噛ませ犬でも頑張りたい   作:とるびす

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無印終了…?




噛ませ犬vs主人公◆

「初っ端から本気だぜッ!!狼牙風風拳ッ!!」

 

 ヤムチャの初撃は狼牙風風拳であった。

 普段のヤムチャなら試合の開幕直後に出すような真似はしないだろう。狼牙風風拳はここぞという場面で使う技だ。

 しかし後々の展開を見越しておくならば開幕の狼牙風風拳は決して下策ではない。

 悟空のタフさは異常だ。サイヤ人としての種族の凄まじさ、過酷な環境に身を置き続けたその適応力。そのいずれもがヤムチャを超える。とてもじゃないが正面からの殴り合いで勝てる相手ではないだろう。

 だからこその短期決戦である。持ち味のスピードを活かし、試合を迅速に決めるのだ。出し惜しみなどしている場合ではない。

 

「へへっきたか狼牙風風拳!!」

 

 悟空は待ってましたとばかりにヤムチャの狼牙風風拳を迎え撃った。嘗てはなす術なく悟空が吹っ飛ばされた技であるが、両者ともあの頃とは一味も二味も違う。

 

「ハイッハイッハイッハイッハイッハイッハイッハイッハイッハイッハイィィィィッ!!」

 

 掛け声のリズムに合わせ、ヤムチャの拳が悟空に迫る。しかし悟空はそれら全てを防ぎきってゆく。悟空の進化した動体視力はヤムチャの拳速を完全に捉えているのだ。

 タイミングは抑えた。あとはカウンターを繰り出すだけである。悟空は狼牙風風拳の途切れを測り、カウンターの機をうかがった、その時だ。

 ヤムチャの繰り出す狼牙風風拳のリズムが変化した。遅くなったかと思えば急激にスピードがアップする。

 それを繰り返すことによって狼牙風風拳は不規則さを増すのだ。トップスピードでの応酬であったため悟空もこれには反応が遅れた。

 

「なっ!?」

 

「狼牙風風拳・改ってヤツだッ!!もらったぜ、ハイヤァァァッッ!!」

 

 強烈な左腕の一撃が悟空の腹にめり込み、その衝撃で体はくの字に曲がる。だがヤムチャの攻撃は終わらない。

 ヤムチャは悟空の下方へ潜り込むと顎に向かって掌底を打ち込んだ。狼牙風風拳と合わせて使うことが多いのでヤムチャは昇狼拳と(たった今)名付けた。

 

 上空へと打ち上がる悟空を尻目にヤムチャは攻撃の手を緩めなかった。即座に構えを変化させ、片手から気功波を空の悟空へと撃ち出す。

 悟空は空中にて腕を突き出し僅かに体を捻ると、ヤムチャの気功波を受け流した。そしてヤムチャを見やると……ヤムチャは既に二発目の気功波を用意していた。悟空が一発目の気功波を受け流すことは想定済みなのだ。

 

「堕ちろ、カトンボォッ!!」

 

 二発目の気功波は悟空の背中を捉え、爆発する。飛び散る気の残骸がその威力の高さを物語っていた。仲間たちはゴクリと唾を飲み込み、悟空の安否を確認する。

 だが悟空はその爆発の規模に反してかなりの軽傷でリングに降り立った。口元に余裕の笑みを浮かべる悟空に対し、ヤムチャはやれやれといった感じで苦笑する。

 

「スゲェなヤムチャ!今の狼牙風風拳は守りきれなかった!結構効いたぞ!!」

 

「嘘をつけ嘘を。これだけやってそこまでのダメージしか与えれなかったんなら今の攻防は俺の負けだ。即興で作った狼牙風風拳・改も、もうお前には通じないだろうしな」

 

 ヤムチャははぁ…とため息をつくと前脚を踏み出し、悟空へ接近戦を仕掛ける。しかし悟空は涼しい顔でそれらを全て躱し、ヤムチャの胸部へ反撃の一打を与えた。

 仰け反り吹っ飛ぶヤムチャであったがリングスレスレで着地、またもや苦笑した。

 

「オマケに…スピードは互角、パワーにタフさは俺よりも上ときた。なんか泣きたくなってきたよ!」

 

「…おめぇの力はそんなもんじゃねぇだろ!力を出し惜しみしてるようじゃオラには勝てねぇ」

 

 悟空からの一言にヤムチャは腕を組み、少しばかり思考する。やがて何かを考えついたのか腕組みを解き、お馴染みのポーズをとった。

 

「んなことはお前に言われなくてもわかってる。パワーやタフさで勝てないなら技しかないだろう?いくぞッ繰気弾!」

 

