この悪神、なんか軽い   作:大小判

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突然の名シーン(セリフだけ)をハーレムブレイク物に変更したらどうなるかやってみた。



「おい。その先はハーレム(地獄)だぞ」

「これがお前の忘れていたものだ。確かに、始まりは嫉妬だった。でも根底にあったのは願いなんだよ。好きな女の個別ルートに行きたい、美少女とのフラグを立てたかったのに、ハーレム野郎に全て奪われた男たちの、果たされなかった願いだ」

「………その人生が、偽善に満ちたものだったとしても?」

「あぁ。その人生が、欺瞞に満ちたものだったとしても」


 ――――俺は、全てのハーレムを壊し続ける。


 なんの作品か、分かった人います?



堕天使総督、終末論を説明す

 

 

 

 

 

 

 終業式は歓声と混乱の中終了し、駒王学園は夏休みを迎える。

 暑い日差しのもと、長期の休みに喜ぶ生徒たちが帰宅する中、生徒会室に集まったオカルト研究部と生徒会メンバーは裏の事情に精通している教員3名……アザゼル、ロスヴァイセ、アンリマユに事情を問い詰めていた。ちなみに、式の途中で倒れたソーナも何とか復活して額に冷却シートを張り付けて参加している。

 

「それで、一体全体どういうことなのか説明してくれるかしら?」

 

 代表としてリアスが3人に声をかける。

 ちなみにこれは、『なぜアンリマユとロスヴァイセが突然校長と教頭として赴任してきたか』という問いではない。今この駒王学園には上級悪魔が2人、天界から派遣されたイリナ、そして堕天使総督のアザゼルという聖書の三大勢力が入り乱れている状態だ。

 監視の必要がある悪神の立場を考えれば、学園関係者以上に扱いやすい立場はない。今日中には悪魔、天使側から監視命令が出されるだろうし、そのこと自体に異論はない。

 校長、教頭の立場にしても、不倫と横領が前任者2人して同時発覚して席が空いていたから捻じ込んだ。言いたいことが山ほどあるが、それに関してもこの場ではあえて口出ししない。

 リアスの質問の意味はつまるところ、『なぜ何の知らせもなく、突然教職員として赴任させたのか』である。人間界で裏の事情を知る一部の者と提携し、この町の人外および神話関係を管理している彼女からすれば、無許可で悪神を放り込まれたこの状況はあまりにも面白くない。 

だがそんな彼女よりも、悪神に物申したい男がいた。

 

「ていうか、何で俺たちが全校集会で晒し者にされてるんですかアンリマユ様!!?」

 

 ある意味被害者、実質覗きの加害者である兵藤一誠である。先の終業式で全校生徒に向けて覗きの実行犯として遠回しに名指しにされた身としては堪ったものではないのだろう。どうせやるなら内々に処分してほしかった。

 

「俺の事は偉大なる校長先生、と呼べ兵藤一誠。んで、何の話だっけ?」

「惚けないでください! あれじゃあ俺たちはもう女体を拝めねぇし、俺の学園ハーレム計画が台無しじゃないですかっ!!」

「はっ!」

 

 涙ながらの熱い訴えを、アンリマユは『やれやれだぜ』と言わんばかりに肩を竦めて鼻で嗤う。実に憎たらしい小馬鹿にした態度だ。

 

「何を言うかと思えば……覗き対策は校長としての責務であろう。そんなに女の全裸が見たけりゃ彼女でも作って部屋に連れ込むんだな」

「アンリマユ様!? 校長ともあろう人が生徒にふ、不純異性交遊を推奨しないでください!!」

「不純異性交遊? 一体どこが不純異性交遊だというんだ?」

「どこがって……だ、男子生徒と女子生徒が裸になって……その……部屋にいるなんていけないことだと思いますっ!」

「俺は一言でも男子に裸になれと言ったか? 一言でもセックスをしろといったか? 今時合意の上で裸体を見たくらいで不純異性交遊にはならん!! お前は一体全裸になった後に一体何を想像したというんだ!?」

「そ、それはその……あぅ……!」

 

 明け透けな物言いに女子数名が顔を赤くする中、ロスヴァイセが代表して抗議するが、捲し立てるような暴論とセクハラ発言に撃沈する。もっとも、アンリマユの言う状況はセックスに移行する可能性が在るというだけであって、性行為とはギリギリ言えないので不純異性交遊にはならない。

