噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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ナメック星編完結までちょくちょく投稿します


地獄からの復活!帝王と噛ませ犬

 孫悟空との決戦を終えたフリーザは、宇宙艇のメインルームにて腰掛けていた。僅かな疲労と激しい鬱憤を振り払うように思案に耽ている。

 

 フリーザの胸中は決して穏やかではなかった。

 持ち込んでいたスカウターの全損、ドドリアを含む戦闘員の半壊、サイヤ人の域を遥かに逸脱した旧敵の名残を感じた者との戦闘、まさかの苦戦……そしてその最中に持ち去られた2つのドラゴンボール、消えたザーボン。

 順調に進んでいたフリーザの不老不死計画は僅かな陰りを見せていたのだ。

 

 宇宙最強を自負しているからこその余裕は健在であるが、今回ばかりはそれが悪方向へとフリーザの心情を煽っている。

 もしもこの星に何の魅力も無かったのなら、今頃宇宙の藻屑となっているだろう。

 

 だが逆に言えば、帝王に然るべき資質というものをフリーザは兼ね備えている。だからこそ、力を持て余しただけの愚物が取るような行為に走る事はないし、今も冷静なままだ。

 帝王コルドからその座を譲られたのには、ちゃんとした理由と資質がある。

 

 それにもう次の手は打ってあるのだ。

 先程ヤードラット星を攻略中であったギニュー特戦隊の招集を確認できた。1週間もすれば彼らがスカウターと共に駆け付けるだろう。

 今でこそ完全に人手不足だが、彼らほどの猛者が来ればこの状況は容易にひっくり返せよう。それに、ドラゴンボールの1つは我が手中にある。どれだけベジータや地球人が足掻こうと、最後の1つが自分の元にある限り願いは決して叶えられない。

 

 そう、全ては些細な誤差に過ぎない。

 些細な────。

 

 

「フリーザ様っ、不肖ザーボンただいま帰還いたしました!」

 

 フリーザの思考を威勢の良い声が遮る。自分の平静を乱された事に若干眉を顰めるが、思いもしない人物の帰還にフリーザは目を見開いた。

 恭しく首を垂れるのは側近の一人であるザーボン。その傍らには彼が携帯していたのだろうドラゴンボールが2つ置かれてある。

 ザーボンはもう死んだものと思っていたが……。

 

「おやおや、これはザーボンさん。もう何処かでのたれ死んでいるんじゃないかと思っていましたよ。よくぞご無事で」

 

「ハッ! 途中ベジータとナッパの奇襲を受けましたが難なく返り討ちにしてやりました! その場からは逃げられましたがあのダメージではしばらくの間は動く事もままならないでしょう!」

 

 ザーボンの報告を受けてフリーザは自らの記憶を逡巡する。確かベジータの戦闘力は現在23000以上、ドドリアを軽く捻る事ができるほどの強さだ。

 そのベジータとナッパに勝った、ということは……ザーボンが本気を出したのだろう。

 

「使ったのですか、変身を」

「はい、あまり使いたくは無かったのですが……思った以上に手こずったもので」

 

 その言葉通り、ザーボンの身体の至る所に激戦の後を感じさせる傷が残っていた。ボロボロの戦闘服に乱れた髪、そしてなにより頬に付いている大きな傷跡。

 美を何よりの至高とするザーボンにとっては耐え難い苦痛だろう。

 

「しかしその代わり、この通りドラゴンボールを奪われる事はありませんでした。また地球人たちのアジトと思わしき場所の特定も済んでおります!」

「ホッホッホ、それはそれは。よくやりましたね大手柄ですよザーボンさん」

 

 恭しく跪くザーボン。それを前にして愉快に笑うフリーザ。

 ギニュー特戦隊の到着を待つ間の暇つぶしが決定した。それどころかうまくいけば一気にボールが揃うかもしれない。

 不老不死になれば……唯一の脅威であり、一番の障害である兄を屈服させる事ができる。そうなればフリーザは真の意味で、永遠の帝王となるのだ。

 

「ドドリアさんを一撃で殺すほどの子供も居るみたいですからねぇ、あなた一人では荷が重いでしょうし、私直々に挨拶しに行きましょうか」

「ハッ、ご一緒させていただきます。……念のため我々の手の内にある3つのドラゴンボールは私が預かっておきましょう」

 

 自らの悲願を叶える為、フリーザは宇宙船上部ハッチを開けさせる。目指すは地球人の居る場所だ。いざ宙へと浮かび上がらんとする。

 その途中だった。

 言葉にできない違和感がフリーザへと押し寄せる。

 

(なにやら妙ですね、ヤケに事が上手く運び過ぎている。それに何か肝心な事を見落としているような、そんな気がする……)

「さあ行きましょうフリーザ様!」

 

 ヤケに快活なザーボンの声。今のフリーザにはそれすらも疑わしく感じた。

 そうだ、この違和感の根源は────。

 

 

『フリィィィィザアァァッッ!!! 出てきやがれェ──ッッ!!』

 

「……!? 何者ですか」

「外からのようです!」

 