 掌から繰気弾を生み出したヤムチャは悟空に向かって投擲、さらにヤムチャ自身も繰気弾を操りながら悟空へと接近した。

 繰気弾を使用する際、ヤムチャは無防備になる。これを改善するにはどうすれば良い?簡単な話、自分が動けばいいのだ。繰気弾の扱いは若干雑なものになってしまうが自分か攻撃に参加することによって攻め手も増える。

 並列的な思考が必要になるがそこらへんは根性でなんとかする。そんくらいしないと悟空には敵わない。

 ヤムチャは繰気弾を操作し悟空の背後から攻撃を仕掛ける。そしてヤムチャ自身は脚を振り上げ狼牙風風脚の準備に入った。

 

「はっは!前門の狼牙風風脚、後門の繰気弾!お前に対応しきれるか!?悟空ッ!!」

 

「ほッ!」

 

 悟空は背後を見らずに繰気弾を片手で弾き飛ばし、距離を取らせるとヤムチャの狼牙風風脚をするりするりと躱し、顔面に強烈な一撃を叩き込んだ。

 勢いよく吹っ飛んだヤムチャであったがすぐに起き上がり鼻血を拭う。その顔は驚愕に彩られていた。

 

「嘘だろ…今の一瞬で見切りやがったのか…!?」

 

「ヘっへっへ!ミスターポポとの修行のおかげで背後のこともわかるんだ!」

 

 悟空は笑いながらも後ろから飛来する繰気弾を握り潰した。

 

「な、なるほどな。一本取られたぜ」

 

 笑って驚きを誤魔化すヤムチャであったが、仲間たちから見てもどちらが優勢かは簡単に見て取れた。

 今なお悟空とヤムチャはラッシュを撃ち合っている。被打数こそ悟空の方が多いがヤムチャの方がダメージが大きい。悟空はヤムチャの先を行っているのだ。

 

「む、武天老師様…悟空のヤツ、オレと戦った時より強くなってますよ…。この短期間で恐ろしいほどにパワーアップしてます…!」

 

「うむ…恐るべき成長速度じゃ。ヤムチャも決して負けているわけではないが技をどんどん悟空に破られておる。あやつにとっては苦しい展開じゃろうな」

 

 亀仙人の言うとおりである。ヤムチャの基本戦術はそのトリッキーな技や搦め手で相手をスピーディーに追い込んでゆくというものだ。

 しかし今の状況のように真正面から技を破られては圧倒的不利に陥ってしまう。ある意味悟空はヤムチャにとっては相性の悪い相手だと言える。

 

「くそッ!真・狼牙風風拳ッッ!!」

 

「だりゃりゃりゃッ!!」

 

 ヤムチャが出せる最高のスピードで連撃を繰り出し、悟空を追い込んでゆく。しかし悟空がリング端まで追い込まれるといきなり形勢が逆転、ヤムチャが押され始める。悟空がヤムチャのトップスピードに適応してしまったのだ。

 

「うそ…だろ、おい…ッ!!」

 

「でりゃぁッ!!」

 

 悟空渾身の回し蹴りがヤムチャの脇腹を捉えた。その一撃に耐え切れずゴロゴロとリングを転がるヤムチャ。口から血を吹き出し、苦しそうに悶える。

 

「や、べぇ…今のは効いた…ゴフッ!」

 

『カウントをとります!ワン!ツー!スリー!』

 

 ヤムチャのダウンにアナウンサーがカウントを取り始める。

 ここで終わるわけにはいかない。その一心でヤムチャは立ち上がるが、勝負は明確に、残酷にその結果を映し出す。

 

「まだだ…まだ終わらんよ…!」

 

 ヤムチャは再度お馴染みの構えを取った。繰気弾のポーズだ。気を腕へと充鎮させ、気弾を作る。そして繰気弾は完成したのだが…ヤムチャはなおも気を流し込んだ。それに伴って繰気弾は肥大化し、その威力を上げてゆく。

 ヤムチャにとっても初の試みである。しかしここで決めねば勝ちは遠のく。成功させるしかないのだ。

 

 そして、ソレは完成した。

 

「はぁ…はぁ…超繰気弾だ!」

 

 ヤムチャの掌に浮かぶのは直径10メートルほどの巨大な気弾。高密度のエネルギーが秘められており、その威力の高さは嫌でも分かる。

 しかもこれは繰気弾、コントロール可能なのだ。

 

「うひゃー…でっけぇ!」

 

「はぁ…はぁ…気楽なこと言ってられるのも、今の、うちだぜッ!!」

 

