毛布をめくると、首元に稲妻のような傷が付いていた。その傷を見たダンブルドアの目が大きく見開かれる。

 

「……これは……なんと……。非常に強い守護じゃ。リリーが命と引き換えに最後にかけた守護じゃ。それがヴォルデモート卿の呪いを跳ね返したのじゃ」

「そうか……リリーが……」

 

シリウスが愛おしいものを見るような目でマリナを見つめる。そして、優しげに幼い頭を撫で、先に家を出た。

慌ててハグリットがマリナを抱き抱えて、ダンブルドアたちと共に家を出てシリウスを追う。

 

「シリウス!何処に行くんだい!?」

「ピーターだ!ピーターを……!俺があいつを信じたばかりに、ジェームスとリリーを死なせた!マリナにも消えない傷を残した!だから……、せめて、俺があいつを……殺す!」

 

ピーター・ペティグリュー。学年時代、シリウスや、ジェームスたちと共に行動していた。

シリウスは自身がポッター夫妻の秘密の守人をしているため、闇の帝王に狙われている事に気付いた。遅れを取るつもりは無いが、万が一、闇の帝王に捕縛されたら、『開心の術』の達人である闇の帝王の前には無力だ。しかし、ピーターは、悪く言えばシリウスやジェームスより実力は劣り、秘密の守人を任せるにはいささか不安だった。

だが、シリウスはそれを逆手に取って、ピーターに秘密の守人を任せ、自身は囮となることを選んだ。しかし、ピーターは恐怖によって、それを裏切って闇の陣営に下り、闇の帝王に秘密を暴露した。その結果がジェームスとリリーの死である。幸い、マリナは生きていたが、"女の子"の肌に傷を付けた事がシリウスには許せなかった。

だからこそ、自身の手でピーターを殺す事に決めた。

 

「待つのじゃ、シリウス。殺しはいかん。今は耐えよ」

「だが……!」

 

苛立たしげに頭を掻き毟ると不意にハグリットに抱えられて気持ち良さそうに眠るマリナの顔が見えた事で昂った感情が落ち着き、溜息を1つ吐いた。

 

「ダンブルドア先生、マリナはどうするんで?」

「わしの信ずる旧友に預けようと思う。わしは彼ら程義理深い者は知らぬ」

「アルバス、まさかとは思いますが……」

「そのまさかじゃよ。ヴォルデモート卿の失脚のきっかけになったマリナを闇の陣営が放置しておくとは限らないじゃろう。よって、闇の手が届かぬ遠い所に置こうと思う。……ほほ……、よう来てくれたの、【晴明】」

「久しいものだ、アルバス。30年振りか?」

 

足音も無くいつの間にかそこに現れた男は【安倍晴明】。白を中心にした彩りの狩衣を身に纏った彼は25代目の【晴明】の名を襲名し、かつて最悪の闇の魔法使いと呼ばれたゲラート・グリンデルバルドを倒す時にダンブルドアに請われて助勢した。見た目は30後半の男であるが、実年齢は既に80を超える老人である。

そして、【安倍晴明】の名前は1000年前から日本のみならず、イギリスの魔法界でも知られた名前であり、ホグワーツを創設したグリフィンドールやレイブンクロー、ハッフルパフ、スリザリンに並ぶ伝説を残している。

伝説によると、ホグワーツ校を設立する際に初代晴明の力を借りたという逸話さえ残っている程、初代の晴明の力は並外れていたということだ。

 

「【安倍晴明】……!」

「久しいな。マクゴナガル、ルビウス。お初に。シリウス・ブラック、リーマス・ルーピン。私は25代目安倍晴明だ」

 

自身の名を知っていることに驚愕するシリウス、ルーピンを面白いものを見るような目で見つめた後、晴明はダンブルドアと向き合う。ダンブルドアの腕にはハグリットから預かった赤子のマリナがすやすやと眠っている。

 

「さて、アルバス。その子を預かって大事に育てればいいのだな?」

「そうじゃ。今、イギリス魔法界は不安定な状態にある。その中にその子を置くのは危険極まりない。そこで、お主に預けようと思う」

「承知した。ちょうど新月の日、私の曾孫が産まれたのだ。兄妹として育てるのもまた一興。……どれ、よくよく見ればなんとも可愛らしい顔立ちだ。将来が楽しみだ」

 