 ザーボンが言い切るよりも早くフリーザは動いていた。開いていたハッチから宇宙船上空へと飛び上がり辺りを索敵する。スカウターが一つ残らず破損しているため視認して声の主を探すしかなかった。

 あまりに強いデジャヴがフリーザの脳裏を何度も行き来する。先ほど無謀にも自分に歯向かってきたサイヤ人の件と併せて、不快な記憶が蘇る。

 

 そしてそれは現実のものとして現れた。

 

「久しぶりだなフリーザァッ!」

「貴様は、あの時のサイヤ人! どういう事だ!?」

「テメェを野放しにしてオチオチ死んでられるか。決まってんだろ、貴様を殺しにわざわざ地獄から戻ってきてやったんだよ。……よくもオレの息子を殺しやがったな」

 

 粗雑な印象を受けるサイヤ人だった。

 ボロボロに砕けたプロテクターを身に纏い、死んでもおかしくない程の裂傷を負いながらも、鋭い相貌から闘志は消えない。

 あの目と額に巻かれた深紅のハチマキから感じる気迫はフリーザをして一目置かせるものであり、掃いて捨てるほどの脆弱な存在でありながらも、深く記憶に残り続けた。まさにサイヤ人の怒りを体現したかのような男だ。

 

 それが今、再び目の前に現れた。

 そんな筈はないと自らに言い聞かせる。男は20数年前に惑星ベジータと共に跡形も無く消え去ったのだ。他ならぬ自分の手で殺してやった。

 しかしそれでもフリーザは目の前の存在を否定できなかった。それは初めてフリーザに死を覚悟させたサイヤ人、孫悟空が居たからだ。やはり見れば見るほど瓜二つ。

 幻聴、幻覚を疑ったが自分と同時にザーボンも奴を確認している。次に疑ったのは何者かによる罠であるという可能性。奇怪な出来事には誰かしらの思惑が働いているのが常である。これが一番ありえると判断した。

 

「それはそれは、ご苦労様でした。随分と痛い思いをしたでしょうにまた私に歯向かうとは、やはりサイヤ人とは難儀な生き物ですねぇ。……それで貴方はこれから再び地獄に行くわけですが、一応聞いておきましょう。貴方如きがどうやって私を殺そうと?」

「へへ……今に分かるさ」

 

 敢えて相手の挑発に乗るようにして先を促す。

 対してサイヤ人は不敵な笑みを浮かべながら掌にエネルギーを集約させた。

 

 出来上がったのは何の変哲もない、自分を殺すにはあまりに頼りなさ過ぎる矮小なエネルギー弾。かつてと全く同じだ。

 何をしてくるのかと思えば拍子抜けにも程がある。

 

「くたばりやがれえェェッ!!!」

「ふむ……」

 

 最早興味は失せたとばかりに、フリーザもまた指先へとエネルギーを集約させ、胸へと差し向ける。

 そして男の投擲モーションと同時に放たれたビームは的確にその命を捉えた。奇しくも息子と同じ箇所に、なおかつ同じ技で。

 

「ゴハァ……っ!」

 

 男は血を撒き散らしながら墜落し、地に沈む。

 無様に息絶える様を見届けてやろうと、警戒と愉悦半々に視線を下に落とした、その瞬間だった。主人を失いそのまま消滅するかに思えたエネルギー弾は未だに滞空しており、男の死亡と同時に眩い閃光を放ったのだ。

 

「うぐおぉっ!? 目、目がぁ……!」

 

 予想外の時間差攻撃に対応が遅れた。モロに光を眼球で受けてしまいあまりの激痛に悶え苦しむ。戦闘力だけではカバーし切れない領域への的確な攻撃である。

 憤怒と混乱がせめぎ合う中でもフリーザは警戒を怠っていなかった。次に気を付けるべきは無防備になっている自分への追撃。全身を超能力で固め、見えない敵からの攻撃に備える。

 さらに大声を張り上げる。

 

「ザーボンさんッドラゴンボールを確保なさい! 絶対に奴らに渡すんじゃありませんよ!」

 

 敵の狙いとして考えられるのは大きく二つだろう。

 一つはフリーザの暗殺。そしてもう一つは、ドラゴンボールの奪取。

 

 暗殺ならまだいい。どんな攻撃を受けようが我が身を滅ぼすに足る威力はない筈だ。それこそ同族によるものでない限りは。

 しかしドラゴンボールは別だ。フリーザが目を光らせる事ができない今、これ以上のチャンスはない。

 

 

 ザーボンからの返事はなかった。

 

 

 10数秒後、視力を取り戻したフリーザが宇宙船内に戻るも、中はもぬけの殻であった。三つのドラゴンボールは勿論、ザーボンの姿すら無かった。

 ふと、外に視線を向けるが、あの男の死体は綺麗さっぱり消えている。

 

 やられた。謀られた。

 既に死んでいるにしろ、生きたまま利用されているにしろ…… ザーボンは初めからフリーザの手の内にある駒ではなかった。

 コケにされたのだ。猿以下の矮小な存在に。

 

「ゆ、許さん……絶対に許さんぞムシケラめが!!! 必ずなぶり殺しにしてくれるッ!!!」

 

 

 

 *◆*

 

 

 

 よう! 俺ヤムチャ!!! 

