この悪神、なんか軽い   作:大小判

11 / 11

最近のジャンプの人気長編連載の終了ラッシュに涙。NARUTOにこち亀、トリコに続いて銀魂まで終わりそうで、次世代のジャンプに希望はあるか!?


あくじん、はじめてのしどう

 

 

 駒王学園の夏休み2日目。

 県内の小学校が夏休みシーズンに入り、遊び盛りのやんちゃな子供たちがカッコいいカブトムシやクワガタムシを採取に出かける中、山では仕掛けの蜜を塗った木の下で響く子供の悲鳴。罠に掛かったカブトムシとクワガタムシを根こそぎ奪い、楽しい楽しい夏休みをぶち壊すその元凶は言わずもがな悪神兼駒王学園新校長である。

 

「うわぁぁああんっ!! 僕のカブトムシとったぁぁぁぁっ……!!」

「返せよ!! 俺たちのクワガタだぞっ!!」

「いいや違う。このクワガタとカブトはもう俺様のものだ。ひゃああああはははははははははははっ!!!」

「ちくしょう………! 大人って……汚い……!」

「プススっ。これが社会の汚さでござる」

 

 子供の泣き声をBGMに下卑た高笑いをあげてスキップしながら山を下りる悪神。仮にも教育者の長とは思えない悪逆だ。………ちなみに、この時虫を奪われた子供がこれを機にグレ始めるのだが、それは語れる事のない話だ。

 意気揚々と街を練り歩き、籠の中のカブトとクワガタを『どう改造してグレートな巨大肉食怪虫にしてくれようか』と傍迷惑なことを考えていると、スマートフォンから着信音が流れてきた。画面を見ると、そこには『堕天使(アゴヒゲ)』と表示されている。

 

「もしもし? ………うん。……うん。マジでー? オッケー、行く行く。何時やんの? ……あいよー。……俺? ははははは! 決まってんだろ?」

 

 通話を切り、軽く跳躍する。一瞬で雲の中まで到達し、一直線に家路を進む悪神の顔は愉悦に歪んでいた。

 

「シトリー眷属に全賭けだ」

 

 

 

 --------------------- 

 

 

 

「はぁ……穏やかですねぇ……」

 

 上空1万メートルを漂うかつてのアトランティス、現アンリマユ宅の浮遊島では紫外線を阻みながらも調整された心地よい風が草原を撫でていた。その中で、水源も無しに生態系を内包する美しい湖のほとりで長い銀髪をなびかせる美しい女性、ロスヴァイセはどこか年寄り臭い言葉を吐きながら釣竿を握りしめてまったりしていた。

 夏休み明けの職務確認も一通り終え、残りの夏休みを可能な限り穏やかに過ごしたいロスヴァイセ。幸い、2日ほど前からストレスの原因である悪神は遊びまわっていて帰ってきていない。本当に久しぶりの穏やかな休日だ。

 アンリマユ曰く、「これはモンハンのアイルー(ガチ)だ」という可愛らしい猫小人に囲まれながら共に釣りをして暇を潰すというのは年頃の娘としてはどうかと思うが、ここ最近の激動の日々を思えばこのくらいが丁度良く感じる。

 この浮遊島も正に住めば都といった感じで、大浴場は入るだけで嫌なことを忘れられる心地よさ。湖には店で買うと高くつく魚介類がタダで手に入り、太陽光が降り注ぐ美しい草原の庭はどれだけ居ても日焼けもシミも出来ない。家庭菜園も好きにしてもいいと言われているし、食用の実が生る木も多く存在して財布に優しい。倹約家で年頃の女性であるロスヴァイセにとってこれほど好条件の家は、家主を除けば存在しないだろう。

 今日は湖の魚で昼食を作り、その後で100円均一ショップに出かけようなどと、そんな穏やかな休日計画を立てている時――――

 

「戦乙女フィィィィィィッシュッ!!」

「きゃああああああああああああああああっっ!!?」

 

