『セイバーウォーズ ~ Fate of Flower ~』   作:歌場ゆき

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戦闘シーンから前日譚へゴー!






「絶望の花が咲いたことを」

 

 

辿り着いたときにはすでに間に合わない。

 

どの時空であろうと。

 

それは変わらない事実。

 

だから、自分は意味のないことをしているのかもしれない。

 

作業のようになってしまったその行動をあてもなく繰り返して。

 

気が遠くなるほど時空を渡り続ける。

 

どこかにある可能性をただ――、信じて。

 

 

 

私は――

 

あまりに増えすぎたセイバークラスを抹殺するために生まれたアサシン――

 

 

 

 

謎のヒロインXは、

 

 

 

 

―――――今、セイバーの生き残りを探している。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

「セイバーの英霊が次々に殺されている」

 

その知らせを初めて耳にしたときにはなにかの冗談だと思った。

自分以外にそんなことをする者がいるなんて、にわかには信じがたい。

 

セイバーを殺すために生まれたアサシンでありながら、とある‟少女”との出会いによって、

セイバーの命を狙うことをさっぱりやめた。

そんな自分への趣味の悪いジョークだと、そう思った。

 

本当に。

誰がそんなことをするというのだ。

 

いや、誰がするのか問われれば、

それは真っ先に私だと答えなければならないのだけれど。

 

それが――、

 

―――私の存在理由。

―――私の存在証明。

 

 

 

しかし、私はやっていない。

やっていないことに対して、やったのは私だと名乗りを上げるわけにはいかない。

 

殺しをしない自分がセイバーに対して今も行っている活動は、

絶対に相手に感付かれない位置取りから不意に殺気を飛ばしてみたり。

尋常ではないスピードで対象に近づいて膝かっくんを食らわせて即時撤退してみたり。

 

そういった――、地味な嫌がらせだ。

 

生まれが生まれだからかセイバーを見るとうずうずとする身体、

特に剣を抜いてしまいそうになる腕を抑えて、事に及ぶ。

 

ちなみに後で怒られそうな相手にイタズラすることはない。

――直感的にわかるので、相手は選ぶ。

 

まあ、そいうことで。

 

私でもあるまいし。

 

セイバークラスを始末して回るだなんて、普通は思いつきもしないはず。

 

 

 

だから、私は――、

 

 

 

「そんな人がもしいるのなら、ひとつ剣を交えてみたいものですね」

 

 

 

 

何の気なしに、そう呟いた。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

セイバーを殺す。

そう簡単に言えるほどそれを為すことは容易ではない。

 

なんといっても英霊を殺すのだ。

中でも優秀と言われるセイバークラスを、だ。

 

また、ただ単に本人のみを始末すればいいという話ではない。

いわゆる正史と呼ばれる道を歩む時空に存在する本人を殺したとして、

【ありえたかもしれない可能性】を他の時空に残してしまえば、

彼ら彼女らを本当の意味で殺したことにはならない。

 

その人物が英霊たる活躍をする前――――

人々に英霊として祭り上げられる前――――

 

その前の段階で歴史の闇に葬る。

本人だけではなく、そこに至る可能性の完全抹殺。

 

これらの手続きを踏む必要がある。

 

おまけに、殺害を人に見られてはいけない。

なぜなら殺害現場の目撃が伝説となることだってあるから。

そういう場合は目撃者も消さないとならない。

 

――――なんてアサシン向きの仕事だろうか。

 

 

 

さらに突っ込んだ話をすると、対象の存在をその時空から抹消するために

必ずしも殺す必要はないのだけれど。

 

それはウルトラCというやつで。

 

 

 

などと殺しをしないアサシンが今となっては愚にもつかないことを考えているとき、

新しい知らせがまた飛び込んでくる。

 

 

「セイバーを殺しているのはセイバークラスである」

 

 

――こういった詳細についての知らせが次々とくるようになった。

 

それらしい情報が次々に入ってくるとなると、いよいよ冗談では

済まされなくなってきているのかもしれない。

 

そして、いやなことを直感的に考えてしまう。

 

 

 

―――心底いやな

――【ありえたかもしれない可能性】を。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

自分が“彼女”に与える影響を考えなかったわけではない。

 

なにしろ、自分と“彼女”は――《近い》

 

互いに影響を与え合ってしかるべきだ。

 

 

 

私が―――

“彼女”に出会って変わったように。

 

“彼女”が―――

私に出会って変わってしまう。

 

 

 

そんな可能性。

 

それを否定するための旅に出た。

 

