この悪神、なんか軽い   作:大小判

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インスピレーションが溜まって久々の投稿です


悪神、狩ゲーの話で盛り上がる

 

 

 

 

 

 ふいに、一誠は意識を取り戻す。

 

「あれ?」

 

 突如、駒王学園全体を覆い尽くす結界が張られ、その内部に閉じ込められた会談参加者達。

 更に最悪の事態として最上位の悪魔、堕天使総督、熾天使とその加護を受けたイリナ、北欧の主神と戦乙女、白龍皇、赤龍帝とその籠手に触れていたリアス、聖剣の力を持つグレモリー眷属の『騎士』二名、そして悪神であるアンリマユ以外が時間停止を受けたかのようにその動きを完全停止させてしまい、全員が目を尖らせ警戒を強めた。

 

「な、何があったんですか?」

「テロだよ。テ・ロ。外を見てみな」

 

 窓の外を見ると、中世の魔術師のようなローブを纏った集団が次々と上空に展開された魔法陣から転移してきて、校舎へ魔術攻撃を仕掛けているのが見えた。幸いにして校舎には防御結界が予め施してあったので、何とか防げているが、その周囲を警戒していた筈の悪魔、天使、堕天使は時間停止によって身動き取れずに次々と殺されている。

 

「この現象……こいつが件の力か?」

「あぁ。こいつは恐らくサーゼクスの妹の眷属が持つ神器、《停止世界の邪眼(フォービドウン・バロール・ビュー)》の力だ」

「ふーん」

 

 それだけ聞くと興味を無くしたようにあたりを見渡し、時間停止の影響を受けた者の頭をペシペシと叩いた。意識すら停止しているためか、何の反応も示さない。

 

「バロールの死眼かと思ったがそれにしちゃ弱いし、固有の時間の停止……とはちょっと違うみたいだが………なるほど、これが話に聞くヤハウェの玩具か」

 

 かつて聖書の神が人間に与えた異能の力、神器。(セイクリッド・ギア)世間に知られず、度々現れては人類史に大きく干渉してきたシステムであり、中には修羅神仏を滅しうる神滅具(ロンギヌス)と呼ばれるものまであるという。

 

「で、神界やら冥界やらで天界やらで起こる騒動の種、と。あーやだやだ。面倒くさくってやってらんねーよ。だからヤハウェの阿呆は嫌いなんだよ」

「このような危険物を人類にばら撒いておきながらとっとと死におったからのぅ。面倒ごとを他人任せにするのは最後まで変わらんというわけか」

「…む」

 

 かつて聖書に信仰を吸収された2柱の神は嫌悪感を露わに吐き捨てる。もっとも、アンリマユは信仰云々に関しては気にしておらず、ただただ聖書の神が気に入らないだけのようだが。

 だが敬虔な使徒であるイリナとゼノヴィア、アーシアの教会トリオは2人の言い草にムッと来た。確かに昔は色々な事情があったかもしれないし、神が生み出した神器が世界を騒がせているのは事実だ。しかし死してなお信仰する神をそこまで嫌悪を露わに中傷されては黙っていられない。イリナは2人の神に物申すべく、一歩前に出て睨――――

 

「ほう? 何か言いたいことがあるのかのぅ」

「まさか、()ろうってのか? 小娘」

 

 ――――み返され、冷や汗をダバダバ掻きながら後ずさる。まるで物質的な力が宿ったかのような圧倒的眼光である。

 

「イリナ……今のはカッコ悪いぞ」

「だ、だってしょうがないじゃないゼノヴィア! いざ睨まれたらすっごい怖かったんだから!」

「あー、とにかくだ!」

 

 パンパンと柏手を叩きながら、アザゼルは折れた話の腰を戻す。

 

「恐らく敵は既に会談中に侵入してきてハーフヴァンパイアの小僧を手中に収めたんだろう……その上で、小僧の神器を強制的に禁手化(バランスブレイカー)状態にしたんだな。俺たちはどうってことは無いが、時間が経てば幾ら聖剣や赤龍帝の加護があろうと若い連中が止められる可能性があるぜ」

「そんな! ギャスパーが敵の手に落ちたですって!?」

 

 グレモリー眷属にはもう一人、《停止世界の邪眼》の持ち主であるギャスパー・ヴラディという『僧侶』の眷属がいる。だが彼は極度の対人恐怖症ゆえに今回の会談には参加せず、一人で旧校舎にあるオカルト研究会部室に居残りをしているのだ。それが今回は完全に裏目に出たのだろう、対応としては間違いではなかったがその結果事態は完全に深刻化した。

 