 音もなく忍び寄った触手が彼女の脚に巻き付き、勢いよく逆さ吊りにする。アンリマユの唐突の帰宅&パワハラにより、彼女の平穏は三日ともたなかった。

 

「よーし、出かけるぞー。身支度をしている暇はねー、賭場が俺を待っているZE☆」

「は、離してくださいっ!! やだっ、スカートがっ! お願い、離してっ!!」

 

 下着が見えぬようにスカートを抑えながら必死に説得を試みるロスヴァイセをニヤニヤと愉悦感溢れる笑みで見上げながら、第四宇宙速度で駆け抜ける。以前の反省を生かしたのか、はたまた気絶されると面倒なのか……恐らく後者だろう……物理保護の魔術をかけるよりも気を使ってほしいところが山ほどあると心の中で訴える。

 

「着いた」

「あうっ!?」

 

 穏やかな休日はものの見事に爆散したと涙した瞬間、べちっ! と、地面に放り出されるロスヴァイセ。ぶつけて痛む頭をさすりながら辺りを見渡すと、真っ先に目に映ったのは悪魔文字で「大使館」と書かれた看板を掲げた豪華な洋館と紫色の空。

 

「うぅ……ここは、冥界?」

「なんだ、来たことがあるのか?」

「以前、オーディン様のお付きで……って、待ってくださいアンリマユ様! せめて状況の説明をっ!」

「仕方ねぇな。ドリルで耳をぶち抜いてよーく聞きな」

 

 説明も無しに冥界に連れてきておいて、辿り着くや否や放置するように大使館の中へ入るアンリマユを追いかける。他勢力をもてなすに相応しい品のある内装の廊下を進みながら、悪神は片手を顔の横でヒラヒラと振りながら答えた。

 

「アザゼルの奴から若い悪魔共のレーティングゲームの大会みたいなことするってことを聞いたんでな、俺も観戦に来たってわけよ」

「はぁ……そうなんですか。………それで、本音は? 先ほど“賭場〟という不吉なワードが聞こえましたが?」

「ククク。分かってきてるじゃねぇか」

 

 ジト目で睨む戦乙女の機嫌も介さず、悪神はあっけらかんと告げた。

 

「このお遊戯は冥界では重要なものであるのは言わずとも分かると思うが、裏ではその勝敗をかけた賭博があるんだよ。それに俺も参加したんで、わざわざここまで足を運んで見に来たってわけだ」

「そんな事だろうと思いましたよ……もう」

 

 ガックリと項垂れるロスヴァイセ。若手たちの戦いに興味があるとはとても思えなかったため、何か裏があると思えばギャンブルだ。この悪神、何時か絶対破産するのではないかと色んな意味で心配になってくる。

 

「それで、いくら賭けたんですか? 3千円? それとも5千円ですか? ま、まさか1万円だなんて言うんじゃ――――」

「シトリー眷属に全財産」

「ぁうぇhぎおあひzんklhごあht;あhぁhgh?」

「おいおい、落ち着けYO。何言ってんのか分からねぇ」

「ばっ! ばばばっば、バカじゃないですか貴方は!?」

 

 例えロスヴァイセでなくとも罵声は免れないだろう。全財産とはすなわち、貯めこんだ部屋いっぱいの金銀宝石も含めた金目のものすべてという意味だ。それを全て一度の博打に賭けるなんて、頭が悪いにも程がある。

 

「負けたらどうするんですか!? 夏休みも30日以上残ってて、最初のお給料が振り込まれるの10月末ですよ!?」

「やれやれ……お前は何もわかっていないな」

「何がですか!? 少なくともアンリマユ様よりかは危機感というものを分かっているつもりですけど!?」

「博打ってのは、外したら痛い目見っから面白いんだよ!!」

「黙らっしゃい!!」

 

 スパーンッ! と、ドヤ顔で言ってのけるアンリマユの頭をハリセンでぶっ叩くロスヴァイセ。給料は居るまでアンリマユの財宝が頼りだった為、何とか賭け金を取り戻せないかと策を頭の中に巡らせる彼女を尻目に、アンリマユは少し難しそうな顔をしていた。

