この悪神、なんか軽い   作:大小判

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だが、悪神は本格的に弾けた。


戦乙女と赤龍帝、絶望の渦へ旅立つ

 

 

 

 

 

 白龍皇、ヴァーリ・ルシファーの謀反。その事実は、駒王会談に臨んだ全勢力を震撼させた。

 戦いを求める生粋の求道者である彼は『神話勢力に戦ってみないか』と禍の団(カオス・ブリゲード)に持ち掛けられ、テロリストに加入、満を持して生涯の教敵手となる赤龍帝、兵藤一誠に戦いを挑んだ。

 白龍皇の光翼(ディバイン・ディバイディング)禁手化(バランス・ブレイカー)、|白龍皇の鎧《ディバイン・ディバイディング・スケイルメイル》の力で暴威を振るうヴァーリに対し、一誠アザゼルから貰った一時的に力の暴走を抑える腕輪によって禁手化、赤龍帝の鎧(ブーステッド・ギア・スケイルメイル)で対抗。

 両者の戦いが佳境に入った時、真昼と思わせる蒼い光が天地を照らす。響く衝撃は厚雲を蹴散らし地鳴りを起こしても尚たりない。地上で発生すれば一つの県を簡単に消し飛ばしかねない力のぶつかり合いに、ヴァーリは歓喜の声をあげる。

 

「ははははははは!! 見ろ、兵藤一誠!! あれこそが世界最頂の戦いだ!! かつて西暦以前も昔、神秘が地上に蔓延していた時代に実際に起きた技にも知恵にも頼らぬ原始の暴力のぶつかり合い!! あぁ、その頂はなんと遠いことか!!」

 

 まるで子供が夢物語を語るようにその眼を輝かせながら天を仰ぎ見るヴァーリに対し、別に戦闘狂でも何でもない一誠を含む若手たちは唯々戦慄あるのみ。天から大瀑布のように降り注ぐ純然な殺意は無意識のうちに奥歯を震わせる。

 光は消え、空に夜の闇が戻ると同時に、上空から大小2つの影がグラウンドに向かって落ちていく。途中で幾度か蒼炎が空を奔り、鉄を砕いたような轟音が鳴り響くが、2つの影は受け身も取らずに地表へ叩き付けられた。

 施設や街自体は三大勢力の首領による防護もあって無事だったが、巨大な隕石の衝突のような衝撃波はグラウンドにいた者たちをその隅へと追いやる。 

 2か所から立ち上る土煙、最初に姿が見えたのは翼を引き千切られ、全身を所々炭化させられた龍形態のオーフィス。次に土煙を突き破ったのは、胴体に巨大な風穴を開け、頭部の半分を抉り飛ばされたアンリマユ。

 龍神と悪神、一人と一頭の絶対強者は傍目からは致命傷と思える傷をものともせず威嚇の咆哮をあげる。

 

『『GYEEEEEEEYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!』』

 

 とても生物の喉から迸るとは思えぬ爆音のような怒鳴り声。地面は捲れあがり、防護された校舎がメシメシと音を立てる。気の弱いギャスパーなどは声も上げずに気絶するほどの気迫だ。

 

「今宵は此処までか……美猴!!」

「あいよ!!」

 

 オーフィスの元へと飛び寄るヴァーリの呼び掛けに、棍棒を手にした中華服の男が突如姿を現す。根で地面を突くと、中華の術式が浮かび上がり、生じた光がオーフィスとヴァーリ、美猴と呼ばれた男を包む。

 それはかつて、敗残者を追うときに幾度となく見た転移の光だと理解したアンリマユは全速で間合いを詰めにかかった。脳漿と内臓、血飛沫を散らしながら襲い掛かる悪神を見て、美猴は思わず悪態を吐いた

 

「クッソ!! マジかよ!!」

 

 どう考えても動ける傷じゃないのに襲い掛かってくることへの恐怖を感じながらも、肉体が万全ではないことを理解している。スピードの乗り切らないアンリマユを伸縮自在の根……いわゆる如意棒で突き飛ばそうとした瞬間――――

 

「神珍鐵の棍棒か………小賢しいわっ!!」

 

 悪神の肉体と衝突した瞬間、如意棒は凄まじい反動の衝撃と共に半ば砕け散る。骨が砕けそうな衝撃が如意棒ごしに手に伝わり、美猴は悪神に秘められた質量を知る。

 

(硬い……いや、重い……!? とてもじゃねぇが、2メートルにも届かねえ体の質量じゃないぜぃ……!)