 ヤムチャは思いっきり腕を振るい超繰気弾を放った。その巨大さ故にリングをガリガリと削り、迫る様はかなりの迫力だろう。

 だが、悟空は、避けなかった。

 

「それが繰気弾なら避けてもムダだもんな!受け止めるしかねぇ!」

 

 体を大の字いっぱいに広げ、真正面から超繰気弾を抑え込みにかかった。その衝撃に悟空は堪えきれずにリングを抉り、滑る。

 

「へっ!そのまま場外まで飛んでいきな!」

 

 ヤムチャはなお一層、超繰気弾の勢いを上げてゆく。なす術なく悟空がリング端まで追い込まれた、その時だ。

 悟空はリングから脚を離し、思いっきり超繰気弾を上へと打ち上げたのだ。

 悟空の底力にまたもや驚愕するヤムチャであったが、まだ超繰気弾のコントロールは手放していない。上空へと打ち上がった超繰気弾を下へと、悟空へと振り下ろした。

 

「ぶっつぶれろォォォォッ!!」

 

 一方の悟空も手ぶらではない。お馴染みの構えから気を溜めてゆく。両手で包み込んだ気からは青白い発光が漏れ出す。

 

「くらえ、特大のかめはめ波だァァァァッ!!!」

 

 悟空から放たれた特大のかめはめ波が一直線に空を切り裂き、昇る。

 そして互いの必殺技は、衝突した。

 

「おおぉおおおぉぉぉッ!!!」

 

「はあァァァァァァッ!!!」

 

 二人の慟哭が会場に響き渡る。互いに一歩も譲らぬ超パワーと超パワーのぶつかり合い。

 

 そしてその勝負に競り勝ったのは…かめはめ波。

 超繰気弾を真ん中から食い破り、突き抜けたのだ。

 そして爆発。

 

 天下一武闘会上空は今日何度目かの気の爆発に彩られた。

 

 ヤムチャは…笑うしかなかった。

 咄嗟に作り出した最高の必殺技を正面から破られた。これが、孫悟空…。これが、主人公…。

 可笑しいし、悔しい。

 口から血が流れ出るほどに歯を噛み締め、目の前の悟空を見据える。悟空は…ヤムチャを見ていた。

 

「…噛ませ犬(ヤムチャ)じゃ…主人公(孫悟空)には勝てねぇってのか…?……ハッ、んなわけねぇだろ…!」

 

 ゆっくりと、全身に気を流し込んでゆく。その危険度は先ほどの試合でも、今までの修行の日々でも十分実感している。

 だがヤムチャの勝利への貪欲さはそれ以上だったのだ。最悪死んでも、悟空に負けてしまってもーーーー

 

 噛ませ犬なんて言わせない。

 

 

「ああああぁぁぁッ!!」

 

 ヤムチャの体から圧倒的な気の奔流が流れ出し、ギリギリ保っていたリングの原型をついには破壊する。

 溢れ出す気は大気を震わせ、突風を生み出す。木はへし折れ、会場の痕跡すらを吹き飛ばした。

 

「あ、あれはさっきの技か!?」

 

「な、なんという気じゃ…大地が、震えておる…!」

 

 そのあまりの迫力に仲間たちは距離を取る。命の危険を感じ取ったのだ。

 流石の悟空も目の前の光景に笑いながらも冷や汗を一筋流した。そしてここが正念場だと、気を引き締める。

 

 叫び声をあげていたヤムチャだったがやがてそれを噛み締めるように押さえていき、キッと悟空を睨んだ。

 

「行くぜおいッッ!!」

 

 地面を蹴った。

 瞬間、踏み壊された地面には巨大なクレーターが形成される。ヤムチャは…悟空の真正面まで飛んでいた。

 悟空の反応速度をはるかに超えたスピードで接近したのだ。

 

「オラァッ!!」

 

「ッ!?」

 

 悟空の顔を殴り抜けた。悟空は反応できぬまま地面に叩きつけられた。だがヤムチャの追撃は終わらない。

 

「ずおりゃァァッ!!」

 

 地面に転がる悟空へ脚を振り下ろす。

 野生の感というべきか。悟空は己の反応速度を超えた動きで転がり、ヤムチャの脚をすれすれで躱した。地面には再びクレーターが出来上がる。

 ヤムチャは悟空の転がった方向を見やると地面に突き刺さった脚を悟空に向かって振るった。途端、衝撃波が発生し地面を抉りながら悟空を吹き飛ばす。

 この間約5秒。

 