いや、まず心配すべきなのは“彼女“が「セイバー狩り」の対象として

狙われるかもしれないこと。

 

“彼女”はセイバーなのだから。

本来、それを一番に考えなければならないのだ。

 

 

だから、道中で、

『セイバー狩り』を行っているとされる者の特徴を聞いても気にはとめなかった。

なんたって“そんなセイバー”は掃いて捨てるほどいるわけで。

 

だから、自分が生まれたのだし。

 

―――気にするようなことではない。

 

 

 

 

そうして、

目的の場所に到着した。

 

「カルデア」

 

というのだったか。

 

前回は異なる時空での偶然の邂逅であったが、今回は本拠地に乗り込む。

 

惜しむらくは前回と同じく不恰好な着陸となってしまったことだが、

前回とは違って機体は壊していない。

 

今回は機材集めしなくていいんだね、と言って笑ってくれるはずだ。

 

 

 

――――そのはず、だった。

 

 

 

逸る気持ちを抑えて、

機体から外に出た自分の目の前に広がる光景を表現するなら、

 

 

 

―――――――――――――災害の跡―――――――――――――――

 

 

 

生きている者はおろか、

無事に形を留めているモノがここにはない。

 

 

 

―――ここにいたはずのみんなはどうした。

 

 

 

――――あの“少女”は。

 

 

 

どれほど捜索の範囲を広げたところで結果に変わりはない。

 

地の果てまで災害の爪痕が続いているかのような様相である。

 

そして、その災害の中心地点は間違いなく、

この「カルデア」と呼ばれていた場所だ。

 

 

 

これで、はっきりしてしまった。

 

まだ否定材料はある。

それに消去法でそれ以外に他に考えられる選択肢がなくなったわけではない。

 

でも、ここに来てみて――、

この惨状を目の当たりにして――、

 

 

どうしようもない絶望の花が(ひら)いたことを痛感した。

 

 

どの時空の誰よりもそれがわかるのは自分なのだ。

 

なぜなら、

こんなことをしでかすのは私かもしれなかったのだから。

 

 

 

また、

残念なことに――――。

 

 

 

弟子がやったことなのかそうではないのか、

 

 

 

そういうことを理解できてしまうのが師というものらしい。

 

 

 

本当、残念なことに。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

異なる時間軸に存在する「カルデア」も同じ状況だった。

 

おそらく“彼女”はなんらかの方法――

「カルデア」にはそういうシステムがあったのかもしれない。

 

まずそれで時空を渡り、時空を自由に行き来することのできる力をどこかで手に入れたのだろう。

それこそ別の時空にいる別の私から私の機体を奪ったのかもしれない。

 

そうしてから「カルデア」の可能性を潰した。

 

ほんの僅かなセイバー存続の可能性も残してはならない意味。

“彼女”はそれをよく理解している。

 

「カルデア」の生存者が皆無であることは目的の徹底ぶりを伺わせる。

なぜなら狙いはセイバーであっても、その対象のみを狩るなんてことは不可能だからだ。

 

セイバー本人からの抵抗はもちろん、他のサーヴァントからの妨害がないわけがない。

 

また、「カルデア」ではサーヴァントを召喚する装置があったと聞く。

そこから新たなセイバーを呼び出そうと試みる者がいるかもしれない。

 

半端はいたちごっこの始まりとなるのだ。

 

であれば、どうするか。

――――目的の障害となるものは全て排除するに決まっている。

 

 

その結果が「カルデア」。

今はその名で呼ぶことすら憚られるような状態だ。

 

 

以前、「カルデア」と呼ばれていた場所には、

もうセイバー出現の可能性の欠片も存在していない。

 

正直、見事な手腕だ。

実行こそしなかったけれど「カルデア」のセイバーを皆殺しにしようと思えば、

自分も同じようにするだろう。

 

―――セイバークラスを殺すために生まれた私と同じことを考えるとは。

―――そして、それを完遂できてしまうとは。

 

我が弟子ながら恐ろしい。

 

しかし――、

それがどのような結果に繋がるのかわかっているのだろうか。

 

 

 

【セイバーがセイバーを皆殺しにする】という意味を、

 

仮に目的を達成したとして、その果てを、

 

“彼女”はわかっているのだろうか――――

 

 

 

そんなことを考えながら、この終わってしまった時空を後にする。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

セイバーの生き残りを探して、途方もない数の時空を巡る。

 

結果はどこの時空も似たり寄ったりである。

 

”彼女”と出会うことはないし、セイバーの生き残りを見つけることはない。

 