予知でもしているのではないかと疑われるような正確な受け答えに目を白黒するマクゴナガルたちを横目でちらりと見ながら、マリナをダンブルドアから受け取る。壊れ物を扱うかのように優しく腕に抱える。

いつもは無表情の顔には珍しく綻びがあり、微笑ましげにマリナを見つめる。

 

「ほほ……、そうじゃろう。それじゃ、頼むぞ」

「承知。次に会うのは11年後の今日だな。それまで暫しの別れだ。ーーーさらば」

 

狩衣の袖からなにか一枚の札を取り出して何事か唱えれば、風が吹き荒れ、マクゴナガルたちは咄嗟に顔を覆う。

風が吹き止み、辺りを見回しても晴明の姿は全く見当たらなかった。その代わり、晴明が立っていた所に一枚の札が落ちていた。その札もダンブルドアが触れようとした瞬間燃え上り、灰と化す。

 

「アルバス……、ミスター安倍は何処に……?」

「もう既に日本に戻ったことじゃろうて。いやはや、日本に伝わる"魔法"は不思議なものじゃのう……」

 

唖然とするマクゴナガルたちと遠い目をしたダンブルドアがひとりごちる。

イギリスから日本まではほぼ地球の反対側に存在する。ゆえに、ダンブルドア程の実力者でも、一気に日本まで姿現しで移動する事は出来ない。数回に分けて移動しなくては魔力が持たない。

だが、晴明が使ったのは姿現しでは無く、口寄せと呼ばれる召喚術の1つを応用したものであり、この召喚術は自然の流れ、つまり、龍脈や気流を利用して、イギリスから日本までを流れて飛んで行ったのだ。

だが、その事を知る由もないダンブルドアたちは晴明を規格外の存在として認識していたのだった。

 

 

 

「「「お帰りなさいませ!御当主!」」」

「ああ。今戻ったぞ」

 

白い煙の中から現れた晴明を迎えたのは山1つを丸ごと屋敷にした広大な敷居と大勢の門下生と一族。

 

「お爺様!お帰りなさいませ。その子が?」

「そうだ。予言の子だ。この子はお前に預ける。千代経の妹として育てよ」

 

屋敷から飛び出たのは晴明の孫にあたる【安倍景虎】。

【千代経】は景虎の息子であり、晴明の曾孫にあたる。そして、マリナの新たな兄となる。

 

「はい!承けたわまりました」

「………千代経程までとはいかぬが、マリナにも非常に強い才能の輝きを感じる。マリナの身を守るためにも様々な手を尽くさねばならん」

 

ボソッと呟いた晴明の声は景虎には聞こえなかったようで、首を傾げるが、何でもないと答え、今から11年後に思いを馳せた。

 

 

 

ーー11年後ーー

此処はイギリスより遥か遠く、蒼い大海を越えた先にある極東の島国、日本。

そして、日本のなかでも古来の伝統が色濃く息づく街、京都に安倍家の家はあった。京の御所の鬼門にあたる北東に聳える山を丸ごと屋敷にした広大な敷居。

 

この屋敷の庭にある修練場にて、1人の少年と1人の男が対峙していた。

腰まで伸びる濡れた黒羽のような髪を頭頂で結わえ、百人中百人が美少女と間違え、見惚れるその整った顔立ち。黒真珠のように一色の混じりもない純粋な黒い瞳と130程の身長と理想的な黄金比の、すらりとした華奢な体をもつ少年ーー【安倍千代経】。

もう対峙する男は背中まで伸びた白銀の髪をうなじで結わえ、180と日本人にしては高い身長をもつ偉丈夫。見た目は30後半であるが実は90を超える老人にして、現代【安倍晴明】の名を襲名した現当主である。

 

「式神『破軍』を既に呼び出せると聞いた。私にそれを見せてくれ」

「はい。ーーー我が名において汝に命ずる。森羅万象の現し身、幾千の星の化身ーー破軍、此処に出でよ!」

 

千代経が人差し指と中指を揃えて立て、真言を唱えると辺り一帯に先ほどまでは居なかった人影が現れた。その人影は次々と現れ、最終的には12人が千代経と晴明を囲むように膝をついて頭を垂れた。