 

 鉄板を容易に貫く美猴の膂力と武技をもってしても微動だにしない。如何なる術によるものかはわからないが、この悪神は惑星に匹敵しうる質量を僅か2メートルにも満たない体に凝縮している。如意棒が砕けるのも必然だろう。彼の肉体を砕くには、無限の力という絶大な破壊能力を持つオーフィスか、それに比肩する力でなくては不可能だと知る。

 

「終わりか? ならば死ね」

 

 星を割る悪神の炎拳が若き妖猿の顔を目掛けて迫る。疾走の内に肉体の再生を終え、虹色混じりの黒目に美猴の頭が砕け散る未来が映る。

 

「させんっ!」

 

 それを防ぐのはヴァーリだった。全ての魔力と白龍皇の鎧の装甲を楯のように変化、防御力の一極集中と白龍皇特有の半減の力でアンリマユの額面上の能力の二分化を図る。

 

『確実に通用するかは分からん!! だが仮に幾分か力の分散が出来ても、それを吸収するなヴァーリ! アレの力の本質は怨嗟と神毒、そして終末の炎だ! 下手に取り込めば体がもたんぞ!!』

 

 結果を見れば半減、とはいかないまでも僅かに吸収した力を即座に光翼から散らしていく。それでも尚、いささかも弱まることのない拳は白龍皇の甲殻に叩き込まれる。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおっ!!?」

 

 全ての力をもってしても吹き飛ばされそうな一撃を歯を食いしばって足を踏ん張る。ほんの1秒にも満たない、決して長くはもたない力のぶつかり合いは、龍神の尾によって悪神を叩き飛ばして終わりを告げた。

 空中へ叩き出されたアンリマユは、疲労困憊ながらも満足感のある笑みを浮かべるヴァーリと、それを気遣う美猴。無垢な瞳でこちらを見上げるオーフィスが転移の光の中で消えるのをその目に映していた。

 

「ちっ。逃げられたか」

 

 そう言って追いかけようとはしなかった。居場所を探知しようにも、どうにも上手く隠していてそれも出来ない。今宵の戦いは今、ここに終わったのだ。

 

「テロリストが首脳会談を襲撃。これは立派な宣戦布告ととってもいいですね」

 

 他の敵も撤退したのか、会談の場にいた全員がアンリマユの元へ集まってくる。その中に下心溢れていそうな顔の少年を見つけた時、アンリマユは少年……一誠の顔を鷲掴みにして持ち上げる。所謂アイアンクローだ

 

「イッセー!?」

「えぇ!? ちょっ!? ど、どうして!? 何でいきなり!?」

「お前だよな? 人が珍しく真面目に戦ってる時におっぱい連呼してた馬鹿。雲の上まで聞こえてたぞ、あーん?」

「き、聞こえてたんですか!? やだ、恥ずかしい!!」

「覚えておけ。こと戦いの中でギャグに走っていいのは天上天下この俺唯一人……いや、覚えておく必要もないかもな」

「な、なんですかその不吉な言い回し――――あ、ああああああああっ!? エ、エロくてすいませんっしたああああ!!」

 

 顔を掴む五指がムカデのように変質し、頭部全体を覆って締め付ける。剝がそうと必死になってもがくがビクくともしない。

 

「あああああああ!? 何これ!? 何これ!? 何か頭全体がチクチクするあだだだだだだっ!?」

「痛い? 苦しい? クチャッといっちゃう? ミリミリクチャッて」

「いやミリミリクチャッて、最悪の死に方じゃないっすか!?」

「じゅ~う、きゅ~う、は~ち」

「何のカウントダウン!?」

「お前の残り寿命」

「イ、イッセーを離してあげてください!」

 

 眷属としても、一人の異性としても愛する一誠が痛めつけられるのを見て、リアスは抗議の声をあげる。彼女だけではない。彼女の眷属全員と、一誠の幼馴染であるイリナも悪神を気丈に見据えている。

 

「ほう。この俺に物申すか。……だが頼み方がなってないな。俺にものを頼むときはまず……おい、そこの銀髪の小娘。確か……搭城小猫といったか?」

「……っ。は、はい」

 

 一誠の顔面をアイアンクローで締め上げたまま、リアス眷属の戦車(ルーク)……小猫を指さす。思わずビクッと肩を揺らすが、それでも仲間のために一歩前へ出る。

 

「俺はあの駄竜との戦いで疲れた。まずは両手両膝を地につけ、椅子となって俺の疲れを癒せ」

「なっ!?」

「美少女になんつーことをやらせようとしてんだぁあああああああああ!?」

 

