高く孤独な道を往け   作:スパルヴィエロ大公

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姫路市の中学校の事件を見て思ったこと。

「あ、やっぱり学校ってクソだわ」




※なお本編とは関係ない話題なので、興味のある方は各自お調べください。


プロローグ やはり比企谷八幡にとって、学校とは忌まわしいものである。

「さて、比企谷。何故君が呼び出されたのか分かるか?」

 

分かるか。

つうか呼び出しておきながらいきなりそれかよ。用があるのはそっちだろうに。

 

……と、心の中で愚痴る。生憎俺にそんな返しができるほどの度胸とコミュ力はない。

 

「……その、よく分かりません」

 

「はあ……やれやれだな」

 

しょうがないだろ、分からないことを分からないと素直に言って何が悪い。

 

総武高校の第二学年に進級して一週間半が過ぎた水曜日、俺は突然担任の平塚先生から放課後生徒指導室に来るようにと言われた。

すっぽかしたら進級できると思うなよと理不尽な脅しも付けて。いくら貴方が生徒指導担当でもそこまでの権限はないと思います。

やむを得ず大人しく従って来てみれば、中で堂々と煙草を吸っている担任の姿があった。いやちょっと、校内は禁煙ですよ?

それはともかくとして未成年者の前で吸うのはやめてほしいと頼むと、こっちは忙しいんだと理屈にもならない理屈を返された。それでいいのか、生徒指導担当。

ヤンキーが同じことを言ったらどうするつもりなのだろうか。

 

まあここまで説明すれば大体分かると思うが、この平塚静という女性は色々と残念な人である。加えて少年漫画のノリで行動したり熱血教師ぶるところも痛い。

つまりは俺のようなぼっちが関わってはいけない人物ナンバーワン。それでもクラス担任である以上、最低限の付き合いは必要だろう。

だがこんな形で関わるとは思ってもよらなかった。

 

「それで、俺が呼び出された訳というのは」

 

「……いいか。まず君は、友達がいないだろう?」

 

えー。いきなりそれ聞いちゃう?人のトラウマ抉って楽しいの?

もっと上手い話の切り出し方というのがあるだろう。俺にはできないけど。

 

「ま、まあ、確かにそんなにはいませんけど……」

 

「誤魔化すな、はっきり一人もいないと言え。そんなだから目も性根のように腐ってしまうんだぞ」

 

「……俺も気にしてるんで、目のことを言うのはやめてもらえませんかね」

 

「性格は顔に出ると言うだろう?まあそれは置いておくとして、だ」

 

うわぁ。オラなんかムカムカしてきたぞ。

大体アンタだって見た目からしてだらしない大人の典型でしょうに。そんなだから30過ぎても結婚できないんだよ?

結構したいとか愚痴る前にまず自分を磨けよ。

 

……と、言う度胸はないのであくまで心の中に留めておく。全くコミュ障は辛い。

 

「そんなでは君が将来世渡りできるかどうか心配だからな。もっと自分から積極的に人と関わろうとする努力をすべきだと思わないのか?」

 

「……はあ」

 

「おい、なんだその態度は。私は君を心配して言ってやっているんだぞ」

 

どうだか。本当に心配しているなら、わざわざ口に出して言うとは思えない。

そもそも言って"やって"、という言い方からして押しつけがましい。アンタ本当に国語教師か?言っちゃいけないライン考えろよ、もう超えてるけど。

 

確かに俺は友達はいない。高校に入ってから一年間、ぼっちとして過ごしてきた。

だがそれは今までの経験上、「必要以上に人と関わると碌なことにならない」と学習しているからだ。

 

要するに平塚先生は、俺がぼっちであることが気に食わないらしい。

小学校時代、「ヒキオタがいるとクラス全体がキモくなる」などとからかわれたことを思い出す。別にその頃の俺はオタクでもないのだが。

言い方こそ違いはあるが、目の前の担任が言っていることも似たようなもんだ。

もっと嫌なのは、いじめっ子ですら嘲るだけなのに、そこから更に踏み込んで「気に食わないから性格を変えろ」と促している点。

まるでお前は問題児なんだぞと言わんばかりに。

 

この時点で最早うんざりしてきた。これだから自分のやり方を他人に押し付けてくるタイプは性質が悪い。

しかもどう反論しようと、屁理屈を言うなと一蹴してくるであろうことも。ここまで自分の担任が厄介な人物だとは想像していなかった。

 

なのでいきなり真っ向から反論するのではなく、敢えて下手に出てみることにする。

 

「俺も別に望んで一人でいる訳じゃありませんよ。それなりに人に好かれたいとは思ってますし、努力もしてます」

 

「ほう?ならどうしているんだ、言ってみろ」

 

「身だしなみは清潔に、授業も真面目に受けて悪い印象を与えない。人から頼まれれば断らない」

 

総武高では自由な校風もあって割と制服を着崩しているヤツが多い。中には髪を染めているのもいる。

俺はそういうイキがった真似はしない。単に似合わないだけだが。

成績もこの前の実力テストでは学年三位―――国語だけで数学は赤点だったが。その反省もあってきちんと予習復習はしている。当たり前だがな。

頼まれれば断らない、これは昼休みになぜか俺の席を借りたがるヤツが多いので譲ることにしているのだ。

相手はお友達とワイワイ楽しく、俺は屋上で一人優雅にランチタイムを過ごせる。まさにwin-win、誰一人損をしない。

 

「……それだけか?」

 

「ええ。あとは俺を理解してくれる人が現れるのを待つ。

石の上にも三年、待てば海路の日和ありって言うでしょう?そんなところです」

 

「あのなあ……そんな受け身な姿勢だから君は駄目なんだ!いいか―――」

 

その後は予想通りというか、自分の体験談も交えた古臭い説教話。

自分が学生の頃はもっと人にぶつかっていったもんだ、君は覇気が足りない、そんなんじゃ一生つまらん人生を過ごすぞ、云々。

いや、人にぶつかったら怪我するだろ。あとアンタの場合は積極的過ぎて引かれてるんじゃないの?