「まずはギャスパー君を取り戻すのが先決だな。リアス、確か戦車の駒は部室で管理しているんだったね?」

「キャスリングですね、お兄様」

 

 悪魔の駒(イーヴィル・ピース)には王と戦車の位置を一瞬で交換させるキャスリングという機能が備わっている。ギャスパーが部室で捕らわれているのなら、この機能を行使して不意を突き、そのまま彼を奪還することも可能だろう。そう説明を受けた一誠は片手を上げて自らの主に提言する。

 

「部長! 俺を行きます!」

「……分かったわ、イッセーも私と共にギャスパーの奪還に同行して」

 

 即断即行と言わんばかりにキャスリングを行使すると、光に包まれたリアスと一誠はその場から消え去り、代わりに戦車の駒が床に音を立てて落ちた。あとは彼らが無事に眷属を取り戻すのを祈るだけだ。

 その直後、奪還作戦の成功率を上げるためにアザゼルがヴァーリに外の敵を引き付けるように指示を出し、了承したヴァーリは《禁手化》を発動し、外の敵の殲滅に赴いた。一方的に魔術師たちの数を減らしていく白き龍をみて、アザゼルは2柱の神に向かって溜息をこぼす。

 

「本音を言えばあんた等にも協力してほしいところだがな」

「今回のテロは人の世の騒動だろう。それを俺がわざわざ手出ししようなどとはこれっぽっちも思わんな」

「人の世? 我々三種族の間違いでは?」

「俺の眼には大した違いはないんでな。その根底に根付くものは同じだ」

 

 かつては多くの化生と戦い、自身もまた悪魔と呼ばれたアンリマユから言わせれば、他の神話群や宗教の悪魔に比べて聖書の悪魔は姿形だけでなくその心までもが非常に人間のソレに近い。それは天使や堕天使にも言えたことで、彼からしてみれば肉体的な強度以外の差を見出すことはできなかった。故にゾロアスターの悪神は聖書の三大勢力を人類の亜種として位置づけている。

 

「人類が生み出した宿業と困難なれば、それは人類自らが乗り越えるのは責務であろうよ。わざわざ神霊種が出張ることじゃねー」

「本当に人類だけが引き起こしたことならな」

「……なんだと?」

 

 アザゼルの不穏な物言いに、アンリマユの双眸は刃のように細められる。

 

「アザゼル、会談でも言及したが神器を大量に集めて何をしようとしていた? 神滅具の所有者も何名か集めたそうだな。神はもういないのにどうして神殺しの武器を集めていたんだ?」

 

 サーゼクスの意見はもっともであり、他の者もいつの間にかアザゼルの答えを待っていた。すると、アザゼルは首を横に振り否定した。

 

「いや、備えていたんだ」

「備えていた? 戦争を否定したくせに随分不安を煽る物言いですね」

 

 呆れたようにミカエルが返す。

 

「さっき言ったように、俺はお前たちと戦争をするつもりは無かった。こちらからも戦争を誘発するような事はするつもりはない。──だが、自衛の手段は必要だ。別にお前たちに備えてじゃなかった」

 

「と、いいますと?」

「──禍の団(カオス・ブリゲード)

 

 聞いた事もない組織の名前であり、サーゼクスとミカエルは説明を求めた。

 アザゼルは隠す事無く、知っている情報を語りだした。組織名、背景が判明したのはごく最近で、堕天使側の副総督であるシェムハザが不審な行動を取る集団に目をつけ情報収集。構成員の半数以上は3勢力の危険分子であり、中には《禁手》に至った神器もち人間、神滅具の担い手も数人確認されていた。

 

「奴らの目的は、秩序の破壊と混乱だ。分かりやすい連中だろ? この世界の平和が気に入らない──ただのテロリストさ。ただ、最大級に性質が悪い。奴らの親玉が──赤龍帝と白龍皇の力を凌駕する最強で、最悪のドラゴンだ」

「……あの小僧共に宿るのは、いずれも純血の龍。それを凌駕する龍種となれば俺が知る限り3頭だけだが……人の世に介入するのは、やはりお前だったか」

「え?」

 

 窓ガラス越しにグラウンドを見下ろすアンリマユ。その視線に釣られるようにロスヴァイセはソレ(・・)を見つけた。

 

「まさか……!」

 

 戦場に似合わぬ黒いゴスロリ衣装を身にまとう幼い少女。長い漆黒の髪を夜風に靡かせ余りにも無垢な黒い瞳で彼女はこちらを見上げている。ただそれだけで、体の震えが止まらなくなる。それはこの場にいる若輩たちも同じであり、数百年の時を生きた魔王や天使の長ですら冷や汗を掻かざるを得ない。