 身長140センチあるかどうかという、高校生にしては極めて小柄な学園のマスコット的美少女、塔城小猫。そんな彼女の背中に180センチ越えのマッチョが腰を下ろそうというのだ。見た目を想像するだけでも倫理観的にアウトな絵面に美少女大好き赤龍帝は抗議を上げた途端、顔面を締め上げられて絶叫する。

 

「そこの青髪と金髪と栗毛の小娘は俺を労う為にヤハウェを罵倒する怨嗟の歌を歌ってもらおうか」

「えっ!?」

「そ、そんな!?」

「わ、我らに主を罵倒せよと申すのか!?」

「嫌ならばそれでもいいぞ。この小僧の首から上が無くなるだけだ。あぁ、ちなみに罵り方が幼稚な場合、何度でもやり直せよ? 俺が何度でもチャンスをくれてやる。俺は寛大だからな」

 

 聖書の神が死してなお彼を信仰するアーシア、ゼノヴィア、イリナに自らの主を貶めよと命じるアンリマユ。信心深い3人からすれば悪夢でも見ない地獄の所業だ。だが目の前の悪神は愛する一誠の命を文字通り握っている。信仰か愛か、葛藤が3人の顔を苦渋に歪めていた。

 

「くははははははは! 良いぞ良いぞー! その苦しみに歪んだ顔!! それでこそ、俺も貴様らの願いに乗ってやった甲斐がある!!」

「くっ! 一体どこまで下劣なの!?」

「まだ立場が分かっていないらしい。貴様らはお願いする立場。サーゼクスの妹に、黒髪の小娘は眷属のトップとその補佐として、俺の足先にキスして『プリーズ』だろう? それがこの俺にものを頼む時の最低限の礼儀だ」

「こ、この私たちにそのような真似を……!?」

「最後のそこの金髪の小僧……木場祐斗だったな。お前は場を賑わす為、世に聞くケツだけダンスとやらを踊ってもらおう。そこの吸血種の小僧も叩き起こしてな」

「部、部長の騎士として、そのような恥知らずなことは……!」

「ひゃはははははははははははは!! ハリーハリーハリー!! 『ぶりぶり~!!』と声高々に踊るがいい!!」

 

 そんな屈辱的なこと、絶対にやりたくない。だが断ればこの物の道理に逆らう悪神は一誠の頭をクチャッとしてしまうかもしれない。

 舌を剝き出しにしたとんでもないゲス顔で大笑いするアンリマユを睨みながら、彼女たちは言われたことを実行しようとした瞬間――――

 

「アンリマユ殿、悪ふざけはそこまでにしていただきたい。話の続きもありますしね」

「そうだな」

 

 サーゼクスの言葉に実に軽いノリで答え、一誠をまるでゴミのようにポイっと投げ捨てる。

 

 ――――サーゼクス様、ありがとう!! 

 

 彼らリアス眷属+1の心が一つになった瞬間である。

 

「で、話の続きってなんだっけ? アザゼルがトランクス派かブリーフ派に関することだったか? 俺はブリーフ派かと思っているんだが」

「んな話一言をしてねーよ! 3大勢力と神話勢力の監視と、あんたの住む場所の話だろ。あと俺はブーメラン派だ!!」

「となると、ブリーフはミカエルだな?」

「勿論です。男性天使は純白のブリーフを着用することを義務付けられています」

「青いのぅ。男は黙って褌に決まっておるじゃろう」

「男性悪魔の間ではボクサーパンツが主流ですね。ちなみにアンリマユ殿はどのようなパンツを?」

「トランクス純情派だ。下着というのは復活して初めて身に着けたが中々いいものだ」

 

 話を脱線して何故かパンツ談議に突入した男性陣にグレイフィアが「んんっ!」と咳ばらいをし、話を戻せと伝えてくる。

 

「我々三大勢力からの監視は会議の末に後日改めてお伝えしますが、神話勢力からはどうなさるので?」

「うむ。実はもう他の神話群と話は付いておってな。北欧からアンリマユの監視兼部下の任に相応しい者を連れてきておる」

「え? ……そんな話聞いてませんが?」

「今言ったからのぅ」

 

 ロスヴァイセは何故か無性に嫌な予感がした。ここで逃げなければ婚期が遅れそうな、ストレスで胃に穴が開きそうなやけに具体的な嫌な予感が。

 

「戦乙女ロスヴァイセよ」

「は、はいっ」

「北欧神群主神、オーディンの名において命ずる。これより悪神アンリマユの監視役兼部下の任に着け」

「え……えええええぇぇぇぇぇえっ!?」

 

