噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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方針確認回。



いのちだいじにじゅもんつかうな

 

 よう、俺ヤムチャ。

 どのヤムチャかって言うと一足先に宇宙船に帰還したヤムチャ(ドラゴンボール運搬役)な。万が一フリーザに見つかっても生き残れるように3体全員バラバラに逃げたわけだ。

 

 暇なので悟飯やデンデと談笑してると、暫くして次々に俺の分身体が帰ってくる。全員無事だったこと、そして作戦の成功を互いに喜び合いながらハイタッチで迎える。

 そんな異様な光景にデンデからは大いにドン引きされたものだ。解せぬ。ちなみに同じく四身の拳の効果を知らない筈の悟飯には大した驚きもなく受け入れられた。まあヤムチャだし分裂ぐらいするだろって感じだな。どっちにしろ解せぬ……! 

 

 続いてクリリン、次に天津飯餃子ペアと続々戻ってくる。クリリンは当初の計画通り悟空の遺体を回収できたようだったが、一方で天津飯と餃子はドラゴンボールを手に入れる事ができなかったようだ。

 何やらイレギュラーがあったのかな? 

 

「どうしたんだ天津飯。何か厄介ごとが?」

「ナメック星人の村を見つける事はできたんだがな……ラディッツが居た。ドラゴンボールを手に入れるために試練を受けているんだと」

「……そうか」

 

 天津飯の悟り切った顔が全てを物語っていた。どうやらラディッツが先着して試練を受けてしまったがために、順番待ちという事で天津飯達は門前払いを食らってしまったらしい。安心半分、呆れ半分って感じだ。

 

「まあ当のラディッツ自身は『ドラゴンボールなど知らん! そこのハゲ共にでもくれてやれ!』とかなんとか言っていたがな。ナメック星人から試練を途中で投げ出すなと説教されてそそくさと作業に戻ったが」

 

「作業って、アイツいま何してんだよ?」

「……畑仕事だ」

「やっぱり?」

「所詮ラディッツ」

 

 もはやラディッツに対して毒舌がデフォになってしまった餃子に若干慄きつつ、次なる一手を考える。賢将ヤムチャの第二ラウンドだぜ。

 我がチームのブレインである悟飯と共に考えを出し合い、全員の意見を上手く擦り合わせながらプランを練っていく。

 

 全員に共通していたのは、当然ドラゴンボールを早く集めて悟空とピッコロを生き返らせようという点。これが急務であるのは間違いない。ちなみにラディッツは放置な。

 次にどういう手順でドラゴンボールを手に入れていこうかの話で意見が割れた。天津飯、餃子は『ベジータを早めにボコしておこう』派。対してデンデ合わせた他3人は『フリーザが怖いので貰えるボールから堅実に集めよう』派である。

 

 俺は結構前者寄りな感じなんだが、後者の利点もよく分かる。

 

 ベジータとナッパをぶっ倒してしまえばドラゴンボール争奪戦にすぐにでも王手をかける事ができる。ついでに奴等の影に怯えて慎重な行動を強いられる必要もなくなるわけだ。ただデメリットとして、当然ベジータ側からの反撃は想定されるし、何よりフリーザに居場所を気取られる心配があるな。

 

 堅実にドラゴンボールを狙うなら、ベジータやフリーザとの接触を極力避けるべく慎重な行動が求められる。機動力に欠けるが、状況があまりよろしくない現状では最高の安全策とも言える。しかしこちらが時間を取られるという事は、逆に言えば敵に時間を与えてしまう事にも繋がる。

 ベジータは普通に最長老様やネイルの場所を炙り出せるだろうし、ラディッツが単独でアイツらにぶつかるのも正直不安要素がある。さらに、ギニュー特戦隊が来れば事態の泥沼化は避けられない。

 

 二つの大まかな方針を吟味しつつ、ある程度考えが纏まってきたので全員を見遣る。

 

「ラディッツの居場所も把握できた事だし、一旦デンデの言う最長老様の下へ拠点を移さないか? 此処に留まり過ぎるのもどうかと思うし」

「全員一緒に移動しようって事ですか?」

「そうだ。聞く限りじゃドラゴンボールを作り出したのは最長老様なんだろう? 万が一フリーザやベジータに見つかればドラゴンボールの仕様を知らない奴等に殺されてしまう可能性がある。そうなると本末転倒ってやつだ。ドラゴンボール争奪や情報収集を兼ねて、最長老様の守護にも力を割いた方が良いんじゃないかと思ってな」

 

 ついでにみんないっぺんに強化してしまおうという魂胆だ。原作のように何度も行き来するのは時間のロスだし、敵に見つかるリスクも高まる。ならもう拠点を移しちゃった方が良いなと思った。

 俺たちが居なくなってラディッツが迷子になる懸念も払拭できたしね。

 

