この悪神、なんか軽い   作:大小判

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ハイスクールD×Dの最萌えキャラはロスヴァイセ。異論は認める。


悪神、ゲームセンターにて顕現す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 最強の悪神、アンリマユ復活から数日。その事実にいち早く気付いたオリュンポスの声明によって、瞬く間に世界を震撼させた。絶対零度を誇る地獄の最下層を大焦熱地獄へ変貌させ、地上へ逃亡した悪神の対策に頭を悩ませる世界の各勢力。

 

 地上に顕現した〝彼〟を始めに見た若者たちは荒れ狂う世界を脳裏に過らせた。

 百王説と戦った現在の(つわもの)たちは、あまりにも早い終末論の再来に奥歯を噛み締めた。

 世界を恐慌へと落そうとするテロリストたちは如何にして自らの陣営に悪神を引き込むか智謀を張り巡らせる。

 そして紀元前より存在し、実際に悪神と戦った数少ない神々は…………割と楽観していた。

 

 

 

「ぎゃああああああああああああっ!! ヤオザミに地面から不意打ちされて殺されたあああ!! こいつの暗殺術糞ヤベェっ!!」

 

 そして渦中の悪神は、大人気狩猟ゲームのヤドカリ型の雑魚敵に暗殺されていた。

 

 

 

 

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 駒王町から駅2つ分ほど離れた場所にある都市中心部。美麗な銀のロングストレートを靡かせる美女、北欧の戦乙女であるロスヴァイセは周囲の視線に居心地を悪くしながら通行人を避け、コンクリートに覆われた街を進んでいく。

 そんな彼女の少し前を行く帽子をかぶった片眼鏡の老人。は好々爺としつつも、どこかずる賢い目をした北欧の主神オーディンはロスヴァイセとは対極的に、日本の都市を楽しげに眺めつつ進んでいく。

 

「あの……オーディン様? 一つ確認してもよろしいでしょうか?」

「む? なんじゃ?」

「私たちは悪神、アンリマユと対話するために日本にやってきたのですよね? 本当にこのような場所にかの悪神がいるのでしょうか?」

 

 かつて悪神と戦った北欧神話の系統の末端に座すロスヴァイセも、見習の頃からアンリマユの話は聞いてきた。

 

 ゾロアスター教の悪神郡を率いる神、アンリマユ。最高善の神であるスプンタマンユを殺害し、地上、天界、冥界、神界を合わせて世界の三分の1を焦土に変えた最強の悪神。

 すべての悪徳と欲を好み、千の英傑を殺し、百の神話を滅ぼし、果てには人類滅亡を図った1番目の終末論。最後には人間の勇者によって倒され、地獄の最下層に封印されたという頭に超が3つほどつく神が、再び地上に姿を現した。

 この異常事態に至急行動に出たオーディンが、アンリマユが出てきたという日本に来たのだが――――

 

「あ奴の行動パターンは読めておる。大方2千年ぶりに出てきて目にした地上の目新しさに、とりあえず賑やかな場所に向かおうとするじゃろうし――――おおっ! こんなところに良さげな店がっ! しめしめ……ここは要チェックじゃの」

 

 日本の夜の都心は一夜の愛を買う場所でもある。風俗店に目を輝かせ、欠かさずチェックする女好きのオーディンがアンリマユ捜索を名目に、実は遊びに来ただけなのではと本気で疑うロスヴァイセ。

 

(いいえ、きっとオーディン様にも何か考えがあるはず! 私もしっかりしないと!)

 

 ムンッと、気合を入れなおすロスヴァイセ。相手はひとたび現世に現れれば幾億幾兆の災いと化して荒れ狂う暴神だ。それが人口の多い場所に現れたのだ。今は騒ぎになってはいないようだが、見えない場所ではどれほどの被害が出ているか予想もつかない。それを何より分かっているのは、他の誰でもないオーディンなのだ。きっと部下の緊張を解そうとしているに違いない。風俗店を覗いているのも、食べ歩きを楽しんでいるのも、片眼鏡を新調しているのも捜査の一環なのだ。そうに違いない。

 

 なんて思っている時期が、ロスヴァイセにもあった。

 

 北欧では聞きなれない無数の電子音とメダルの音が鼓膜を震わせる空間。賑わう大勢の若者の声。画面の中の雀卓や馬、スロットの前に座って紫煙を吹かす中年達。娯楽大国ジャパンが生んだ全国規模の娯楽施設、ゲームセンターの中で戦乙女は頬を引き攣らせた。