 生真面目な彼女にしては珍しく、上司である主神の言葉に悲鳴を上げた。アンリマユの性格の悪さは短い付き合いながらもオーディンの比ではない事を理解しているロスヴァイセにとって、故郷を離れ遠い異国の地で世界最強最悪のパワハラ上司の部下になるなど、それではまるで――――

 

「ぷはははははははははっ!! 主神のボディーガードという安月給ながらも出世コースから極東の地にいるこの絶対悪の元に左遷とは、オーディン、貴様相変わらず性根が腐っているな!! ひゃはははははははははははは!!」

「わ、笑わないでください!! オーディン様!? ご自身の護衛はどうなさるおつもりですか!?」

「それは杞憂じゃ、ロスヴァイセ。そもそも儂一人なら転移術で一瞬で北欧へ戻れる。……まぁ情勢が情勢じゃからのぅ、左遷というのも否定はせんが」

「正直に左遷だなんて言わないでください! ほ、他の神群に適任の方はいらっしゃらないんですか?」

「いや、この話が持ち上がった時、アンリマユと面識のある神は皆目を逸らしおっての。それ以外の者を選別するとき、こ奴の悪ふざけを耐えることができ、尚且つ容赦のないツッコミを入れる者は居ないかという時、以前の喫茶店での出来事を話たら満場一致でロスヴァイセが適任だと決定したのじゃ」

「そ、そんなぁ……!」

 

 ガックリと、両手両膝を地面に付けて項垂れるロスヴァイセ。齢19歳、ある意味自業自得といえども祖国を離れて最強の悪神の元へ送られる少女は世界広しといえど彼女くらいのものだろう。能力を買われていると思えばいいのか、厄介ごとを押し付けられたと嘆けばいいのか。

 

「フフン。ロスヴァイセといったか? そう悲観するな。お前のことはそう悪いようにはせん」

「アンリマユ様……?」

「実は俺はこう見えて、昔から戦乙女というのが大好きなんだよ」

「へ?」

「かつて北欧と戦う時は戦乙女を拝むのが楽しみでなぁ。その麗しさは幾千年の時を経ても些かも衰えていない。お前を初めて見た時も、実に麗しくも愛らしいと思ったものだ」

「え? え? えぇっ? ど、どどどどどうしてそんな急に……えぇっ!?」

 

 突然のべた褒めに頬を赤く染めながら激しく狼狽えるロスヴァイセ。男性から……それも魔性の褐色美男からの真っ向からの称賛など生まれてこの方受けたことのない彼女にとって嬉しいような気恥しいような気分だ。

 

――――が、そう問屋は降ろさないのがアンリマユ・クオリティー。

 

「そう、あの神に敬虔に使える姿……あの強情さ……現代で言うところの強靭な「くっ殺」的な性格と潜在的M属性……余りに好みなんで、今まで何千人()(もの)にしてやったけなぁ……? 色んな意味で」

「さようならっ!!」

 

 口を中心に顔が十字に裂け、その隙間から無数の細い触手を伸ばしてニタァと笑う悪神を見て、普段の彼女からは考えられぬ神速の職務放棄で逃げ出す。こんな話をこんな顔でされたら、生贄になる事を覚悟した清廉な尼とて裸足で逃げだすだろう。

 これまで脇目も振らずに必死に覚えた魔術を全て駆使して逃げ出すロスヴァイセを嘲笑うかのように、あっさりと前へ躍り出るアンリマユ。

 

「くかかかかかっ!! もう鬼ごっこは終わりか!?」

「いやああっ!! 放してください!! 助けてお婆ちゃーん!!」

「泣き叫ぶほど嫌か? 良い、実に良い!! 俺は嫌がる相手を無理やり手籠めにするのが大好きなのさ!!」

「さ、最低ですっ!! この女性の敵!! オ、オーディン様! どうか、どうかご再考を!!」

「皆の者! 勇敢なる戦乙女、ロスヴァイセに敬礼!!」

『『『敬礼!!』』』

 

 明らかに楽しんでいるオーディンと三大勢力の首脳陣、同情的ながらも助ける気配のないグレイフィアと若手悪魔たちとイリナ、一人だけ「あらあら、楽しそうですね」と見当違いな事を思い浮かべているガブリエル。この場に彼女の味方は誰一人としていない。

 