 

「ほう……、十二神将全員を呼び出すか……。私でも8人が限界だというのに」

 

現れた人影は十二神将と呼ばれる精霊。有名なものをあげれば、白虎、蒼龍、朱雀、玄武の四方角を守護する存在だろう。十二神将の1人1人が1つの国の軍に匹敵する力を誇る。

そして、十二神将を呼び出すのは並大抵の実力では不可能。現在の晴明でさえ、8人までしか呼び出せないのだ。更に言えば、8人を呼び出した時点で晴明の力は尽きて倒れ伏してしまう。

だが、晴明の前にいる千代経は息こそ早いものの、笑顔を浮かべる程の余裕すらあるようだった。

未だ齢11になったばかりの子でこれ程の実力なのだ。将来が末恐ろしく感じてしまい、思わず苦笑をこぼしてしまう。

十二神将を全員呼び出せたの歴代でも初代安倍晴明の他は居らず、1000年振りに千代経が呼び出したのだから。

 

晴明の名は破軍召喚を行い、どれほどの数を呼び出せたかどうかによって決まるという古来からの掟があった。先ほどまで多かったのは晴明。だが、今となっては、千代経が最も多い。ーーーつまり。

 

「……見事だ。次の【晴明】の名はお前に託す。明日の陰陽総会でお前に晴明の名の襲名式を行う」

「曾祖父様……」

「何を悲しそうな顔をしている。お前はこの私を越えたのだ。もっと誇らしい顔をしろ。私の立つ瀬が無いではないか」

 

涙を目尻に浮かべ、悲しそうに眉を顰める千代経。それもそうだ。

明日の襲名式が終われば、晴明は引退し、ご隠居として、余命を過ごす事になる。

千代経は皆の前で先陣を切って"妖やケガレ"と戦う曾祖父が大好きだった。いつもは無表情でも時々仲間と話すときに見せるお茶目さが大好きだった。カッコよくて、舞でも舞うかのような厳かさを合わせた美しさが憧れだった。

その姿が明日以降は見れないとなると寂しかった。

 

「ふ、次からはお前が皆の憧れの存在になるんだ。家族をーー仲間を頼むぞ」

「ーーはいっ!」

 

涙を拭いて、華が咲いたような笑顔を浮かべる千代経。すると、屋敷のほうからドタバタと足音が聞こえてくる。

 

「チヨツネーー!お爺様ーー!」

「あ!マリナーー!」

 

屋敷の奥から飛び出してきたのは【マリナ・ポッター】。

晴明に連れられて日本にやってきてから早いもので11年が経ち、赤子だったのが今や千代経と並ぶくらいにまで成長した。女の子らしく、ウェーブのかかった赤みがかかった茶髪を背中の中ほどまで伸ばしている。パッと見、リリーにとても似てる程にまで美少女に育った。体つきも女性へと成長し始めたばかりで女性らしい特徴はまだ目立たないものの、ふっくらと膨らみ始めている。

性格も千代経を始めとする安倍家やその名に連なる一族の子供達と友人になれたことで太陽のような笑顔を絶やさない素直な性格になった。しかし、親の遺伝子なのか、好奇心が強すぎて、何でも首を突っ込みたがるというのが玉に瑕である。

そして、密かに千代経に想いを抱いているが、恥ずかしくて、中々言い出せない純粋な子でもある。

 

屋敷から飛び出してきたマリナが千代経に勢いよく飛び込むが、千代経も様々な武術を学んでいるため、勢いに負けて押し倒されることもなく、マリナを抱きしめたままクルリと回ってお互いに笑い合うと少し離れる。

 

「久しぶり、チヨツネ!」

「お帰り。土御門家は楽しかった?」

 

マリナは先月から安倍家の分家にあたる土御門家に泊まりながらある程度の鍛錬を積んでいた。最も、鍛錬と言っても、千代経のように陰陽師としての厳しい鍛錬ではなく、一般人が健康のためにやるようなことと大差ないものだ。精々ジョギングして体幹を鍛えたり、座禅をして精神統一をしたりするものである。

しかし、土御門にはマリナと同世代の子供達が多く、更に言うなれば同性の子供が大半を占めるため、男子や、年上の女性が多い安倍家よりも土御門家の方が過ごしやすいのだろう。