 

「大体、元より貴様如きにハーレムは現実的に不可能だ。自身の魅力的にも妨害的な意味でも、な」

「くっ……! 確かに俺はまだ魅力的ってわけじゃないですけど………ん? ちょっと待ってください。妨害ってあんたまさか……その為に校長を!?」

「ひゃははははは!! まさしくその通り!! 大勢の思春期の悉くを玩具にし、この全てのハーレムを断絶させるための第一歩として就任したのさ!!」

「な、なんだってぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 声高らかに、一切の誤魔化しなく生徒を玩具にしてハーレムを撲滅するというアンリマユ。一誠には目の前の悪神が世界征服を目論む魔王かなにかに見えた。

 

「無論、貴様のハーレムとて例外ではない。それが例え、まだハーレムになり切れてはいない童貞と生娘の集まりであってもな」

 

 右目を5つに増殖させ、それぞれの眼でリアス、アーシア、朱乃、イリナ、ゼノヴィアを睥睨する。生理的嫌悪感が湧く醜悪な複眼で見られ、女の感が一誠に大なり小なり好意を持っているということがバレていると彼女たちに告げていた。

 コメディな緊張走る生徒会室。だがそれはアンリマユが両目を閉ざして、淡く微笑むことで霧散した。

 

「だが、俺も二千年以上封印されて随分と丸くなった。男女の愛が如何に理不尽なものかもよく知っている。故に、貴様の努力と誠意で俺を認めさせれば、両手に花までなら認めてやってもいいぞ?」

 

 それは絶対強者が上から見下ろした甘言。拒否すればどうなるか分かっているなと言わんばかりの妥協案。表面に溢れる限りない慈悲と内面に隠された醜悪な破壊欲を前に、ハーレム希望者の瞳に気炎が灯る。

 

「………嫌だ」

「何?」

「……ハーレムを築けないなんて嫌だ。俺は色んな美少女とデートがしたい、美少女にモテたい、可愛い彼女が欲しい、膝枕をしてほしい! 美少女のオッパイを触りたい! ハーレムは……ハーレムは男の夢、浪漫なんだよぉぉぉぉっ!!!」

 

 性欲に燃える青年は万夫不当の悪神を前にして媚びず、怯まず、顧みない。性欲なら誰にも負けないと豪語する熱いパトスを迸らせ、美少女ハーレムを築いて見せると、世界最強のハーレム嫌いに啖呵を切った。

 

「はっ!! 吠えたな小僧!! 吐いた唾は呑み込ませんぞ!!」

 

 だがその情熱は絶対悪の威圧の咆哮を前に消し飛んだ。残虐で獰猛な笑みを浮かべて目の前に迫る悪神を前に膝を震わせながら、一誠はつい一人の男のことを口走る。

 

「そ、そそそそもそも! ま、まだ俺はハーレムを築き切っていないんですよね!? だ、だったら俺よりも倒さなきゃいけないハーレム野郎がいるんじゃないでしょうか!?」

「何? 心当たりでもあるの?」

「え? えーと、冥界の上級悪魔のライザー・フェニックスって奴が自分の眷属15人ハーレムを築いてて……」

「ほう。それは実に崩壊のさせ甲斐があり、尚且つ怪しからんな。爆発させなければなるまい」

 

 そう言い残して生徒会室を後にするアンリマユ。シーン、と静まり返る生徒会室の中で、大なり小なり一誠に非難の視線が集中していた。

 

「イッセー君。いくら何でもあれは……」

「正直、俺も凄い罪悪感がある」

「そうそう、忘れるところだった」

「うおっ!? 戻ってきた!?」

 

 突然生徒会室にUターンしてきたアンリマユは、ズカズカとある段ボールの前に立つ。そこにはオカルト研究部の一員として集まったのはいいが、悪神が恐ろしくて段ボールの中に引きこもっていた吸血鬼、ギャスパー・ヴラディが入っていた。

 

「アンリ……じゃなかった、校長先生? 一体何を――――」

「てい」

『ひゃあっ!?』

 

 アーシアが問いかけようとしたが、それを待たずに五指を段ボールに突き刺す。中にいるギャスパーがビクリっ! と震えるのも束の間、指先が光だして暗い段ボール内を照らし出す。

