PCゲームを物色しました。最近発売されたもので、絵はまあまあよさそうなのを見つけました。
パッケージ裏のあらすじを読みました。
「『友達を作れないんじゃなくて、作らないんです。』
そう自ら“ぼっち”を決め込んでいる主人公。
『私のことは放っておいて。』
そう思って毒舌を撒き散らし、周囲を遠ざけている超絶美少女。
なんだか似たもの同士なふたりが出会うところから、物語は始まる――
(中略)彼女に連れて行かれた先は学園でも良い評判を聞いたことがない、“アシスト会”なる生徒会管轄下の委員会で(ry」
……まんま俺ガイルのパクリじゃん!
主人公八幡じゃん!メインヒロイン雪ノ下じゃん!アシストって奉仕部じゃん!いや寧ろ劣化してるまであるぞ!?設定とかセンスとか……。
そっとゲームを戻し、ソ○マップを後にしたのでした。
※本編とは(ry
……やってしまった。
始業時間まであと三分。
校門には生徒の姿は全くない。あいさつ運動をやっている生徒会の姿も、彼らと混じって野太い声で挨拶をかましては女子生徒をビビらせる厚木の姿もなかった。
遅刻遅刻~とはしゃぎつつちっとも慌てているように見えないバカ共もいない。そう、誰一人。
遅刻する時までぼっちとはこれいかに。
そもそも、どうして無遅刻無欠席が取り柄の俺がこんな事態になったのか。
きっかけは昨日返却された中間テストで、数学はまさかの赤点。試験勉強は敢えて辛うじて理解できる分野のみ集中的に取り組んだのだが、今回はそのヤマが外れた。
三角関数とかcosとか意味分かんねーよ、日本語で書けよ。
ということで泣く泣く追試験を受ける羽目になったのだが、幸い数学教師は話の分かる人物で、追試験の問題は六割がた中間テストと同じなのである。
追試は四割以上得点すれば合格なので、テストの問題を丸暗記すれば楽勝だ。
だった、のだが。
あろうことか、その肝心の問題を紛失。置き勉などしないから学校に放置する筈はなく、今朝家じゅうを探し回ったが見つからない。
そうこうしている内にタイムリミットが迫り、遅刻する方がはるかにヤバい、追試は今週末などだからまだ時間はあると自分に言い聞かせ、家を出た。
すまんな、小町。今日は送ってやれなくて。
呆れつつも菓子一つで許してくれる辺りは流石我が妹である。……チョロすぎてちょっとお兄ちゃん心配だけど。
どうにかダッシュで昇降口に辿り着き、靴箱にスニーカーを放り込んで上履きに。五秒で完了。
後は小走りでいけばどうにか―――
「……おい、比企谷」
と、背後から平塚先生来襲。……音もなく現れんな、ビビるだろ。
妙に目が赤い気がするが、寝不足かそれとも二日酔いか?どちらにせよ生活指導の教師として相応しいとは思えない。だから結婚できないんだよ。
「お、おはようございます。それじゃ俺はこれで」
「待て。君、数学で赤点を取ったそうだな」
はい?てっきり遅刻寸前だったのを咎められるかと思いきやこれか。
アンタ現国の担当だろ。まさか酔った勢いで自分の担当科目も忘れたんじゃないだろうな。
……とは、勿論言わない。それより早く教室に行きたいのだ。
「まあその、失敗してしまったんですけどどうにか追試で挽回できるように」
「全く……最初から追試でどうにかすればいいと思っているからダメなんだ!
