高く孤独な道を往け   作:スパルヴィエロ大公

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作者には高校生の弟がいます。仲は良いです。

……あーこいつが(美人の)妹だったらなーと思ってしまう僕は、もう重症。
理想の妹像はラブライブの真姫ちゃんとかですかね。



※なお本編(ry


第四話 平和な日常は、家庭の中だけにある。

今日も今日とて、食卓には俺と妹二人きり。

どのみち両親が帰って来ていたとしても二人ともすぐ寝てしまうだろうから、休日以外は全員揃わないなど珍しくもないのだが。

 

さて今日のメニューは……おお、肉じゃがか。

昨日はシチュー、一昨日はカレー……あれ?じゃがいも率高くね?ドイツ人だってそんな食わないぞ多分。

 

まあ、小町が頑張って作った飯だ。文句を言ったらバチが当たる。

 

「うん、今日も小町の肉じゃがは美味いな」

 

「ごみいちゃん、そればっかりー……。あれだけ本読んでるのに、何で人を褒めるときだけボキャ貧になるのさ」

 

「じゃあどっかの孤独のゴローさんみたくネチネチ論評してやろうか?」

 

「……うん、それは気持ち悪いからいいや」

 

だろ?食事はできる限り静かに食うもんだぜ。

 

それから数分間は、お互い黙って目の前の食事を味わうことに集中。

時折つけっぱなしにしていたテレビのニュースに目をやったりもするが、真新しい情報はない。

中東で過激派テロ、合衆国で大統領選挙。大臣の問責決議案審議、明日は台風一号が本州に接近。

 

だからどうした、という話だ。毎日毎日ほとんど同じ内容の繰り返し。

俺たちが朝起きて飯を食って学校に行き、帰ってきて掃除をしてまた飯を食って風呂に入り寝る、そんなありふれた日常と大して変わり映えがない。

別にアッと驚く大事件が起きてほしい訳でもないが、これでニュースを見て社会の動向に関心を持てと言われても困る。学校という戦場に日々送り出されている身としては。

 

「むー……」

 

と、目の前の小町がどうもご機嫌斜めのようだ。

普段はビシバシ鬼軍曹の癖に、時折年頃の少女のような態度を見せるときがある。そこがまた愛らしいのだがな。

別に俺はシスコンではない、うん。

 

「こら、貧乏ゆすりはやめなさい」

 

「そうじゃなくてー!なんでお兄ちゃんは自分から人に話しかけようとしないかなー」

 

おー。とうとう妹にまでトラウマを抉られようとしているぞ。

俺、もう死んだ方がよくね?生きてる意味なくね?

 

「いや小町さんや、分かっとるじゃろ。俺なんかに話しかけられて嬉しいと感じる奴がどれだけいると思う?」

 

答え、全人類七十億の中で数名いればそれが奇跡。

向こうからは馴れ馴れしく話しかけてくる癖にいざこっちから話しかけると露骨に嫌な顔をする奴もいれば、グーパンやゴミ投げといった斜め上のコミュニケーションをかます奴もいる。

せめて人とサンドバッグ、ダストボックスの区別はしっかりとすべきでないかね?うちのカマクラだって躾ければそのくらい覚えるぞ。

その代り日頃は俺の存在をシカトしてばかりいるのだが。

 

兎に角、どうせ黙っていても危害を加えられる時は加えられるのだから、俺からはちょっかいをださない。

こっちは安全に過ごせるし向こうは余計なストレスを溜めずに済む。うん、素晴らしいじゃないか。

 

「……確かに、お兄ちゃんがそうしたがるのも無理ないけどさ。

でも、それでも小町とだけはちゃんとお話ししようよ。家族なんだから」

 

うっ……涙目で言われるとキツい。畜生、女はズルいぜ。

 

「あー、それじゃひとつ聞きたいんだが。小町のクラスって、不登校になった奴とかいるか?」

 

「え……食事中にそんなこと聞いちゃう?ドン引きだよ……」

 