 

「――――無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)、オーフィス。そうか、彼女が動いたのか。最強の称号を持つ原初の龍の一体が」

 

 流石のサーゼクスも顔の表情を険しくされており、誰もが言葉を発せずいた部屋の中に、聞きなれない女性の声が割り込んできた。

 

「そう、オーフィスこそが我々《禍の団》の象徴!」

 

 声と同時に部屋に光が生まれ、そのまま魔方陣を形成していく。

 

「──レヴィアタンの魔方陣」

 

 形成されていく魔法陣を見ながら、サーゼクスはそう呟いた。オーフィスの存在に呆然としていた者たちもも表情を険しくさせながら、魔方陣を睨みつけて臨戦態勢に入る。そして、形成が終わりその中から褐色の肌で深いスリットに身を包んだ女性が現れた。

 

「御機嫌よう、ゾロアスター教の悪神、アンリマユ殿。次いで()魔王サーゼクス殿、並びにセラフォルー殿」

 

 形ばかりの恭しい礼をとった女にサーゼクスは諦観の視線を、セラフォルーは悲壮の視線を向けた。

 

「三大勢力の不穏分子と聞いてまさかとは思ったが、やはり君か。カテレア・レヴィアタン」

「誰だ、この無駄に露出してる痴女は?」

「先代魔王のレヴィアタンの血を引いた女じゃ。本来なら魔王の地位についておるはずじゃったんじゃが、悪魔の情勢が変わってシトリー家の嫡子だったセラフォルーにその地位を追われたらしい」

「なるほど、悪魔共の王を決める基準が実力になってその結果負け犬になった女か。ふははははは!! ワロス!!」

 

 遠慮のない嘲笑に血管が切れそうな屈辱を感じるが、相手が悪神であることを意識してぐっと怒りを押し込むカテレア。 

 

「どういうつもりだ、カテレア」

「この会談の、正に逆の考えに至っただけです。神も魔王を居ないのなら、この世界を変革すべきだと」

「カテレアちゃん! やめて!! どうしてこんなことを!?」

 

 セラフォルーの悲痛の叫びに対して、同じレヴィアタンの名を持つカテレアは先のアンリマユの台詞もあって心底不愉快だという表情を浮かべた。

 

「セラフォルー……私からレヴィアタンの座を奪っておいてよくもぬけぬけと! なぜ貴女のような薄汚い人間の男と寄り添おうとした(

・・・・・・・・・・・・)悪魔が魔王の地位に就いたのか! その場所は正当なる血筋の私こそが相応しかった!!」

「……っ」

「ですが、それも今日でお終いです! 貴方を殺し、今日から私がレヴィアタンを名乗ります! そして神と魔王の死を取り繕うだけの神話とこの腐敗しきった世界を一度滅ぼし、再構成し、新たな指導者と正義の名の元に導くのです!」

 

 その正しき指導者こそが自分だと言わんばかりの口調に、アザゼルは哀れな小娘を見るような目で失笑を零す。その横では彼の肩を叩きながらアンリマユは爆笑していた。

 

「くはははははははは!! ひゃぁははははははははははははは!! おいおい聞いたかアザゼル!! この小娘、今時!! 今時こんな陳腐なセリフを本気でいう奴がいるとは!! 小娘、貴様さては極上の道化だな!? ひゃははははははははははは!!! やべぇ、腹筋が痛てぇ!! ははははははははは!!」

「ククククク……! 言ってやんなよ。ていうか今時変革だの腐敗だのを理由にテロ起こすとか流行らねーよ、せめて地位とか富とかのためとかにしとけ。今のお前の台詞はマンガやアニメですぐに死ぬ敵役のそれだぜ?」

「堕天使風情が、私を愚弄するか……!」

 

 遠慮なしに爆笑して腹を抱えているアンリマユはいいのかと聞き返したいが、変なところで冷静な部分が残っているらしく、変に刺激する発言はとらないようにしているらしい。

 

「サーゼクスちゃん、カテレアちゃんの相手は私がするよ。これは私がけじめを付けなきゃいけないことだから」

「……カテレア、投降する気はないんだな?」

「ええ、サーゼクス。あなたは良き魔王でしたが、残念ながら最高の魔王ではなかった!」

「そうか……残念だ」

 

 怒りに任せて撃ち出された魔力弾は必殺の威力をもってセラフォルーに襲い掛かるも、直撃の寸前で停止し、氷を割るような音を立てて砕け散る。……否、それだけではない。セラフィルーの全身から発せられる魔力は絶大な冷気と化してカテレアに向かって一直線に放たれた。床やテーブルを凍らせながら迫る魔力を忌々しそうに見つめて横っ飛びに回避するが――――