文系だからといって手を抜いて良い訳じゃないんだぞ、大体君はいつもいつも人を舐め腐って―――」
そして、そのままお説教タイムへ突入。
人との関わりを忌避してばかりだから勉強でもすぐ楽な道に走りたがるんだ、休日も体を動かさずに怠けているだろう、今に脳味噌が腐ってしまうぞ、云々。
ご心配なく。愛妹の手によって勉強を教えさせられ買い物に付き合わされ、家事も一緒にやってますから。そもそもシンナーでもやらん限り脳が腐るなんて有り得るかよ。
更には不出来な生徒を持つとその分他所の先生から嫌味を言われるんだぞとまでのたまう。なら、そこのクラスの劣等生のことを持ち出して言い返してやればいい。
よく会話はキャッチボールに例えられるが、俺にとっては寧ろブーメランである。うっかり下手な事を口にして痛い目に遭い、そうして口下手な人間は会話を最小限にする必要があると学習していくのだ。
第一F組には俺の他にも数学を落とした奴だっているだろうとか、アンタは授業に出なくていいのかと心の中で愚痴っているうちに、始業を知らせるチャイムが鳴る。
嗚呼……終わったな。とうとう皆勤賞を取るという高校生活唯一の目標は果たせなかったか。
と、その時。
「っ……」
すぐ横を、小走りで誰かが通過していく。
そちらに目を向ける。
川崎だ。
一瞬、目が合う。すぐに睨み返される。またか……。
「おい!どこに目を向けているんだ、話を聞いてるのか」
「いやその、今かわさk」
「何を言ってる?言い訳をするんじゃない!全く君は……」
そしてまた、既に忘れたかのようにさっきの説教を繰り返す。
……もうこりゃ、単に脳筋とかそういう問題じゃないな。若年性認知症の可能性を疑うレベルである。
結局、俺が解放されたのはそれから十五分後。見事な大遅刻であった。
日々生活していると、人間関係の悩みには事欠かない。俺のようなぼっちでもだ。
言うまでもなく、リア充は俺にとって関わってはいけない人物の筆頭に上がる。学校行事などでこいつらと同じグループになったら、もう早く終われと祈るしかない。
そしてパシリにされませんようにと。
で、問題はまだあって、それは自分と似たぼっちさんと付き合わなければならないということになったら、というケース。
これもこれでお手上げ状態である。お互い碌に会話ができないので、その間ひたすら気まずいムード。
まさにアインシュタインの相対性の逸話だ。辛い時ほど永遠に感じるというアレである。
数週間前の職場見学もまさにそうだった。俺、川崎、そしてモブキャラの風格をこれでもかと兼ね備えた佐藤。
この余り者グループだけで精肉店を見学し、店と仕事の様子を見学し、店主にインタビューすることになって。
そして、途轍もないことが起こった。
「この店の化粧室はきちんとトイレットペーパーが補充されてませんが、管理はどうなっているんですか」
「店員が常連客らしい人とレジで長々と雑談をして子連れの若い母親を待たせていましたが、接客についてきちんと教えているんですか」
「高齢者の客も多いのに、店の通路が狭いのは配慮に欠けているんじゃないですか」
「先日来店した時、貴方が若い店員を店の前で蹴り飛ばして怒鳴り散らしているところを見ましたが、パワハラになるんじゃありませんか」
―――こんな質問を、川崎が先方に投げかけたのである。
店主はしどろもどろになり、曖昧な返答しかできず、最後はガキの癖にケチをつけるのかと逆ギレ。
その一部始終を、モブの佐藤が正確かつ素早くメモにまとめる。お前事件記者かなんかなの?
俺はと言えば間に挟まれ、ただ黙っていた。胃の痛みに耐えながら。
実際、四つ目以外のことに関して、川崎の指摘は正しかった。小学生でも疑問に思う奴は思うだろう。
それを職場見学で聞いていいことなのかは別にして。
その後、俺たちのグループは店での出来事を基に「個人商店はなぜチェーン店に負けるのか」と題したクソ真面目なレポートを書いた。
そして平塚先生からは見事に突き返され、書き直しを命じられた。理由はただ一言、「高校生らしくない」という超抽象的なもの。
社会への問題意識を持てとか教える癖に、とんだダブルスタンダードである。結局嘘ばかりの感想を並べて無難にまとめて再提出したが。
……とまあ、こんなこともあって、俺は川崎が苦手だ。
普段は物静かなのに一度火が付くと恐ろしい。根は悪い奴ではないと思うが、それでもやはりぼっちには関わりづらい人間であることには変わりない。
それだけなら、こっちからはなるたけ関わらないようにすればいいのだが。
「……」
だがここ最近、どうも川崎の方から俺を見てくることが多いのだ。授業中、休み時間問わず。
少々敵意のこもっていそうな視線で。
いやいや、訳が分からん。少なくとも職場見学の件ではレポート作成はしっかり協力したし書き直しも手伝ったのだが。
確かにインタビューの時は何の役にも立ってなかったけど。ほら、適材適所ってあるだろ?
俺は川崎とは"ただのクラスメート"でありたい、そう思っているのだが。
別にお前がこのところ遅刻が多いことなど俺には関係ない。関心もないし親しくなろうとも、ましてや清いお付き合いがしたいとも思わない。
それを、向こうが許してくれないのだ。
おかげでまた学校が辛くなるとぼやきつつ、俺は追試をどうするかということについて再び頭を悩ませるのだった。
「……よし、誰もいないな、っと」
昼休み。雨が降らなかったので俺は屋上へ行く。
本当なら追試の勉強をしなければならないのだが、学校の机やロッカーにも試験問題は見当たらない。一体どこに消えた?
登下校中に道に落とすとか、それはもっとあり得ない。小銭すら落としたことがないんだぞ。
教師にもう一度問題をくれるよう頼む?無理だな、そんな勇気はないし仮に実行しても友達から借りろと言われるだけだ。
あとはまた教科書を見て、範囲を全部復習するという超非効率的な方法しか残っていない。
もうこりゃ、留年も選択肢に入るかもしれんな……。
嘆いても始まらないという訳で、今日は諦めて飯を食うことにした。人生、押してダメなら諦めろ、である。押してもいないだろって言うなよ?