 

「ただなぁ……アザゼルの野郎、ガキどもの育成のためだとか大義名分を掲げて、自分の賭けたサーゼクスの妹の眷属を鍛え始めてなぁ。シトリー眷属が連中と当たるのは20日後の1回戦目だから、このままじゃ何もできずにボコボコにされちまう」

「生徒を出汁にギャンブルなんて、あなた方は本当に教育者ですか!?」

 

 生徒たちは真剣に取り組んでいるのに、その裏で勝敗を賭け合うあたり、アザゼルといい、アンリマユといい、どうにも教育者としての自覚が欠けている。その上で勝率まで低いと考えると、胃がキリキリと痛み出した。今にも泣きだしそうな気分がロスヴァイセを襲う。

 

「これはちょっとヤバいかなーって思い始めてたら、ある女から話を持ち掛けられてな。今からここで待ち合わせなんだよ」

「ある女?」

「アンリちゃーん!」

 

 最強の悪神を臆面もなく「アンリちゃん」等と呼ぶ陽気な声が後ろから掛けられる。振り返ると、そこにはフォーマルな衣装に身を包んだ女性魔王――――セラフォルー・レヴィアタンがこちらに手を振っていた。

 

「よー、レヴィアたん。昨日振りじゃねぇの」

「待ってわアンリちゃん☆ それじゃあ早速行きましょう!」

 

 綽名を呼び合いながら笑顔でハイタッチを交わしてどこぞかへ足を進める2人の後を追う。セラフォルーに限った話ではないが、この悪神はいつの間に三大勢力の首魁と仲良くなったのかが気になるところだ。

 

「お二人とも、一体どこへ向かうのですか?」

「レヴィアたんの実家」

「今、ソーナたんやリアスちゃんが眷属の子たちと実家に帰ってきて修行してるんだけど、アザゼルちゃんったら自分だけじゃなくてタンニーンちゃんまで呼んで修行の手伝いをさせてるの」

「タンニーンって……元龍王のですか!?」

 

 堕天使総督だけではなく、《魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)》の異名をとる最上位のドラゴンまでもがグレモリー眷属に手を貸しているとあれば、シトリー眷属との準備期間の差は広がるばかりだろう。どうやらアザゼルはこの賭けに対してかなり本気のようだ。

 

「そうなの! それだとソーナちゃんたちが余りに不利になるでしょ!? だったらこのレヴィア☆たんが修行をつけに行こうとしたら、『魔王が直々に手を貸すのは問題になるからダメ』っていうの!」

 

 ぷぅ、と頬を可愛らしく膨らませて威厳のない怒りをあらわにする魔王。四大魔王は皆プライベートでは軽い性格だという話だが、この姿を見ると説得力が尋常ではない。

 

「……ちょっと待ってください。それじゃあアンリマユ様が呼ばれたのって、ソーナさんたちの訓練をつけさせる為ですか!?」

「ピンポーン☆ ロスヴァイセちゃん大正解♪」

「な、なんて無謀な……!」

 

 アンリマユの育成能力がどれほどのものかは分からないが、どちらにせよ碌なものではないということは想像に難くない。そんな暴神に大切な妹とその眷属を預けていいのかと、ロスヴァイセは呑気に事を構える魔王に戦々恐々とした視線を向ける。

 

「んー。弟子をとるなど生誕してから初めての経験だ。果たして、何匹潰されずに生き残るかな?」

「レヴィアタン様、今からでも遅くないのでこの話は白紙に戻した方が……」

「でもそれだとシトリー眷属が敗北して、10月末までお前文無しになるぞ?」

「そうでした……!」

 

 生徒たちの身の安全と破産の危機が同時に襲い掛かり、ロスヴァイセは頭を抱えるが、暗雲のような苦悩に光明を射したのは意外なことにアンリマユだった。

 