会話でつまづいたっていいじゃないか、こみゅしょうだもの。

……ひどい詩だなこりゃ、みつを先生に見せたらブチギレするかもしれん。小町が引くのも無理はない。

 

「まあ、二人いるんだけどねぇー。男子と女子、それぞれ一人」

 

「……結局答えるのかよ」

 

「お兄ちゃんだもの、仕方ないよ。

それでね、まず男子くんの方は……なんか勉強ついてけなくて部活も上手くいかなくて、学校嫌になったんだって。

女子ちゃんは逆。周りの人が低レベル過ぎて耐えられないんだってさ」

 

担任の先生もそのせいで上から突き落とし喰らって、すっごくしんどそう、と小町は付け加える。

指導力不足とか教師の適性に欠けるとか、日々圧力を掛けられているんだろう。少なくともこの件は生徒本人の問題であるだけに、少し小町の担任に同情する。

平塚先生とかは明らかにダメだけどな。煙草はどうにかして止めてもらいたいものである。

 

落ちこぼれて自尊心を失って内に籠るというパターンは割と想像しやすいが、逆に高すぎる自尊心故にこじらせてしまうというのは少し一般人にはわかりにくい。

このタイプの場合、実際のところは本人が思うほど高い能力を有する訳ではないのだが。それに早いうちに気付けないと途端に暴走する。

 

それに公立中学というのは、良くも悪くもいろんな人種のるつぼだ。

お嬢様体質の奴からすれば不潔だと感じるのは無理からぬことかもしれないが、じゃあ金持ちが通う私立学校に行ったら行ったで、異様にギスギスした人間関係が待っているということもある。

少女漫画を読んでみればその辺の陰鬱さはよく分かるだろう。

 

結論、学校はどこだろうとこの世の掃きだめだ。もう少し綺麗な言い方をするなら、人間社会の負の部分の縮図と言ったところか。

 

「てことは、お兄ちゃんのクラスでも学校来なくなった人、いるの?」

 

「……先週から、一人な。クラスっつーか学年中の人気者の取り巻きの一人だった」

 

「へぇ」

 

む。

 

この「へぇ」は小町が先を続けろという合図だな。因みに感心がなければ「へー……」と間延びする。

なんだ、俺コミュ力あるじゃん。

……家族だから当たり前だけど。悲しくなるから言わないけど。

 

俺は事の一部始終をざっと語る。

職場見学のグループ決めから騒動の種が生まれ、そこからチェンメ騒動が勃発。そして哀れなスケープゴートは罪を擦り付けられ、楽園追放に至ると。

もっとも、楽園というのはあいつらリア充にとっての話。俺のような人間にとってはただのゲヘナである。

なお、その後の学校の対応がおざなりであったことも付け加えておく。いじめに関するビデオを見せられ感想文を書いて、終わり。

結局誰が犯人だったのか真相追及もなされず、かと言って放置するわけにもいかないから取り敢えずやりました、というだけのものだ。対症療法にすらなっていない。

 

小町は珍しく真剣に耳を傾ける。俺が勉強教えてやった時なんかダルそうにしてたのに……。

 

「ふむ……うん、取り敢えずさ、小町、一言言っていい?」

 

「おう、どうぞ」

 

「なんか、その葉山さんっていうの?神君元康みたいに祭り上げられてる感じだよね」

 

「……神君家康な。元康は今川家に仕えてた頃の名前だよ」

 

上手いこと言ったつもりだろうが、妹よ、生兵法は大怪我の基だぞ。

 

「ま、細かいことは気にしなーい。それでも、実際神様みたいなもんじゃない?