「ふぅ……あっ」
その時、屋上のドアが開く音がする。ちらと目をやると、由比ヶ浜だった。
おい、ここはリア充様の来るところじゃないぞ。場所間違えてないか?
勿論すぐ目を逸らし、飯を食うことに集中する。話しかけられでもしたら厄介だ。
小銭をガチャガチャと入れる音、次いでペットボトルがガシャンと落ちる音が聞こえてくる。
どうやら自販機に用があったらしい。わざわざこんなところの自販機を使うなんて、そんなに欲しいものでもあったんだろうか。
まあ、さっさと出ていってくれれば構わないのだがな。
と、なぜかこちらに気配が近づいてくる。そして、目の前に缶ジュースが差し出される。
仕方なく顔を上げると、恥ずかしげな表情の由比ヶ浜。
……一体全体、何様のつもりだ?
こいつ、嘘告白紛いのことをしたのをもう忘れているのか。
率先してやったのか誰かに指図されたのかはどうでもいいが、この無神経さにはさすがにイラッと来る。リア充グループなら何でも許されると思うなよ。
「あの……よかったらさ、これ」
「別にいい」
「……どうして」
「受け取る理由、ないから」
さっと短く、素っ気なく答える。俺はもうお前とは話したくないという意思表示。
大概の奴は、こうしてやると向こうも嫌そうな顔をしながら退散していく。
是非お前もそうしてくれ、由比ヶ浜。そして俺のランチタイムを邪魔しないでくれ。
だが、今度は勝手が違った。相手に引く様子がない。悲しげな表情をしながらも、強い口調で言い放つ。
「……なんでよ。人から物を貰ったら、喜んで受け取るのが普通じゃないの?」
はあ、そうですか。
嘘告白してきた奴の嫌味たっぷりの贈り物でも、黙ってニコニコと受け取るのが普通ですか。
普通の人間だったら、リア充だったら、社交儀礼とやらに縛られてそうしなければいけないのかもしれん。
だが生憎、俺は普通じゃない。ぼっちなんだよ。
「知るか」
さっきよりも素っ気なく、冷酷さを百倍増しにして言い放つ。俺に、嫌味な奴に尻尾を振り媚び諂う性癖はない。
「なに、それ。ヒッキーはそんなんだから―――」
そこまで言いかけて、由比ヶ浜はハッとしたように口をつぐむ。
こいつの言いたいことなどすぐ想像できる。そんなんだから友達がいないんだ、そんなんだから皆から嫌われるんだ。
実に結構。煩わしい人間関係など避けるに限る。
それに、俺からすればお前らの人間関係の方が異常だよ。大岡にあんなことがあって学校に来なくなっても、"いつも通りに"振る舞おうとする。
つるんで駄弁って、へらへらと笑って。以前リア充の友情など薄っぺらいと冷ややかに見ていたことがあったが、どうやらそうでもないらしい。
しかし逆に強固な絆だとも言えない。寧ろ粘着質というか、そのような不快さだけを感じる。
そこまでお前らを縛り付けるものとは、一体何だ?ガムの噛みカスでもくっつけてお互い離れられないようにでもしてるのか?
とても俺には真似できない。お前らがそうしたいと言うなら好きにすればいい。
だから、もう二度と俺に関わらないでくれ。
改めて俺は昼食を再開する。そこで由比ヶ浜も諦めたのか去っていった。
右手にレモンティーを持って。そう言えば三浦が好きな銘柄だったっけか?何だ、結局率先してパシリ役を引き受けてるんじゃないか。素晴らしい奴隷根性だな。
すぐにまた、静けさが戻る。俺一人しかいないのだから当たり前だが。
数分して弁当を食べ終わり、フェンスから街の景色を眺める。時折感じる海風だけが心の癒しだ。
ふと、携帯が振動しているのに気づく。
また迷惑メールか?と思いきや、ショートメールだった。差出人は、小町。
「学校が終わったら、まっすぐ家の近くのサイゼに来ること!小町」
……おいおい。また面倒事かよ。
ため息を堪え、また俺は戦場へと戻っていく。
教室という名の。
だって、可愛い妹が俺に頼みごとがあるというのだからな。何としても、生きて帰らねば。
終わりです。
サキサキ編突入は次回になりました、ごめんなさい。あと今回の前書きはちょっと荒ぶりすぎた……?
なぜサキサキは、八幡を敵視するようになったのか?
……小町と大志くんの関係から考えてみてください。
つまりサキサキはブラ(ry
そして、終盤で由比ヶ浜のあの行動。拒絶する八幡。
由比ヶ浜ももっとちゃんと説明すべきなのかもしれない。
八幡も冷淡すぎるのかもしれない。
でも、無理なんです。人種が違うんですから。
考え方もまるで違う"生き物"なのですから。
恋愛フラグなんて意地でも立たせないからね(ゲス顔)