 

「なっ!? は、速い!?」

 

 その先には既にセラフォルーが回り込んでいた。転移か、はたまた瞬間移動なのか。一瞬の間、軽い混乱に陥ったカテレアの隙を突くようにその顔を両手で包む。

 

「は、離しなさい! この無礼―――………!?」

 

 声が出ない。それがカテレアが最後の思考だった。直に触れた掌から伝わる冷気は刹那の間に首から上を芯まで凍り付かせ、その下も同じように凍てつかせていく。

 

「……ゴメンね、カテレアちゃん」

 

 せめてもの慈悲とばかりに一切の痛みも苦しみもなく凍死したカテレアにそっと息を吹きかける。すると、息のかかった場所から崩れ落ちるように粉雪と化し、窓の外へと飛ばされ消えていった。先代魔王の血筋、その最後の生き残りの呆気ない幕切れであった。

 

「つ、強すぎる……!」

「あぁ……相手も強いと思ったが、まさか現魔王の力がこれほどとは……!」

 

 この場に残ったグレモリー眷属は戦慄と畏怖の視線をセラフォルーに向ける。その姿は会議直前まで人生ゲームではしゃいでいた人物とは到底思えない。

 

「あの小娘の幕切れは興醒めだったが……さて、オーフィスは一体どういうつもりなのか」

「恐らくオーフィスは禍の団のパトロンなんだろう。その見返りが何なのかは……言うまでもないか」

「……まぁいいや。喜べ、お前ら。人の世に手出しする気はサラサラなかったんだが、怪物や神霊が手出しするようなら俺はそれを止めなくてはならない(・・・・・・・・・・)んでな。あの駄竜の躾は俺に任せておけ。何、あんな奴ドスランポスの足元にも及ばないってことをその身に叩き込んでやるよ」

「いや、竜繋がりだからってゲームの中ボスと比べるなよ。ていうか、お前にとってオーフィスはドスランポス以下なのか?」

「はぁ!? テメェ、ドスランポス舐めんなよ!? あいつの飛び掛かり鬼強いんだぞ!? 仲間のランポスとか呼んじゃうんだぞ!? つい昨日48回目のリベンジでようやく倒したんだからな!?」

「ドスランポス相手に死にすぎだろ!? テクニックはこの際置いておくとしても、お前装備は何使ってんだよ!?」

「初期防具と骨刀【犬牙】」

「本当に初期装備だな。何だったら俺が素材集め手伝ってやろうか? これでもG級だし」

「それでしたら私も参加させてもらおう。G級ハンター、サタンレッドの力をお見せしましょう」

「私も一狩行きたーい☆ G級ハンター、マジカル☆レヴィアたんの狩猟笛捌きを見せちゃうんだから♪」

「ふむ、話を聞く限り人間界のゲームのようですが、一体どのようなものなのですか?」

「世界的に人気なモンスターを狩って生活するゲームじゃな。実は儂も明日買いに行こうと思って――――」

「って、ゲームの話をしてる場合じゃないですよね!?」

「サーゼクス様? よもや魔王としての職務を放り出し、遊び呆けるつもりですか?」

「いひゃい、いひゃいよ、グレイフィア」

 

 完全に話が脱線し、狩ゲー談義に移りつつあった首脳陣にツッコミを入れたのはやはりというべきかロスヴァイセ。サーゼクスに至ってはグレイフィアに冷ややかな目線を浴びながら頬を抓まれている。

 

「いや、話してたら本気でオーフィスとかどうでもよくなってきた。俺このまま一狩したいんだけど、駄目?」

「駄目です! 今は非常事態です! 緊急事態です! このままじゃこの町はおろか日本が大変なことになっちゃうんですよ!?」

「何!? おのれあの駄竜め!! ゲーム会社に手出しはさせんぞ!!」

「え、そっち!?」

 

 窓から飛び降り、そのままオーフィスの前に着地する。「なんかえらい時間掛かったなー」と内心思いながら久方ぶり(・・・・)に会った悪神に己の目的のために声を掛けようとした瞬間――――

 

「アンリ―――――」

「いざ受けやがれ、格闘ゲーム界が生み出した二大奥義の一つ昇竜拳っ!!!」

 

 悪神の拳は問答無用で(見た目は)幼女の顔面に食い込み、厚雲を吹き飛ばし遥か上空50km、大気圏内へと打ち上げた。

 

 

 




勢力の首脳陣強化と、タグを追加しておきます

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