 

 おいおい生フリーザ! 生フリーザ様見ちゃったよテンション上がるなぁ〜! 

 ていうかあんなんマトモに相手できる筈ないわ。策を弄さなければ多分三桁は死ねたな! ていうか悟空の奴、あんな化け物相手に最終形態まで粘ってたんだよなぁ。もう勝てんよなぁ。

 

 さてさてもうお気付きかもしれないが、先程のザーボンとバーダックは俺なんだ。対フリーザを乗り越えるための対策その一である。

 まず戦友の天津飯から教えてもらった四身の拳、そして愛するプーアルから伝授してもらった変化の術。これら二つを組み合わせる事によってあんな事ができちゃったりするのだ! 

 いやーいま思い返しても変化の術習得はかなり難しかった。最初はウーロンから習ってたんだが、全然上手くいかなくてな。見かねたプーアルがマンツーマンで付き合ってくれてようやく、数年かけて完成したガチムズ技だ。(そもそもヤムチャに妖術適正がない)

 

 しかも完璧に習得できたとは言い難く、プーアル達の変化と比べて明確に劣る点が二つほどある。

 まず、人型以外には変化できない! あいつらはハエ叩きやスクーター、ロケットなんかに化けてたけど、俺は人間限定でしか使えない。それも同じ体格の奴限定。バクテリアンとかギランに化ける事はできん。

 

 次に、俺の変化体には絶対頬に大きな傷が出てしまう事! ヤムチャとしての性質を隠し切れてないんだろうな。まあ、実の所今の俺には原作ヤムチャにおける『頬のバッテン傷』は存在していない。そんな怪我負ってないからな。でも傷が出ちまうってのは、俺の中でのヤムチャ像によるものなのかもしれない。

 

 とまあ長々と語ったが、それらを駆使してもまだフリーザ相手にやらかすのは怖かったからな、さらに工夫させてもらった。

 

 まず変化にバーダックをチョイスしたのは、彼の頬にも傷があるので変化の違和感を隠しやすいことと、まあノリである。やっぱフリーザに一矢報いるならバーダックだよな、うん。あと声真似めっちゃ上手かったろ? 

 勿論他にも理由がある。フリーザの注意をほどよく引けて、なおかつ確実に手を出してくれる人選だな! 悟空と戦った後にバーダックを目の当たりにすれば無視する事は到底できない筈だ。

 そしてバーダックの最後の一撃をオマージュした新たな繰気弾、名付けて閃光繰気弾! 太陽拳と繰気弾の合わせ技だ。繰気弾のしょっぱい威力に油断していると目をやられてしまうぜ。

 

 こんだけやれば流石のフリーザも数秒は完全に動けなくなる。その間にザーボンヤムチャと宇宙船の下に気配を潜めて待機していたヤムチャC・Dを動かしドラゴンボールを奪う! ついでに念願のメディカルマシーンも失敬しておいた。どんな大きさの物でもホイポイカプセルに収納すれば手間にならん。

 ちなみにザーボンがベジータ達から奪ったと言っていた二つのドラゴンボールは予め俺達が手に入れていたモノだ。これを持ってフリーザの下に行くと仲間達に伝えた時の目と言ったら……思い出したくねぇ。

 

 とまあ、以上が今回の顛末である。無事に成功して一安心ってところだ。

 正直フリーザが怒り狂ってナメック星を破壊したらどうしようとか不安に思う部分もあるが、流石にそれはないと信じたい。原作でもベジータ相手に掻き乱されても最後の一線は越えてなかったし。宇宙の帝王はそれだけ懐が深いってことだな。

 

 何はともあれ、久々に賢将ムーブをかましちまったな! 

 

 んじゃ、みんなの下に戻ろう。

 さっさとドラゴンボールを集めて悟空を生き返らせてやんないと!




何も復活していない模様

ドラゴンボール争奪戦
フリーザ軍…0個(ベジータの漁夫の利、ヤムチャの策略で全て失う)
地球組…3個(ナメック星人からの試練をこなし2個。今話でフリーザから1個奪取)
ベジータ…2個(どさくさに紛れてザーボンから奪取)
ナメック星人…2個(最長老様と村がそれぞれ所持。村の方にはラディッツ滞在中)

戦闘力
悟空 20万(界王拳10倍まで可能)×
悟飯 4千(激しい変動あり)
ピッコロ 5万×
クリリン 7千(界王拳3倍まで可能)
天津飯 1万(界王拳2倍まで可能)
餃子 4千(界王拳2倍まで可能)
ヤムチャ 1万8千(色々とバグってる)

ベジータ 2万4千
ナッパ 9千
ラディッツ ?

フリーザ 53万→100万→200万→1億2千万
ザーボン 2万3千→3万2千×
ドドリア 2万2千×
キュイ 1万8千×

ターレス 6万→50万×
Dr.ウィロー 5万
ガーリックJr. 千

話を見返しつつ当時の記憶を思い起こしながら書きました。不自然な点あれば随時修正します

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