 

「うん!とっても楽しかったよ♪皆よくしてくれたの!」

「此処はマリナと同じくらいの子って私くらいしか居ないからね、楽しんでくれたようで良かった」

 

ふわりと千代経が微笑むとその美少女と違えそうになる笑顔を近くで見たマリナの顔がぼっと赤くなる。幸いなことに千代経は晴明の方を向いていたので、気付かれなかった。

 

「マリナ、千代経。お客だ」

 

晴明から一声が掛かり、そちらを向くと、銀糸で織ったローブを纏い、腰まで届く銀髪と銀の髭を蓄え、半月の眼鏡をかけた老人がばちんという音と共に晴明の近くに現れる。

この老人こそ、イギリス魔法界で最強最高の魔法使いと謳われる【アルバス・ダンブルドア】である。

彼は何度も姿現しを行い、国境を越える事で3日かけてイギリスから日本まで来たのだ。こうしてまで来たのはある理由があるからだった。

 

「やあ、晴明。ほっほ、初めましてかの、千代経。マリナは赤子の頃に会ったことがあるから久しぶりになるかの」

「え?赤ちゃんの時に?」

「うむ、晴明にマリナを預けたのはわしじゃよ。わしがこの腕に抱いて晴明に頼んだのじゃよ」

 

マリナには10歳の誕生日の時、既に出生、親の死、何故安倍家に預けられたのか説明されている。まだ幼いため、全てを理解出来たとは言い切れなかったが、マリナ自身、薄々と感じていたのか、何処か納得出来たような表情だった。しかし、親が居ないと断言されたのは幼いマリナには酷で晴明の話が終わった後、千代経に抱きついて泣いたこともあるが今では千代経の両親を本当の両親と思う事で落ち着いている。

そして、今、マリナの両親の事を知るダンブルドアが目の前にいる。本当の両親の事を知りたくてたまらなかった。千代経の両親には、実の子のように可愛がってくれたが、血が繋がって居ない事で気後れする事が度々あったため、実の親を知りたかったのだ。

 

「立ち話も何だ。座敷に上がってゆけ」

「さ、行こう、マリナ。抹茶と茶菓子が待っているよ」

「えっ、茶菓子!」

 

さっきまで真剣な雰囲気だったのがぱあっと笑顔になり、差し出された千代経の手を握って晴明とダンブルドアについて座敷の方へ向かう。

女の子らしく、マリナは茶菓子が何よりの大好物だ。マリナ曰く、「抹茶と茶菓子の組み合わせは人生そのものだよ。何方が欠けたら何の価値は成り立たないのよ」だそうだ。それ程マリナは茶菓子にぞっこんである。

 

スキップでもしそうな勢いのマリナに引っ張られて座敷に上がると、既に座布団を出し、その上に座ってこちらを待つ晴明とダンブルドア。2人の視線に微笑ましいものが浮かび、それに目敏く気づいたマリナが顔を赤くして俯いてしまう。

 

「ほほ、仲が良いようで何よりじゃ。晴明にマリナを預けた甲斐があったというものじゃ」

「今やマリナは私の大切な存在です。何物にも代え難い存在ですね」

「〜〜〜っ!?」

 

少し恥ずかしそうに、それでも微笑をマリナに向けて恥ずかしい言葉を言い切る。

千代経にそのつもりがあるかどうかは不明だが、なまじ見た目が神秘的な黒の美少女(男だが、美少女でもある)である千代経、更に言うならば、密かにとは言えど想いを抱いている相手に微笑を浮かべられてそう言われた事で再び容量超過してしまい、ボフッと湯気が出るほど真っ赤になってしまう。

そして、あうあうと言葉にならない言葉が出てしまう。

そして、一方の千代経も少し頬を赤くして照れたような笑いを浮かべていた。

実は千代経もマリナの事が気になって、相互相愛であるが、恥ずかしくて中々言い出せない、初々しい仲である。

その様子を目撃したダンブルドアは呆気に取られるが伊達に年を重ねた老人というわけではなく、直ぐに気を取り戻すが、何と声を掛けたらいいのか分からなかった。

 

「………あー…、青春の一環ということでよろしいかのう?」

「全く……、千代経、マリナ。乳繰り合うのは後にしろ。今はアルバスの話が先だ」

(ち、ちち、乳繰り合ってなんていません!)