「まぁ一応これでも校長なんて立場になったし、生徒一人でも潰しちまえばゴチャゴチャ煩いからな。その為にお前を連れてきたんだし」

「………どんな厄介ごとを押し付ける気ですか?」

「そんな大したもんじゃないから警戒するな。さっきも言ったとおり、俺は指導経験なんぞ一切無い。山羊の星獣(アルマテイア)がいれば強引に引っ張ってきて高みの見物としゃれこんでいたんだが、そいつも俺は昔ブチ殺したからな。したがってお前の仕事は、シトリー眷属が一人も死なないようにすることだけ。オーディンからも多様な魔術の使い手だと聞いてるし、できるだろ?」

 

 実に軽いノリで重責を背負わされるロスヴァイセ。胃と共に頭まで痛くなるが、口ぶりから察するにシトリー眷属もろとも炎上されることは無いようだ。ソーナたちには悪いが、救護支援に徹させてもらおうと決心するのであった。

 

 

 

   ----------------

 

 

 

 セラフォルーが指導役としてアンリマユとロスヴァイセを紹介した時、下僕たちは当然のように困惑し、“王〟であるソーナ・シトリーは当然のように反対した。彼女たちには彼女たちの予定していたプランがあるというのに、いきなり外部の存在………それも「指導経験ナッシング☆」とほざく悪神を指導役として連れてきても受け入れらるはずがない。

 まともな相手ならここで話は終了。大人しく引き下がるのだろうが、やはりというべきか悪神は引き下がるどころか誘惑をし始めた。

 

「まぁ、相手の方が装備も能力も経験値も育成環境も充実してるし、これで負けても仕方ないよなぁ。自分たちの力だけで格上相手に健闘賞を取れれば満足ですってか? はいはい、努力賞目指して頑張れば?」

 

 邪悪な笑みを浮かべて若者たちを煽りに掛かった。神霊特有の本心を開放するカリスマスキルである。

 名高き赤龍帝の兵藤一誠に歴史初の聖魔剣の木場祐斗。天下の聖剣デュランダルの担い手であるゼノヴィア・クァルタといった圧倒的な前衛に、消滅という破格の魔力を持つリアス・クレモリーに回復役のアーシア・アルジェントと後方戦力も充実し、更にはこれまで数々の格上の敵と戦い続けた相手と比べればシトリー眷属たちは何とも凡庸だ。

 図星を突かれて怒りと共に押し黙る事しかできないシトリー眷属に、アンリマユはさらに畳みかける。

 

「確かに俺は弟子など取ったことは無いが……この俺を誰と心得る? 我が秘奥に掛かれば3秒で神霊並みの力が手に入るぜ。青臭いガキどもなんぞ敵じゃねー!!」

 

 千の魔術を操る邪龍を生み出したゾロアスターの秘術の全てを知る知識と、世界の敵として幾星霜の時を戦い続けた戦闘経験。これらを提示し授けると言われれば、指導役は先ほどの罵詈雑言も気にならなくくらいに魅力的だ。

 

「貴様らはどうなんだ? 勝ちたくないのか?」

「……勝ちたいです」

 

 そう答えたのは兵士の匙元士郎だった。彼は同じ時期に兵士となった一誠にコンプレックスを抱えていたのだ。自分は駒を4つ消費に比べて一誠は8つの消費。神器も伝説の天龍の神滅具に対してこちらは龍王の破片といった見劣りするもの。その上実績まで完全に追い越されていては男として立つ瀬がない。そんな元士郎を代表としたシトリー眷属たちの心に悪神は付け込む。

 

「もう大丈夫。この俺が貴様らに戦う力をくれてやろう」

 

 結果から言ってソーナはアンリマユとロスヴァイセを受け入れることにした。しかしその選択を、眷属全員と後悔する羽目になる。神霊のカリスマに唆されたとしても、結局のところ選択したのは自分自身。やり場のない後悔が苛む19日間の悪夢が幕を開けることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 




運営より、歌詞の転載はNGだと言われて泣く泣く削除しました(涙)。それでも、見てくださった方々の感想は決して忘れません。

そしてシトリー眷属逃げて、超逃げて。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。