 

「オ、オーディン様! さっきから捜査の一環だとか行動パターンが読めているとか適当なことを言っていかがわしい店を覗いたり、食べ歩きをしたり、眼鏡を新調しているのもやっぱり遊んでただけなんですね!? 仕舞にはこんな不健全な場所で遊ぼうなんて、もっと主神としての自覚を持ってください!!」

「何を言うか! あ奴の行動を予測し、最も現れそうな場所に来たにすぎぬ! というか、店の真ん中で不健全とか言ってやるでない。こういう場所に関する職場で情熱を燃やす者もおるんじゃから」

「だ、だって見てください! あそこにいる子たちって、明らかに中学生くらいですよ!? 今はもう20時です! こんな時間の賭博場紛いの場所にいるなんて不健全です!」

「かーっ! 相変わらずお堅いのぅ。 そんなんじゃから彼氏居ない歴=年齢なんじゃ」

「ど、どどどどどどうでもいいじゃないですかそんな事ぉぉぉぉ!! わ、私だって好きで彼氏が居ない訳じゃないんですからね! 好きで処女のままでいるわけじゃなぁぁぁぁい! うぅぅぅぅぅっ!」

 

 がっくりと項垂れるロスヴァイセ。未だ19歳、気にするような年齢でもないが同期のヴァルキリーがみんな彼氏持ち、あるいは経験を持っているだけに重大なコンプレックスでもある。

 

「って、話を逸らさないでください! そもそもオーディン様じゃないんですから、普通の神様、ましてや伝説の悪神がこんな場所にいるわけないじゃないですか!」

「お主、儂をなんじゃと思ってるの?」

「さぁ、お遊びはここまでにして真剣に探しましょう! こうしている間にもどんな被害が――――」

 

『いぃぃやああああああああああああああっ!! 竜巻旋風脚を弱攻撃一発で止めやがった! おのれケェンっ!! よくもこのアンリマユを侮辱してくれたなぁっ!!』

 

 …………なにか、信じられない名前が聞こえてきた。ギギギと、錆び付いたような動きで首を声がした方に向けてみると、そこには真っ白な髪の青年がゲーム機の前に座ってレバーをガチャガチャ、ボタンをバチバチしていた。

 イヤイヤイヤそんな事ある訳ない。ただの聞き間違いに決まっている。そう思い込もうとした瞬間――――

 

『食らえ波動拳! 波動拳! 波動拳! ふはははは! どうだこれで近寄れ――――ぎゃあああああああああああ!! なんだこの極太ビームは!? HPがっ! HPがぁぁああああやられたぁぁああああ!! ケン(ノーマルモード)糞ヤベェ!! おのれ許さんぞ……! この絶対悪の神、アンリマユを怒らせたことを時の果てまで後悔させてくれるわっ!!』

 

 聞き間違いじゃない。いや、諦めるのはまだ早い。 あれはそう……日本で流行っていると噂の病気、中二病というやつだ。きっとそう、百の神話を退けた悪神と同じ名前を偶然名乗っているちょっと痛い一般人がゲーム相手にムキになっているだけだ。そうに決まって――――

 

「おぉ久しいのぅ、アンリマユ。やっぱりこういう所におったか」

「ん? 爺さん誰………って、この感じ、オーディンかお前!? うわああああ老けたなお前!! ヨボヨボじゃん!! あれから2千年以上たったけど、容姿くらいどうとでもなるだろお前!」

「イメチェンという奴じゃよ。 この姿だとちょっとボケた老人のおふざけという名目を持って、おっぱいの大きい娘がいっぱいいる店で好き勝手出来るんじゃ」

「ちょっ、おまっ、その話もっとkwsk」

 

 何故か親しそうに話す主神と青年を眺めながら、ロスヴァイセは確信した。いや、今でも嘘だと思いたいが、確信した。

 目の前でアホで如何わしい会話を繰り広げる青年こそ、ゾロアスターの現主神。かの龍神たちと覇を競う絶対悪の顕現。人類に終わりを告げる終末論の擬人。

 

 最強の悪神(笑)、アンリマユ本人である――――!

 

 

 




 
不憫なヴァルキリーの伝説が、今始まります。

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