 困惑して思わず悪神の指を見つめると、突如5本の指全てがグチャリという音を立てて十に分かれ、合計五十の指が奇怪で醜悪な百足のような長大な生物に変化した。ちなみに、発光は保ったままである。

 段ボールという狭い密閉空間の中、光によって視覚すら確保された状態で五十の太くて長い百足に纏わりつかれたギャスパーは声にもならぬ悲鳴を上げた。

 

『Gはkghン;jんG:L;ZHGSKGjksえbjkg!!!!!!??????』

「ギャスパー!? 一体どうしたのっ!!?」

「ア、アンリマユ様っ!!? 彼に一体何を!?」

「ひゃははははははははははははは!!!! 一日一悪!!!」

「ちょ、待ちなさいこの駄神!!」

「ギャスパー!! しっかりして、ギャスパー!!」

 

 悪神は宇宙速度で冥界へと向かい、ギャスパーは心肺停止状態、そして笑い転げるアザゼル。阿鼻叫喚の地獄絵図は、犠牲者である吸血鬼の男の娘をアザゼルが指先一つで蘇生させたことで収まりを見せた。

 

 

 

   -----------------

 

 

 

「まったくあの人は……! 場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、後の処理は全部こっちに回すんだから!」

 

 だんだんと遠慮が無くなったロスヴァイセはハーレムを撲滅しに行ったアンリマユの愚痴を溢していた。そんな状態でも。学園の仲間が悪戯で死にかけるという嵐が過ぎ去って精神的な疲労困憊で椅子や床に座る生徒たちを魔術でケアをしているあたり、生真面目な彼女らしいが。

 

「………アザゼル先生。邪魔な……こほんっ。本人もいないことですし、せっかくなのでお聞きしたいことがあるのですが」

「ん?」

 

 全員のケアを終えて、ロスヴァイセはリアスとソーナ………おそらく、同じ疑問を持っているであろう2人をチラリと見てからアザゼルに問いかけた。

 

「拝火教の現主神……“終末論〟、絶対悪(アンリマユ)とはいったい何なのですか?」

「何って……ゾロアスター教の悪神以外に何があるんですか?」

 

 生徒会書記である匙元士郎の言葉に、1年生と2年生が同じように疑問を持ちながら頷くが、ソーナは眼鏡を掛けなおしながらそれに返答した。

 

「いいえ、彼が本当に一宗教の主神格でしかないなら、百の神話を滅ぼすなんてことは出来ませんよ。知名度や信仰がそのまま力になるのが神霊、その点で条件が上の神霊は太古には多く存在していたのですから」

 

 彼女の言葉に納得しながらも驚く。幾ら善悪の信仰を掌握する強大な神霊であっても、彼が戦った西暦以前は、人と神話が密接な繋がりのある時代。

 絶大な信仰によって召し上げられた武神インドラ。天空神ゼウス。太陽神ラー。宇宙仏大日如来といった相手全てを敵に回して単一で勝てるわけがない。駒王会談で悪神と互角に戦ったオーフィスや世界最強と名高いグレートレッドと互角に戦える神霊がゴロゴロいた時代なのだから。

 

「確かに、これに関しては教えておいた方がいいか。悪魔の人生も長いからな、いずれお前たちにも関わりのある話になってくるだろう」

 

 アザゼルは真剣な眼差しを生徒たちに向けて、静かに語りだす。

 

「……確かに、奴はただの神霊じゃない。いや、明確には正しい意味での神霊じゃない」

「なんですって? 彼はゾロアスターの悪神なのでしょう? それだと前提が崩れるわ」

 

 拝火教の悪神だと名乗っておきながら、実は神霊じゃなかったと言われれば困惑するのも当然だろう。現に、ちょっと頭がよろしくない生徒は早くも混乱しつつある。

 

「アンリマユは悪神の神格と名前を持っただけで神霊とは全く別の存在でな。奴は神霊が慢性的に抱えるロジックエラーを突き崩すことに長けてるんだよ」

「神霊のロジックエラー……その話、以前オーディン様から聞いたことがあります」

「どういう事ですか?」

「そもそも、神霊という種が発生する条件――――人類の信仰によって誕生しますが、人類もまた神霊の恩恵によって誕生します。では、この両者の起点と終点はどちらになるのでしょう?」

 

 起点となる創造主と終点である造物主が同一になっている。そのことを知ったイリナは思わず抗議の声をあげた。

 