少なくとも結婚したいママさんになった自分の友人が憎らしいなどと愚痴を垂れる教師よりかはまだ充実した人生だと思うぞ。

 

……と、言えば角が立つだけなので、大人しく聞くふりをする。全くもって人付き合いとは難儀なものだ。

 

さて、五分ほどしてやっと説教が終わる。

今日はラノベの新刊が出るので早いところ下校して本屋に寄りたいのだが。遅くなると小町が怒るしな。

 

「分かりました。……以後、気を付けます」

 

「……本当に理解しているのか?」

 

「はい」

 

なぜそこまで疑いの目を向けるのか。まるで俺が不審者みたいじゃないか。

教師なら自分の教え子を信じてやるもんだろう。

 

「よし、もういい。―――君には奉仕部での奉仕活動を命じる」

 

 

はい?

 

 

ちょっと待て、意味が分からん。

 

「それはどういうことですか」

 

「言った通りだ。君が反省して自発的に行動するとは思えん、よって部活に入らせて矯正する必要がある」

 

「いや、部活動への参加は自由の筈でしょう?」

 

「生徒指導担当として私が必要だと考えた、根拠はそれで十分だ。言い訳は認めん」

 

いやいやいや。

それは職権乱用というものだろう。俺は校則違反をやらかしたわけではない。

反社会的行為などもっとしていない。

 

それに、部活に入らない理由はまだある。

 

「ウチは両親共働きなんで、家事は俺がやらなきゃいけないんで。部活やってる時間なんてありませんよ」

 

正確には、小町と分担してやっている。とはいえ帰りが遅れれば毎日負担を妹に押し付けることになるし、それは兄としてどうかと思う。

というか絶対小町が許さんからな、サボりは。

 

「そんなのが言い訳になると思うか?掃除を数日サボろうが一週間コンビニ弁当で過ごそうが人は死にやしない、男子高校生なら尚更だ」

 

うわぁ……。自分の体験から来てるんだろうが、もうこの人色々とダメダメだ。いつか体壊すぞ?

柄にもなく好きでもない人物の心配をしそうになってしまった。

 

「そんな生活、まともな人としてどうかと思いますよ?」

 

あ。

 

……つい言ってしまった。まあまともな人なら、自分のことを言われたとは思わないだろうが―――

 

「なん……だと?」

 

目の前の担任は、どうやらそうではなかったらしい。

この人本当に国語教師なんだろうか?まさかBJみたいに無免許とか言わないよな。

 

「あの、別に先生のことを言った訳では」

 

「……教師に対する反抗的な性格。もう矯正の必要性は疑いようがないな」

 

「別にそんなつもりはなくてですね」

 

「私がどう受け取ったかが肝心なんだ。屁理屈を言うな、今すぐ奉仕部へ連れていく」

 

……。

 

なんだこの教師は。自分がそう思ったから、頭に来たから罰を与える、だと?

 

まるで暴君。ヒトラーやスターリンも舌を巻くだろう。

いや、それともあるいは―――

 

 

「あんた、更年期障害か?」

 

 

瞬間。

俺のすぐ右横を、平塚先生の拳が飛ぶ。壁に当たって鈍い音を立てた。

 

「……おい、今の発言はどういうつもりだ」

 

やってくれたな。

体罰一歩手前の行為。第三者の証言があれば動かぬ証拠になる。

一応、胸ポケットのペン型隠しカメラで映像として残してはいるが……。

 

何でそんなものを持ってるか?今までの教訓から学んだことだよ。

 

「俺も詳しい訳じゃないですけどね。感情のコントロールができてないんじゃ?

一度病院で診てもらった方がいいと思いますよ」

 

「はぐらかすな。どういうつもりで言ったのかと聞いてるんだ!」

 

「……さっき、言いましたよね。そんなだから目も性根のように腐ってるんだ、そんな受け身な姿勢だから君は駄目なんだって。

あの時、どれだけ俺が傷ついたか分かります?だからそれを分かってもらうために言ったんですよ」

 

「屁理屈もいい加減に」

 

「自分がされて嫌なことは人にやらない。屁理屈でもなんでもない、常識ですよ」

 

はい論破。

これ以上何かするつもりなら、職員室か校長室に駆け込む。それでもだめなら警察だ。

 

さて。先生は一体どうするつもりだろうか?

もう俺の中では先生への信頼は地に堕ちているが、この人には同僚や上司からの評価が下がるのを恐れるという、"最後の一線"はあるかどうか。

 

「……もういい。さっさと出ていきたまえ」

 

「はい?」

 

「出て行けと言っている。こっちも忙しいんだ」

 

だったら呼び出しなどしなければいいのでは?

忙しいって、そりゃこっちの台詞だ。

 

……と、余計なことは言わずに、黙って俺は生徒指導室を出る。

 

 

やはり、学校とはクソだ。小中高、どこであろうと。

 

 

改めて俺は、そう確信したのだった。

 

 

 

 




終わりです。

平塚先生がかなり最低な人格になってますが、以降しばらくは何もしませんのでご安心を。
次回は由比ヶ浜のお菓子事件についてやります。


奉仕部に入ってないのになぜ?
……原作とはちょっと話の流れを変えます、ハイ。

勿論恋愛フラグは立ちません。由比ヶ浜とは擦れ違って微妙な関係になって終わります。




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