 上空へと投げ出される悟空。何がなんだか分からぬまま周りを見渡すと…眼前にヤムチャの拳が迫っていた。

 咄嗟に腕をクロスし、拳をガードする。しかし衝撃は殺すことが出来ず、また再び地面へと叩きつけられた。

 半開きになった目で空を見上げ、ヤムチャを探すと…ヤムチャはかめはめ波の構えを取っていた。

 

「やべぇ…!」

 

「やめろヤムチャ!孫が死ぬぞォ!!」

 

「やめてくださいヤムチャさんっ!!」

 

 天津飯やクリリンの制止が入るが、ヤムチャは聞き入れなかった。まっすぐ悟空を見やり、全力のかめはめ波を放った。

 

「はあァァァァァァッッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ…!?悟空ーッ!!」

 

 悟空がいた場所には巨大な風穴が開いており、最早生物がいるようには見えない。

 悟空は…木っ端微塵になったのだ。

 

「悟空さ…」

 

「ヤムチャ…お主、なんということを…」

 

 地面へ降り立ったヤムチャへと非難の声が向けられる。これは試合なのだ。殺すまではなかった。

 しかしヤムチャはそれらには耳を向けずただ一方向を見ていた。不思議に思ったクリリンがその方向を見てみると…

 

「あ、ああ…!悟空だーッ!悟空が生きてるぞーッ!」

 

 歓喜の声を上げた。

 悟空は舞空術を使い、空へと逃れていたのだ。そしてヤムチャは…そうなることを知っている。

 

 大地を蹴り、悟空へと飛ぶ。ヤムチャ流界王拳が持続するのはあと2、3秒。この一撃で全てが決まる。

 

「悟空ゥーーーーッ!!」

 

「ヤムチャァァァァァァッ!!」

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 ヤムチャは拳を振りかぶる。また、悟空も拳を振りかぶる。二人の全てを乗せた拳が今、ぶつかり合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 よう、俺ヤムチャ。

 

 仙豆食べて元気100倍ヤムチャンマンだ。仙豆先生ありがとう、クリリンありがとう。

 今回は三途の川で溺れたぜ。確か三途の川って沈むと二度と上がってこれないんだよなぁ?セーフ!

 

 いやー悟空は強敵でしたね!ピッコロ相手の方がまだ楽だった。サイヤ人って連中はこれだから嫌いなんだ!

 

 あ、悟空は仙豆を食って全快。神様交代を拒否った後チチと一緒に筋斗雲に乗ってどこぞへと飛んで行った。新婚っていいねー。ヒューヒュー。

 まあパオズ山に行けば会えるだろう。悟飯が生まれたあたりで祝いの物でも持って行ってあげよう。決して呪いの物ではないぞ。

 

 ちなみに俺も神様にならないか誘われたが勿論断った。神殿は修行場所としてはいいところだけど…ねぇ?

 オオカミを縛ることなんてできないのだ!

 やっぱエセでもいいから英雄やってる方がマシだしな。大衆は常に英雄を求めているのさ!まあサタンあたりにいずれはポイだけど。

 

 

 

 

 

 

 あ?試合結果?

 俺の負けだよチクショウ。

 最後の最後で真・狼牙風風拳を破られた時の脇腹の痛みが来るとは思わなかった。

 てか最後の場面は俺思いっきりブロリーだったわ。バカなー!って叫びながら爆発したんだぜ?

 

 あーホント…俺ってやっぱり噛ませ犬。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヤムチャ現在11勝4敗






安定と安心のカミヤマクロさん。いつもありがてぇありがてぇ…!!

いつもの試合に比べるとかなり早く終わりましたが、そんくらい決着が着いたのは早かったのです。やっぱり噛ませ犬じゃ主人公には勝てないのですよ。
なんか暑さでぼーっとしてしまって何を書いたか覚えてない…。後で改稿するかもしれませんね。まあヤムチャが負けたという結果は変わりませんが!


狼牙風風拳・改
要するにもうちょっと不規則になった狼牙風風拳。ある程度拮抗できる相手になら通用する。つまり格上相手にはなんの意味も持たない。てか狼牙風風拳一族は大抵そんなモン。

超繰気弾
簡易型元気玉。しかも操作機能付き。威力は結構あるよ!これを咄嗟で繰り出せたのはヤムチャの成長の証ですね!(なお正面から悟空に破られた模様)

ヤムチャ流界王拳
色んな意味で爆発する。ギアセカンドをゴム人間以外がやったらこうなるという推測から。場合によって戦闘力の伸び幅がコロコロ変わる。現在持続時間は20秒。
仙豆必須なので使いどころは少ない。
なおヤムチャの名誉のために追記しますが、試合ではなく殺し合いならば悟空を倒せた…かもしれません。確率は高いです。

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