私が間に合ってしまえば、

それは可能性を排除したことにはならないので、当然と言えば当然だ。

 

“彼女”の邪魔を目論む自分が”彼女”の前に現れてはならない。

 

向かう先の時空にいるセイバーは最初からそんな存在がなかったことにされている。

 

悲惨な状態のところもあれば、

目的達成に全くの無関係と判断され見逃されている人々もいることはいた。

 

手がかりぐらいにはなるかもしれないと思い、

各時空で運良く見逃された人々に話を聞いたみると。

 

 

――ただそれで得られるものはなにも無く、セイバーとなるはずの英霊については誰も知らない。

 

――もちろん”彼女”を目撃したという証言もない。

 

 

だが、どうやら「セイバー狩り」を行う上でもたらされた被害については

その時空によってまちまちであるようだということがわかった。

 

抹殺対象がその時空の中において、まるで外部に影響を持たない存在であれば

対象のみが知らず知らずのうちに消されている。

その時空内に表向きな影響はほとんどない。

神代の英霊を殺す際のことを考えてみれば、わかりやすい。

神はそもそも人間が作り上げたものであるのだ。

たとえば、聖書を出典とする英霊を殺したければ聖書を書いた人物を抹殺すればいい。

そういうことになる。

 

ほぼ影響のない時空がある一方で

「カルデア」と似た甚大な被害を被ったところで見逃された人々は、

もたらされた被害をやはり災害のように捉えているようだ。

普通の感覚をすれば、

ある特定の対象を始末するためだけに個人がやったことだとは想像もできないだろう。

 

 

 

ここまで事態を認識して。

少し希望が見えた。

まだ”最悪の事態”ではないことがわかった。

 

しかし、”彼女”が己のミスにいつ気がつくとも知れない。

 

どちらにせよ、早く追いつくに越したことはない―――――

 

 

 

ちなみに、

ここで今更かと驚かれてしまうかもしれないが。

 

セイバーの生き残りを探している私ではあるが、

セイバーを救おうなどと、そんなことを考えているのではない。

 

いや、もし生き残りがいて発見することができたならば、大変遺憾ながら、仕方なく、結果的に、

救うことになってしまうのかもしれないけれども。

 

殺すのをやめただけであって、私以外のセイバーがいなくなればいいと

思っていることに今も変わりはない。

 

だから、セイバーが消されることに限定すれば特に思うところはなく。

むしろ、自ら手を下すことなくセイバーが減っているのだから理想的……とまでは言わずとも、

 

ざまあみろぐらいには思う。

 

――――だって、それが私だし。

 

 

 

ただ、やはり“彼女”の行く末を思えば、私は“彼女”の障害とならざるを得ないのだ。

 

”最悪の事態”に至る前に。

 

 

そのためには、”彼女”が狙っているセイバーの生き残りを探すのが一番手っ取り早い。

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

期待しては失望する。

その工程を気が遠くなるほど繰り返した。

 

人の身であれば、まず気が狂うほどの回数の時空転移。

 

それでも最後の最後まで私は諦めなかった。

しかし、諦める前に先にタイムリミットが来てしまった。

 

つまり――――、

どれだけ時空転移を行っても

私がセイバーの生き残りを救うことはなかった。

やはりどの時空においてもことごとく間に合わなかったのだ。

 

私が”この時空”に留まっている間にセイバークラスは全滅していた。

これが純然たる事実である。

 

ただし、収穫がなかったわけではない。

 

 

――劇的な変化が私自身にあった。

 

――まあ結果的に、己の努力が実を結んだ形と言えなくもない。

 

 

“これ”を収穫と呼んでいいのかどうかは

判断の難しいところがあるけれど。

 

ただ、そのおかげで“彼女”と出会う目処はついた。

私のほうから探さずとも“彼女”が私を見つけてくれるだろう。

 

 

 

 

さて。

 

”この時空”での義理は果たした。

 

因縁と言うと大袈裟かもしれないが、

“彼女”との再会にふさわしいところに場所を移すとしよう。

 

機体に乗り込んで、時空転移を開始する。

 

目的の場所に到着するまで、長いような短いようなひとときの間に少し振り返ってみようと思う。

それほど時間はないかもしれないし、逆にそれでは時間が余ってしまうかもしれないけれど。

 

そのときはそのときだ。

 

 

 

 

そうして――思い起こす。

 

アサシンだったはずの自分がいかにして―――、

 

 

――――いかにしてセイバーになったのかを初めから思い起こす。

 

 

 

 




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