「手堅くいこう、という訳か。構わないが……オレとしては今のうちにベジータを片付けておきたかったんだがな」

「ベジータも腕を上げているだろうし、地球の時のようにはいかないだろう。当然いつかはぶつかる事になるだろうが、時間を置いた方が無難だと思ったんだ」

「無難? どういう事だ」

 

 ヤケに武闘派な天津飯を宥めつつデメリットの大きさを説く。冷静に見える天津飯も、実は悟空の死に動揺して気が立っているのかもしれないな。その心意気は是非とも戦闘時に活かしてもらいたい。

 

「ほら、ドラゴンボールをフリーザから奪っただろ? それがちょっと上手くいき過ぎちまってさぁ。今頃神経を張り巡らせて俺らの行方を探してるかもしれん。ちょっとした戦闘の余波も命取りになるかも」

 

(また煽ったのかこの人)

(まだ煽っているのかコイツ……)

 

 なんか仲間達の心の声が聞こえるような気がするが無視無視! 俺に最長老様とか悟空みたいな芸当できないからな! これは幻聴に違いない! 

 それに別に煽ってないしな。俺の作戦が完璧だっただけだ。クレバー過ぎるのも考えものってやつだな、うん。

 

 取り敢えずみんな同意してくれたのでさっさと移動しよう。ベジータに見つからないよう、しかも大人数での行動だからかなり時間がかかるだろうが、着いてしまえばこっちのものだ。

 

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 

「いいのかよベジータ。せっかくボールを2個手に入れたのに大人しくしてるだけなんてよ。身体が鈍って仕方がないぜ」

「2個手に入れたからこそだ。地球人どもにしろ、フリーザにしろ、願いを叶えるにはオレの持つボールが必要だからな。今は焦らず奴等の居場所をゆっくり探せばいい。隙を見て奪ってやる」

「チッ……じれってぇなあ」

 

 ベジータは地に置いたドラゴンボールに腰掛け、ナメック星全体に広げた感知網を睨む。一方でナッパは呑気にカニを喰っていた。

 すぐにでも動きたいのはベジータとて同じだ。部下を全員失ったフリーザが部隊をスカウターと共に追加召集するのは目に見えているし、それが万が一ギニュー特戦隊であれば悪夢だ。

 時間の浪費はベジータ達にとってメリットになる要素がないのだ。

 

 ベジータに大胆な行動を躊躇させている主たる原因は地球人共にある。カカロットの急激なパワーアップと併せて、未知の部分が大き過ぎるため不意な戦闘は避けるべき局面であった。慢心は命取りであると、地球での戦いの際に嫌と言うほど思い知っている。

 プライドは酷く傷ついたが、実利をもぎ取るには致し方ない。そう割り切るしかなかった。

 ナッパを生かしているのもその為だ。人数に劣る現状では下手に始末もできない。

 

(オレも戦闘力のコントロールを身に付けたが、奴等のそれは更に上をいってやがる。それに不思議な豆による回復も侮れん。……いくら打ちのめしても次から次に湧いてくるような連中相手ではボールにまで手が回らんからな)

 

 脳裏にチラつくのは地球で自分を散々コケにしたあの地球人(噛ませ犬)。そして、同じサイヤ人でありながらも僅かな時で自分を遥かに超えていた最下級戦士カカロット。もしかすると、アレが伝説の超サイヤ人なのかもしれない。

 だがあの桁違いの戦闘力を以ってしてもフリーザには遥かに及ばなかった。むざむざと現実を見せつけられた。腹が煮え繰り返る思いだ。

 それでもベジータは諦めない。

 

(絶対に越えてやるからな、カカロット……! そして不老不死になった暁には、まず一番に地球をぶっ壊してやる……!)

 

 激情を抑え込みつつ、虎視眈々と隙を窺う構え。

 一方でナッパは不満を隠さない。

 

「なあベジータ。どうせ奴らを探すなら待ち伏せの方が良くねえか?」

「待ち伏せだと?」

「ああ。ボールを狙ってんのならどうしてもナメック星人共の住処に行かなきゃならねえだろ? ボールを持ってんのはナメック星人だからな」

 

(……フリーザはボールを奪った後、ナメック星人を漏れなく殺している。そして現在感じるナメック星人の群れは全部で四つ。……よくよく考えれば、地球人共がボールを確保していたとしても、まだ手付かずで何個か残っている可能性は捨てきれんな)

 

 カカロット達がナメック星に到着した正確な時系列は不明だが、フリーザのボール集めが空振りにならず順調に進んでいた事を鑑みると、自分達とそれほど時間差は無い筈。

 

 ナッパがそこまで考えて発言したとは思えないが、確かに妙案ではある。

 ならば……。

 

「フン、行くぞナッパ。ナメック星人共の村をしらみ潰しに探す。お前の言う通りボールがある村に奴らは必ず現れるだろう。そこを各個撃破してやる」

「へへ……そうこなくっちゃな」

「ただ周りは警戒しておけ。奴らの奇襲にいつでも対応できるようにな」

 

 ボールと情報、そしてあの不思議な豆。

 全てを手に入れるのだ。宇宙最強という飽くなき大望の為に。

 