「わ、私の味方は誰もいないんですかあああ!? う、うわああああ――――――んっ!!」

「あぁ、そんなに泣いて可哀そうに………俺をこれ以上昂らせてどうしたいんだ?」

「ひぃぃぃ!? い、今まで見たことのない邪悪な笑みをしてるぅ!! お、お願いします……! た、助けて……!」

「ひゃはははははははははははは!! 哀れな娘の嬌声と涙、そして必死の抵抗こそが絶望への最高のスパイス!! ロスヴァイセ、お前は何気に俺のストライクゾーンど真ん中を心得ているな!!」

 

 どんなに泣き叫んでも、どれほど周りに懇願しても喜びのボルテージをガンガン上げていくアンリマユ。ロスヴァイセは今、ランクEXクラスの変態に襲われる乙女そのものであった。

 

「このまま更なる悲鳴をあげさせたいところだが、俺にはまだ話が残っている。ちょっと黙っときな」

「むぐぅっ!?」

 

 腕から生えた無数の触手でロスヴァイセの口を塞ぎ、全身を拘束して肩に担ぎあげる。必死に暴れるが、戦乙女の力をもってしてもビクともしない。

 

「実に良い贈り物を貰ったな。今度俺の奢りで飲みに行こうぜ」

「ほっほっほっ。よいよい」

「じゃあ話がついたところで、住む場所はどうするんだ? ホテルなら紹介するぜ?」

「見くびるなアザゼル。俺は既に家を持っている」

 

 人差し指で天を指し、それにつられて目線を上に向ける。そこにあるものを目に映した途端、その場にいる全員は思わず呆然とし、しばらくして一誠が絶叫した。

 

「な、なんじゃありゃあああああああああああああああああっ!!?」

 

 比喩表現でも何でもなく、学園上空を浮遊する島。天高く存在するため、実物よりも小さく見えるが、駒王町を覆うほど巨大な島が飛行に必要な装置も無しに、上空に浮いていた。

 

「昔、ゼウスの奴が癇癪起こして海に沈めた王国、アトランティス。その王都をサルベージして俺の家にリフォームしてやった」

「………正直、言いたいことは山ほどあるが、今日はもう遅い。また今度話し合おうぜ」

「さんせーい☆」

 

 こめかみを抑えて頭痛を耐えるアザゼルの言葉に賛成の異を唱えるセラフォルー。スマートフォンの連絡先を交換し合い、このまま解散という流れになった時、アンリマユは一誠に声をかけた。

 

「おい、兵藤一誠」

「は、はいっ!? な、なんですか?」

 

 早くも苦手意識を持つ一誠をアンリマユはどこか値踏みするようにジロジロ眺め、ニタァと笑みを浮かべる。

 

「貴様……強力なハーレム願望を持っているな?」

「!? ど、どうしてそれを!?」

 

 今日初めて会ったばかりの相手に、自分の野望を見抜かれて動揺する一誠。

 

「驚くのも無理はない。俺の眼はな、相手のあらゆるフェチズムと性癖、そして心の恥部を見抜く事が出来るんだよ」

「フェチズム!? 性癖!? ち、ちちちちち恥部ぅっ!!? な、なんて最低な奴……! 俺も見たい!」

「イッセー……あなたって子は……」

 

 頭痛を抑えるリアス。

 

「女の体で一番好きな場所は胸のようだが、3P4Pでは飽き足らず、10P以上がしたいとは、貴様も中々強欲だな!」

「い、いやぁ、それほどでもぉ!」

「ところで、話は変わるが昔の俺の異名の内の一つにこういうものがあったんだよ」

「はい? 何ですかいきなり――――」

「ハーレム絶対壊すマンって呼ばれた時期がありました」

 

 恥ずかしげに笑う一誠の顔が一瞬の内に凍り付く。そのリアクションを満足そうに眺めたアンリマユは、ニヤニヤしながらまるで唄うように告げた。

 

「俺がこの現世に甦った理由の一つ……それは、この世からハーレムというものを根こそぎ滅ぼし、概念ごと抹消するためだ。……叶うといいなぁ? その欲望。もっとも、俺がいる限り叶いはせんがな! ひゃはははははははははははは!!」

「んー! ぷはぁっ!! た、助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇ……………!」

 

 一瞬で遠のいていくロスヴァイセの悲鳴と、音を置き去りにして天空の島へと跳び上がるアンリマユ。遥か雲の上へと姿を消していく浮遊島を、一誠は茫然と眺めていた。

 

 

 

 

 




遂に本格的に変態性の下種さを露わにしたアンリマユ。玩具一号と玩具二号の運命はいかに!?

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