 

見かねた晴明がため息を吐きながら宥めすかす。

少し効果があったようで、未だに顔を赤くしながらも、コクリと頷いたマリナを見届け、ダンブルドアに目配りする。マリナの心の叫びを見事に無視して。

 

「こほん、わしからはお主ら2人にこの手紙を届けに来たのじゃ。本来ならば、ふくろう便なのじゃが、いかんせんイギリスと日本は流石にふくろうでは厳しいものでの。そこで、晴明と認識があるわしが足を伸ばして来たのじゃよ」

「手紙?……もしかして…!」

「ほっほ、ご明察じゃの、マリナ。ホグワーツ魔法学校からの入学許可証じゃよ。最もホグワーツに入るかどうかは千代経とマリナの意思によるがのう」

 

懐から2通の紫の蝋で封された封筒を取り出し、マリナと千代経に渡す。

元より魔法に興味があったマリナと千代経は即座にホグワーツに入学する事を希望した。晴明も2人は何を言っても止まらないだろうということは理解していたので、半ば呆れ顔であったが、もう半ばは微笑みを浮かべていた。

ダンブルドアもその言葉が出るのを知っていたかのように懐からさらに一枚の羊用紙を取り出して千代経に手渡す。

 

「これはの、ホグワーツで必要になるもののリストじゃ。入学式の前日、ホグワーツの教師がそちらに向かうじゃろう。その教師と共に買い揃えるようにの」

「そうだ。アルバス、明日千代経の襲名式があるのだが、見ていくか?前から日本の文化に興味があると言っていたからな、いい機会だろう?」

「ほっほ、千代経が晴明の名を名乗ることになったのかの?何とも素晴らしいものじゃ!」

 

日本の古来より息づく伝統に興味があったダンブルドアは喜んでこの申し出を受け取り、一晩泊まっていく事になった。

その日の夜、夕餉の後マリナは早速自身の両親の事を尋ねにダンブルドアに充てがわれた部屋に訪れる。

 

「ダンブルドア先生、単刀直入にお伺いしますが……えっと…」

「ああ、マリナ、君の両親の事じゃろう。わしはそのことで、君に謝らなくてはと思うておったのじゃ」

「ど、どういう事ですか……?」

「ヴォルデモート卿が君のご両親を襲ったのは、ある予言が原因だったのじゃよ。簡略すればの七回目の月が死ぬ時に産まれた子はヴォルデモートを斃す存在となるという予言があったのじゃ」

「それが私……」

「そうじゃの。それと千代経も当てはまるのう。晴明から聞いたら驚いたわい。千代経もマリナと同じ日に産まれたというのじゃからの。……おっと、話が逸れたの。マリナ、君のご両親は非常に優れた魔法使いじゃった。しかし、それをみすみす死なせてしまったのじゃ……」

 

過去に思いを馳せるダンブルドアとマリナ。ダンブルドアとの話は夜更けになるまで続き、戌の刻になった事を千代経が知らせに来るまでマリナは聞き入っていた。

ダンブルドアにお休みの挨拶を済ませ、それぞれの自室へ戻る途中、突然マリナが前を歩く千代経の手を握る。その頬にはうっすらと赤みが差して、上目遣いでちらちらと見つめてくる。

 

「ね、チヨツネ。その……今日は一緒に寝てもいい……?」

「……いいよ。久しぶりに一緒に寝よっか」

 

11歳になった男女が話すような事ではないが、ダンブルドアから両親の話を聞いて、人の温もりが欲しくなったのだろう。

と、持ち前の観察力で大まかにマリナの心情を察する。そのため、返答に間が空いたのだが、いっぱいいっぱいのマリナに気づかれる事はなかった。

 

 

その日の夜、いかがわしい事は無いが、マリナは身体を千代経に密着させ、安心した緩みきった顔で眠りに就いた。しかし、千代経も少しマリナの事を意識しているので、女の子の柔らかさをもろに感じてしまい、眠れぬ夜を過ごしたのは別の話だ。

 

 

 




如何でしたか?

オリジナル設定や展開になりますので、違和感もあるかもしれませんが、頑張っていきたいと思いますので、どうぞよろしくお願い致します。

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