 

 

 ───────────────────────────────

 

 

 

「徒歩での移動はなんか落ち着かないですね。どうしても気持ちがはやるというか」

「確かに舞空術に慣れすぎちまったのはあるな。まあそこまで急ぐ必要もないし気楽に行こうぜ。空回っちゃ世話ないからな」

 

「デンデ大丈夫?」

「は、はい!」

 

 悟空の死による暗い雰囲気を払拭し切った訳ではないものの、みんな元気を取り戻しつつある。俺の鼓舞がどこまで役に立ててるか分からないがもっと盛り上げていきたいもんだ。

 まあ天津飯は終始冷静だし、傷心気味だったクリリンも持ち前の明るさで克服しようとしてるし、ダメージの深かった悟飯に至ってはデンデのケアまで行なっている。……俺いらないな! うん! 

 餃子? 餃子はいつでもいつも通りだから。

 

 それにはやる気持ちは分かるが、あんまり速く移動するとデンデに負担がいくから気をつけないと。

 その点、瞬間移動ってホント便利だよなぁ。是非とも習得したいものだが、悟空がヤードラット星に行けなかったらどうしようか……。暇な時にヤードラッド星人をドラゴンボールで呼び出すか?(学ばない男)

 

 

 っと、遠くで微かに気の乱れを感じた。

 俺達が試練を受けた村のナメック星人の気だろうか。戦闘が行われているようだ。

 

「ヤムチャ。これは……」

「ベジータ達の仕業だろうな。気は感じないが、このタイミングでナメック星人を襲うとしたらアイツらくらいだろう」

「……あのナメック星人達には悪いが、ベジータの居場所に見当がついたのはラッキーだな。ボールはどうなっている?」

 

 天津飯の問いに答えるように、悟飯が持っていたレーダーを掲げる。どうやら2個ちゃんと持ち歩いているようだ。原作のようにドラゴンボールを隠して行動するようだったら先に回収してやろうと思ったが、残念である。

 

「どうする? 倒しに行く?」

「いや、予定通り無視でいこう。今から全速力で駆け付けてもあの距離じゃ間に合わない。よしんば間に合ってもこちらの気を感知されて逃げられるのがオチだ。それよりも今のうちに少しばかりスピードを上げよう」

 

 デンデには俺達の言葉が非情なもの聞こえるだろう。助けられるかもしれない命を見捨て、むしろこれをチャンスにしようと言っている。時にはこういう判断も必要なのだ。凄く嫌な気分だけどな。

 かの有名な『でぇじょうぶ。ドラゴンボールでいきけぇれるさ』を言い放った悟空も同じ気持ちだったはずだ。

 

 そんな事を思いつつ気で状況を探っていたのだが、全員の戦闘力が豆粒程度になったところでベジータ達が移動を始めた。ドラゴンボールが無い事が分かったからナメック星人を半殺しにしてその場を離れたって事か。

 不幸中の幸いだな。

 

「なあ天津飯、四身の拳の分身体で仙豆を届けたいんだが、いけそうか? 俺とお前でそれぞれ1人ずつ出し合って2人で向かえば、最悪フリーザに出くわしてもどっちかは逃げ切れると思う」

「構わんさ。手元に気を7割残しておけば移動にも支障はないからな。ところで助けた村人はどうする? そのまま残しておけばまたベジータ、もしくはフリーザに襲われると思うが」

「……最長老様の下に連れて行こう。最長老様守護の為だと話せば頑固なナメック星人も納得してくれるだろう」

 

「けどヤムチャさん。それじゃ移動中にベジータに見つかっちゃいますよ。ナメック星人の中にはデンデみたいに気を消せない人もいるだろうし」

「まあ、その時はその時だな。俺と天津飯の分身体で時間を稼いでその間に逃すさ。それでもダメだったらそれこそ諦めるしかない。やれるだけの事はやろう」

 

 こんな無茶な寄り道が実行できるのも四身の拳とかいう便利技のおかげだ。いやー鶴仙人様様だな! あと仕事人な天津飯テライケメン。

 正直ナメック星人達を最長老様の下まで連れて行けるかはかなり怪しいんだよなぁ。ベジータには行動筒抜けになっちゃうし、フリーザに襲われる可能性も高い。途中で捕捉されればどっちみち全滅だろう。

 だが救えるかもしれない命を見捨てるのは違うよな? 

 

 あっ、そうそう言い忘れてたんだけど、俺達とフリーザって既に何度かニアミスしてんだよね。スカウターがあったら一発でバレていたであろう場面が何度かあった。

 もうマジギレもマジギレ。ナメック星を何度も周回してそこら中を探し回ってやがる。誰が何してキレさせたんだろうな?(すっとぼけ)

 

 

 




ガンガンいきつつバッチリがんばれ

ベジータ達はドラゴンレーダーの存在を知りません。よって自分達の居場所がヤムチャに筒抜けな事に気付いてなかったり。

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