「ちょ、ちょっと待って! 人々は主によって生み出されたのでしょう!? 人が神が生み出すなんて馬鹿な話が……!」

 

 この結論は世界最大宗教である聖書の影響が大きいが、それ以上に神霊による創造論以外が未だに立証できていないという事実が大きい。そしてそれは、人類が全ての時間を費やしても到達できない真実でもある。

 

「そいつはあくまでも“人類の支持を得た創造論〟だ。それが事実になるのなら、“世界の法則は人類の主観によって左右される〟……つまり、人間原理こそが宇宙の真理ということになる」

「そ、それは……」

「そしてそれこそが、アンリマユを最強の神殺し足らしめる理由でもある。ならば終末論とは何なのか? そこまで言えば、頭の良い奴は理解できるんじゃないか?」

 

 アザゼルはロスヴァイセとソーナに視線を向ける。終末論とはすなわち、人類の世の末。両者は厳しい顔をしたまま、年上であることを考慮してロスヴァイセが解答を口にした。

 

「神霊と人類は相互観測者。片方が滅べば、もう片方も滅びる。つまりアンリマユ様の正体は――――人類全てを滅ぼす要因αが擬人化した存在」

 

 ()が先か()が先か。その答えを世界に問いかける者。それこそが、絶対悪という霊格の正体。正解を口にしたロスヴァイセに、アザゼルは抑揚に頷く。

 

「そうだ。人類黎明期に暴威を振るった絶対悪。俺やミカエル、四大魔王も戦った百王説。インド神話で古くから語られる未だ見ぬ鬼神カリ・ユガ。遥か昔から世界中の神霊が予見しては警鐘を鳴らし、放置し続ければ存在するだけで必ず人類を滅ぼす終末の化身たちを俺たちは通称で終末論……正式名称、人類最終試練(ラスト・エンブリオ)と呼ぶ」

 

 それこそが、人類の末の擬人化。最強の神殺しにして龍神や全盛期の主神格とも互角の力量を持つ人類の極限。想像を絶する途方もない巨悪のはずなのに――――

 

「なのに……あんな残念な性格してるんですか?」

 

 言い辛そうにする全員を代表するように、小猫がポツリと呟いた。

 思い浮かぶのは、狩ゲーの中ボスにやられて絶叫する姿。人生ゲームでボコボコにされて半泣きになる姿。ハーレム絶対壊すと良い笑顔で宣言する姿。最近、ちょっと慣れてきた戦乙女に駄神と呼ばれる姿。正直、オーフィスと互角に戦う姿を見なければ誰も信じないような醜態である。

 

「なんていうか、悲壮感無くなるんですけど。魔王様たちもプライベートじゃ軽い人ばっかりだし、終末論もあんなのばっかりだったりするんですか?」

「いや、少なくとも百王説は人類の未来を掛けるに相応しい大ボス感のある奴だったぞ。ただアンリマユはなぁ……オーディン曰く、仕事とプライベートで性格を使い分けるタイプらしい」

「あぁ、いるいる。学校じゃ大人しくしてるけど、休みの日にはハジけてる人……っで、納得できるかぁっ!! そんな極一部の中でも極一部の例外的な人が蘇って俺の野望を全力阻止とか何の悪夢ですかっ!!?」

「まぁ、ハーレムに関すること以外では世間を騒がせる気はサラサラないだろうからお前らは今まで通りに過ごしとけ。俺も一応大人だし、厄介払いはしておくから」

 

 うぉううぉうと、悶絶する一誠を余所に、アザゼルは窓から上半身を乗り出し、青い蒼穹と白い雲を見上げながら呟く。

 

「まったく……これからもっと暑くなるな。……海にでも行くか」

「そんな青春ドラマみたいな爽やかさで仕事をサボろうとしないでください!!」

 

 

 

 

 

 これは後に語られる話の前触れではあるが、この日から三日後に『レーティングゲームランキング上位のライザー・フェニックスの眷属が、全員眷属契約を解消された』というニュースが冥界中を騒がせることになる。

 

 

 

 

 

 





遊戯王見て考えた召喚口上改造。

二色の眼の非モテよ! 深き嫉妬の底より蘇り、この世の全てのハーレムを焼き払え!! 出でよ、ランク7!! 一夫多妻を滅ぼす烈火の益荒男!! 《覇王裂竜オッドアイズ・レイジング・ドラゴン》!!

ハーレムなんて絶対に許さないよ!!

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