勉強もスポーツもできてイケメンで、少なくとも表向きは誰に対しても優しい。

裏の顔はどうだか分かんないけど、それを誰かに勘付かせるようなことはない。全く、隙なし!だよね」

 

そう、大体のところはその通りだ。

戸塚のテニス騒動の時は嫌な奴だと思ったが、それもあいつからすれば「公平な提案」をしたということになっているのだろう。

少なくとも周りの奴らはそう見た。どこまでもカリスマ性の塊。

悪意ある奴が付け入ろうとしても簡単にはいかないだろう、今のところは。

 

「で、お前はどう思うよ?葉山を」

 

「んー、だから、神様みたいなもんだって思うな」

 

「そうじゃなくてだな……もっと砕けた言い方をすると?」

 

「うーん。

 

ま、人間味ないよね、その人。聞いててもその、惹かれるエピソードっていうのがぜんっぜんないっていうか」

 

パーフェクト。流石我が妹である。

 

「ほら、恋愛漫画とかでもさ、女の子が不良っぽい人に惚れちゃったりとかあるじゃん。

普段は乱暴そうで感じ悪いのに、ある日捨て猫に餌をあげてたり、足の悪いおばあさんをおぶってあげたりとかするのを見て惚れちゃうとかさ」

 

「ギャップ萌えってことだな」

 

「言い方は気持ち悪いけど、まーそんな感じだねぇ。

でも同じことを葉山さんがやってても、何かあの人なら当たり前だよねーってスルーしちゃうかも。

……それにさ、そういう優秀な人の横にくっついてるとさ、結構辛いよ?なんか自分のダメダメさを無理矢理鏡で見せられてる気分っていうか」

 

またまたパーフェクト。勲章を授与したいまであるぜ。

 

「まあ、取り巻きの全員が本気で葉山を慕っているかは分からんがな。単にアクセサリーとして利用したいだけかもしれん」

 

「それダメじゃん。利用してるつもりが、逆に利用されてるパターンだよ。

小町に言わせればステーキの付け合わせのジャガイモ以下だね」

 

……残念。

最後はもっとカッコいいこと言って〆るもんじゃね?例えがちょいと悪すぎる。

俺も例によって人のことは言えないがな。あとさりげなくジャガイモをdisるな、今食ってるものだぞ。

 

「その、大岡さんだっけ?その人は可哀想だけどさ、結果的にはその、なんていうの?

そういう形ではあるけど、そんな人間関係からは解放されて、良かったんじゃない?

やっぱり人間、似たもの同士で固まってるのが一番いいんだよ。……ずっとそうしてもいられないけどさ」

 

情けないことに、俺にはその似たものとつるむことすらできていないが。

 

解放……か。それにしては多くの代償を払い過ぎている気もしなくはない。

確かにいけ好かない奴ではあるが、俺個人としては恨みがある訳でもなく。

 

では、俺はあいつを、大岡を助けられたか?―――答えはノーだ。

 

クラスを敵に回してでも救う理由はない。他人以上クラスメート以下のあいつを。

向こうだって逆に困惑するだろう。

 

結局は、こじつけであろうと、自分を納得させて騙し騙し生きていくしかないのだ。

卑怯だと分かっていても。

 

「……ああ。そう、かもな」

 

「そうだよ。……それに、お兄ちゃんが助けてあげるとか、そんなのできる訳ないし」

 

……。

 

「へいへい、悪うござんした。どうせ俺はカッコ悪い兄貴だよ」

 

「こーら、拗ねない。小町的にポイント低いよ?」

 

そうして、比企谷家の夕餉は再開される。

 

 

"そんなことして、自分から傷つきにいくのは、絶対ダメだよ"

 

 

小町の言いたいことは、よく分かった。ああいう言い方をしたのは、照れ隠しと受け取っておこう。

 

ありがとうな、小町。

 

 

やはり比企谷小町は、俺の天使である。ただ一人の、な。

 

 

 

 

 




終わりです。次回はお待ちかね、サキサキ回かも。


今回は小町との日常を題材にしました。前回があまりにハード過ぎましたからね。
ただ恋愛フラグは立てたくないので、なら兄妹仲がよいだけなら、ま、いいかと思い、結果こうなったと。
……小町が八幡との禁断の恋√突入?
ないわー。そんなのやりません、ご安心ください。



なお、荒れる話題を扱っているということは重々承知していますが、感想欄での感情的な発言は、どうかお控えください。この場でお願い申し上げます。



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